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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第三話【黄昏】
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第三話【黄昏】3

 「私は、お前に犯されて死にたい。それならばまだ、許せる気がする……」

 「やめましょう旭さん、まだ全部終わった訳じゃない」

 「もうよい……もうよいのだ……ここが私の限界であったのだろう」

 暫し、極限状態の気まずさと沈黙があった。

 「……あまり人様に見せられる身体はしてませんけど、分かりました」

 「え゛っ、アンタまで……正気!?」

 「同じ時を生きられない俺に出来る、せめてもの償いです」

 「嬉しいぞトキヤ……! 短い生涯であったが、私の事は、どうか、どうか……忘れないでくれ……!」

 「あーあ、どうしよっかなコレ」

 うんざりした顔で忍び刀の柄を振り上げたジョンヒだったが、

 「ここかトキヤ!?」

 二人を気絶させて無理矢理止める必要は、たった今なくなった。

 「わあああああ!」

 「よ、よお、アニキ」

 「あー……悪ぃ、邪魔したな!」

 「待ってくれアニキ! 違う! 止めてくれ! 旭さんを止めて!」





 雨は止まない。

 しかし洞窟の中は、絶望の死臭が漂っていた先程までよりは幾分かマシな雰囲気になっていた。

 「さて、想定外の事態になったな? ここからどう立て直すよ、トキタロウ」

 「まずはシャウカット達と合流してえな。それから、もう屋敷には帰れねえとして……どっか人気の少ないところに新しく拠点を構えたい」

 「オレも同意見だ。あとは……アテが無え事もねえんだが味方になってくれるかも分からねえ奴等がいる、そいつ等を引き入れたい」

 「サカガミの連中か?」

 「ご名答だ。……まあ、ここらでそういう面倒な連中はアイツ等ぐらいか」

 ……立て直す手筈を話し合う二人。

 旭にとってはそれこそがいつもの無責任なトキタロウの励ましよりも、まだ生きる希望がある事の明確な証拠だった。

 「姫様、ちょっといいか?」

 「わしに答えられる事なら何でも言おう」

 「アンタ、都に親戚とかはいねえのか? 或いは御初代の更に上の代の血縁者とか」

 申し訳なさそうに旭は首を横に張った。

 「……さて、先ずはここからどう抜け出すか、だな」

 天を仰ぎながらヒョンウは独りごちたが、

 「……姫様、ちょっと奥に隠れてろ」

 何者かの気配を感じ、トキタロウを視線で促して二人で洞窟の入り口へと歩みを進めた。

 二人の目の前には、緋色の鎧を纏った中年の男……ガニザニ・イシハラが立っていた。

 「なんだガニザニじゃねえか。どうしたんだ? オレ達もここで雨宿りしてんだけど、まだトキヤと旭に会えてねえんだ……」

 トキタロウが話し終わる前にガニザニは洞窟へ押し入ろうとする。

 「おい、ここにはオレ達しかいねえっつってんだろ」

 「残念だがもうこの辺は調べ尽くしているんだ。そんな見え透いた嘘には僕どころか、もっと遠くを広範囲に探し回っているタンジンも騙されないよ」

 簡潔に打つ手が無い事を伝えられた二人は、それ以上足止めをする意味を見失った。

 「どうしてもっと早い内に遠くまで逃げなかったんだ。僕ならこの土砂降りを利用して上手く川向こうまで逃げるぐらいの事はする。まあ、今更言っても遅過ぎるけれど」

 二人にアドバイスを残しながら、洞窟の奥で自身を睨みつける旭を一瞥する。

 「ガニザニさん……ここは通せないです」

 「団長……違う、元団長。連れて行くなら、私達を斃してからです」

 立ち塞がる二人を前にガニザニは、

 「二人共、本気で僕を止めるつもりならその及び腰は何なんだい?」

 冷静に言ってのけると更に、

 「それと、無意味な不意打ちはやめなさい。君も止めきれないと分かっているなら時間の無駄だ」

 後ろから斬り掛かったジョンヒを目にも止まらぬ速さで抜いた刀で往なす。

 「……わしを、殺すのか?」

 「最悪はそうなりますが、最善を尽くします」

 「最善とは何だ?」

 「タンジンにカゲツと交渉させましょう。そして上手くイタミ傭兵団で身柄を預かれるように話を進めるつもりです。まあ、嫁ぎ先の目代様をあなたが亡き者にしてしまったので、丸く収められる可能性は絶望的ですが……」

 「わしを目代に突き出した奴を信じろというのか……!?」

 「では、ここで刀の錆となりますか?」

 「お願いですガニザニさん、俺が代わりに人質でも何でもなりますから旭さんだけは……! 頼みます!」

 「トキヤ君……」

 土下座をするトキヤを「ぐあっ!」「トキヤ! 貴様何を!?」ガニザニは横から蹴りつけて転がし、無理矢理自身へ目を向けさせた。

 「トキヤ君、この際だから言っておこう。君はあまりにも中途半端過ぎる。挙兵を嫌がっていたと聞いていたが何故考えを変えた? 考えを変えたにしても、どうしてこの子の感情に任せて人質に使えたハズの目代を殺させた? そして今も、雨に降られたくらいでダメになる作戦をどうして止めなかった? 察するに、君は自分の意思で動いていない。ただ周囲の人達に流されるがままここにいるだけだ。それなのに、どの面を提げてお姫様のナイトを気取っているんだい?」

 「……!」

 トキヤは、何も言い返せなかった。

 「何か強い覚悟を抱いたつもりだったのかもしれない。或いは既にこの子の為に誰かを殺めたのかもしれない。だが君の思いなんてものは所詮こうしていつでも責任を押し付け逃げられる程度のものでしかなかった。君が最も敬愛し、この子が最初に見限った男と同じ穴の狢だ」

 起き上がって何かを言う余地も無い完璧な反論に打ちのめされたトキヤを見て、旭は最早何も言い返せず俯いたままガニザニに手を引かれてゆく。

 「ニャライ、彼に飽きたらいつでも帰って来て構わないからね」

 そう言い残してガニザニは洞窟から旭を連れ出して行った。

 「……先に向こう行って頭下げといてやるよ」

 「待ってよ団長!」

 「お前がどうするかは任せる。オレはお前達の立場を守りに行かなきゃならねえ」

 ガニザニ達から少し遅れて、ヒョンウも洞窟から抜けて行った。

 後に残された四人に出来る事は……果たしてあるのだろうか。





 人を殴打する鈍い音。

 女の悲鳴。

 老翁の怒声。

 篝火の焚かれた中で、惨たらしい拷問が続く。

 「吐け! 光旭! 貴様が誑かした者の名を、全てわしの元に晒せ!」

 「い……や、だあぁ! 嫌だああアアア!」

 目の前に縛り上げた女の意外な程の強情さに、鎧姿の長身の老人……カゲツは苛立っていた。


 カゲツ

 亜人達の傭兵団であるカゲツ傭兵団の頭領。200年の永き時を生きて遂に人間の都を手中に収めた。

 人間をひどく嫌い亜人によるヒノモト支配を進めているが、当の亜人達も恐怖から従っているに過ぎない。


 「白鳥が久しく暴れたかと思えば、今度は光家の子孫を名乗る小娘か! どいつもこいつも、わしの手を煩わせおって!」

 旭の血染めとなった真赤な拳を振り上げるカゲツ。

 その高さから振り下ろされれば、今度は旭の身体が無惨に砕かれるだろう一撃を、


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