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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十六話【いざ鬼討ち!】
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第十六話【いざ鬼討ち!】5

 光旭は挙兵以来捨て置いていた唯一の家人である安田鈴蘭(やすだすずらん)と合流を果たし、また弟の光正義に妻の条火(すじか)を迎えさせた。

 その後、七将軍との話し合いも纏まり神坐国として盤石の体制を築くと、彼女は遂に鬼が人々の政を奪い牛耳る西ヒノモトの都、京安(けいあん)の都へと歩みを進める事を決めたのだった……。





 或る霧の深い朝。

 御所の石畳に並ぶは、東ヒノモトそして中ヒノモトに住まう武士団の頭領達。

 精悍な見た目の女の頭領あれば、闘気を滾らせる男の頭領もあり。

 そしてこの者達の並びの先頭に立つは、七人の転生者。

 真白な直垂を着た爽やかな印象の男。

 真黒な直垂を着た精悍な美しさを湛えた男。

 藍色の直垂を着て頭にも藍色の布を被せた美女。

 赤い幾何学模様の縫われた黒い直垂を着る銀髪の少女。

 深緑の直垂に目元を仮面で隠した金髪の厳つい女。

 緋色の直垂を着る眼鏡を掛けたドレッドヘアの男。

 そして。

 青い狩衣を着て、黒髪を長く真っ直ぐに伸ばしている、超然とした美貌の男。

 彼等は皆して自分達を従える主の姿を静かに佇み待っている。

 そうしている内に、御所の奥から歩み出てきたのは三人。

 灰色地に桃色の麻の葉紋様が走る直垂を着た、白髪に眼鏡の青年。

 同じく灰色地でありながらも麻の葉の色が青色の直垂を着ている、空色の髪を短めに整えた背の高い女。

 遅れて二人の間から姿を現したのは……。

 一瞬、その女の着ている服を見た人々はどよめいた。

 何故ならば、普段の彼女は西方にしがた文化への贔屓からか白い狩衣を身に纏うのを好み、畏まった場に於いても『己こそが人々の救い主』と言わんばかりに西の都の女王しか着る事の許されていない白の束帯へと袖を通していたのだが……。

 今、この女……光旭は、白い直垂を着けていた。

 東ヒノモトの猛き武者共が誇りと覚悟を示して生きる為の衣服を選び、彼等の前に姿を現したのだ。

 「皆の者よ、わしは漸くこの日を迎えられた。

 遡る事二百年前、我が一族の祖たる光義日は、都を亜人の武士団が取り纏めるは人々に災禍を招くと憂いて、世の理を守るべく戦った。

 然し奴等は卑怯にも夜討ちを仕掛け、軍勢は敗れ、人々の世は失われた。

 更にはこの地へ落ち延び、矢尽き刀折れるまで抗わんとした我が祖に呪いを食らわせ、子々孫々に至る全てを辱める仕打ちをやってのけたのだ……。

 憎き亜人共と、其れ等を束ねし鬼共に蔑まれ、貶められ続けた二百年だった。

 この怒りを、悲しみをいだかされて生きてきたのは、わしだけではない……!

 お前達も! そして我等の父も母も! 祖父も祖母も! 奴等に虐げられてきた! 亜人共に! 人でなし共に! 苦しめられ続けてきたのだ!

 然し今!

 我等はここより東に嘗て有った、妖精の国を攻め滅ぼした。

 同じ志を持つ中ヒノモトの姫たる真仲を妻として迎え、彼の地の者共とも手を結ぶに至った。

 東へ再び封じ込めんと我等を襲った、鬼共に与せし悪しき流れ者も追い返した!

 最早我等を妨げられる者は鬼にも化生にもおらぬ!

 この勢いを以て西へと向かい! 都の女王を御救い奉り!

