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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十六話【いざ鬼討ち!】
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第十六話【いざ鬼討ち!】12

 どんちゃん騒ぎで喧しさの溢れる宴の席の中程。

 「久し振りだなあ、こんなに人が沢山いる場所は……でもぼく、来て良かったと思ってるんだ。都一の呪い師と誉れ高かった光円ひかるまどか、君と面と向かって話が出来たからね?」

 「カゲツ傭兵団の呪い師……貴方様が作られたのですよね、不死の筈の流れ者を、殺してしまえるあの呪具を……」

 異様な恰好の青年と尼僧の少女が向かい合っているも、その雰囲気は周囲の喧騒からは想像もつかない程に張り詰め、凍てついていた。

 「石蒜はな散らしの事? あれはかなり単純な原理だよ。流れ者に魔術が効かない理由を知っていれば、そこらの坊主や陰陽師でも複製出来るからね……。

 あ、それが分からないから君も慄いてるのか。あはははっ」

 異様な恰好の青年……即ちは、黒と紫と白ばかりの十二単を着て、顔の下半分を黒布で隠した、紫色の瞳に腰まで伸ばした長い黒髪、そして角の生えた青年。

 「改めまして、ぼくの名前は芍薬しゃくやく。カゲツ六鬼将の末席を汚す者……中ヒノモトでは試作品の『石蒜散らし』と開発中だった『屍操指輪』の実験に協力してくれて、どうもありがとう」

 彼は軽快……というより軽薄な調子で挨拶をする。

 その向かいに座った円は、蛇に睨まれた蛙が如く、無表情で冷や汗が噴き出し続けていた。

 そんな彼女の心の内を読む様に、

 「ふふふ……! 驚いただろ? ぼくの身体は確かにここにあるのに、魂を感ぜられない。さて、どうしてだ……?

 そう!

 今ここにいるぼくは本物のぼくじゃない。これは同族の男の骸を幾つか使って練り上げた、謂わばにく傀儡くぐつという訳さ……!

 あ、でも誓って言うけど本物より美化している要素はびた一文無いからね? 本物のぼくも……多分、こんな感じだったと思う……あははっ、何て顔してるの?」

 芍薬は得意げに朗々と喋り続ける。

 「倫理も道徳も無い呪いの使い方をされるのですね……まさしく、鬼の所業が故の外法、と謂う訳ですか」

 円は嫌悪を隠しもせずに芍薬に苦言を呈するが、

 「酷い言い草だけど、君とぼくの違いは生きた女を使うか死んだ男を使うかぐらいしか無いよ」

 「私は他人の血肉を己の道具とした事などありませぬ」

 「神坐に抗った女と謂う女の心を壊して姉婿の孕み袋に化せしめる事は『他人の血肉を己の道具とする事』ではないと?」

 「え、あ……し、然し……!」

 芍薬は弁舌でも円に勝っている事をあっさりと示す。

 「だが、ぼく達はそんなものだろ? 有り体に言えば『生きとし生ける者の軛から逃れて外からずるをする』事、それが魔術、呪いの本質だから」

 芍薬は何の気も無さそうにそんな言葉を発して、

 「軛……狡……? 貴方様は、一体何を言って……」

 円は暫く困惑した表情を浮かべていたかと思うと、

 「……あ、気付いたな? ここまで少ない手掛かりで辿り着けるなんてね。神童を相手に少し喋り過ぎちゃったみたいだ」

 急に悲鳴を上げそうになった己の口を両手で塞ぎ、明らかに怯えた様子で芍薬を見始めた。

 「そう。

 ぼくの目指すところは其処なのさ。

 皆でこんな悲しみだけしか生まない因果からはおさらばして、流れ者と同じ様に死を恐れる必要が無くなる世を築き上げる……素晴らしいだろう?」

 「貴方様は、可笑しい……! いかれておられる! この世の理を崩壊させようと謂うのか!? 左様な事を為出かせば、世が乱れるどころの話ではない!」

 我を忘れて大声で咎める円の言葉に、然し、

 「はいはい落ち着いて。でも、ぼくにとって死と謂うものは単なる邪魔でしかないんだ。悪いけどこればかりは譲れないね」

 芍薬は涼しい顔で答えるばかりだ。

 「人は死なねばならぬのです……! 死なねば世は人で溢れ返り、カゲツの様な先に富める強者となった者が、後に生まれ来る者達を未来永劫従える世となってしまう……!」

 「それでも……ぼくは、君達を生き物では無くしたいんだ……ふふっ」

 ……そんな必死の倫理問答を繰り広げる二人から、もう少しほど上座に座っているのは。





 「白菊、芍薬が余計な事をベラベラ喋っているぞ、止めなくて良いのか?」

 「こちらから聞いている限りは大事無い」

 白菊と言葉を交わし、特大の溜め息をついたのは、黒い束帯を着た金の髪に碧い瞳の青年。

 頭頂部の左右から白い角が覗くものの、背が高く、肉付きも程良く、見目麗しい事この上無い外見をしている……。

 「それにしても、パーティーと謂うモノは元の世界でも好かなかった。こんな事で人と人が分かり合えるのなら、世界中で毎秒パーティーを開けばいい」

 が、性格については大いに難がある様だ。

 「れん殿、と謂いましたよね? わたくしも同感に御座います。話と謂うものは所詮取り繕いの上手さを競うだけの事……それよりも刀を交えて力を確かめ合う方が、相手の為人を見抜くにはもってこいと謂うものでしょう」

