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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第九話【もう一人の光る姫】
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第九話【もう一人の光る姫】2

 中ヒノモト。

 人間の数多く住まう東ヒノモトと亜人に支配された西ヒノモトの狭間にあるこの地は、山を切り出して人や亜人が長く住む余裕も無い程の争いに見舞われ続けた為に、鬱蒼と茂った森が広く横たわっている。

 それは謂わば天然の要塞とでもいうべき役割をも果たしており、人間も亜人も等しく地の利を活かして鎬を削っていた。

 ……この地に今、東ヒノモトを平定した人間の国である神坐の転生者達が脚を踏み入れている。

 が。

 「おい待て……ここはさっきも通った気がするな。ヒョンウ、右に行くぞ」

 「けどよトキタロウ、右に行ったら一周回っちまって5つ前の分かれ道に戻らねえか?」

 「あたし等転生者でよかったね、トキヤ。普通の人間だったら今頃脚が疲れて動けなくなってたかも」

 「いや何も良くないだろジョンヒ。正義は転生者じゃないし」

 「わたくしの事ならお気になさらず! 北ヒノモトから姉上の許へ馳せ参じた時は三日ぐらいぶっ通しで歩き続けましたので、まだまだ大丈夫ですよ。それよりトキヤ殿、このきのこは食っても大丈夫そうです、どうです? お一つ!」

 「明らかヤバそうな色してるのにか? あとな、道中ずっと思ってたんだけどさ……何でも口に入れようとすんな! テメエは2歳のガキか!?」

 「も、申し訳、ありませぬ……」

 誰も土地勘が無い為に、完全に迷子になってしまっていた。

 「おっかしいなあ……確かにこの辺だって手紙には書いてんだけどな」

 「客を呼ぶならもうちょっと分かり易くしといて欲しいもんだな」

 「そうしたいのは山々なのだが、我等は其方等と違って不死ではない故、多少の不便さは許してもらいたい」

 「おいおい、この不便さが多少で済むのは、住み慣れてる、ヤツ、ぐらい……」

 女の声がしれっと会話に混ざり込んでいる。

 それに気付いた一行は慌てて全員刀を抜いて、声のした茂みへと構えた。

 「ちょっ、ちょっと待った! 左様に怒らないでくれ……散々迷わせた事は、申し訳ないと思っているから」

 茂みから、がさり、と現れた其れは……。

 空色をした短めの髪を薄緑色の鎧直垂の襟辺りまで伸ばした、背が高めの女性。

 瞳は明るい黄色で、その顔つきは可憐というより秀美で目力の強さを感じさせるも、何処か儚げで感情の薄い雰囲気もあり、総じて旭よりもずっと人間の出来ているような印象があった。

 「此度は私の為にご足労を掛けてくれて、誠に忝い。中ヒノモトの人々を率いてカゲツと戦っている菱川真仲とは私の事だ。よろしく頼む」

 目を細め、口角を僅かに緩めた真仲。恐らくは微笑んで場を和めようとしているのだろうが、旭よりもずっとぎこちなく、敬語を使おうとはしているが全く成り立っていない有様も相まって、こうしたところは将としての才能が旭のレベルには到底至っていないと全員が薄っすら感じた。





 道なき道を案内され続ける事半刻、ぐるぐると回っていた道の丁度真ん中辺りに、真仲の拠点は存在した。

 「流石は転生者でもない人間だけでカゲツ相手に戦りあってるだけあるな。わざと迷う道だけ残しておいて、ここに通じる道は全部草木で隠してたってワケか」

 「我等も生きる為に手段を選べない事は少なからずあるのだよ、トキタロウ殿。だがここもあと半月程で棄てる。一つの場所に留まり続けると、カゲツの連中は数で押し潰そうとしてくるからな」

