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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十一話【奈落の果て】
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第十一話【奈落の果て】5

 「はーい、ここからは女狐が真仲ちゃんの最新の動向をお伝えしまーす」

 ジョンヒがヒョンウの陰から姿を見せて、軽快な嫌味を旭にぶつけた。

 「都の女王様は神坐から軍を差し向けられて都を火の海にされたくないし、真仲ちゃんに負けたなんて情けない事実を認めたくない。

 一方の真仲ちゃんは中ヒノモトを自分の所領として安堵して欲しいっていうのと……なんか、トキヤを味方に引き入れたいって思ってたみたい。

 だから2人は取引をした。女王様はあたし等神坐を騙しながら自分の名誉を守る為に、真仲ちゃんを旭ちゃんって事にして将軍に任命して、旭ちゃんに中ヒノモトの所領を安堵させる事で、表面上は神坐に従っているように見せかけた。

 真仲ちゃんは女王様の提案を受け入れる代わりに、自分が本物の旭ちゃんに成り代わる為に女王様の軍を借りてこっちに向かってきてる。多分、旭ちゃんさえ殺せたら、トキヤも諦めて自分を本物の光旭ってコトにしてくれるって甘い考えでいるんだと思う」

 旭は己を苦しめた女のあまりの暗愚さを前に、眩暈と怒りが止まらない。

 こんな程度の女に焦り、妬み、絶望を覚えていたのかと。

 「菱川真仲め……何と愚かな、何と甘えた! 何と生意気な女よ……!」

 旭は考えた。

 高巴とやらの傀儡から始まり、今度は都の女王の木偶となった、己が見惚れた美しさを持つ極上の形代を、我が物として従える。

 己を謀った都の女王を返り討ちにする事で、東ヒノモトでの神坐の権威は益々高みに至り、真仲の為人に惹かれた人々が己の許へと更に集えば、カゲツを斃す事も夢ではない。

 「真仲に白鳥……貴様等が侮り、喧嘩を売った相手が如何なる者であるかを思い知るがいい……! 二人纏めて、わしがこの掌の上で甚振ってやろうぞ……!」

 決意を胸に言ってのけた旭の前に、

 「やっぱり俺は、あんたがそういう楽しそうな顔してる時が一番好きだよ」

 安心した様子でシャウカットが現れた。

 「今回ばかりは礼を言うぞ。あいつのやり方で続けていたら、皆が疲弊してしまっていたであろうからな」

 「アイツね……そう、アイツは全然ダメな奴です。人の動かし方を知らないし、大局的な見地がまるで無い。もしも俺が執権だったなら、昼も夜もずっと上手くやれたでしょうね。自信ありますよ?」

 そう言ってシャウカットは旭に詰め寄ると、腰を抱いて上から微笑み掛けた。

 いつものように、素っ気なく振られるものと思って……。

 だが。

 「然れば、これよりはお前を夫とするか」

 「え……ハ?」

 シャウカットは自身の耳を疑った。

 「トキヤはもう捨ててしもうた故な。それに、いつまでも一国の主が寡婦でおる訳にもいかぬであろう。これよりお前はわしの調子が悪い時、代わりに政を執るがよい」

 「あ……は、はい。分かりました。頑張ります……」

 「それと、今宵からはわしと夜を共にせよ。トキヤよりも上手いのであろう? もしも少しでもわしの機嫌を損ねてみろ、トキヤ曰くは立派なお前のものを踏み潰してくれようぞ」

