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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第一話【光る姫】
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第一話【光る姫】2


 目が覚めるような桃色が突然飛び込んできた。

 一瞬、それが何なのか分からなかったトキヤだったが、動いた……振り向いた、自分とそれ程変わらない歳であろう女の顔と白い狩衣を認識して、目の前にいるのが人間なのだと理解した。

 長い睫毛、さっきまで見惚れていた青空のような瞳、あまり健康そうではない白さの肌、そしてマゼンタというべきか、ピンクというべきか……鮮烈な桃色の髪。

 二人は互いに目を向け合ったまま、何の言葉も交わせない。

 「……君は、一体」

 「誰だ……?」

 女は静かに立ち上がり刀を抜くと、トキヤにその刃を向ける。

 「ま、待って! 今アニキを呼……!?」

 後ろを向いたトキヤの首に、刃が押し当てられた。

 「答えよ。貴様は誰だ。何用があってここを開けた」

 「ちょっ、ちょっと待てよ、人の話を……」

 「黙れ。そして煩くするな。頭と身体が死に別れにはなりたくなかろう」

 「……キタノ、トキヤ。キタノ傭兵団の参謀だ。あなたは、アニキ……団長のキタノトキタロウの、お知り合いでしょうか……?」

 「なるほど……? トキヤとはお前の事か。トキタロウから話は聞いている」

 「あっ、そ、そうなんだ? じゃあ、あの、もう少し平和に、話し合えないですか?」

 「トキタロウから『お前にバレたら挙兵が失敗する』と話を聞いている」

 「挙兵……フッ、成程な」

 そう答えた直後、トキヤに向けられていた刀が床に落ち、

 「何っ!? もう一人いたのか! 卑怯な!」

 女は声を荒げる。

 「ニャライ、コレ誰だか分かる?」


 ニャライ・イシハラ

 イシハラ傭兵団の参謀長。知略の天才であり絶世の美少女でもある彼女が現れた戦場では、味方は歓喜し敵は恐慌する。

 勝利の秘訣は『防御は厚く、倫理観は薄く』であると本人は語る。


 「光旭(ひかるあさひ)。200年くらい前、カゲツ傭兵団に負けて落ち延びてきたお武家さんの末裔だよ」

 トキヤに答えたのは、女を羽交締めにしている少女……ドレッドヘアをツインテールにしている、紅色の直垂を着た少女だ。

 「助かったよニャライ、ありがとう」

 「いつから後ろにいたって気付いてた?」

 「ガニザニさんが来ててニャライがいないっていうのは、あんまり考えられなかったから。それでずっと声掛けてこないって事は、また俺を揶揄うつもりなんだろうなって」

 「大正解ー。でもこれはちょっと……あんまり揶揄えない大捕物だね」

 暴れて何事か言っている旭を二人で押さえ込みながら、トキヤとニャライは冷や汗を流して顔を覗き合う。

 「挙兵、かぁ……どうすればいいと思う?」 「ここでぶち殺して首をタンジンに渡せば、まあ何とかなるかも?」「殺すのは、ちょっと忍びないかな……」「また女に鼻の下伸ばして」「いや、ホントにそんなんじゃないから」「分かってるよ。トキヤは優しいなあ」

 そんな事を話し合いながら旭の手足を縛り終えた二人は立ち上がる。

 「ま、待て! わしをどうするつもりだ!? 今タンジンがどうとか言っておったが……!」

 問われた二人のうち、ニャライは何も答えずその場を去った。

 「おい! 聞いてるのか!?」

 旭に呼び止められたトキヤは、振り返って彼女を一瞥する。

 ……言葉は勇ましいが、表情は何かに対する憎しみと目の前の自分に対する怯えの色に満ちていた。

 「ちょっと俺じゃどうにも出来ねえから、ちゃんと相談出来る相手に話つけに行くんだよ」

 トキヤはそれだけ答えて、座敷の戸をぴしゃりと閉じた……。

 が、少しだけ開け直して顔半分に覗き込み、一言だけ忠告を足して去って行った。

 「ついでだから教えとくけど、俺達転生者って首刎ねられても死に別れねえからな」





 相変わらず空は青く、雲は白い。

 でも今はその青さに伸し掛られるような重さを感じながら、トキヤは一人歩いていた。

 挙兵。

 即ちは、叛乱。

 いつかアニキはやりかねない、そう思っていなかったと言えば嘘になる。

 バカ正直で、何にでも熱血バカで、バカみたいに曲がった事が大嫌いなアニキは、きっと今の自分達の境遇に我慢が出来なくなる日が来る。

 それは分かりきっていた事だ。

 「それでも……! こんな生き方しか、俺達は出来ねえだろうがよ、アニキ……!」

 少し声の大きい独り言が口から流れ出てしまったのを、

 「よお、こんなに良い天気なのにまたお前はとんでもねえ顔して歩いてんのな、トキヤ」

 最悪の相手に見られてしまった。

 「……今は構わないでくれ、シャウカット」


 シャウカット・オオニタ。

 武闘派で幅を利かせているオオニタ傭兵団の参謀を務める少年。

 名ばかり参謀のトキヤとは違って文武両道で人当たりも良いが、自分の才能を過信している性格が玉に瑕。


 シャウカットと呼ばれた少年は、トキヤの気も知らず屈託の無い笑みを浮かべるばかりだった。

 「どうしたよトキヤ。困った事があったら、俺も話に乗ろうじゃねえの」

 「お前の力ではどうにもならない話だ、構わないでくれ」

 「水臭え事言うなって! アレだな? まーたトキタロウが余計な事してタンジンに怒られに行くんだな?」

 「全然違う。全然違うから俺に構うな」

 「いやお前がイタミの屋敷に行く用事ってそれしか無いじゃん」

 「頼むから!」

 語気を強めて、トキヤはシャウカットを突き放す。

 「お前じゃどうにもならない事だって、あるんだよ。分からねえかな? 頼むよ……」

 「挙兵か」

 「やめろっつってんだろ!」

 「それは流石に俺でも手に負えねえわ……あ、でもトキタロウに付き合いきれなくなったらいつでもウチに来いよ! 倉庫係にしてやる」

  「アニキを裏切るぐらいなら! ……俺は、死ぬ」

 「俺達死ねねえのに何言ってんだ?」

 「そういう生き方をしてるって話をしてんだよ! っていうか、そういやお前は何でここにいたんだよ」

 「俺? 俺はちょっと貴人を案内しててさ。さっきその辺でマタタビ吸ってくるって言ったっきり帰って来ねえんだけど……」

 シャウカットが言い始めたその時だった。





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