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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十五話【悪の転生者】
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第十五話【悪の転生者】4

 神坐軍の立て直した本陣では、相も変わらず将軍や参謀達が次の反撃作戦を練る合間に、雑談に興じていた。

 「それにしてもだよタンジン、一体どうやってトキヤ君は生き返ったんだい?」

 「また『奇跡』が起きたのですよ、ガニザニ」

 「……フム。ならばまどかよ、次はジョージにも奇跡が起きてはくれんかのう?」

 「失礼ながらチランジーヴィ様、誰でもと謂う訳には参りませぬ。これは義兄上であるからこそ成し得た事なのです」

 「そこを何とかしろっつってんだよ。おいペイジ、お前も何とか言ってやれ」

 「いや……構わない。構わないさ、ヒョンウ。トキヤだけでも帰ってきてくれたんだから、これ以上ワガママを言うつもりは無い」

 「ならば女王よ、我々は依然としてあの転生者殺しに対抗する手段は無い、と謂う事か」

 彼等の語る『奇跡』の正体。

 それを皆ぼんやりと察していながら明言はしない。

 「其処よな、バレンティン。これより戦を続けるうえで、攻めに転じる事が出来ぬは其れが故よ。トキヤだけの話にしても、奇跡はそう何度も起きぬであろうから……」

 唯一人気付いていない、奇跡を起こした当人を除いて。

 「ああ、そうだな、旭……俺は、ラッキーだった」

 それでも、先程までは絶望的な空気に包まれていた将軍や参謀達も、執権が奇跡の蘇生を遂げた事で気持ちだけでも立ち直りつつはあった。

 「方々、その流れ者殺しの呪具ですが、撃たれた者が悲鳴も上げずに事切れたと謂う話や、義兄上に死に戻りが起きなかった事から、恐らくは時を止める類いのまじないを放つものではないかと」

 「時を……? そんな魔術あったか? 私も個人的な趣味の範囲で色々と調べてはいるが……」

 首を傾げるペイジに、円は深刻な顔で頷いた。

 「ペイジ様の仰る通り、その様な呪いは今まで影も形もありませんでした。恐らく、新たに編み出された呪いの可能性が高いかと」

 「新規開発の魔術……そんな事が……いや、相手は亜人の連合軍。魔術に詳しい妖精の連中もいるだろうから、それぐらい出来るか……然し時を止める効果なら直接的な死に関わらないから、今までの転生者の特性で考えれば無効化出来そうなものだが」

 「そこは、何とも……そもそも、時を止める呪いである、というのもあくまで私の推測に過ぎませんから。ですが、それでも策が無い訳ではありません」

 そう言って円が取り出したのは、大量の茶ばんだ白い勾玉の様な何か。

 形こそ勾玉であるが、何かを削り出して作り上げたようで、妙な生臭さがあった。

 「これは、一度だけであれば如何なる呪いを用いられようとも防ぐ事が出来る呪具……但し、一度使えば砕けてしまいます」

 「そんな便利な物があるのか……!」

 「私が考案しました、ペイジ様。なので今、このヒノモトの世には私の製造した分しかありません。ですが、これがあれば一時は敵の流れ者殺しから身を守る事が出来る筈かと」

 その話を、目を瞑り黙して聞いていたタンジンは……不意に目を開き、

 「すみませんが、原理を聞かせてくれませんか?」

 問い掛ける。

 「今は左様な事を言っている場合では「答えなさい」……神坐を発つ前の夜に、ふらりと私の庵に来られた或る御方から、材料を頂き、それを削り出したのです。この一つ一つに、材料の魂が入っており、それを身代わりにする事で呪いを防ぎます」

 妙に歯切れの悪い答えを返す円に、

 「あるお方とは?」

 タンジンは更なる追及を仕掛ける。

 「それは内密にするよう言われたので……」

 「そうですか……然し、妖精の第二頸椎を使った呪い除けとは、なかなか非道な事を思いつきますね? トキヤが眉を顰めていますよ」

 「は? タンジン、あんた何言って……」

 ぼんやり話を聞いていただけなのに不意に名前を出されたトキヤが、そう言いかけるよりも先に。

 「えっ、義兄上……!? し、然しです義兄上! これはトキタロウ様に頼まれてやった事です! なので私は……!」

 「やはりあの男絡みでしたか」

 「なっ……! 謀りましたね!?」

 円はあっさりと『釣られて』しまった。

 「そしてワタクシ達へ余りを分け与えられる程トキタロウが急ごしらえさせた理由は……」

 タンジンは不穏な予感に顔を歪ませながら、ジョージのリゾートの方向へと雑に顔を向けて続ける。

 「恐らく、トキヤの仇射ちの為でしょう」

 「何やってんだよアイツは……! いつも勝手に先々行くんじゃねえっつってんのによォ!」

 地団駄を踏むヒョンウに、然しタンジンは冷酷さすら匂わせる程に落ち着き払っていた。

 「理由は単純明快、誰にも邪魔されず刺し違えてでも己1人の手で報いを受けさせたかった……彼はそういう男ではありませんか」

 「兎に角、俺が無事な以上アニキがそんな危ない事をやる必要は無いんですから、アニキより先に敵の本陣を見つけ出さないと」

 焦るトキヤだったが、

 「そうは言ってもだよ、トキヤ君……あの大爆発の後、兵こそ差し向けてくるがアミカは姿を見せない。恐らく現代兵器に類する通信手段を使っているから、敵兵が向かってくる場所から拠点を割り出す事も出来ないだろう。そうなればトキタロウだって簡単には見つけられないから、そう急がなくとも大丈夫じゃないかな?」

 ガニザニが冷静に宥めた。

 「だったら、今の俺達に出来る事は……」

 「相手の出方を待つ、というのも1つの作戦だと僕は思うよ」

 「……そんなに悠長にしていて良いんでしょうか」

 胸の辺りの襟をぎゅっと握り締める事しか出来ないトキヤだったが、

 「敵襲ー!」

 「おや……思ったよりも、相手の方がせっかちだったね」

 思い詰める余裕すら敵は与えてくれなかった。

 「敵の数は如何程か?」

 旭の問いに……然し、

 「数……? 数は問題では御座りませぬ!」

 「は?」

 伝令は妙な返事をした。

 「あ、あっしが可笑しくなっていなければ……敵は、今まで斃れた敵と味方、その全てに御座います……!」

 全員がその答えに首を傾げ、

 「ウウム……正直何言っとるのかまるで分からんのじゃ。その敵はここから見えるんかのう?」

 チランジーヴィが呑気に問いつつ、本陣からひょっこり出ていき……。

 「ゾンビじゃあああああ!!!」

 踵を返して帰ってきた直後、雪崩の様に突っ込んできた異常な様相の軍勢が、折角立て直した本陣を再び破壊してしまった。


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