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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第二話【誰が為に狼煙は上がる】
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第二話【誰が為に狼煙は上がる】3

 「すまねえトキヤ! 実はニャライはもう、オレが引き抜いてきた!」

 「あ……え、いつ……!?」

 「昨日の晩にガニザニんとこに頼み込んできたんだ、挙兵に乗ってくれって。そしたら聞かなかった事にするから帰ってくれっていわれちまってさ。諦めて一旦帰ったんだけど、途中でニャライが追いかけてきて……」

 「私、ニャライ・イシハラ改めニャライ・キタノはイシハラ傭兵団を出奔したのです! そして今はキタノ傭兵団の副団長としてトキタロウに迎え入れて貰いました! これからよろしくね、トキヤ」

 澄ました顔でウインクするニャライだったが、トキヤは彼女の方には見向きもしない。

 「おいアニキ! なんで後から入ったニャライが俺より格上なんだよ!?」

 トキヤに掴み掛かられたトキタロウだったが、意外と冷静に微笑んで返す。

 「ニャライはお前より頭も切れるし顔も良い。だからお前にはニャライから色々と学びを得て欲しいんだ」

 トキタロウの言っている事には何の間違いも無い。

 しかし、だからこそトキヤは、目の前の実力主義的判断で自分を蔑ろにされた事実を前に、狼狽える事しか出来なかった。

 「正直ショックだよ、アニキ」

 「分かってくれトキヤ。これは団長として必要な判断だったと思ってる」

 「……ニャライ、副団長。改めて、参謀、トキヤです。これからはより近くで、俺にご指導、ご鞭撻を頂ける事、誠に嬉しく存じます」

 「素直で大変よろしい。これからはこのニャライ副団長様の言う事をしっかり聞くように、ね?」

 「……お前はそれでいいのかよ」「副団長」「……副団長はそれでよろしゅうございますか?」「その質問に回答する義務はありませーん。それじゃあ早速トキヤに命令しちゃおっかなー」「……」

 最悪の空気が流れている中「おい! トキタロウまでわしを捨て置くとは何事だ!?」このゴタゴタの元凶が、全ての話が終わった今ようやく姿を現した。





 今日の空も青い。

 だがつい昨日の朝に見た時よりも、ますます重苦しさが増している。

 昨日は挙兵を止める為に歩いていたが、今日は挙兵を成功させる為に歩いている。

 奇妙で面白い話のように一瞬思えてしまったが、失敗すれば奇妙でも面白くも無い。

 親交のあるヤマモト傭兵団もオオニタ傭兵団も渋い答えしか返してくれなかった。

 仮に挙兵を取りやめたとして、カゲツ側についているイタミ傭兵団に居所が知れている現状、いつまでも匿える筈も無い。

 とはいえ乗り掛かった舟だし、何より同じアニキに拾われた身の上の彼女を見殺しには出来ない。

 どうすれば、挙兵を成功させられる……?

