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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十三話【巴の欠片】
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第十三話【巴の欠片】7

 その、直後だった。

 「ウオオオーーーッ! 全軍! 突撃じゃあああアア!」

 硝子の派手に突き破られるような音と共に地下遊郭の入口から新たに現れたのは、馬に乗った藍色の直垂に黄金の鎧姿の美男子。

 「誰だありゃあ!?」「金の鎧に、肩まで伸ばした癖毛……ありゃ七将軍のオオニタ殿だよ!」「人払いの決壊をぶち破って入ったのか……!? 一体どうやって!?」「……そうか! 奴はここの元締めって話だったろ! 場所さえ分かってりゃ人払いは効かねえ、だからそのまま突っ込んで来やがったんだ!」

 人質に取られていた客だけでなく、客を人質に取っていた郎党まで口々にその姿を前に圧倒される中、

 「兄さん!」

 駆け寄ったのは、同じ藍色の直垂を着た少年。

 「おお! お前も来ておったのかシャウカット!」

 馬から華麗に跳び下りた男は、少年をシャウカットと呼んで、

 「猫の手も借りたい状況でコレは渡りに船じゃな。これを使え!」

 シャムシールを渡した。

 「兄さん、真仲さんが!」

 「何!? 一足遅かったか……じゃが、まだワシ等には出来る事があるぞ!」

 「分かってる……。皆、出口はこっちだ! 逃げろ! んで……テメエ等! この人は東ヒノモトの大国、神坐の七将軍が1人にして東ヒノモト最強の傭兵団、オオニタ傭兵団の団長を務めるチランジーヴィ・オオニタだ! 死にてえヤツから掛かってきやがれ! ついでに俺は参謀のシャウカットだ、よろしくな」

 シャウカットが啖呵を切ったのを合図に、乱闘が始まった。

 「畜生、オオニタ傭兵団だと!? 何でこっちに来てやがんだ!」「団長が少ない郎党を連れて妙な動きをしてるだけって話だったろ!」「何処からこんな数揃えてきやがったんだ!? ぐあぁっ!」