 「その割にはこの屋敷、随分と使い込んでいるように見えるが?」

 「実はちょっとした仕掛けがあってな、ヒョンウ殿。組み立てと解体をし易い造りにしてあって、次の場所へ移る時には全部持って行けるようにしてあるんだ」

 「へー、頭良いじゃん」

 「ジョンヒ様のような見目麗しい流れ者の方から褒められるとは、嬉しいな。ところで……そこの白髪の方はあまり私には興味が無いのかな?」

 不意に話を振られたトキヤは……少し目を合わせただけで、直ぐにそっぽを向くと、

 「俺はちょっと……あんたに興味があると、問題のある立場だと思ってる」

 とだけ返事をした。

 首を傾げる真仲だったが、

 「はぁーあ、トキヤさあ、アンタってホントにノンデリ。別にここに旭ちゃんいないんだから気にしないでちょっとは気の利いた事言いなさいって」

 ジョンヒがついた悪態の中身を聞いて、言葉の意味を理解した様子だ。

 「なるほど、トキヤ殿は誠実な方なのだな。では、あなたに免じて嘘や隠し事はしないでおこうか。高巴たかは!」

 真仲に名を呼ばれて現れたのは、浅黒い肌をした背の高い一人の男。

 深緑色の小具足姿から察するに、間者の役回りをしているようだ。

 「おい、俺の事は神坐の連中には伏せろと……」

 「その必要も無いだろう。彼等は充分信用に値する」

 「全く……いつも言ってるけどよ、お前は軽々しく気を許し過ぎだ」

 「何かあればお前がどうにかしてくれるからこそ、私はそうして人々を疑いなく導く事が出来るのだ。感謝しているぞ」

 言葉を交わし終えると、二人は当たり前のように軽く口付けを交わした。

 「彼は高巴。私の幼い頃から仕えてくれている。腕も立つが、何より頭が切れて私に何かあればいつも助けてくれる、頼りになる側近だ」

 「こちらで何かお困りの事があれば何なりと」

 そう言って頭を軽く下げて笑顔を見せるが、やはり彼も社交辞令に慣れていない様子が伺えた。

 「……意外とチョロそうな奴等だぜ、トキタロウ。周りはオレが引っ掻き回してやるから、お前は真仲が上手くトキヤに靡くよう、旭の時みてえにやってくれ」

 「果たしてそう上手くいく相手でしょうか?」

 ヒョンウの判断は浅いとでも言わんばかりに正義は一刀両断すると、突如トキタロウ達の前に歩み出た。

 「ときに御二方、何故今になって姉上に文を? もっと早い内に頼って下されば、尽きぬ命を持つ流れ者の手勢を直ぐにでも寄越す事も出来ましたが」

 「そちらはそちらでそれどころではなかったと聞いている。国を打ち建ててからついこの前までその流れ者同士で諍いをしていたようでは、流石に助けを求めるのも憚られるというものだろう?」

 「筋は通っておりますね。では、そんな喧嘩ばかりで信ずるに値しない我等に何を望んでここへお呼びになられた?」

 「それは勿論神坐も漸く落ち着いた御様子故、これからは共にカゲツと戦う事を確かめ合う為だ。その為にわざわざ、見つかっては一巻の終わりとなるこの屋敷まで連れて来たのだが、これでも信じられませぬか?」

 「ええ、信じられませぬ。あと半月程で棄てる場所へ案内しておけば、その後手酷く裏切っても我らの追手を振り切れるでしょうから」

 真仲と正義の問答に嫌な汗をかき始めた高巴は、

 「逆に聞かせてくれよ。そうまで言うなら、俺達は何が望みで神坐と関わろうとしたってんだ?」

 思わず正義に問い返すも、

 「我等に先んじてカゲツを討ち取り都に入り、中ヒノモトを真仲様の所領として女王に安堵させる……その為に東ヒノモトを平定した神坐の軍が何時都入りを始めるのかを我等から聞き出すつもりであったのではありませぬか?」

 正義は一点の迷いもなく言い放った。

 「おい正義、幾らなんでもそりゃないだろ。転生者が山程いるオレ達ですら苦戦してる相手に、コイツ等が勝てるって判断する……ワケ……え?」

 トキタロウの判断は自然だが間違っていた。

 それを示すように、真仲と高巴は何事か嫌な気分にさせられたような表情で互いに一瞬だけ視線を交わしたきり黙り込んでしまった。

 トキタロウも、真仲も、高巴も気に留めず正義は続ける。

 「そして、あなた方がそれを出来ると思えるだけの何かを、真仲様はお待ちなのでは? 道中やけに焦げた木を見掛けました。その腰の刀、よく見れば柄は色を塗っているだけで鉄を剥き出しにしてある。都の寺に預けられていた頃、裏山で知り合った天狗を名乗る翁から話を聞いた事があります。妖精の父親を持つ人間は、妖精の子らが身体の内に留められる魔力が表に現れる。その為に髪や目が人の子とは異なって鮮やかな色になる……と。まさに、真仲様のように」

 正義に真っ直ぐ睨まれた真仲は、半歩退いた。

 「一つ忠告をさせていただきますが、たかが雷落としだけではカゲツは死にませぬ。奴は首を落としても、火にくべても、毒を盛っても死ななかったそうですから。それでも我等を出し抜いてカゲツ攻めを行うと謂うのであれば、止めは致しませぬ。然し……我が姉上は悲しむ事でしょうね。志を同じくした者が己を裏切った上に犬死にしたとなれば」

 構わず更に正義は無遠慮に言葉を並び立てる。

 「犬死にだと!? ふざけんな!」

 流石に言葉を選ばな過ぎて高巴が怒りを露わにするも、

 「このままではそうなるのが関の山でしょう。我等ですらもそれは同じ事ですよ。さて、それでも我等と手を組むつもりにはなれぬ御様子。何か我等に対して劣等感を覚えられているようにすら見受けられますが、わたくしは幼き頃こそ都の寺にいたとはいえその後はついこの前まで北ヒノモトの野山で育った野人、姉上は遊女のなり損ないで、その他ここにいる者共に至っては死にたくても死ねぬ化け物です。あなた方の方が、余程人として真っ当であるとわたくしは思いますよ」

 当の正義はどこ吹く風といった様子だ。

 「おい正義、その辺でやめろ。俺達は真仲さんを言い負かしにしに来たんじゃない」

 一切容赦の無い正義の言葉の数々に流石にトキヤも冷静になって彼を止めに入った。

 「ウチのモンが失礼な事をしてしまって申し訳ありません。後でしっかり言って聞かせます。この通り、神坐の女王光旭の夫、光トキヤが謹んでお詫び申し上げます」

 深々と頭を下げるトキヤの態度に……真仲と高巴は、またも何事か視線を交わし合った。

 「そうか……まあ、真の話を白状すると、今正義殿が言っていた話は、全て当たっていた。私があなた方を招いたのは、神坐の内情を探る為だ」

 「そこまで全てをお見通しのお人だと、俺達が隠し事を出来るとも思えねえ。この度は誠に申し訳なかった。御不快だったら捨て置いてくれ」

 トキヤの誠意に応じたのか、2人の出してきた応えは素直な謝罪だった。

 その返事を聞いて、顔を上げたトキヤは……。

 「嗚呼……やっと私に笑ってくれたな、トキヤ殿」

 「お互い分かり合えて良かった。これで旭も孤高の苦しみから解放されます。是非、アイツと仲良くしてやって下さい」

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