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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第六話【時喰らう蛮勇も好き好き】
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第六話【時喰らう蛮勇も好き好き】3

 茜色の風が吹き抜ける。

 桃色の残像を残して。

 「どりゃーっ! ……やるもんですね、旭さん。女衒に育てられたって聞いてた割に、その辺のお侍さんよりも強いじゃないですか」

 共に戦うニャライが思わずそう漏らす程に、今までトキヤに担がれて逃げ回っていたのが嘘のような強さで妖精も転生者も寄せ付けない闘いを繰り広げていた。

 「ふんっ! ……お前達の刀捌きの見様見真似をしているだけのつもりだが……喰らえっ! と、そんなに上手いか?」

 「ええ、それは、もう! ペイジどころか、私達の誰とも違う太刀筋が出来上がってるの、で! ……神坐に来てからずっとコソ練でもしてたのかと思いましたよー?」

 「トキヤは何やら夜な夜な刀を振り回しておったが、なあっ! わしは特に、何もしておらんぞ? きっとわしのこの身に流れる、武家の血が! ……そうさせるのだろうな」

 「武家だからかどうかは置いとい、てぇっ! 身体能力は人並み外れて高いですよねー」

 「含みのある言い方をするな……っと?」

 馬上で踊る様に近寄る敵を切り捨てながら進んでいた二人は、いつの間にか敵の本陣に至っていた。

 そこで出迎えるように立っていたのは、黒い鎧を身に纏った銀髪の女だった。





 「あなたが……ティナ・サカガミですね? お初にお目に掛かります、私はイシハラ傭兵団の副団長、ニャライ。そしてこちらに有らせられるは……」

 「わざわざ御足労を掛けてすまないね、神坐のカワイイ女王様」

 「なっ……!? 気付いてたんですか!?」

 狼狽えるニャライを気にも留めず、ティナは旭へと顔を向けてニタニタと笑みを浮かべた。

 「話が早くて助かるな。我が片腕を人質にして、剰え斯様な真似をしたからには、ただで済むとは思わぬ事だ」

 「おやおや、あんたの周りの奴等は何も教えてくれなかったんだねえ。人質? とんだ勘違いさ。あの男はお前に随分ウンザリしていたみたいだよ?」

 「痴れ者め……トキヤはわしを裏切れぬ。奴はキタノ傭兵団を抜けてわしの後ろ盾無しには何も出来ぬ身分、それを捨ててまでお前に与すると思うか?」

 旭の問いに、ティナは嘲りの高笑いで答えた。

 「だからこそじゃないか。あいつは言っていたよ。ワガママ放題のあんたに地位も名誉も何もかも剥ぎ取られて愛想が尽きたってね。何より、やっぱり異世界の人間なんて信用出来ない、同じ世界から来たアタシの方がまだマシ、それから……あんたもまあ悪くない顔つきだけど、アタシの方が好みの女だったってさ」

 ティナは畳み掛けるように、しかし的確に旭の心へ揺さぶりを掛ける言葉を選んで挑発をし続ける。

 その目的に気付いたニャライは、

 「ダメです旭さん! アイツの言葉に耳を傾けないで!」

 ここに来る前、初めの大戦での失敗を繰り返さない為に旭へ呼び掛けるも、

 「旭さん……!? 聞いてますか!? 旭さん!」

 旭はもう怒りでティナしか見えていない様子だった。

 「あんたの前ではそんな素振りしてなかったかい? でも人間なんてそんなもんだろ。それは女衒に育てられたっていうあんただって分かってるハズだ。分かっていて、見て見ないフリをしていただけさ。あの男もあんたの大嫌いな奴等と何も変わらない。あんたの信用を得て捨てられない立場になれば、頃合いを見計らってお前を犯し辱めて従えようとしてくる事だろう。人間も、亜人も、皆同じだ。狡くて、汚くて、相手を食い物にする事しか考えてない奴ばかり……あんた自身と同じようにな」

 刀を抜き、切先を旭へと向けて、ティナは不敵な笑みを浮かべる。

 「それでも取り返す価値があると思うのなら、来るがいい。死なないアタシを倒して、お前から心の離れたお使い係と元通りの関係を取り返せる、その自信があるなら……ね?」

 問い掛けに刀を抜く事で応えた旭。

 「ダメです旭さん! 相手は転生者ですよ、どうやって勝つっていうんですか!?」

 止めるニャライの言葉も聞かず、刀を構える。

 「健気な覚悟だねえ、アハハハハハ!」

 「煩い……煩い、煩あああああい!」

 両者刀を右に振り上げ、踏み込んで、

 「フンッ!」

 「でやあぁっ!」

 振り下ろし合い、鎬を削る。

 「良い刀捌きだねえ、そうこなくてはなァ!」

 「くっ……! ならず者が、頭に乗るなあああ!」

 そして、

 「ハアッ!」

 「だあっ!」

 互いの腕を払い合う。

 「甘い!」

 すかさずティナが下から振り上げて旭の胴を狙うも、

 「させるか!」

 旭は横払いで太刀筋を逸らせた。

 そして、次に攻めに転じたのは旭だ。

 横に振り切った切先を前に向け、

 「喰らえ!」

 ティナの額目掛けて突き出す。

 だが、

 「見切った!」

 ティナは瞬時の判断で屈んで避けると更に、

 「そこだァ!」

 旭の脚を目掛けて横一閃を繰り出すも、

 「んなッ……!?」

 直前、旭は跳び上がって宙で前転し、

 「はあああっ!」

 「ぐああアアア!」

 その勢いでティナを縦一閃に切り裂いた。

 「あァ……ッ! ガ、ハ……ッ!」

 左右に泣き別れた身体が崩れ落ちたティナだったが、

 「グ、ハ、は、ははは、ハハハハハ!」

 転生者は死なない。

 巻き戻し映像のように一つに戻った身体をよろめかせながら高笑いを上げる。

 「久しい感覚だ……! 魔術も特殊能力も無い、しかしながら人間の肉体の限界に挑戦した身のこなし……! 斬られ甲斐があるってものさ?」

 「こうして斬り合うことで、亜人共がお前達を『死に損ない』と罵る理由がよう分かった……幾ら真剣に相手をしたところで、それを全て無に帰せしめてしまう奴なぞ……まともに取り合う気も失せると謂うものよ」

