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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十話【堕ちた姫】
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第十話【堕ちた姫】2

 旭を堕としてから、光トキヤは全てが変わった。

 昼は辣腕を振るう国主を演じた。

 予てからタンジンやガニザニから薫陶を受けていて既に王としての素養を培っていた彼にとって、曲者揃いの将軍達を従えてヒノモトの有力者達と渡り合う事はさほど難しい事ではなかった。

 そして、夜は……。

 執務を終えたトキヤは今日も、自分の部屋ではなく別の場所へと向かう。

 夕闇が濃くなっていく中、その部屋の障子を開けて、トキヤは中で自身を待ちわびていた相手に微笑んだ。

 「良い子で待っていたか? 旭」

 トキヤに問われ、寝床の上で座り部屋の奥をぼんやり見ていた彼女は、桃色の髪を揺らしながら振り向く。

 「あはっ……♥ 執権様、お帰りなさいませ♥」

 後ろから見ただけでは長い髪に隠れて分からなかったが、彼女の身に着けているそれは、おおよそ遊女ですら着るのを憚るであろうものだった。

 旭の髪の色をもっと下品にしたような、光沢のある桃色の薄布を金具と紐で組み合わせただけの服と形容すべきではない肌着と、辛うじて狩衣の体を為しているが透けるほどに薄い黒布で編まれた、取って付けたような首周りと袖。

 「新しい服……夜伽狩衣の着心地はどうだ?」

 夜伽狩衣。

 イタミ傭兵団が材料を集め、ヤマモト傭兵団がデザインしたという、色病みの呪いを制御する為の衣服。

 それは今までの旭が歩んできた武士としての人生の全てを踏み躙ったような悪趣味極まる形を成し、更には呪いの制御を行えるのは着ている旭本人ですらない。

 旭を徹底的に辱めて屈服させる為に作られた悪意の塊のような呪具だとトキヤは初めこそ反感を抱いたが、

 「きっと以前のわたしであれば、このようなもの、遊女ですら纏わぬ下劣な変態の格好だと嫌がったのだと思います……かつてのわたしが着ていたものを模して作られているのも、嘲られているようで……でも今は、それが寧ろ心地良い……♥ わたしが壊されて、蔑まれて、辱められていく……♥ そう思う度に、胸が高鳴って、心が昂って……♥」

 旭から寧ろ気に入っていると聞かされて、考えを改めた。

 「それは良かった。じゃあ今日もこれを着ながら始めるか」

 「あ……っ♥」

 トキヤは旭の肩に手を置く。

 その内なる心の獣慾を、旭に流し込むようなイメージを描いて……。

 「ぐ、お゛……っ♥ ほお゛ぉ゛ぉ゛……っ♥」

 突然、旭は苦しそうに呻き始めた……否。

 「お゛っ♥ ……はあっ、はあっ、あはぁ……♥」

 旭は苦しんでいるのではない。

 トキヤによって急激に色病みを解放されて、骨の髄まで身を焦がす情愛への渇きに、頭の中を真っ白にさせていたのだった。

 そして旭は、恍惚とした表情をトキヤに向けながら肩で息をし始める。

 「教えてくれ、旭。今日はどうされたい?」

 「き、今日はぁ……♥ 昨日よりも、もっと強く、激しくぅ♥ わたしに牝犬も同然の、無様を晒させて下さいませぇ♥」

 「良い子だ。ちゃんと何をして欲しいか言ってくれて嬉しいよ、旭」

 「執権様ぁ♥ 早く、はやくうぅ♥」

 「ああ。ご褒美をくれてやる」

 「あっ……♥ う゛お゛っ♥ ん゛お゛お゛お゛お゛お゛♥」

 呪いに蝕まれた旭は、日に日に理性を失ってゆく。

 獣じみた嬌声を上げながらトキヤに縋り付いて……『光旭』が崩れ堕ちていき、己と謂う存在が跡形も無くなってしまう恐怖から逃げる為に『遊女のあさひ』で埋め合わせているかのように、彼から齎される暴力的な快楽の全てを愛情だと盲目的に信じて求め続ける。

 それは悲しく哀れな破滅としか謂いようがない一方で、武士から遊女に生まれ変わった事で、今まで立場や性格、呪いのせいで我慢せざるを得なかった全てから解放された悦びを、全身全霊で浴びて堪能しているようにも見えた。

 そんな何の言い訳も出来ない冒涜と支配を、愛する人に強いる心苦しさが初めの頃のトキヤには確かに存在したのだが……。

 「おい旭、俺にされるがままじゃ遊女失格だろ。遊女ってのは、男を悦ばせるのが務めだ。分かるか?」

 「ぐひいぃっ♥ も、もうしわけ、ありませんうううぅぅ♥ でも、でもぉ♥ 執権様が、らいしゅき過ぎてぇ♥ 何も出来ないんれしゅううぅっ♥」

 「はぁ……。遊女が聞いて呆れる。こんなザマじゃお前には、遊女すら辞めて貰わないとな」

 「え……っ、嫌……嫌あああああ! やだあああ! お願いします! 捨てないで! わたし、頑張りますからあああ!」

 「捨てる? 面白い事を言うな。お前は遊女を辞めて奴隷にならないか? って訊いてるんだ。さあ、これ着けてやるよ、旭」

 「え……あ……♥」

 三文芝居を真に受けて弄ばれた挙句、首輪を着けられた旭は、それでも首輪に添えられたトキヤの手に己の手を重ねてうっとりと微笑む。

 武士としての威厳どころか人としての尊厳すら自ら嬉々として棄ててしまう、違う人間のように変わり果てた旭の様子を見て満足げに微笑み返すトキヤも、唯々素直で優しいだけだった頃の彼とは最早別人といっても過言ではない。

