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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十話【堕ちた姫】
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第十話【堕ちた姫】6

 「うわ……すごい格好……あ、義兄上の飼われている遊女の方でしょうか? 今こっちは大事な話をしているので、また後でお願い出来ますか?」

 寝惚けた顔でふらりと現れた、信じられない程下品な服を着た女を前に思わず円はそんな風に言ってしまったが、

 「姉上……ですよね? 何ですか、その服」

 「だよね! 絶対コレ面白……く、ない? ひょっとして……」

 「えっ……? えっ? これ、姉上なんですか?」

 周囲の言葉で、それがやっと光旭なのだと認めた。

 「義兄上も義兄上です、何てもの着させてるんですか、風邪ひきますよ」

 「ええと……あなたは、誰、ですか?」

 「は……? 嘘ですよね? 姉上」

 嘘も大嘘だ、いい加減こんな悪趣味な大根役者のクサい芝居はやめろ……と言おうとしたペイジだったが、一瞬、凄まじい剣幕で旭に睨まれて何も言えなかった。

 「落ち着いて聞いてくれ正義。さっきも言ったけど、旭はもう、人格が完全に壊れて……昔の事は何も覚えてないんだ。旭も気にするな、こいつはお前とちょっと髪の色が似てるだけの無関係な男だ」

 「はいっ、執権様♥ それでは誰か知らない御方、わたしは執権様附遊女……ですらありませんでしたね。奴隷の旭です。お目汚しを失礼致します」

 「姉……上……」

 崩れ落ちるように俯く正義。

 その様子を見て、トキヤの膝の上に身を預けながら……トキヤと正義の死角で、旭は心底愉しそうな性格の悪い笑みを浮かべていた。

 「ねえ、これって素なの? どこまでが呪いの影響なの?」

 純粋な疑問を口にするニャライに、

 「これが素ってどういう意味だ!?」

 大真面目にトキヤは激昂する。

 それがまた可笑しいようで、旭は声を必死に抑えながら爆笑している。

 明らかに状況を俯瞰して愉しんでいる態度を前に流石にジョンヒも可笑しいと感じたようで、

 「ねえ、旭ちゃんさ……ひょっとして、結構自我残ってる事ない?」

 面と向かって、旭に問いかけたが、

 「執権様ぁー、わたし、この人怖いですぅー」

 「大丈夫だ、俺がついてるから……ごめん、ジョンヒ。やっぱりまだ旭は人に会わせない方がいいな」

 「はいはい……ったく、性格悪い子を性格悪くなるように洗脳するなっての……」

 すっかりトキヤに甘やかされた彼女は、逃げ癖がついてしまっているようだった。

 そうしてトキヤに頭を撫でられながら、旭は彼と「眠ければ戻ってもいいからな」「嫌です……ここには執権様を狙う女が多過ぎます、わたしが目を光らせておかないと……」「そうか。なら、誰も俺に色目を使えないように、しっかりとお前の想いの強さを見せつけてやれ」「はい……執権様♥」というような会話を交わし、人目も憚らずトキヤに弄ばれるがままに嬌声を上げる……勝ち誇った顔をジョンヒに向けながら。

 「奴隷の分際でご主人様に独占欲全開なの面白過ぎるんだけど」

 「寧ろそういう所に元の旭の名残を感じて、俺は悲しいながらも嬉しいよ」

 「いや有り得ねえだろ、気付けって……流石にもう騙されねえからな。いい加減にしろよ、旭さん。どんだけトキヤの事オモチャにすりゃ気が済むんだよ」

 ジョンヒに続いてシャウカットにまでバレて苦言を呈された旭は、

 「……あ、あはっ。よく見れば、貴方様は男でいらっしゃるのですね。執権様には遠く及びませんけど、麗しい方。わたし、貴方様も欲しくなってしまいましたわ」

 誤魔化そうとしてシャウカットの許へ行こうとしたが、

 「触るな、汚い」

 「何だと貴様!」

 「こら、お前のご主人様は俺だろ?」

 「あっいや違うのだトキヤ、あっ違った、ご、誤解です、執権様♥」

 二重人格が如く、素に戻ったり演技を強いられたりして忙しい有様を晒してしまう。

 それでもトキヤは旭を疑わずにいるようで、

 「円、見ての通りだ。お前の姉の旭はこうならざるを得なかった。今呪いを解いちまったら、やっと忘れられた色んな事をまた思い出して苦しむようになる。もっと話の通じない酷い状態になるのかと思ってたらそうでもなかったし、だったらこのままでも良いんじゃないかなって、俺は思ってる」

 大真面目に円に理解を求めて語り掛け、そんなトキヤを前に旭はまたも声を抑えながら苦しそうに大笑いする。

 「分かってくれたなら旭の事は諦めてくれ。けど、魔術や呪いに詳しい人が身近にいてくれる事はとても有難い。あんたの身の安全は俺達が保証する。だから、困った事があれば助けて欲しい。それじゃあな」

 言い終えたトキヤは、旭の腰に手を回し「随分と派手に暴れてくれたな……後で今までにないぐらい、キツくお仕置きしてやる」「お仕置き……♥ ひ、ひひひっ♥ おしおき♥ あはははは……♥」理性の無い笑顔でこの後の自分に起きる事を期待して「お゛ぉ゛っ♥ お゛ほっ……♥ え゛へぇ゛っ……♥」それだけで悦んで痙攣し、足下をぐっしょり濡らしてしまった千鳥足の彼女を連れて、御所の奥へと消えていった。

