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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十三話【巴の欠片】
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第十三話【巴の欠片】4

 「どうよプリンセス! 大浴場は大自然を浴びる様に眺めながらの一大露天風呂だ!」

 「おー、確かに良い景色だ。これは客が沢山来そうだな」

 ……自分達のシマで誰かが勝手に売春窟を開いている。

 「ディナーはご覧の通りだ! キタノの参謀、ガニザニと一緒に監修してくれてサンキューな!」

 「いやー、俺はガニザニさんがカリフォルニア巻き入れようとしたのを『それ和食じゃないですよ』って止めただけですよ」

 聞き捨てならない情報を前に、ジョージは身の潔白を晴らすべく旭達を連れて、

 「おいどうだ! これでもどっかで如何わしいビジネスやってるように見えっか!? ああ!?」

 「うーん、もうちょっと右……あーその辺ですねー。呪いと謂うものは記述誤りがあると大事故に繋がるので目を凝らさねばならず、故に呪い師は肩と目が疲れるものなんですよー……あ、すみませんジョージ様今なんて?」

 自分達が運営するリゾートの一周ツアーをしていた。

 「やはり、ジョージは初めから遊郭なぞ無いものと考えておるようだな。どうしたものか……おい、もう一杯出せ」

 「あんまり飲み過ぎると夜寝れなくなるからその辺にしとこうな、旭」

 マッサージを受ける円の横で、旭はカフェラテを、トキヤはアイスティーを片手に、縁側に置かれたソファへと座って向かい合っていた。

 「で……ジョージさんがやる気無えんだったら、他の手を考えた方がいいな。ジョンヒに頼んでサエグサの人を出してもらうとかどうだろ」

 「あまり女狐に借りを作りたくない。ここは私の方から『奉公させてやる』として恩を売れるバレンティンに頼もうと思う」

 「旭はホントに駆け引きが上手いな」

 「だが、最も速く理に適ったやり方はトキヤ、お前の方だ」

 「もー、隙あらば御二人でいちゃついて……真仲様が草葉の陰で泣いてますよ?」

 「勝手に死人にするな。しかしまあ……どうしたものか」

 ため息をつく旭が見る夜景。

 ……その一角を歩く一団があった。

 「ニヒヒヒ……! 急に旭姫がバカンスに出てくれたお陰で、ようやっと誰にも怪しまれずにここまで来れたのじゃ」

 一団の一番後ろを歩いているのは、藍色の直垂に黄金の鎧姿の目を見張る程の美しい男……オオニタ傭兵団の団長にして七将軍の一角、チランジーヴィ・オオニタだ。

 地図と手紙を片手に、彼は手勢を連れて闇夜の森をずんずん進んでゆく。

 以前にトキタロウ達が訪ねた時は全く道の分からない密林だったが『ある事件』が切っ掛けで森はかなり拓かれる事となった。

 それが故にチランジーヴィは迷いなく進み……、

 「ここか」

 真新しいが質素な武家屋敷に辿り着いた。

 「御免仕る、神坐の七将軍、チランジーヴィ・オオニタじゃ。菱川の方々よ、この度はご丁寧に手紙を寄越してくれて……」

 朗々と挨拶をする彼を我に返らせる程の、まるで葬式かの如き静まり返った屋敷の中には、厳かな顔のそれなりに立派な直垂を着た武士が7人佇んでいた。

 恐らく、その一人ひとりが中ヒノモトの武士団の頭目に値する者なのだろう。

 「こんな所まで御足労であったな、東夷よ。では、今後の中ヒノモトの政について、話し合おうか」

 一番奥に座した男が、俯いた顔を上げてチランジーヴィを一瞥した。

 彼等の威圧感とはまた違う……然し息苦しさを覚える空気感……それを全身で浴びつつ、肌のヒリつきを何処か楽しみながら、チランジーヴィは屋敷の奥へと足を進めて、男の前にどっかりと座った。

