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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十七話【因果】
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第十七話【因果】2

 京安の都は東の市場。

 ここは主に食材や紙、布などの消耗品が売られている。

 普段は亜人の武装組織『カゲツ傭兵団』の手の者が幅を利かせている為に、人々は俯いて唯々商いに徹しているのだが……。



 「おい来たで! わし等を人でなし共から御救い下さる、光る姫が東から上って来はったで!」

 「おお光る姫君! 噂通りの桃色の髪! 何とも神々しき御美しさや!」

 「武士の国の猛く麗しき姫君! どうか、うち等を御救いくだされ!」

 既に人間の国、神坐の軍の都入りは下々の民にまで知るところとなっていた。

 「大人気だな、旭。あー、皆さん、あんまり押し寄せて来ないで。サインも握手も1人1回でハグは無しでお願いしまーす!」

 やや無軌道な熱狂の様相を呈し始めた事に、トキヤが危なっかしさを感じて旭の前に出ようとしたが、

 「何をけち臭い事を言うておる。よいよい、都の者共よ! 其方等の頭を抑えつける憎き亜人どもは、このわしが滅ぼしてくれようぞ!」

 「「「うおおおおお!」」」

 旭はすっかり有頂天の様子だった。

 「旭様、あまり調子の良過ぎる事を言っては……」

 煽てられるがままに浮かれに浮かれた旭を流石に窘めようとした真仲だったが、

 「はっはっは! わしはお前の様な田舎娘とは違う! 気後れなんぞ後からすればよい、お前達の話を全て聞いてやろうぞ! 一人ずつわしの前に来るがよい!」

 「「「うおおおおお!」」」

 「……執権殿よ、どうする」

 「どうしよう真仲……」

 完全に無視されてしまった。

 「では……そこの魚屋! 何か申してみよ!」

 「へえ! わしが取引を持っとる伊四島(いよじま)の漁師どもが言うには、昔は幾ら獲ってもお咎めなしだったのが、ここんところは少しでも多く獲ると鞭打ちを喰らわされるんだとか!」