 後に残された6人のうち、転生者達はどっと疲れてうんざりした様子でいて、

 「姉上……おれは、どうすればいい……?」

正義は旭に他人扱いされた事がショックで立ち直れていない有様のままふらふらと部屋から立ち去っていった中、

 「可笑しい……」

 円の呟いた言葉に、残った4人が関心を向けた。

 「そうだよねー、あんな雑な演技でコロっと騙されてるなんて、トキヤはホンットに可笑しい……」

 「いえ、ニャライ様そうではなく。確かに義兄上の真面目で素直過ぎる為人も相当ですが、色病みの呪いには確かに掛かっている御様子なのに、姉上の正気が残り過ぎているのです」

 神妙な顔で顎に手を添えながら、円は続ける。

 「色病みの呪いは一度掛かればそれまで築き上げてきた人としての有り方全てが崩れて無くなる程の強い性衝動に支配されるようになります。

 それは人が変わってしまうだとか記憶が無くなるだとかそんな生易しい度合いではなく、まともに話す事も、食事を摂る事すらも出来ない、常に誰彼構わず男を求める破滅した獣そのものの有様になる筈なのですが……。

 そして、あの過度に淫らな衣服。あれは呪いの効果を増幅させる方向へ制御していますが、制御権が姉上に無い。恐らくは何者かが義兄上に姉上を操らせるために作った呪具なのでしょう。そんなものすら身に着けているのに姉上は、奇妙な程に魂の有り方が残っている。通常何らかの手筈で呪いを解かないままあの状態まで無理に性欲を引き下げようとすると、意識が消し飛んでしまうのに。

 となれば、姉上は呪いに耐性を持っている事になります。しかし色病みの呪いに耐性を持つのは身体の内に魔力を持つ妖精の中でも非常に強い魔力を有する一部の優秀な者や、そもそもの性欲に起因する感情を持たない虫の亜人ぐらいのもの。姉上は人間ですからこれも有り得ません。残された可能性は……、

 呪いが書き換えられている。

 ……そう。それしか考えられない。

 かなり信じ難い事ですが、私が研究を始めるより前に光本家の目を掻い潜って色病みの呪いを解析した呪い師がいて、その者が姉上の気付かぬうちに色病みの呪いを書き換え、その結果として姉上は正気を保てている……それ以外にああなる理由は考えられないのです」

 話しきった円は深呼吸をして心を落ち着かせ、ようやく他の面々へと顔を向けた。

 「つまり……旭ちゃんはどうなるの?」

 問うジョンヒに、円は首を横に振った。

 「分かりません。書き換えられた何が作用してああなっているのかが判然としないので、ある時突然本来の効果が姉上を襲って取り返しのつかない事になるかもしれないです……」

 「それはまずくないか……? 一刻も早く呪いを解かないと、大変な事になるぞ」

 「それでも姉上一人の被害で済めばましな方です、ペイジ様。呪いを弱くする為の書き換え方といえば、定石は『触れた者に伝染す』形にする事ですから……」

 そう言い始めた途端、

 「ダメ……ダメ、ダメダメダメダメ! そんなの絶対ダメ! シャウカット! トキヤ捕まえに行くよ!」

 ジョンヒが取り乱して、シャウカットの腕を引いて立ち上がるも、

 「落ち着いて下さい! 色病みの呪いは男性に掛けても効果が現れない仕組みになっていますから! 仮に義兄上に掛かっていても何の問題もありません!」

 「それホントなの!? ホントにトキヤは……男は大丈夫なの? 呪いがどんな改造されてても?」

 「え、ええ! 有り得ないです! そんな書き換えをすれば最早それは別物の呪いになりますし、一つの呪いに幾つもの効果を与えるような書き方をすると、呪いの流れが乱れて何も起きなくなってしまったりするので、呪い師は絶対に左様な事は致しません。というかそもそも、流れ者の方々は死に戻りがあるせいか呪いが効かないとお聞きしておりますが?」

 「あっ、そっか。そりゃそうだわ……恥ずかし」

 円に冷静に事実を伝えられて、落ち着きを取り戻した。

 「とはいえ早いとこ呪いがどう改造されてるかは確認してえな。そういえば、旭さんって今トキヤと一晩楽しんだ後は基本的に昼過ぎまで寝てるんだっけ?」

 「うん、毎朝トキヤがやってる七将軍との会議の間は、ぐっすりしてるね……あっそうだ、その隙に部屋に忍び込んで、こっそり呪いを解いちゃえばいいんじゃないのー?」

 ニャライの提案に、円は首を横に振った。

 「解呪となれば本人にもそれなりの負荷が掛かるので、寝ている間にこっそり……とはいきません。ただ、呪いを解析する程度であれば気付かれないですね」

 円の提案した妥協案に、

 「そうか……まあ、下手に焦るぐらいなら、状況を正確に把握する方がまだマシか」

 「どういう結果が出ても呪いを何としてでも解くなら、俺的にはオッケーだ」

 「あたしもシャウカットと同じ意見かな」

 「じゃあ善は急げってコトで、明日の朝みんなで行こー!」

 全員一先ずの賛成を示した。


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