 「それから……文に書いておけば良かったな。ここに菱川はおらん。その意味を、分かってくれるな?」

 「どうやら、タダでワシの支配下に入ってくれるつもりでは無さそうじゃな……オヌシの要件を単刀直入に教えるのじゃ」

 「真仲を返せ。あれは元々我等の主だ」

 「菱川家を省くのに真仲が欲しいとな……? しかしまあ、本人がここに帰る事を嫌がっているし、それは無理な相談じゃな」

 「その答えでよく分かった」

 勿体ぶって男はチランジーヴィを軽く嘲ってから、

 「お前等はあの小娘に騙されてる。奴が嫌がってるのは執権殿に惚れてるからじゃねえぞ」

 そんな風に続けてきた。

 「ハ……? 騙されてる? バカな。何せ真仲は……」

 男の言葉を聞いて、思わずチランジーヴィは『呪いに罹っているのだから騙せる精神状態のハズが無いだろう』という言葉が喉まで出てきそうになったが、

 「ま……真仲は、トキヤの事を心底愛して、何か良くない事を企むヒマも無い程に、四六時中ひっ付き回っておるぞ。アレで惚れていないというのは、流石にムリがあるのではないかー?」

 どうにか取り繕って『神坐が色病みの呪いを兵器化している』事実を隠し通した。

 が。

 「隠してるつもりのところを悪いが、真仲が色病みの呪いを掛けられたせいで我等を裏切ったであろう事は、既に菱川の間者伝いに知ってる」

 「何……ッ!? くっ、流石にオヌシ等をナメ過ぎておったようじゃな……!」

 チランジーヴィの想定を越え相手はそれなりに上手だった。

 「しかしな、無理矢理呪いを解く事はオススメせんぞ。彼氏を殺され、地位も名誉も捨てさせられ、タダのトキヤの遊女も同然な今の真仲が正気に戻れば……お前の求めに応じるどころか、きっと絶望して腹を切って死ぬであろうからのう」

 「正気に戻ったところで奴は左様な事をしでかす程他人に義理堅くはないと思うが……まあそれは横に置いて。別に呪いはそのままでも構わん。我等は菱川真仲を……否、光真仲を旗印として一つに束ねられたうえで光旭の許にれたならばそれでよい」

 いよいよ以てチランジーヴィは、相手の目的が分からず困惑の顔を唯々向ける事しか出来ない。

 「別にそんなしちめんどくさい遠回りをせずとも、ただワシの直属の配下になった方が良いと思うぞ? さっきから言ってる通り、真仲はもうマトモな話が通じる精神状態ではないのじゃ」

 「だから、それは真仲の謀りだと言うておろうが」

 チランジーヴィの困り果てた表情に対して、男は何処か呆れ返った様子で続ける。

 「奴は正気も正気よ。でなくば、何故我等はおろか菱川の連中まで逃げ延びられた?

 奴の雷落としはその気になれば一つの軍勢を追い詰めて丸焼きにしちまえるのは、カゲツの軍を何度も焼き払っている事からお前等も知っての通りだ。

 あの女が我等を殺さずに逃した、その事実には理由がある筈だ。

 俺が考えるに……、

 呪いの中の『しも』に対する効き目はきちんと成ってたから高巴を捨ててそちらの執権殿に靡いたが、

 唯々快楽の為だけに己の恋仲の男どころか所領も家も、それから俺達家人も全部放り捨てたと有っちゃあ武士の面目も何も無え。

 だから自分を助けに来なかった裏切り者を成敗する、そう謂う建前を言ってはみたが、

 そもそも自分が可笑しな理の話をしていると分かっていたから、本気で殺すのは忍びなかった。

 ……といったところだろう。

 それを踏まえてだ」

 改めて、男はチランジーヴィへとにじり寄って、不敵に笑った。

 「真仲には、半端なまま我等を放り捨てた禊として、己の家を……菱川家を族滅して貰う。禁忌を犯して人でなしの力を有する子を成し、人の理を踏み外した力で我等を従えた連中への報いとして、禁忌の証たる真仲の手によって族滅を為させるのよ」