 「何とも血も涙もない話よ……! わしがカゲツを叩き出した暁には、魚を幾ら獲ろうと咎めぬ事としようぞ!」

 「「「うおおおおお!」」」

 大盛り上がりな旭と市政の人々。その一方で、

 「執権殿よ……私は思うのだが……」

 「お前の推理通りだよ。この話はカゲツ傭兵団が乱獲を取り締まってただけだ」

 「詳しいな。触れ書きでも来ていたのか?」

 「何年か前にアニキが密漁で捕まってシバかれたんだよ」

 「な、成程……」

 真仲とトキヤは冷ややかに言葉を交わす。

 「次! そこの紙屋! 其方の話を聞かせてくれ!」

 「忝え! うちの店はこう見えてもなかなか儲かっとるもんでして、息子を西の果ては七国(しちこく)の紙屋の娘に婿入りさせよう思うたんですわ! そしたら……!」

 「どうしたというのだ?」

 「なんや急に縁談を無しにせいと言われてもうたんですわ! うちの莫迦息子は兎も角としても、その気になってくれはっとった向こうの娘はんが可哀想で……!」

 「好き合う男と女を引き裂こうとは、何たる悪逆非道よ……! おい紙屋! わしが必ずや七国も平定し、其方の子等を添い遂げさせてやろうぞ!」

 「「「うおおおおお!」」」

 大盛り上がりな旭と市政の人々。その一方で、

 「執権殿、これはもしや……」

 「言うまでもなく独占禁止法違反ってとこだな。同業他社との縁談が色恋の話だけで終わる方が可笑しいだろ」

 真仲とトキヤは冷ややかに言葉を交わす。

 「よし次! お前は……わらべか。何か売っておるのか? というか親はどうした?」

 指で示されたのは赤い水干を着た少年。

 その姿を見るや否や市場の客は突如ざわつき始め、

 「おい、花童(かむろ)や……」「わしら騒ぎ過ぎとった様やな……」「ほな、うちはここらで……」

 足早に旭の許から逃げ始める。

 「……? 臆する事はない、言うてみよ」

 気さくな笑顔を見せる旭だったが、

 「(せき)……否、カゲツの爺様が言うておった。お前は」

 「えっ」

 旭が違和感を感じるよりも速く、

 「此の世に」

 「「旭」様!」

 真仲とトキヤが止めに入るよりも速く、

 「要らぬ」

 少年は言うや穴や、懐から取り出した小刀を旭の腹に突き立て、

 「待った!」「何っ!?」

 られなかった。

 彼の腕を掴んだのは、灰色の小具足を身に纏い銀髪を後ろで一つに結った褐色肌の少女。

 彼女が姿を見せた事で、同じ様な小具足姿の配下があちらこちらから現れ始めた。

 「義巴……!? 怪我はもう治ったのか!」

 真仲が義巴と呼んだ少女は、

 「ええ、御覧の通りばっちりです、義姉上! ……あ、いや、真仲、様」

 気まずそうに言い直しつつも、

 「……えーっと、お前等! トキヤと旭様と……真仲様、が、出られるよう道を作れ!」

 「「「へえ!」」」

 この場から己の主達が離れる為の手筈を始めた。

 「あ……っ、う……い、行こう、旭様、トキヤ」

 「すまぬが後は頼んだ!」

 二人がそそくさと去りゆく中、

 「義巴……旭! 真仲! すぐ追いつくから先に行っててくれ!」

 然しトキヤはその場に留まると、

 「ぴゃっ!?」

 「義巴、今晩俺の所に来い。いい加減に真仲と3人で話して、これからの事ハッキリさせんぞ」

 彼女の両肩をその手で掴み、目を覗き込む。

 「い……っ、今はそんなこと、言ってる場合じゃ……」

 肩を掴まれた義巴は、奇妙な程に突然赤面して苦しげに口で息をし始め……。

 (あ、あれっ? どうして私、こんなにトキヤの事が……)

 彼女自身もそんな身体の反応に自覚が無かった様子で困惑し、目を逸らそうとしたが、

 「ハァ……今は俺の事だけを考えろ。俺の目を見ろ」

 「で、もぉっ、敵が目の前に……」

 「見ろ」

 「……う、あ……っ♥ あぁ……♥」

 逃れられない。

 身体をがくがく震わせながら、足の力が抜けて前に倒れるのを防ぐために彼の着る直垂の両脇腹をきゅっと握り締め、上目遣いでその顔に目を向ける……。

 それしか出来なくなってしまった。

 一方のトキヤは、

 (あ、あれっ? 何で義巴、こんな俺の事怖がってるんだ……? いや、でも流石に真仲の手前、これ以上なあなあには出来ねえ……!)

 非モテの過去に引きずられてか、盛大な勘違いをしていた。

 「もう一度言う。

 これは執権としての立場からの命令だ。

 逃げるな。

 今晩、絶対に、俺の所に来い。

 そこでお前を真仲の『義妹いもうと』にする」

 「い、妹……それって……♥」

 「俺の真仲をこれ以上、お前の煮え切らない態度で苦しめるのはやめろ。

 お前が覚悟決まらねえんだったら、俺が無理矢理にでも『姉妹』仲良く出来るようにするから。

 拒否権無えのは分かってるよな? もし逃げたら……、

 お前と真仲にする予定だったコト全部、真仲1人にさせてやる。

 今度こそぶっ壊れて廃人になるかもしれねえけど、そうなったらお前のせいだからな?」

 「な……っ、や、やめっ、それだけは……!」

 「返事はハッキリ言え。どうなんだ? 俺の『義妹オンナ』になるよな?」

 「あ……ああ……っ♥ 分かっ、た……♥ 行く、行くっ♥ 義姉上ばっかりずる……♥ 否、真仲様を、守る為に、行く……でも、あんたの妹になるって話は……亡き兄上の手前、待って、欲しい……」

