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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第八話【無用のならず者】
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第八話【無用のならず者】3

 大変な事になった。

 そう気付くまで時間が掛かったのは、計画が最もバレてはいけない相手が無意識に最も信頼を寄せている相手であったからなのかもしれない。

 御所の旭の部屋に戻った時には冷や汗でびっしょりと服を濡らしていたトキヤだったが、

 「おい! 何勝手に抜け出していた!?」

 「いや流石に四六時中お前の顔を見てると飽きてくる……から……」

 思わず言い訳も途中で止まってしまった。

 「うわ、何でそんなに汗だくなの? 朝っぱらから体力作りでランニングやってたとか?」

 「なんかお前ってさ、いっつもそういうところズレてるよな。こういう時は旭さん、傍にいて欲しいんじゃねーの?」

 「何やら不可解な動きがあったので、我々でニャライを尋問させてもらった。安心してくれトキヤ、光正義謀殺計画はまだここにいる6人以外誰も知らない」

 最後に耳に入ったペイジの言葉を理解して、思わずトキヤは部屋の隅で三角座りをしているニャライへと冷たい視線を向けるも、

 「私だけの謀略……」

 彼女は自分一人の手柄にならなかった事へ固執しているようだ。

 「まあバレちまったならどうにもならねえだろ。こんな物騒な話は終わりだ、終わり。良いな? 旭」

 胸を撫で下ろしつつトキヤは雑に旭へ言葉を掛ける。

 「終わり? 何故終わるのだトキヤ」

 だが彼の言葉に、むしろその場にいた全員が呆れたような溜め息をついた。

 「むしろその逆、みんなぶっ殺す事に賛成してんの。あたしもあんなウザい男とこれからずっとやってくのなんて、イヤだし」

 「話通じねえ無能な働き者を処分出来て、更には旭さんのご機嫌まで治せるんだ。一石二鳥ってとこだろ」

 「綱紀粛正という面で考えれば悪くない選択だろう。私も彼の事は……正直、気持ち悪いと思っている」

 3人から返ってきたのは、ある意味最悪の答えだった。

 「あのなお前ら、自分達が何しようとしてるか分かってんのか? クラス替えでウザい奴が来たからって殺す奴があるか……!? お前らの倫理観どうなってんだ!?」

 「その質問そっくりそのまま返していい? ここはあたし達の元いた世界じゃないの。異世界ヒノモト。だから別にスナック感覚で人殺したって傷付けたって、警察も来ないし入る刑務所もない。合意が取れたらぶっ殺そうがケツ穴穿くろうが誰も何も咎めないの。そういう事だから、一緒に楽しい国家運営してこ? トキヤ」

 ジョンヒに肩を組まれたトキヤは、途方に暮れて俯く事しか出来ない。

 「おいトキヤにべたべたするな、女狐!」「狐じゃないでーす、人間ですー」「私だけの計画だったのに……」「そういえばシャウカット、チランジーヴィにはくれぐれもバレないように。あの男は目敏く地獄耳だからな」「ああ見えて兄さん身内には甘いから大丈夫だって」

 そんなトキヤを放っておいて、残酷な5人は和気藹々と雑談に興じ始めた。

 その夜。

 「おいおいどうしたキタノ弟? 随分ぐっしょりしてんな? まるでさっきまで姫様と……よろしくヤってたみてえじゃねえか?」

 「いやー、感心感心じゃのう! 不安でヘラっておるようなヤツは、男でも女でも抱いてやるのが1番の解決法なのじゃ!」

 「何か困ってる事あるなら何でも言えよ、キタノの参謀? 俺達こう見えてパーティーグッズとかこっそり作ってっからな! 例えばこう、テッカテカの素材で作ったバカみてえに小せえビキニとか、変なところに穴が山ほど開いてるバニーガールのコスチュームとか……」

 「やめないか3人共! 彼には刺激が強過ぎる……だが、君が我々と彼女を繋ぐ役割を持ち続ける事は何も悪くない。あまり事を急ぎ過ぎずに絆を育むといい」

 「そうそう、急いては事を仕損じるよ。だから旭様の身体に飽きたら、またアタシに甘えに来ればいい。あんたさえ良ければ、この後、久し振りに……どうだい?」

 「ちょっ、あんた! それバラさないでくれって頼んだだろ! 何考えてんだ!?」

 「おーい酷いぜトキヤ、ティナなんてこの前旭に無茶振りされて付き合ってただけの関係だったじゃねえかよー。どうしてオレとは嫌なんだよー?」

 「違うんだよアニキ……あの時はメンタル参ってて、気の迷いで……」

 「何だいそりゃ、聞き捨てならないねえ。アタシとは遊びだったっていうのかい?」

 「いや、あの……! ホントにやめてくださいって……」

 タンジンの部屋には、既に7人の将軍が全員集まっていた。

 「いやはや、どこから情報が漏れたのでしょうね……」

 名役者の演技で困り果てたような様子を見せる目の前の男を前に、トキヤは改めて恐怖を覚えた。

 「ま、皆して知ってしまった以上は仕方ありませんね。さあさあトキヤ、ワタクシの隣へ」「おい待てよ、トキヤは元々オレのだろ?」「最後に預かってたのはアタシだね」「くっだらねえ痴話喧嘩に時間割いてる場合じゃねえだろ、おいタンジン! テメエがキタノの参謀預かれ!」

