表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第五話【神の坐す国】
25/131

第五話【神の坐す国】6

 「し、失礼します……」

 おずおずと案内に従って屋敷を進んでゆく。

 外から見た限りでは所謂武家屋敷だったが、入り組んで地下に向かって続く内部を進んでゆくと、熊の剥製や作りかけのガトリング砲等、ガニザニが言っていた通りこの世界にはそぐわない物品が並ぶ異様な雰囲気をした空間が広がっていた。

 やがて……派手な軍服を着た兵士が両側に立つ大扉の前に着いた。

 「ツァーリ、神坐国の使者が参りました」

 「通せ」

 気怠げな、低い女の声だった。

 扉が開いて、その先に待っていたのは……。


 ティナ・サカガミ

 全団員が転生者のサカガミ傭兵団を率いる団長。

 不老不死の軍団を率いる為か良識や倫理観は無く『残忍』『野蛮』という言葉の擬人化の様な性格。団員達は彼女を『ツァーリ』と呼び従う。


 長い銀髪を着崩した黒と赤ばかりの十二単の上に散らして椅子に座る妙齢の女が、興味無さげに無表情で俯いていた。

 「わざわざ御足労を掛けてすまないね、神坐のカワイイお使い係さん」

 「あ……い、いえ、こちらからお伺いしたので、気にしないで下さい」

 「そういう御託にアタシは興味無いんでね。なんか話があるんだろ? とりあえずそこに座りな」

 腕で示された彼女とはテーブルを挟んで反対側の椅子。

 そこへトキヤは恐るおそる進んで、席についた。

 「お初にお目に掛かります、キタノ……じゃなかった、神坐国女王光旭の側近のトキヤです。あなたはティナさん……いや、ツァーリ(大帝)とお呼びすべきですか?」

 「お前のご主人からそう呼び慕われるなら嬉しいね」

 「……えーと、じゃあティナさんで。神坐の仲間に加わりませんか? 今なら将軍の座もプレゼントしますんで」

 「とんだ詐欺師の押し売りだね」

 「……ダメですか?」

 「いいや。ただ、思ったんだけどさ若いの。……神坐の旭とやらはだいぶ腰抜けなんだね?」

 「ハ?」

 怒りを露わにしたトキヤを見て、やっとティナは治安の悪い笑みを浮かべた。

 「まあまあ、そんな顔しないでよく聞きな? 神坐にはヤマモトやオオニタも出入りしてるって噂なのに、寄越してきたのはお前みてえな地味なクソガキだ……アタシにびびって捨て駒を向かわせたって事だと思ったんだがねえ?」

 「寧ろ逆ですよ。旭は俺以外の誰も信用出来ない、そう言っていました。絶対に失敗出来ない交渉だから俺に頼んだって……」

 言い終わらない内にティナは腹を抱えて大笑いし始めた。

 「何が可笑しい?」

 「いやさ、見た目通りに騙されやすくて純粋な奴なんだねえって思ったんだよ。ここまでくるとお前が可哀想にも思えてきたね。まさか、お前のようなお人好しのバカがそんな立場なら……国として始まる前から終わっていやしないかい?」

 「俺が何と言われても構いませんが、旭を見くびっていると痛い目見ますよ」

 「ホンットに察しの悪い子だねえ……だからこその可愛らしさなんだろうけどさ」

 徐に立ち上がった彼女は……、

 「これは……何のつもりですか?」

 トキヤの頬を撫で、顎を掴んで自身を見上げさせた。

 「お前はあの小娘にとって、都合の良い道具でしかないんだよ。役に立たなければそれでお終い、もっと使える道具が手に入ってもそれでお終いさ……でもアタシは違う」

 屈んで顔を近付けて、目を覗き込んでくる。

 「お前に最初の仕事を与えてやる。アタシが神坐に従うと伝えて光旭を油断させろ。そして、隙をついて殺せ。首を持って帰ってくれば任務完了だ。報酬は……そうだねえ、ここにある物から一つ、何でもくれてやる。そこにあるウォッカでも良いし、あっちに置いてる銀貨の山でも構わない。勿論アタシでも構わないけど、心まで手に入るかどうかは……お前の頑張り次第だね」