 我等がヒノモトに人々の世を取り戻すのだ!」

 ……無理筋のある話の立て方ではあった。

 直前の中ヒノモトを守る戦では、東ヒノモトの多くの武士団が兵を出す事を拒んだ。

 未だ旭は利害が一致して従っている七将軍以外からは、女王としての器を認められていなかったのだ。

 現に、彼女の求めに応える者は、誰も……。





 「神坐姫のことば、しかと聞き入れた! 我等も共に戦おうぞ!」

 霧の奥から、誰とも知れぬ女の声が張り上げられた。

 「そうだ! 我等は最早亜人に臆する惰弱に非ず!「これ、やめんかみっともない……! あれは所詮遊女崩れの戯れと何度言えば」爺様はもう黙っていてくれ! 俺達は! 後の世の人々の為に戦いたいんだ!」

 次に、老翁の諫める声を跳ね除けた若い男の声が旭に届いた。

 「そうだ若いの! ここで発たねば武士もののふが廃る!」

 「あんたやめな、あんな何処とも知れない女の口車に乗せられて……!」

 「姫よ! この通りわしには妻も子もるのです! これ以上虐げられて、わし等どころかこの子にまで辛い思いをさせたくはありませぬ! 

 人でなし共の首を山と謂う程並べて差し上げましょう、故に!

 わしが討ち死にしようとも、遺されたこいつ等に褒美をたんまり下されよ!」

 「あんた……!」

 その次は、少し草臥れた男と女の声が聞こえた。

 「わたしだって負けるもんかい! 方々もわたし等も、様子見だお手並み拝見だと屁理屈並べて、旭様の御威光に散々ただ乗りするのはもう終わりにしようじゃないかい!」

 「母上、どうか落ち着いて下され。神坐姫と流れ者共は我等を力で従わせてきたのですよ。あの様な奴等、早く滅べばよいと仰ったのは母上ではありませんか「そん時の将軍は執権殿が誅殺してくださってもういないよ! だから昔の恨みつらみは全部ちゃらだ!」……左様、ですか」

 「旭様はあたし等東国武士の最後の希望なんだ!

 それなのに鬼が怖い、人でなし共の仕返しが怖いって二百年も見て見ぬ振りしてきて……!

 挙句の果てに遠い国から流れ着いた何も知らない奴等にばっかり世話を押し付けるなんて!