 珍しいジョージの正論を前に、全員が我に帰って意見に従った。

 「さて、皆様にお集まりいただいた理由は他でもない、光正義謀殺計画についてです」

 それぞれに不敵な笑みや険しい顔を浮かべるが、その真意は誰も違わないようにも見えた。

 「知っての通り、彼は先の戦で奇策を以て神坐に勝利を齎しましたが、その作戦は敵であったワタクシやジョージも眉を顰めていた程に、あまり褒められたやり方ではありませんでした」

 「酷いのはそれだけじゃない。彼はその作戦を、僕達に全く伝えず実行した。お陰であの時僕達は、虫の亜人がカゲツに与したのかと半ばパニックに陥ったよ」

 「そもそも、あんまりオレ達と仲良くするつもりも無さそうだしな。最初の挨拶だって、見張りの目を掻い潜って初対面の旭に抱きついたかと思えば、オレ達相手に悪口大会だ」

 「その後は態度を軟化させはしたけどよ……正直言って、極端過ぎて何考えてるか分からねえキショさは拭えねえ」

 「そんなメチャクチャのクセして、一丁前に反乱起こそうなんてね……ああ見えて聡いところがあるから、誰も味方する訳無いのは自分でも分かってそうなのに。ねえ……?」

 意味深にティナはタンジンへ不気味な微笑みを向けたが、当のタンジンは軽くため息をつくに留めた。

 「不可解な点は少なからずありますが、別にここで名探偵ゴッコをやりたい訳ではないのでそろそろ本題に入りましょうか」

 ぐるりと6人の顔を見回して……、

 「ズバリ、この計画を利用して、本当に謀反を成立させ……旭を殺してしまいませんか?」

 「なっ……!?」

 トキヤの全く想像していなかった問いかけをタンジンは繰り出した。

 「あんた話が違うだろ! 正義の代わりに誰か別の人間にするって……!」

 「ええそうですよ? 正義の代わりに旭を殺すのです。神輿は軽いに越した事はありませんからね?」

 「そんなの許さねえぞ! 表出やがれ! あんたが諦めるまで何度でもぶち殺してやらあ!」

 気が動転して怒鳴り喚くトキヤだったが、

 「聞かなかった事にしといてやるよ。この恩知らずの恥知らずが」

 意外にも、ティナが真っ先に拒絶の意志を見せた。

 「なんだ、つまんねえな。テメエが乗っからねえなら俺もナシだ。今サカガミと戦り合う余裕は無いからな」

 「素直に正義を吊し上げないなら当然ワシもお断りじゃ。何が悲しくて好いた女を殺さにゃならんのじゃ?」

 「オレが言いたい事は今全部チランジーヴィが言ってくれたぜ」

 「オレの言いたい事は違うが意見としてはトキタロウと同じだぜ」

 「ふむ……君達を相手取って大博打に興じるのも悪くないが、僕は個人的に彼があまり好きでは無い。今回は諦めよう」

 全員の冷めきった返事を前に、タンジンは苦笑いを浮かべ、トキヤは落ち着きを取り戻して深い溜め息をついた。

 「そうですか……それではこの話はナシにしましょうか」

 そして心底残念そうにタンジンは呟くと、

 「では、良子に言ってこの妙な噂は立ち消えにさせておきます」

 言い捨てて立ち上がり、

 「あ、ちょっ、タンジン……」

 そのまますたすたと部屋から去っていった。

 ……あとに残された6人の将軍は、タンジンが見えなくなったのを見計らうと、

 「さて、ここからが本番ってヤツだな?」

 「え……アニキ?」

 次はトキタロウが仕切り始めた。

 「そうじゃのう……転生者は殺せんし、心を壊す、となっても並大抵の事ではない故、追放刑が関の山ではあるが、それでも数日前まで旭姫の命を狙っておった奴に罰を与えると謂うところでは、まあ示しはつくのではないかのう?」

 「まさか、あんた等……!」

 チランジーヴィが不穏な調子で続け、トキヤの脳裏に嫌な懸念がよぎる。

 「一番遅れてやってきた軍師様気取りが粋がりやがって。まさか自分が生け贄になるなんて思ってもいやしねえんだろうな?」

 「サエグサの団長さんまで、何言ってんだよ……!」

 「将軍! 今のオレは将軍だっつってんだろうが!」「あっ、ごめんなさい、サエグサの……将軍さん?」「疑問形になるな!」

 ヒョンウの言葉から、何を話しているのかを流石のトキヤも察せてしまった。

 「まあ将軍がどうとかはさて置いて、旭様もイタミの何が欲しいかっていえば、あいつじゃなくて良子達、手練れのスパイ連中の方だろうからねえ? トキヤはそれでも構わないかい?」

 「……俺はアニキが良いってんなら、それ以上何も言えねえよ」

 「話早くて助かるぜ、キタノの参謀。おいガニザニ、流石にこればっかりは逆張りするなよ?」

 「そう凄まれては仕方がないね。それでは最終確認をしよう。今回の首謀者はイタミ・タンジンであったという体で進めるが、構わないだろうか?」

 あれよあれよという間に、タンジンが自身の預かり知らぬところで嵌められていく。

 真っ先に選ばれた理由や反対する者のいない人望の無さ……それが彼の胡散臭い言動によるところであろうと、トキヤは納得している理性と反感を抱えた感情が相剋して仕方が無かった。

 「俺はいいぞ」「ま、必要な犠牲だねえ」「ティナに同じくなのじゃ」「……おい、どうなんだ? トキタロウ」

 だがそれでもこの6人を前に何も異を唱えられなかったのは、好意の天秤の傾きというだけでなく、彼等を敵に回しても無事でいられる自信が無かったらからに他ならない。

 「構わない。やってくれ、ガニザニ」

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