 しおらしい義巴の言葉と全く一致していない、彼女の身体が勝手に悦んで媚びている様な笑顔を向けられたトキヤだったが、

 (幾ら前まで敵だったヤツとはいえ、こんな顔引き攣った笑顔をさせてまで言う事聞かせるなんて、まるでやってる事が旭と一緒だ……ホントにもうアニキに顔向け出来ないな、俺)

 彼の周りには『言動の一致した、ハッキリとした好意や拒絶を示す女性』しか今までいなかったせいで、義巴の様なタイプの女性心理がまるで理解出来ていなかった。

 「それじゃあまた夜にな」

 罪悪感で一杯になりながら間者衆の作った道へと走り去ったトキヤの背中へ、義巴は複雑な胸中のまま熱に浮かされた視線を送りながら、汗で一杯の己の両手を胸の前で握る。

 「おい間者、白昼堂々惚気やがって。気持ち悪ぃんだよ」

 そんな彼女の心へ水を差した少年に、

 「ちっ……煩い餓鬼だな。さっさと死ねよ、面倒臭い……」

 義巴は今までの底抜けに明るくたまに奥手な己の為人には存在しなかった強い疎ましさと厭気を覚え、人が変わった様に心の儘に花童達を罵る。

 「はぁ……早く夜が来ないかな……ああそうだ、こいつ等の目玉を潰して、耳と鼻を削いで、腕脚の指を一本ずつ引き千切ってれば、少しは暇潰しになるか……おい、さっさと殺されに来いよ。それで少しは私の気を紛らわせてくれ」

 「義巴様おやめ下さい、言葉が過ぎます」

 「流石は東夷あずまえびすの、それも中ヒノモトの間者なだけはある。此処は商いの場だと謂うに、左様な血生臭い蛮人の所業を平然とやってのけよう等と言いだすとはな?」

 神坐の間者衆に対抗する様に、続々と何処からともなく現れ始めた赤い水干の少年少女達と対峙して、

 「はぁー……面倒くさ。おい! 死にたくない奴等は今すぐここから逃げな!」

 「ひえぇ! この前真仲様の御味方に荒らされたばっかりや謂うにいぃ!」

 「ええ加減にせんと、うちの女王に言うて沙汰下してもらうで!」

 義巴は逃げゆく市場の商人達の吹かせる風に髪を靡かせる。

 そんな彼女の後ろには、

 「けっけっけ、人前で惚気は止めて欲しいが、まあ、格好ええ仕事したんじゃねえかい? 義巴や」

 「あ……よ、良子様」

 何の変哲もない小袖姿の中年女性がいつの間にか立っていた。

 更には義巴の後ろにいた間者衆の一人が、

 「あ……イタミの方々?」

 「良子様が手伝う様に言われまして。加勢仕ります」

 そんな会話を交わした時には、既に灰色の小具足の集団と黒い小具足の集団が入り交じった異様な徒党が花童の前に揃っていた。

 「しゃきっとせい! 仕事はきちんとしねえとだ」

 「は、はいっ!」

 「薄汚え東夷(あずまえびす)の間者どもが! 我等の都で我が物顔しやがって……! 出て行け! 此処は石菖(せきしょう)様の……! 違った、カゲツの爺様の所領であり! 我等花童の庭だ!」

 赤い水干の少年は、その美しく可憐な表情を醜く歪ませて怒鳴りつける。

 「石菖……? 誰?」

 「検非違使別当を務めておられる姐様さね。カゲツの手の者の口が滑ってその名が出るってぇ事は、あの噂は真って事かや?」

 だが冷静に義巴達は、彼が口を滑らせた事を論う。

 「ぐ……! 貴様等が知る必要は無い! おいお前等、こいつ等は間者、おれ達と同じで殺しても沙汰は下らねえ、思いっきりやれ!」

  神坐の間者連合と花童達は、お互いに直刀を抜くと逆手に持って、

 「ああ、殺せる気でいるんだ? やれるもんならやってみな!」

 斬り合いを始めた。

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