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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十七話【因果】
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第十七話【因果】1

 西の都での一夜が明けて、朝。

 「おい、暇しておるだろうからわしが来てやっ……て……」

 旭の言葉に反して、招集を掛けた七将軍の内、広い板間に集まった者は半分もいなかった。

 「……ヴェーダよ」

 「何なりと、旭姫」

 「言ったな? では、ここに来いと言うたのに来なかった者共は、何処へ?」

 明らかに機嫌の悪い旭の問いに、ヴェーダはいつもの嘘くさい微笑みを絶やさず、

 「フ、フフフ……さて? ワタシは被害者です。何も聞かされていないので。フフ、フフ、フ……」

 然し冷や汗が噴き出している。

 そんな様子を見兼ねてアリーシャが、

 「えーっと、確か……。

 トキタロウは『すまねえ! ちょっと野暮用があるから! 許してくれって言っといてくれ!』って言って出て行った。

 で、ヒョンウは『チッ、あのバカ……悪ィ、姫様には野暮用の見張りに行ったって伝えといてくれ。じゃあな』だか何だか言ってトキタロウ追いかけてった。

 タンジンは『おやおや……では旭には悪いのですが、ワタクシは大番役の折に世話になった皆様への挨拶回りをしておきたいので』だって。

 ガニザニは『それなら僕は文通仲間の学者を山菜採りにでも誘おうかな。昨晩の宴では彼女と楽しい時間を過ごせたんだ。君も勇気を出して、都の様々な人達に声を掛けてみるといい』とかナントカ。

 セージは『山狩りとは軟弱な! アリーシャよ、俺はこの都にいる強い奴という強い奴全てを倒す為、戦いに行く。止めてくれるなよ!』って早朝に言って出て行ったっきり」

 彼等の特徴を若干誇張した声真似を交えつつ状況解説をし始めたが……。

 「で、えーっと……あ、そうそう。

 鈴蘭は『おお、サカガミの娘よ! こんな朝早くに起きているとは感心感心! ……私はこれより遊郭へ男娼を漁りに行くのだが、姫には内緒にしておいてくれ』つって出て行って、

 正義は『アリーシャ様、条火が旧知の仲間に顔見せしに行きたいと言いだしまして……姉上にはすみませぬが、左様にお伝えを』だか何だか言ってた。

 あと円が『アリーシャ様、私はこれより世話になっていた奈城の大僧正様に会いに行かねばなりませぬ。暫く留守にいたします故、姉上達が粗相をせぬよう見張っておいて下さいませ』って伝言残してて、

 ああそうだ、ヒョンウのとこの小娘も「もうよい! 貴様等が主に対して全くの恩知らずである事はよう分かったわ!」わっ、分かったわかった、ごめんって……チッ、一々近くで怒鳴るのやめろよ「聴こえておるぞ!」分かったから! はいはいすみませんでしたー!」

 いい加減己の人望の無さにうんざりした旭はアリーシャを怒鳴り散らして黙らせた。

 「どいつもこいつも、人当たりがよく、わしと違って無駄に人付き合いが多い事よ。何故その愛想の良さを少しでもわしの為に使おうと謂う気にならんのだか」

 いじけ始めて、隣にいたトキヤに詰め寄ると、

 「わしは都に伝手などある筈も無し……トキヤ、もう一度床に戻って、今日は一日真仲と共に抱き合うか」

 自棄くそ気味に彼の頬を撫で回し始めたが、

 「流石にそれは無いだろ。昨日の夜も結局アホみたいにヤり散らかしたし」

 違う選択肢を優先出来るのであれば、一晩中抱き合った次の日まで抱き合う事は避けたそうな素振りを見せた。

 「ではお前なら如何する?」

 「折角だから大内裏の外を見に行きたいな。俺、こっちの都に来るのはホントに久し振りだから、今は何が有ってどんな感じか知りたいんだ」

 トキヤの提案を前に、旭は暫し考えた後……真仲の方へと顔を向けた。

 「実を言うと、私もそうしたいと思っている……旭様は、やっぱり御嫌か?」

 「お前は一度ここに来た事があったと聞いているが?」

 「その時は無理矢理押し入ったのでまともに見て回る事も出来なかったのだ。だから旭様、どうか、どうか」

 「お前が左様におどけて可憐に振舞うはやめろ、わしの立場が無くなる」

 「いや、旭の方がカワイイよ」

 「お前は気軽に左様な事を言うでない、真にこの後一日お前に跨ってやろうか? ああ?」

 「いやはや、これは何とも悔しい。やはり旭様には及ばぬなー、あっはっは」

 和気藹々と話し合う3人を前に、

 「あのさー、もうボク帰っていい? 色恋バカにバカ真面目に呼ばれて来たガチバカになりたくないんだけど」

 いい加減嫌になってきたアリーシャが愚痴を吐き捨てた。





 大内裏の門を潜り、旭はトキヤと真仲、それから数人の警護を連れて大通りへ歩み出たが……。

 昨日の戦での被害で塀が粉砕された事もあって、その景色は違和感を覚える程に広々としたものだった。

 「うーん……これじゃ観光って気分にならないよな、旭……ごめん」

 「構わぬ。この景色は我等が守れなかった戒めとして覚えておきたい」

 「とはいえ、こんな辛気臭いものをずっと眺めていると気が滅入る。何処か賑やかな所は無いものか……」

 思い思いの言葉を零す3人の前を、

 「もし、東夷あずまえびすども。お困りの様でおじゃるな?」

 黒い束帯を着た、ぼんやりした顔の中年男が通り掛かった。

 「おお、丁度よい所に。貴族様よ、都の物見といえば何処がお勧めだ?」

 「ふむ……まあ、田舎者には市場が無難かのう」

 「わしの先祖は都の武士であったのだが?」

 「然し其方も其方の連れも、西の文化に聡くはなかろ?」

 「ぐぬぬ……」

 「麿もこう見えて生まれは西の果て、七国(しちこく)であった故な。初めは見栄を張るものではない」

 流石は都の貴族といったところか、余裕綽々に旭を手玉に取って軽快に話を進める彼に、

 「然れば貴族様よ、その市場は何処に?」

 今度は真仲が、旭の喧嘩腰も同然の其れとは違ってまともな態度で問う。

 「うん? ……ふむ。ここから東に野菜や果物に紙、絹、麻の売っておる方が。其方へ行くがよい」

 だが貴族の男は旭への受け答えから打って変わって、妙に素っ気なく答えるに留めた。

 「じゃあ、西は?」

 最後にトキヤが割って入って投げ掛けた質問には、

 「気になるなら行けばよかろう。ではなー」

 とあまりにもぞんざいな言葉を返すだけですたすた牛車の方へと歩き去ってしまった。

 「……男と女で態度変えるなよ、嫌なおっさんだな」

 「いや、あれは我等と旭様で態度を変えていたんだ……私に答えている時、目が刀の方にばかり向いていた」

 「だが、そのわしすらも明らかに格下と見ておったぞ。それも貴き血筋だと言うておるにも拘らずよ」

 「なんか……紅葉が言ってた事、分かってきた気がする。都の貴族って、みんなあんな感じなのかな」

 三人は口々に都の貴族に対する愚痴を漏らしながらも、然し彼に教わった場所……東の市場を目指し始めた。


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