 「旭、お前はどうなりたい? 俺を相手に遊女の務めを頑張ってくれるか? それとも……遊女の務めすらまともに出来ないのなら、俺に身も心も全て差し出して、何をされても唯々悦んで支配される事を受け入れるだけの奴隷になってもらうしかないな。お前の好きな方を選ばせてやる」

 「ど、どれいっ♥ 奴隷がいいですっ♥ わたしは、遊女のあさひは今から執権様の奴隷になりますっ♥ わたしの全部を執権様のものにしてくださいっ♥ 何をされても構いませんっ♥ わたしの色を執権様の色で塗り潰して下さいませっ♥ だからっ♥ だからはやく続きをしてえぇ♥」

 「ワガママな奴隷だな。……これからはもう、お前がやめて欲しくても俺が満足するまではやめないからな?」

 「ひっ……ひ、ひひひっ♥ こ、壊れるっ♥ もっと壊れてしまうっ♥ もう、全部、無くなってしまう♥ わたし、武士をやめて、遊女もやめて、奴婢になってしまう゛お゛お゛お゛お゛お゛っ♥」

 「せめて良い声で啼いてくれよ。でないと愉しくないからな?」

 「お゛ん゛っ♥ お゛ん゛っ♥ お゛っ♥ お゛っ♥ お゛っ♥ お゛っ♥ お゛っ♥ お゛っ♥」

 獣に貪られる哀れな小兎……そんな言葉がお似合いの様相で、二人は互いに夢中になっている。

 そう、終始旭が一方的に道具の様にされるがままという訳でも無い。

 トキヤも快楽を感じている以上、永遠に冷静ぶっている事は出来ない。

 「旭、あさひ、あさひ……っ、お前はもう、俺の奴隷だ、だったら、奴隷はご主人様に、逆らわないよな? 旭、良いよな? 良いって言え、欲しがれ、旭……!」

 「あがっ♥ はっ♥ は、はいっ♥ しっけんしゃま♥ く、くだしゃ……、ください♥ しっけんさまっ♥ 旭に、全て受け止めさせてくださいませ♥ わたしを満たしてっ♥ わたしに授けてっ♥ わたしに宿させてええぇぇぇっ♥ ん゛お゛っ♥ お゛ほ゛お゛お゛お゛お゛お゛! ……♥ か、かは……っ♥ はぁっ♥ はぁっ♥ はへえぇ……っ♥」

 痙攣する二人。

 息を荒げるトキヤの腕の中で、死に体の雌犬じみた呼吸をしながら、旭は幸せそうに焦点の合わない目を唯々虚ろに開ける。

 そうして少しの間互いの温もりを感じるのも束の間、

 「ダメだ、死に戻りのせいで全然収まらない……まだへばるなよ、旭」

 トキヤは転生者である為に死に戻りの能力が作用しているのか、幾ら身体を重ね合っても満足が出来ない。

 「あは、あははぁ……♥ も、勿論ですぅ……♥ 夜は、まだ、まだまだ始まったばかりですから、執権様ぁ……♥」

 対する旭も、そんな転生者と斬り合って勝ちを収める程の強靭な体力や持久力を持ち合わせていながら、呪いによって情愛に飢え続けている為に、まだまだ足りない様子で、再びトキヤへ理性の無い笑顔を向ける。

 二人は今日もこの宵闇が明けるまで、互いを求め合う事となった。





 それから数日後の夜。

 「そういえば最近全然見てなかったけど、どこか遠くで任務でもあったのか? ……何だよ、そんな顔して」

 「ううん。ただ、ウチの団長がずっとここにいるのに、誰が真仲ちゃんの様子を逐一探りに行ってたって思ってるのかなーって」

 「あ……ごめん」

 「いいよ。それよりあたしからも質問。旭ちゃんずっと病気で寝込んでるらしいけど、大丈夫なの?」

 「ああ……それはいずれ話すよ」

 「そう。いずれ聞かせてね」

 久し振りにジョンヒの誘いで旧友達と話し合う機会を設けられたトキヤは、無邪気に皆の顔を懐かしく思い出しながら皆の待つサエグサ傭兵団の屋敷の一室へと足を踏み入れた。

 「久しぶりだな。こうしてみんなで集まるのは、旭が正義を殺そうとした時以来か?」

 トキヤのあまりにも呑気な様子にニャライやペイジは調子が狂った顔を見せたが、

 「なあ、トキヤ……大事な話があるんだ。まあ、そこ座ってくれよ」

 シャウカットだけは深刻な表情を保ったままトキヤに話し掛けた。

 促されるままトキヤは座る。

 そして、居心地悪そうに全員の顔を伺い始めた。

 「ねえトキヤ、その……」

 「いいよジョンヒ、私が訊く。トキヤ、あの……まずは、執権就任おめでとう。実はちょっと悔しかったけど、執権って別に陰謀ねりねりするだけの仕事じゃないもんね、だから……」

 「そうじゃないだろう、ニャライ。それに、この質問をするにあたっては私達よりも適任がいるだろう。頼む、シャウカット」

 「ああ。トキヤ、単刀直入に訊くけどさ……」

 トキヤは、全員の前で可笑しそうに嗤った。

 「トキヤ……?」

 「何ビビってんだよお前等。ご想像の通りだ。おい、来てるんだろ? 旭」

 トキヤがその名を呼ぶとは思っていなかった全員が、彼の入って来た廊下の方へと目を向けた。


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