 「お断りだ」

 「冷静になりな。たかだか16だか17の、それも刺せばすぐに死ぬ小娘とアタシ、どっちに付けば先行き明るいかは目に見えてる筈だ」

 「その先行きも、あなたが神坐に属してくれれば変わりますね。俺を裏切らせるよりも互いに利益があると思いますよ」

 トキヤの返事を前に、ティナは露骨に機嫌を悪くしながら彼から距離を置いて椅子に座り直した。

 「そうかい。そこまであの小娘にお熱かい……ハァー、つまらないね」

 「面白いか否かではなく、お互い利益の為に手を組みませんか? あなた方もウチの工事を金で引き受けるくらい財政に困ってるなら、国という後ろ盾があった方が良いでしょう」

 「あーあー、つまらねえったらありゃしねえ。そういう話ならガニザニでも呼んできな」

 「生憎、使者は俺です。そしてどれだけ揺さぶっても、試しても俺はひっくり返りませんよ。ここで神坐に恭順を示してもらうまで帰る気無いんで」

 …….暫しの沈黙の時が過ぎた。

 トキヤはこの交渉の勝ちを確信していた。

 短気な相手は御し易い。

 それなりに悪くない話を無理矢理押し付ければ、ヤケクソになって認めてくる。

 今はまさにそんな状況を演出出来ている。

 これでティナが折れない理由が無い。

 彼はそう、早合点していた。

 当のティナはというと目の前に差し出されたオモチャでどう遊ぶか以外何も考えていないというのに、それには全く気付けていなかったのだ。

 故にトキヤは不意にティナが笑ったその意味を、

 「あなたが聞き分けの良い人で良かったです」

 同意と勘違いして受け取ってしまい、

 「それじゃ、一緒に来て頂けますか? 旭も首を長くして……」

 不意に、後ろから歩いてきた団員に、

 「……全く、タンジンも、あんたも。死なない奴に死ぬ奴と同じ脅しが通じると思ってるのかよ」

 銃口を突き付けられるまで警戒を怠ってしまった。

 「けど、お前も痛い思いはしたくないだろ?」

 「別に……」

 トキヤが言葉を紡ぎ始めた直後、その頭は破裂するスイカの様相を呈した。

 「あーあー、派手に汚してくれるじゃないか……続けろ」

 ティナの指図のままに、トキヤの頭は何度も何度も散弾で木っ端微塵に吹き飛ばされ始める。

 「痛いのが嫌になったら教えてくれよ? アタシだって人を無意味に虐げるような趣味は無いからねえ」

 そう言葉では言いながらも、トキヤに返事をさせる間も与えず只管頭を撃たせ続ける。

 自分自身も流れ弾を浴びているが、全くそれを気にする様子も痛がる様子も無い。

 特等席で自分の機嫌を損ねた男の無様な姿を拝めるのならば、自分の怪我は些事でしか無い……それを示すかのように。

 「はい、やめ。……このまま暴力と恐怖でお前を従わせても構わないけど、折角だから運試しをしないか?」

 漸く怯えた目を向ける様になったトキヤを前に、今度はティナが得意げに嗤った。

 「どんな目に遭わされても俺の答えは変わりませんよ」

 「別にお前に何かしようって訳じゃない。むしろお前を分からせてやりたいのさ。あの小娘が如何に吹けば飛ぶ枯れ葉に等しい命しか持ち合わせてないかを。そして……そんなもん大事にしたって何の意味もないって事をね?」

 「何を……するつもりだ!?」

 ティナが良からぬ事を……それも、自分と旭を試すような事を思いついたと気付いたトキヤは、動揺と焦燥に満ちた声で問う。

 「お前が裏切ったって偽の情報を流す。そして月夜見にもテキトーな嘘の情報を流して、神坐を攻めさせる」

 「ハ……? そんな事して、一体何の意味が……」

 「神坐側からすれば、お前が裏切って月夜見に情報を流したような状況に見えるだろ? 仮にお前が小娘から本当に厚い信任を得ているなら得ている程、裏切られたショックで冷静な判断が出来なくなる。それが狙いさ」

 「運試しってより単なる嫌がらせですね、そりゃ」

 「いいや、これは運試しさ。それだけ大事にしている相手に裏切られたその時、小娘はどうやって困難を乗り越えるのか? 乗り越えたとして、お前をどう扱うのか? ……考えただけでも面白くはないかい?」

 「お願いだから旭を苦しめるような事はやめてくれ……!」

 「こんな程度の事を乗り越えられないような奴にアタシ等は従うつもりなんて無いよ。逆にいえば、小娘が月夜見の軍を退ければ、お前の勝ちさ。悪くない話だろ?」

 ティナは涼しい顔で言い放つと、改めてトキヤの頬を撫でた。

 「もしもダメだった時は……アタシの飼い犬にしてやるよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