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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十三話【巴の欠片】
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第十三話【巴の欠片】8

 真仲は、考え得る中で最悪の事態を想像して……その想像からの恐怖に耐えられなくなっている様子だった。

 「落ち着け真仲!」

 取り乱しかけていた彼女をどうにか正気に繋ぎ止めたのは、思わず駆け寄ってその両肩を掴んだトキヤの言葉。

 「だ、だが……私は、どうなってしまうんだ……? 死んでも眠ったようになるだけで……また目覚めれば、何度も死んで……年は取れるのか……? 世が廃れれば流石に死ねるのか……!? 例え全てが失われても、私は、何もない闇の中で、永久とこしえに……!」

 縋る様に問い掛ける真仲に、

 「でもお前の隣には、絶対に俺がいる」

 至極当たり前の答えをトキヤは返した。

 「そ……そうか、そうだよな。お前は、私がどうなろうと、お前も同じになってくれる……そうだよな?」

 「ああそうだ。例えこの世界の平和を取り戻しても、旭が死んでも、旭の子供が、その孫が、子孫が生まれていって、周りが誰か分からない奴ばかりになっても……俺達は何も変われない。

 永遠に終われないんだ。

 俺は旭を遠い過去へと置き去りにして、ずっとずっと……真仲、お前と2人きりになっちまった」

 トキヤの言葉は酷いものだった。

 まるで真仲のせいで旭を裏切らされてしまったかのような言い草だった。

 どう考えても彼に冒されて、犯されて、侵された結果が不死の身体だと謂うのにも拘らず……。

 「だからお前だってもう、俺から逃げられねえぞ……!」

 「……っ!」

 肩を引かれて、抱き寄せられて、握らされたのはトキヤの刀。

 「俺も腹括ったよ。これからもお前と俺とは違う人間だから、喧嘩したり気が合わなくなったりするだろうな。でもこうなったらお互い何処にも逃げられない……そうだよな? 真仲」

 じりじりと前に進まされて……真仲は、倒れている少女の前まで来てしまった。

 「二度と俺から逃げられないようにするぞ……良いな?」

 「ま、待てトキヤ、待って……! んむっ!? んうぅっ!♥」

 舌を捻じ込まれただけで、真仲は腰をがくがくと震わせ、脚に力が入らなくなってゆく。

 「義姉上……! 気を確かに持ってください! 例え流れ者と同じ身体にさせられても、義姉上は義姉上です! 我等菱川家の頭主、菱川真仲は義姉上の他にはいないのです!」

 肩から血を流して倒れている少女は、己自身にも言い聞かせるかの様に言った。

 「んむぁっ♥ よ、義巴……!」

 「刀落とすなよ? 落としたら、コイツの前でもっと酷い姿を晒させてやる……! ほら、お前を一度自殺に追い詰めたクソガキだ。こんな奴はお前にとって、生きる価値なんて道端歩いてるネズミ程も無え。どうすればいいか分かるよな?」

 「義巴! 逃げてくれ! 私はもう……もうぅっ!? んぎゃあああっ!?♥」

 トキヤは次に、真仲の首筋を甘噛みした。

 「分からないならそう言えよ、一から教えてやるから。お前がする事は、コイツへの別れの挨拶だ。今から俺が言う通りの言葉を、お前の口から言ってやれ」

 「だっ駄目っ♥ 駄目だぁっ♥ やめろおぉっ♥ 義巴、義巴あぁっ!♥」

 「最初は『ごめんなさい。私はもう菱川真仲ではありません』そう言ってみろ」「うあぁっ!♥ と、トキヤ! 後生だ、許し……!「ハ?」あ゛か゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ!?♥」

 真仲は右の聴覚が吹き飛ぶかの様な粘ついた水音と、何かが耳を這い回る度に意識が真白に明滅する強烈な刺激に襲われた。

 「ゆ、許してくれ義巴ぁっ! 私は、もう菱川真仲でなくなってしまった……!」

 「それでいい。次は『私は神坐の女王、光旭の側女で、旭の夫、光トキヤの愛人になりました』だ。最後まで俺の言う通りに出来たら、ご褒美をくれてやる。ほら、頑張れ?」

 「ほ、褒美……っ!♥ 今の私は、光真仲……神坐の女王である旭様の側女で、トキヤの……」

 一瞬、真仲は快楽でまともでなくなった瞳をトキヤの方へと向け、

 「トキヤの召人……否、奴婢に堕ちぶれてしまった♥」

 自らトキヤに託された其れよりも己を蔑んだものに言い換えて、言葉を紡ぎ始めた。

 「もうっ、もう菱川真仲は死んだ、お前の慕っていた中ヒノモトの主は死んだぁっ! 