 「あ……はい。分かりました、頑張り、ます……」

 思ったよりも幸福感が無く、むしろ変な虚しさを覚えたシャウカットは、チランジーヴィの横にふんわりと座ると、心ここに有らずといった様子で唯々佇む。

 「それにしても、なんかここ数日すっごく頑張った気がするねー」

 「ニャライの意見に私も同意だ。もう少し……呪いに対する用心をして欲しかったな、ジョージ」

 シャウカットが話している間にそれぞれの団長の許に控えるように座っていたニャライとペイジも、自分達の手柄を元手にした自信を携えて将軍達に軽口を叩く。

 「それについては何も言い返せないな。……ありがとよ、ペイジ。やっぱ俺はお前がいないとダメらしい」

 「引退をしたいのならばいつでも構わない。私の方は準備が出来ている」

 「生意気言ってんじゃねえよ、お前はまだまだひよっこだ。もっと世間の荒波に揉まれて酸いも甘いも理解したら、考えてやってもいい」

 ヤマモト傭兵団の2人は噛み合っていないようで噛み合っている会話を交わす。

 「そういえば閣下は色病み状態の旭さんが着てたトンチキ衣装見ました? 笑い死にそうになるぐらい面白かったですよー」

 「そうだったのか。僕は昼はトキヤ君と、夜はヒョンウやバレンティンとずっと話し合っていたから、見る機会が無かったのだが……何やらタンジンとジョージの合作で妙な着るタイプの呪具を作ったとは聞いていたけれど、君達は本当に人をオモチャにして弄ぶのが好きなようだね」

 イシハラ傭兵団は、ニャライのズレた感性にガニザニも巻き込まれていた。

 「ハ……? トンチキ? ジョージ、夜伽狩衣にそのような要素は無かったようにワタクシは思うのですが……アナタ、妙な仕掛けでも施したのですか? 変形してロボットになるとか」

 「いや、そういうの確かに好きだけどそんなんしてねえよ。おいニャライ、テメエは俺の服飾センスに文句があるって言いたいんだな?」

 「うーん、みんなはドン引きしてたけど、私はえっちな服ってもっと違うイメージだったって感じかなー。もっとこう、全体的にひらひらしててキラキラしてる感じっていうか……」

 「あー分かったわかった。じゃあテメエのを作る時はそうしてやるよ。俺はそういうのには結構詳しいからな。キタノの参謀の理性を一瞬で蒸発させて、旭からテメエに鞍替えさせてやっから……ん?」

 得意げに喋っていたジョージの肩に、旭の手が置かれた。

 「……い、いや、物の例えだっての。な、ニャライ? 確かお前等もう終わってんだろ?」

 「終わってるし別に私はそういう服欲しくないかなー。っていうかまあ……もう、新作も要らないんじゃない?」

 ニャライに促されてジョージは自身の肩を握る旭を見上げた。

 旭は、何とも言えない、無の表情を唯々ジョージに向けていた。

 ジョージは……そして、他の七将軍も、その表情で全てを察した。

 「……あー、何だ。その、まあ、人生って色々あるもんだぞ? 俺だって何人の女に逃げられてきたか数え切れねえし。だからな、次に切り替えていきゃあいいんだ。な! タンジン!」