 向かいに座る水色の水干に桃色の髪の青年が答えを求めていない愚痴に対してバカ真面目に答えてきた事で、蓮は余計にウンザリした溜め息を吐いた。

 「お前の名前、光正義だったか? 神坐の女王の弟だとかの。空気読めないってよく怒られてるだろ」

 「お見事。姉上も義兄上も、それから北ヒノモトにいた頃も……わたくしは何故だか、皆から煙たがられ、避けられ、疎ましがられていました」

 「だったら治せよ」

 「わたくしなりに努めてはいるのですがね……」

 「フン。そんな調子だと、いずれお前は実の姉に邪魔者扱いで殺されるだろうな」

 「……あはは。手厳しいですね」

 「笑っている場合か? お前が死んで悲しむヤツはいないのか? いや、いないのか。そんな性格だから……」

 話していた蓮は、不意に身体をよじった。

 その直後。

 「うわっ!? なっ、何をする条火すじか! いきなり斧を等と!」

 彼の避けた所へ、正義の言う通り大きな斧が振り下ろされ、板間へ縦に長い穴が開いた。

 「うちの夫の事、そない襤褸くそに言わへんで貰えますか?」

 斧を投げたのは長い黒髪をした白拍子の少女。

 丁寧な所作で正義の横に座ったが、歳にそぐわない程に整った動作を前に、蓮は不気味さしか感じなかった。

 「ハハッ、これは破れ鍋に破れ蓋だな。気味の悪いヤツ同士でお似合いだ」

 「蓋の無い破れ鍋の方が、水もよう抜けて、煮詰まって、濃くてええ御味にならはるんやろうね」

 「回りくどい。そして、他人に哀れまれる程孤独な人間になった覚えは無い」

 「自由は楽しいどすか?」

 「ああ。お前の様な喧嘩っ早い足手纏いもいないからな?」

 「あなた様、うち、あっちで二人になりたいわ」

 「条火の気持ちも分からないではないが、おれはこの御人が面白いと思った」

 「いけず」

 不貞腐れた条火を胡坐の中へ仕舞い込む様に座らせて、正義は改めて手持ち無沙汰な両腕で条火の身体を抱き、その頭を撫でながら蓮へと顔を向けた。

 「ときに蓮殿、其方は我等の中では誰に興味が?」

 「無いな。どいつもこいつも弱そうだ」

 「そしたら……この人が戦で勝てば、面白いと思わはります?」

 「大した自信だが、ソイツは転生者と違って死に戻らないぞ」

 「こう見えてわたくし、身のこなしは人並み外れていると言われておりまして」

 「アミカに爆殺されかけたって聞いてるが?」

 「そないな無法な流れ者の女郎めろうと同じ手を、あんさんが使わはるとは思えませんけど?」

 「だが、それが戦場と謂うモノだ。俺と戦り合う時も用心しないと、ドカンと一発あの世行きにしてやる」

 「何とも容赦の無い御方だ。それではわたくしも、あらゆる搦め手を使って攻め落としましょう」

 「例えば?」

 「例えば……? ほら、あなた様、何か言ったって」

 ……その後も、正義と条火は蓮との歪な会話を楽しんだ。





 各々がやがやと好き放題している様子の中で、唯々黙して佇むだけの白菊を前に縮こまっていたトキヤだったが、

 「おーい、トキヤ殿」

 「あ……ごめんなさい白菊さん、ちょっと失礼します……はーい、何でしょう」

 後ろから声を掛けられて、カゲツから色々聞き出そうとしている旭を一瞥しつつ、ふらりとその場を離れて廊下に出た。

 そこにいたのは、

 「いやはや、厠の帰りに道が分からなくなって、人を見かけたんで道を尋ねたのだが、そうしたら私の顔を見るなり神坐の者だと見抜いてきて……」

 「要するに?」

 「言われた儘の言葉を言えば『トキヤと話がしたいのだ、会わせてくれぬか?』と。会ってくれるな?」

 灰色の狩衣に身を包んだ藍色の長い髪に黄色い目の女、安田鈴蘭。

 「もし! 何故左様にして影に隠れるので!?」

 「……? そこにいるんですか?」

 「ああ、そこに。多分一目見たらひっくり返るぞ? ほら! 出て来なすって下さいよお!」

 鈴蘭にしつこく促されて、角からぎこちなく姿を見せたのは……。

 「……昼振りに御座いますな、トキヤ」

 月明かりに照らされた、一人の少女。


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