 混乱した会話をしていた義巴の郎党だったが、仲間を斬り捨てたその男を見て、

 「何……!? どうしてお前が神坐の側に!?」

 「決まっておろう。オオニタ殿の手引きで、中ヒノモトに燻る菱川の残党共から『光真仲』様を御救いする為であったのよ! だが……哀れな娘よ、菱川……否、光真仲」

 菱川に仕えていた家人達の中から、裏切り者が出た事を理解した。

 「万太郎! お客様を誘導しろ!」「はいっ! ペイジ様もお気をつけて!」

 ガン・カタを披露して多勢に無勢の相手を涼しい顔で捌きながら従業員に避難指示を出させているのは、迷彩柄の直垂を着て赤毛をポニーテールに結んだ眼鏡の女。

 「人様のリゾートの地下で、こんな乱痴気パーティ会場勝手にぶち上げた上に! テロ騒ぎまで起こしやがって! 絶対に許さねえからなァ!」

 派手に暴れながらも、流れ弾が避難者に当たらない様に几帳面な戦いを繰り広げていた。

 「すっご……やるじゃん、ペイジ。あたし等も負けてらんないよ、ニャライ!」「もっちろん! ジョンヒ!」

 黒い直垂に長い黒髪の女、ジョンヒは忍刀を順手で構え、緋色の直垂にドレッドツインテールの少女、ニャライはフンガムンガを逆手に構えた……が、

 「ぐえぇっ!?」「よっ、こんな所で何油売ってんだ?」「ゲッ……っていうか、それ言うなら団長もでしょ」「もー! 私達の獲物ー!」

 黒い小袖袴を着た異様な魅力を放つ男が、彼女達の対峙していた敵を横取りした。

 「そういえば、今日はいつも一緒のトキタロウはいないの?」

 「アイツは執権殿の所へすっ飛んで行きやがったぜ」

 「だからこっちに嫌がらせしに来たんだ?」

 「ま、そんなとこだな」

 「2人ともすごいねー、私っはぁ! 斬り合いながら! 話、とか! 出来ないなー!」

 「慣れだな。お前もウチに入れよ。そしたら、出来るようになるかもな?」

 「ヤダ!」

 「アハハッ、フラれてんじゃん、団長」

 「テメエ、後で覚えてろよ」

 乱闘に囲まれた地下遊郭の中心。

 「義兄上! 私はこのままどさくさに紛れて姉上と共に逃げます、行きますよ姉上!」

 「相分かった、円。後の事は任せるからな、トキヤ!」

 「……ああ」

 そこでは、桃色の麻の葉紋様が入った灰色の直垂を着る白髪に眼鏡の青年と、深緑の鎧直垂を着た浅黒い肌に銀の髪の少女が、互いに刀を抜いて睨み合っていた。

 「真仲……俺を許してくれ」

 2人の足下では、1人の女が首を裂いて斃れていた。

 「お前のせいで……お前のせいで義姉上が!」

 「ああ、俺のせいだ。俺が無力だったせいで、真仲は俺とお前の間で、板挟みになっちまって……こうなっちまった」

 「殺してやる! 貴様を殺して! 神坐も滅ぼして! 光旭の首をこの手に収めてくれるわ!」

 「俺は死なない」

 「ならば心が壊れるまで斬り刻む迄だ……!」

 「俺の心は壊れない」

 「何とでも言え。私は、貴様を絶対に許しはしない!」

 「俺は、旭の仲間が…‥違うな。俺の愛した女が、二度と真仲の様な最期に追い詰められない為に……お前を殺して、河原に死体を吊るして、腐り果てて骨だけになったら火にくべて……俺に逆らえばどうなるのかを、この世界の生きとし生ける全ての奴等に見せしめないといけない。だから」

 青年の目は、覚悟に燃えていた……否。

 其れは『覚悟に燃える』等と謂う綺麗な言葉の似合う目ではなかった。

 真黒な泥が焔を纏っているかの様な、異様な不気味さと偏執が有った。

 「お前をここで、絶対に殺す」

 「やれるもんなら、やってみな!」

 青年は刀を上に振りかぶり、少女は逆手に持った忍刀を下に振りかぶった。





 「ぐあァッ!」

 また斬り裂かれて、膝をつく。

 「てめえ、いい加減、諦めやがれ!」

 だが相手の太刀筋は疲れが重なって、酷く甘い。

 そして、巻き戻し映像の様に、斬られた傷はまたも塞がってゆく。

 転生者は死なない。

 「言った筈だ……俺は死なない。俺自身が諦めない限り、絶対に!」

 「頼む、死んでくれ! 死ねよぉ!」

 「お前を殺すまで、絶対に死ねないんだよおおオオオ!」

 初めから勝者は決まっていた。

 「がはぁっ!」

 ふらついた一閃は遂に相手を捉える事が出来なくなり、

 「これで勝負あったな」

 肩を浅く斬られた少女は仰向けに倒れ、床を己の血で汚した。

 「義姉上……今、私も、そちらへ……」

 絶望に沈みきった少女の目は、先に倒れていた女の方へと向いていた。

 少女の思いが彼女に届いているのか否かは、同じ床に倒れ伏しているのに血も流さず眠ったように佇んでいるその様子からは、まるで分かりはしなかった……。

 そう。

 「えっ」

 確かに先程迄、女の死体は血を流し続けて、2人の踏みしめていた床を赤く染めていた筈だった。

 「う……あ、あれ? 私は……」

 まるで唯々眠っていたかのように女は起き上がって……、そして、

 「トキヤ……? 私は確かに、首を裂いて……」

 青年へ目を向け、次に倒れた少女へ目を向けた。

 「真仲……?」

 きょとんとした目を向けるトキヤだったが、真仲は彼のような無邪気な感情を抱いていなかった。

 「あ……あああ……まさか、私……」

 その恐怖に満ちた目を見て、

 「で、でもそんな事、有り得るのか……!?」

 流石にトキヤも真仲の考えを察した。

 「わ、私、なって、しまった……? トキヤと同じ、死ねない身体に……!?」


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