 菱川真仲は、旭様に……ヒノモトで最も猛き御方に、聡き御方に調伏されてっ♥ 成敗されてぇっ♥ 挙句トキヤとお前の板挟みになって、首を裂いて死んでしまった……でも、

 そのお陰で私は、この身体に成れた……♥ 執権殿と同じ、トキヤと同じ、不老不死の身体になれたっ♥ 

 お前のお陰でトキヤにずっと、ずっと愛して貰える身体にぃっ♥ ずっとトキヤの遊女でいられる身体にぃっ♥ 生まれ変われたんだあぁっ!♥」

 「そん、な……、義姉上……いや、嫌あああああ!」

 嬉々としてトキヤに辱められながら、己自身を辱める無様で下劣な言葉を吐き続ける有様を晒す真仲。

 義巴は目の前の真仲が、己の兄と共に自らの命を捧げた気高きあの菱川真仲と同じ人間であると認めたくなかった。

 だが現実は非情で、義巴の思い等何の意味も齎さない。

 「上出来だ。見ろよ真仲、お前がご褒美欲しがってメチャクチャ言葉を盛ってくれたお陰で、コイツぶっ壊れちまったみたいだな……確か元カレの妹なんだっけ? 可哀想な事しやがるよ、お前」

 「だっ、だってお前がそうさせたんだろっ♥ 私は、義巴の事も大事だったのにっ♥ お前がこんな事言わせて、義巴を傷つけたんだっ♥ お前が責任取れっ♥」

 罵り合う様な言葉面の会話を、仲睦まじく2人は交わし合う。

 その様子を前に、義巴は動く方の腕と手を使って両耳を覆い、遂には蹲って唯々震えるだけになってしまった。

 「分かったよ。だったら2人で責任取ろうか。俺も一緒にコイツ殺してやるから、別れの言葉はお前が言え。いいな?」

 真仲の求めにそう答えたトキヤは隣に立つと、刀を握る彼女の手に自身の手を重ねて、振り上げる。

 「よ、義巴……お前を殺す事、許してくれ。でも、こうすればトキヤが、もっと私を好くしてくれるから……♥「俺のせいにするなよ」ひぐううぅっ♥ ご、ごめんなさいぃっ!♥ わたしっ♥ 私が好くなりたいからぁっ!♥ 私が気持ち良くなりたいから、お前を殺すっ♥ 殺してしまうぅっ!♥」

 「自分の快楽の為だけに彼氏ぶっ殺して、次は俺からの『ご褒美』欲しさに彼氏の妹までぶっ殺しちまうなんて、とんだサイテー女になっちまったな? 俺好みのサイテーな性格した、サイコーに可愛い女だ……!」

 「最低ぇっ♥ 私、最低だあぁっ♥ 自分の欲の為だけに、家を裏切って、恋仲の男を裏切ってっ、剰え、その男の妹まで裏切ってしまうぅっ♥ でもそうすれば……私が屑になればなる程、トキヤが私を熱く激しく抱いてくれるからぁっ♥ だからお前なんか要らないぃっ♥ お前の様な小汚い娘なんて、とっとと死ねえええ!♥」

 「そんな冷たいコト言うなよ。コイツがいなけりゃ、この世が終わるまで俺とヤりまくれる身体になれなかったんだからな?」

 「あああああぁっ♥ ご、ごめんなさいいい!♥ 嬉しいっ♥ 嬉しいいい! お前が来なければ、私はこの身体になれなかったっ♥ お前が私を自害に追い込んでくれたお陰でっ♥ 私はトキヤと同じ時を生きられてっ♥ トキヤにずっと愛して貰えるっ♥ 義巴ぁっ♥ お前のお陰だあぁっ!♥」

 「感謝の言葉もしっかり言えたし……真仲、コイツに無駄死にじゃなかった事だけ、最期に教えてやったらどうだ?」

 「わ、分かった♥ 義巴……別れは辛いだろうが、お前の死は無駄ではない……私が、トキヤに愛して貰う為にお前は死ぬんだ♥ 誇りに思って、あの世の高巴に胸を張って伝えてもいい♥ だから私の為に死ね♥ 私がトキヤに抱かれる為に死んでくれっ♥ トキヤっ♥ トキヤ早くっ♥ 早くこいつを殺してぇっ♥ 殺して私とまぐわってえええぇ!♥」

 「アハハハ! お前最高だよ。こんな最低過ぎる殺し文句、普通思いつかねえって。それじゃあ俺達が行くのは何時になるか分かんねえけど……地獄で高巴さんと2人、気長に待ってるんだな! 義巴ァ!」

 俯いて嗚咽を上げるだけの義巴に、トキヤと真仲が2人で握る刀が縦一閃、振り下ろされた。


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