 「よお、大変そうだな? トキヤ」

 少なくとも、人が困っている時に嘲りに来るような、こんな奴には頼りたくない。

 「やめてくれ、今はお前を構ってる暇無えんだよ、シャウカット」

 「なんだよ連れねえな。俺が加勢するっつっても同じ事言えるか?」

 「勝手な事してるとまーたお前んとこの団長さんから雷落とされるぞ」

 「そこは大丈夫だ、もう兄さんとは話つけてきたから」

 怪訝な表情を浮かべるトキヤの前で、シャウカットは『俺に出来ない事は無い』と言わんばかりに自信満々な様子で胸を張った。

 「いやさ、そんなに素っ頓狂な事はしてねえよ。ただ単に判断の難しい物事には付き物の『両立て』をしようって提案しただけだ」

 「それですんなりOKが出たのか」

 「まあそんな感じ。だからまあ……都合良く考えれば、上手くいきゃあ兄さんも仲間になると思ってくれよ」

 ……トキヤは、目の前のいけ好かない奴が珍しく明確に示した好意に、大人の判断をする事にした。

 猫の手も借りたい今、自分の私情で人員を選り好みしている場合ではないからだ。

 「……ありがとう。かたじけない。本当に感謝している」

 「いいってもんよ! っていうかそうだ、もう一つお前にグッドニュースがあってさ……」

 シャウカットが言い始めたその時だった。

 「……いや、ごめん。その前にバッドニュースが来たわ。トキヤ、後ろうしろ」

 「え……」

 シャウカットが冗談っぽく、しかし冗談では済まなそうな調子でトキヤに促した。

 振り返ったトキヤの目に入ったのは、輿を担いだ長い耳の男とも女ともつかぬ見た目の集団……妖精だった。

 「何だお前達は。見かけない顔だな」

 輿の中から顔を見せた妖精が二人に声を掛ける。

 「月夜見のケイシン王ですね? お初にお目にかかります。俺は転生者でオオニタ傭兵団のシャウカットで、こっちがキタノ傭兵団のトキヤといいます、以後お見知りおきを」

 「喋るな」

 「えっ」

 シャウカットが『ケイシン』と呼んだ妖精が指で軽く小さな円を描いた直後だった。

 「ぐへぁっ!?」

 奇妙な悲鳴を上げて、シャウカットの身体はバラバラにちぎれ飛んだ。

 「ひっ……!?」

 返り血を浴びて、思わずトキヤは軽く悲鳴を上げてしまうもケイシンは全く気にする様子はない。

 「どうして死に戻らないボク達よりお前が驚いてるんだよ……」

 「え、あっ、だって……こんな一瞬で、バラバラになるなんて」

 「即死魔術だよ。結構古くからある単純で強力な魔術なんだ。まあ、お前等『死に損ない』ども相手だと……」

 徐にバラバラ死体になったシャウカットへケイシンが目を向ける。

 死体は……巻き戻し映像のように集まっていくと、

 「痛ってえ! あっ……即死魔術をこの身を以て体験させていただけて、大変光栄に思いますよ……!」

 シャウカットの形に戻り、彼はブラックジョークじみたお世辞を述べた。

 「こうなるよな。ハァ……死に損ないを何回殺したって、何の意味も無いのに……やはりボクは、王の器ではない」

 だが、彼の見え透いた媚び諂い等どうでもいいとばかりに、虚ろで卑屈な目つきをして俯くケイシン。

 「くそ、くそ、くそ……! どうしてボクが、どうして、どうして! どうして! どうして!!!」「おやめください、王よ」「王が気に病む事は何もありませぬ」

 月夜見の王……彼の異様な言動を、トキヤは一歩引きながら見やる。

 人間離れした美しさを持つ妖精達を統べる存在……そんな程度の知識しか無かった。

 今、目の前にいるソレは確かに外見こそ美しい。

 だが……こんな性格をした奴とは一分一秒でも関わりたくないし、巻き込まれたシャウカットがあまりにも不憫だ。

 そう思ってトキヤは、

 「シャウカット、アイツがヘラってる間に逃げるぞ」

 「賛成。目代さんと違ってコイツに頭下げても何も得無いし」

 錯乱している彼等の目に留まらないうちに、一歩、二歩……足を進めて逃げ出そうとしたが、

 「おい待てよ人間! どうしてボクから逃げるんだ?」

 そう上手く話が進む訳が無かった。

 「いや、あなたの道を塞いでしまったから、コイツがさっきみたいな目に遭ったのかと思いまして……逃げろ!」

 「えっ……? あ、ああ!」

 言われるがままシャウカットは走り去っていく。

 「追わなくていい、そっちは興味ない」

 逃げたシャウカットには見向きもせず、

 「仲間だけでも助けてやるなんて、見上げた根性だな。……跡形もなく砕き割ってやるよ。人間、もっと近う」

 ケイシンはトキヤと目を合わせて歪んだ笑みを浮かべる。

 「何でしょうか」

 「もっと寄れ……ああもう、じれったいな」

 恐るおそる近付くトキヤに痺れを切らして、ケイシンは輿から降りて来た。

 「あ、あの……俺に何を、なさるおつもりで……」

 「フフ……何をして欲しい?」

 「は、はぁ?」

 詰め寄るように迫ってくるケイシン。トキヤは流石に暴力を振るわれる訳ではないと悟った。

 「お前は気付いていないだけだ……何をして欲しいのか、どうされたいのか、それをすべて、ボクが曝け出させてやろう……!」

 「えっ!? え、あぁ……っ!」

 トキヤは……魔術の真髄を、その一瞬で見せつけられた。

 彼の着ていた衣服が全て、焼かれてしまったのだ。

 「服だけ焼くと死に戻るまではそのままなのだろ? そういうところは便利で良いよな、死に損ないどもは」

 「こ、こんな事をして……何が、楽しい……!?」

 その場にしゃがみ込む事しか出来ないトキヤを「お前のいけすかない態度、生意気な目つき……こんなに堕とし甲斐のある人間の雄は久し振りだ……!」「ひ、ひいぃ……っ!」押し倒して、組み敷いて、ケイシンは粘性の高い笑みを浮かべる。

 「お前からボクを求めるようになるまで、たっぷりと、けらくを教え込んでやるからな?」





 夕暮れ。

 「トキヤー……トキヤ大丈夫かー」

 そう言いながら、シャウカットがひょっこりと戻って来た。

 「おーい、トキ……ヤ……」

 彼の目に飛び込んできたのは、唯一無二の親友の無惨な姿だった。

 虐げられ、辱められ、得体の知れない刻印を刻まれて、身体を痙攣させ静かに涙を流しながら、断続的にケタケタと笑い声を上げている……最早、尊厳も何もかも破壊し尽された、まさに見るも無惨なトキヤの有様だった。

 「あ、あああああ……」

 膝から崩れ落ちて、地面を殴りつけるシャウカット。

 転生者の死に戻りは身体こそ元に戻せても、心までは元には戻せない。

 「どうして……どうして、トキヤがこんな目に遭わなきゃならないんだ……!」

 自分に非がある……とは考えないのがシャウカットの悪いところでもあり、そして良いところでもあった。

 「許せねえ……絶対ぇ許さねえぞ、亜人ども……!」

 彼は己に固く誓った。

 失った友の魂、その無念を晴らす為に。

 そして彼が愛した女を守り抜いて、この世の地獄を打ち砕く為に。

 シャウカット・オオニタという一振りの剣は、決して折れないという事を……!

 「その意気だシャウカット。お前の決意に私も感動を覚えているが……水を差させて貰うぞ」

 そう言ってふらりと現れたのは、迷彩柄の直垂を着た赤毛をポニーテールに結んだ女だった。


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