 「お褒めに預かって光栄だよ、小娘。お礼に終わらない戦いを、せいぜい死ぬまで楽しませてやろう……!」

 言うや否や、再び二人は切り結び合い始める。

 両者の実力の差は歴然、旭はティナの刃先を全く寄せ付けない刀捌きで圧倒する。

 対するティナは旭の隙を突こうとあの手この手で刀を振るうが、全て弾かれ、逆に僅かな隙が生じる度に首を刎ねられ、胴を裂かれ、腕脚が斬り飛ばされる。

 それでも……。

 「アハハハハ! 楽しい! 楽しいねえ!」

 「この……っ! いい加減、諦めろおおおおお!」

 転生者は死なない。

 何度でも立ち上がり、何度でも立ちはだかる。

 次第に旭は息が切れ始めて、動きのキレが失われ始める。

 そうして段々と自身が追い詰められ始めているにも拘らず、相変わらずティナが斬り合いに負け続けている……その不可解な事実を前に、漸く旭は気付いた。

 ティナは初めから、斬り合いで自身に打ち勝つ積もりなど無かったのだ。

 「おやァ? どうした小娘……? 攻めの手が止まったねえ?」

 「……成程、確かにこのまま戦っても、わしはお前に勝てぬな」

 「おやおや、諦めるのかい? それじゃ、あの男はアタシのモノだね」

 むしろわざと負け続けて、戦いを長引かせる事で……自身が諦めた時の絶望をより深くさせようとしていた。

 「許さん……あれはわしのものだ、お前のではない……!」

 「無駄だ。アタシは死なない。対するお前はもうヘトヘトになってしまっている……所詮お前はタダの人間、一方のアタシは転生者だ……!」

 膝から崩れ落ち地面に刀を落とした旭に、ティナは刀を構えながらゆっくりと近付く。

 「のこのこ敵の本陣にやってきたものだから、何かアタシを納得させられる作戦でもあるのかと思いきや……所詮は小娘、この程度か」

 そして、刀を一度旭の首筋に添えると、一気に腕を振り上げた。

 「潔い最期をくれてやる。地獄で感謝するんだな、小娘ェ!」

 「今だっ!」「何ッ!?」

 瞬間、旭は目にも留まらぬ速さで自身の刀を拾い上げると、

 「うおアッ!?」

 振り上げた刀の棟の一閃でティナの腕から刀を払い去り、

 「うあああああ!」「がひゅッ……!」

 押し倒しながらその喉元に刃を突き立て、地面にティナを縫い付けた。

 「う、ぐ、げ……ッ!?」

 「なあっ! なが、流れ者よ……! 仮に貴様をこのままにしてやれば、ずっと喉を抉られたままになるのであろう?」

 「グ、ゲ……! し、知らないのかい? にっちもさっちもいかない死に方をすれば、そうなる前の状態に戻るのさ。つまり、今、ここで死ねば……アタシはあんたの後ろから斬り掛かれる事になる」

 「ならば死なない程度に苦しめ続けてやろうぞ。このまま、ずっとな!」

 「バカな……! そんな事、ウチの奴等が、黙ってる、訳……」

 「果たしてどうであろうな? 周りをよく見渡してみろ」

 旭の言葉に促され、ティナは目を左右に動かす。

 「おい! ……何を、ぼさっと、突っ立っている……!? 取り、決め、通り、この小娘を、殺せ! ……おい!」

 ティナの命令を……サカガミ傭兵団の兵達は誰も聞かない。

 否、正しくは命令に明確に背くのではなく、誰も何もしない。

 「哀れなものよな……力で従えた者は、力を示さねば従わぬ。お前の負けだ」

 勝ち誇り、したり顔で語る旭は、

 「ハンッ……そう、かい。じゃあ」

 火薬の炸裂音が響くのと同時に、その場に倒れた。

 「こう、するまでだ、ねえ……?」

 自身の喉元を貫いて地面に深々と刺さった刀を抜き、ティナは悠々と立ち上がる。

 「な……っ!? 何だ、それは……!? 私の、身体に、何を……し、た……!?」

 旭は理解する事が出来なかった。

 ティナが懐から取り出して、自身の横っ腹を撃ち抜いたモノ……拳銃を彼女は見た事が無かったが故に。

 「お前達……後で凌遅刑5時間だ。誰が主人か再教育してやろう。さて、これで文句なしにアタシの勝ちだねえ、小娘? あんたが大人しく跪いて命を乞えば、お使い係と一緒にペットにでもしてやるつもりだったのに。ねえ?」「がはぁっ!」

 追い撃ちでもう一発旭にお見舞いして、ティナは高らかに下卑た笑い声を上げる。

 「死体はお使い係にくれてやっておくよ。あのマヌケ面が泣いて喜ぶ有様が目に浮かぶね。それじゃ、お疲れ様だ……!」

 ティナはトドメに銃口を旭の額に突き付けて、引き金を引いた。


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