 「はぁ……とんだ見当外れでした。ワタクシがこの血と汗と涙を振り絞って育て上げてやったというのに……全て水の泡となりました、か……」

 「僕達は少し、無責任過ぎたのかもしれないね。まあ、過ぎた事は、もう、どうしようもないが……」

 「……いかん、吐きそうになってきおった。今日はもう帰るのじゃ。シャウカット、後は頼んだぞー」

 「悪い事ばかりでもないのでは? これである種の健全化は成し遂げられたのだから」

 「そうだな。ま、あのガキには良い薬だ。姫様、辛かったらオレとトキタロウが相談に乗るぜ? どうだ? 今夜はオレ達と一緒に……な?」

 「やめとけヒョンウ。きっとアイツと仲の良かったオレ達の顔も見たくなかっただろうに、わざわざ顔見せに来てくれたんだ。今はこれ以上関わらない方が良いとオレは思うぜ」

 お通夜の様相で話を交わす神坐の面々を見てジョンヒは、

 「……つまんな。今までのあたし、バカみたいじゃん」

 そんな言葉が口から零れた。





 一方その頃。

 「あの義兄上が姉上を振って、わたくしに身を寄せて下さるだなんて……明日は神坐にどか雪でも降るのでしょうか」

 旭の許から去る事を決意したトキヤだったが、運悪く正義に見つかり、言いくるめられる形で彼の部屋へと連れ込まれてしまっていた。

 「これでも他の奴等よりはお前に優しくしてたつもりだったけど、何にも伝わってなかったみたいだな……ま、それもこれからは関係無いか」

 白い狩衣を脱ぎ捨て灰色の直垂を着直したトキヤは、正義の言葉を受けて自嘲しながら彼を詰る。

 「最後だというのなら忌憚なくお伝えさせていただきますが、わたくしを殺そうとしておいてその言い草が成り立つと御思いになられるのは如何なものかと」

 苦笑しながら正論で返す正義に、トキヤは何かを言い返すつもりもない。

 「そんな奴を相手に、どうして優しくするんだよ」

 「分かりませぬ。もしかするとわたくしは、戦さ場でよく知らぬ奴に討たれるよりは、義兄上の手で殺されたかったのやもしれませぬね」

 正義の憂いを帯びた微笑みに、トキヤは何か言い知れぬ胸の苦しみを覚えた。

 「縁起でもない事を言わないでください。兄上がいなくなっては、誰が姉上を守ってゆくのですか?」

 2人の静かな会話に、可憐な3人目が加わる。

 「その問いは義兄上に失礼だろう、円。わたくしがおらずとも、姉上には義兄上がいるのだ」

 「それはそうですが、守りは固い方が良いに決まっています」

 「だから、もう俺はここを出るって言ってんだろうがよ。何で俺をいつまでも義兄上、あにうえって……」

 「義兄上……どうか、もう一度姉上の為に働いてはいただけませんか? 姉上も将軍の方々も、全て投げ出してしまったも同然の御判断に失望されておりましたよ。姉上の事をお慕いしていたというシャウカット様も、投げやり気味に次の夫となる事を決められて、何も嬉しくない御様子でした」

 「旭がこれから先、成長していくにはそれで良いんだよ」

 「あんなに悲痛な有様の姉上を、その目で見ても同じ事が言えますか……!?」

 「ああ。俺はもう、必要ないんだよ」

 二人掛かりで説得しても感情を微動だにしないトキヤを前に、円は苛立った口調で、

 「そうですか……分かりました。そうまでして姉上の許に戻りたくないのでしたら、これから義兄上は……いえ、トキヤは私の夫になっていただきますね!」

 言うや否や、

 「ハ!? いきなり何言って……って、おい!」

 すかさず彼の胡座の中へとすっぽり収まると、

 「ちょっ、待て! 正義もいるのに、何で……!?」

 旭と別れた時に続いて、またもその唇を奪った。

 「おいおい円……それはあまりにも荒療治が過ぎないか?」

 呆れ気味に苦笑う正義をよそに、円は「もっと舌出して下さい……」「歯を立てないで……全く、姉上と毎夜毎晩何をされていたのですか?」「トキヤ、自信が無いのであれば実力をつけましょう……頭も身体もからっきしなら、せめてこちらだけでも。私が手取り足取り致しますから……」そんな事を言いながらトキヤの身体をまさぐり始めた。

 剥き出しの欲望をぶつける円を相手にされるがままのトキヤを見つつも、正義は「ああ、眠くなってきたな……円、ここはわたくしの部屋だから、あまり汚さないでくれよ」そんな事を言いながら横になり、寝息を立て始めた。

 「この状況で寝れるの!? 正義お前、それはどういう精神状態なんだよ……!?」

 思わずツッコミを入れてしまったトキヤだったが、

 「こらっ、トキヤ……今は私と抱き合ってるんです。他の者の名前を呼ぶなんて、礼儀が成っていないですよ……?」

 円は構わずトキヤに『教育』を続けた。


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