 「禁忌……? 菱川の者が亜人と交わり真仲を産んだ事を禁忌と言っておるのか? こんなご時世でありながら手段を選んでいるヤツこそ阿呆じゃとワシは思うぞ?」

 「そう言ってのけられるお前等流れ者共のあけすけさについては、我等は心底軽蔑しているとだけ覚えておけ。まあ左様な事はどうでもよくて……どうせ真仲の話しか聞いていないお前等は奴の生い立ちについて『幼子の頃に恐れられ捨てられたが、高巴に拾われて今に至る』といった所しか知らぬだろうが……この話は裏がある。

 捨てられた幼子は、真仲だけではない。

 菱川の先代は中ヒノモトの人々を纏め上げるにあたって、人を超える力を持つ子を産み育て、その者に後を継がせる事を考えた。

 その為に亜人という亜人を夫にしては子を成し、用が済めば殺す……と謂う事を繰り返した。

 己の血を継ぎながらも魔術を操り、或いは強き身のこなしを有する子を何人も産み、その内で最も強き者を跡継ぎとする為に」

 「なるほど。真仲を捨てたり拾ったり、妙な話だと思っていたが……それで、真仲以外の子はどうなったんじゃ?」

 「さあな。高巴が死んだ今となっては、何処へ骨を拾いに行けば良いのかも皆目見当がつかん。奴は真仲を連れて来た時、唯々『跡を継げるのは真仲だけになった』としか伝えなかったからな」

 「そうか……(高巴はそれ程に真仲を……それはちょっと可哀想な事をしたのう)。それで、菱川は亜人との間に成した子の中でも最高傑作だった真仲を使い、力でお前達を無理矢理従えていた、そういう事じゃな?」

 「ああ。我等七党は力で従えられた。外様の連中は奴の上っ面の愛嬌に釣られていたようだが、そいつ等はもう散り散りだ。何せ目の前で慕っていた女が……っとそこまで言うのは品が無えな」

 一通り話を聞き終わったチランジーヴィは、暫し俯いて考え込み……しかし一瞬で顔を上げ、何か決心した表情を見せた。

 「良かろう。ワシ等よりも付き合いの長いオヌシ等の話だ、ここは信じる事として、真仲には落とし前を付けてもらうとしよう。真正面からコトを構えた菱川だけを潰してオヌシ等を預かれるとなれば、ワシ等にとっても悪い話ではないし、何より……真仲には真実を知ったうえで菱川家と決別を果たす権利がある。その話、乗ったのじゃ」

 「忝い、オオニタ殿」

 「そうと決まれば、まずは真仲を連れ出さねばならんのう。奴は少々ワシ等に迷惑を働いた故、あそこの……」

 チランジーヴィは山の上で煌々と輝くジョージのリゾートを指差した。

 「あそこの地下に今、閉じ込めてあるのじゃ」

 ……その説明は、どうにか取り繕って『ヤマモト傭兵団のフリをした自分の団員に預からせた真仲を、ジョージに黙って地下に建設した地下遊郭で遊女として働かせている』事実を隠し通したものだった。

 が。

 「隠してるつもりのところを悪いが、真仲が今地下遊郭で遊女として働かされている事は、既に菱川の間者伝いに知ってる」

 「菱川の間者は何でもオヌシ等にバラすのか!?」

 チランジーヴィの想定を越え相手はやはり上手だった。

 「それだけ菱川から人心が離れているという事よ。だが、そうおどけている余裕は無い。菱川の間者が既に知っていると謂う事は、即ち……菱川の連中も真仲を取り戻そうと既に動いている筈だ」

 「その情報、オヌシ等の耳に入ったのは何時じゃ?」

 「今朝だったな。恐らく奴等が動くとなれば、流石に手筈を整える時が必要であるから明日にはなるだろうとは思うが……」

 話を全て聞き終わるより先に、チランジーヴィは立ち上がって踵を返し始めていた。

 「嫌な予感がするのう……オヌシ等、直ぐにワシと共に来れるか?」

 振り向きざまにチランジーヴィは、中ヒノモトの武士達へ協力を呼び掛けた。 


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