 不忠も不忠だろうよ!」

 次々に、聞いた事の無い者の声が旭に向かって飛び込んでくる。

 「聞けば先の戦では、敵が流れ者にしか効かぬ呪いを使ってきたそうだぞ! 我等と同じく死ぬと謂うなら、連中ばかりを重用する意味は無いであろう!?」

 不意に聞き覚えのある男の声も続いて、思わず青い髪の女、真仲はそちらの方を向いた……が、霧が濃くてよく見えなかった。

 「ならば流れ者共よ! 我等と共に命を賭そうぞ! お前達も! 俺達も! 同じ人には変わりないのだ!」

 「我等一丸となって、人々の世を取り戻すんだよ!」

 「神坐姫万歳! 光旭様万歳!」

 「人々に光を!」

 「「「我等に光を!」」」

 「「「光を! 光を! 光よ! 光よ! 光よ!!!」」」

 彼等の求めに、旭は瞑った目から溢れる嬉し涙を頬に伝わせて、満足げに微笑みながら、

 「そうか……! 我が意志は、遂に其方等にも伝わり、こうして生き続けてゆくと、謂うのだな……!」

 その両腕を広げて全てを受け止めた。

 ……そんな彼女の後ろで。

 「ま、ざっとこんなもんだ」

 「やっぱり鈴蘭さんでしたか。最初の声、似てると思ったんですよ」

 藍色の髪を長く伸ばした黄色い瞳の女が、しれっと白髪眼鏡の青年の後ろから現れた。

 「だが同じとは思わなかった。であればそれでよいのだ。肝心なのは人心の動かし方だ。お前は姫の傍で人々を操るのが役目なのだろう? なら、よく学んでおけ」

 「後から皆ついてくるってどうして分かったんですか?」

 「私の次に続いた若い男とは昨日の夜に酒を酌み交わして、こうなるよう仕向けた。それから念には念をで真仲様の家人とも話し合っていた」

 「サクラ仕込んでたってコトかよ……旭が知ったらブチギレますよ」

 「ならば知らなければよい。

 真に姫を慕っているならば、

 真に姫の『カゲツを滅ぼし復讐を果たす』と謂う望みを、

 『亜人を駆逐し人々の世を取り戻す』と謂う夢を、

 叶えたいと願っているならば……、

 姫を騙して利用してでも、人々を、この国を纏め上げよ。

 お前の大好きな『すべては神坐の為に』と謂う言葉は左様な意味の筈だ、トキヤ殿」

 鈴蘭は得意げに白髪眼鏡の青年、トキヤへと先輩風を吹かせながら言ってのけた。





 旭の演説と鈴蘭の仕込みによって士気も高まったところで、神坐軍はいよいよ西進を始めた。

 それから数日後。

 「さてと……やけにすんなり入れたものだな! 先程の川沿いに、以前は兵が並んでいたと聞き及んでいたのだが!」

 中ヒノモトを越え、西ヒノモトとの間を流れる無言側をも難なく渡り……。

 都の大路を進む軍勢の中程で、馬上にいる光旭は思わずそんな事を口走った。

 それに続いて、

 「前もこんなモンだって真仲は言ってたぜ! どうも川を越えようとしたら諦めて退き下がるみてえだ! ……にしても、ここは相変わらずシケてやがるな」

 「特に今回はオレ達総出だから一段と、ってカンジだな?」

 旭のすぐ前で白い鎧の男と黒い鎧の男が馬上でそんな軽口を交わし始めたが、

 「ちょっと団長、持ち場に戻って」

 後ろから黒い鎧を着た女が止めに入って、

 「へいへい。それじゃあまた後でな、トキタロウ」

 「おうよ。今晩は皆で美味い酒呑もうぜ、ヒョンウ」

 彼女に促されて渋々、ヒョンウと呼ばれた黒い鎧直垂の男は隊列の後ろの方へと消えていった……。

 それを見届けて、また旭がトキタロウに向かって、

 「おいトキタロウ! 都はいつも斯様な有様なのか!?」

 素朴な疑問を呈する。

 「まあ、こんなもんだな!

 下手に外で騒ぎ起こせば、亜人の連中がすっ飛んできて『喧嘩両成敗』つって見境なく鞭打ちしやがるんだ!

 そんなんだから都の人間は皆あんまり外出しなくなっちまったらしくて、大通りもこの通りガランドウってワケだ!」

 「成程な……一刻も早く女王を御救いし! 人々が大手を振って表を歩けるようにしてやりたいものよ!」

 何故か旭とトキタロウは終始大声で会話をする。

 その直後だった。

 『プリンセス、聞こえるか?』

 「セージ、其れを使うと謂う事は……やはりこちらの読み通りだったか?」

 不意に旭の纏う白銀の大鎧、その栴檀板の裏からセージの声が発された。

 「旭……? ああ、セージさんのトランシーバーか。ってコトは……そういうコトですか」

 その話の輪に、旭のすぐ後ろで馬に跨る灰色の直垂に黒い鎧を身に纏う、眼鏡を掛けた白髪の青年も割って入る。

 『単刀直入に言えば、答えはYesだ。この隊列は一度全滅する。恐らく、俺が通信を使ってプリンセスに伝えている内容は既に盗聴され始めているハズだ……最初のプラン通り動け。良いな?』

 「相分かった」

 セージに応えながら、旭は無言でトキヤ、トキタロウと視線を交わし、彼等に頷かせる。

 『……このストリート全体から、高い反応が検出された。恐らく両側の塀裏に、等間隔でプラスチック爆弾が』

 その直後、隊列は白い光に包まれた。

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