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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十五話【悪の転生者】
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第十五話【悪の転生者】3

 爆散したリゾート施設に沿って聳えていた裏山……の、頂上付近の崖下にその空間は有った。

 絶壁の岩肌をくり抜いて作られた横穴を進んだ先に広がる空間は、左右に簡素な木製のベンチが並べられて、その先は一段高くなって演説台が置かれていた。

 奥の壁はステンドグラスが貼られて外の光が差し込んでいるが、この空間の主な光源は天井から吊るされた巨大なシャンデリアだった。

 「それにしても……こりゃ何を意味してんだ?」

 ステンドグラスのデザインを前に、鎧からその下の直垂まで全てが真っ赤な服装をした短い金髪の女が、そんな事をぼやいた。

 一般的な教会のステンドグラスといえば、そこに表現されるのは三位一体。

 左は救世主、右は父なる神、そして中心は精霊と相場が決まっている。

 だが、この礼拝室……ヤマモト傭兵団の団長にして神坐七将軍の一角であったジョージ・ヤマモトが遺したソレは、雰囲気が異なっていた。

 左にいるのは、深緑の直垂を着た金の髪の老翁。

 右にいるのは、白い狩衣を着た桃色の髪の女。

 そして中心には、灰色の直垂を着て後ろを向いている白い髪の男……。

 「何でそこが精霊サマじゃなくて人間なんだ? 東の転生者共は何考えてんのか分かんねえな……」

 金髪の女は知る由もない。

 この場所を密かに遺した男が思い描いていた政治的戦略も。

 彼が破天荒な言動の裏で願っていた、細やかな理想郷の姿も……。

 そんな時だった。

 突然、演説台の上に座布団付きで置いていた水晶玉が、ガタガタと周期的に振動し始めた。

 「おーおー、やっと気付いてくれたかよ」

 気怠げにそんな事を言いながら小走りで水晶の近くに寄った金髪の女は、水晶の上でくにゃくにゃと左手を雑に振る。

 直後。

 『アミカ! 主力が全滅とは如何なる事だ!?』

 「どわーッ!? うっせえんだよジジイ!」

 礼拝堂に老翁の怒号が響き渡った。

 『う、煩いか……! すまぬ。だが、わしは日頃より口を酸っぱくして言うておった筈ぞ』

 「へいへい、部下は道具じゃねえって話か? 簡単に仲間を切り捨てるなって話か?」

 老翁の説教が始まりそうな予感がした金髪の女……アミカは、先手を打って話のイニシアチブを奪った。

 「あのなジジイ、いつも言ってんだろ? 戦場ってのはいつ何が起こるか分からねえモンなんだ。

 特にオレ様ってば、お人好しだからテメエ等からいっつもキツい仕事ばっかり任されちまってんだろ?

 そうすりゃあどうしても兵隊は消耗品になっちまうだろ?

 そんな事も分かんねえで何が傭兵団の頭領だ?

 カゲツ傭兵団頭領のカゲツ様よォ!」

 煽りに煽るアミカの言葉に、然しカゲツは挑発に乗らないどころか少し困った声色で、

 「お前は花童(かむろ)の頃より始終その言い訳ばかりではないか。少しは己以外の生きとし生けるものを労る様努めよ」

 厳しくも正しい反論を返す。

 が……。

 「ハ? お生憎様だが、こちとら元いた世界じゃ自分が1番可愛くねえと3秒後には死んじまってたんだよ。

 カッコつけて他人1人の人生無責任に背負う余裕あんならオレ様はその労力で敵の指揮官300人はぶっ殺すっつーの。

 っていうか博愛精神に満ち溢れたご高説を垂れ流してるテメエだって、東ヒノモトに橋頭堡を築くのに妖精の国を乗っ取って傀儡国家にしたって聞いたぜ?

 そんな悪どい事をやった理由は何だ?

 テメエがオレ様以下の器が小せえチキン野郎だからだろうが!

 真っ正面から殴り合う根性も無けりゃ、ご自慢の説教で奴等を納得させる品格も無え。

 強い奴と戦って! 殺し合って! 最強を常に示し続けてるオレ様の方が! よっぽど健全ってモンだろ!?

 何が『自分以外に愛情を持て』だァ!?

 弱虫毛虫の寝言に付き合ってりゃあオレ様まで寝首掻かれちまうだろうが!

 馴れ合いごっこやりてえならテメエのお附きの椹のババアと一緒に墓にでも入ってヨロシクやってろ!

 このクソ老いぼれが!」

 アミカの怒涛の罵詈雑言に言い負かされて、翁の声は唯々唸り声を上げる事しか出来なくなってしまった。

 「んじゃあよ、そゆコトだ。新しい兵隊、ちょーだい?」

 相手を小馬鹿にした調子でわざとらしく可愛こぶって、アミカは改めてカゲツに増援を集る。

 然し、

 「増援は認めぬ。これは既に爺様とも、そしてお前と白菊以外の六鬼将(ろっきしょう)全員とも話し合い、取り決めた事だ」

 次に否定の言葉を発したのは女の声だった。

 「何だァ? ジジイが散々論破されたの聞いて、自分もされたくて濡れちまったか? 紅葉もみじィ……!」

 「私の言いたい事はそれだけだ。後はお前がどうにかしろ。ではな」

 「ハハッ、図星のクセに我慢すんなって、このマゾ鬼がよ。ここにいる奴等全員に、オレ様とテメエの「本当に切るぞ。良いのか?」へいへい。で、その言い方だと代替案があるんだろ?」

 上手くアミカを諌めつつ、紅葉は無感情な声色で続ける。

 「つい先程だが、我等の判断に心を痛めた白菊が己の手勢と共にそちらへ出立した。悪いがそれ以上は兵を割けぬ。上手く使ってくれ」

 「おい、ついさっきじゃこっちに着くのは何時になるんだよ。流石にそりゃ無えだろ」

 「そうか。では、白菊に戻るよう伝令を飛ば「何でそうなるんだよ! ソレはソレでくれよ!」駄目だ。お前は無駄遣いばかりするからな」

 「オレ様が欲しいのは最短距離で動員可能な兵隊だ! テメエ等分かっててわざとやってんだろ! どうして一番近いハズの無言川沿いの警備を寄越さねえんだ!」

 堪りかねて怒鳴り散らしたアミカだったが、

 「そこの奴等は俺の配下だ。どうしてお前の為に割かなければならない?」

 次に答えたのは、声色こそ若いが妙に荒んだ調子の男の声だった。

 それを聞くや否やアミカは慌てて、

 「あっ、川の奴らお前んとこの所属になったんだ、じゃあムリだな。分かった! テキトーにその辺の奴等カネでかき集めるからもう良い……」

 話を終わらせようとしたが……。

 「アミカ! 俺の話は終わっていないぞ!

 お前は毎回こうだ。人の好意に寄り掛かって、利用して、俺達に不利益を齎す事しかしない。

 いつもいつも「やめよれん、他の者も居るのだぞ」関係ない。頭領、お前が無理に有耶無耶にするなら今ここでお前と殺し合ってでも続けるぞ。

 それでだ、アミカ。お前の様な転生者のクズをどうして頭領が拾ったのかは知らんが「蓮、爺様の言うことが聞けないのかその辺でやめ」やめない。

 俺の苦言を煙たがるとは、素直さと正直さだけが取り柄だったのに見下げ果てたものだな、紅葉。

 お前まで黙らせようとするなら、今から川沿いの兵をひっくり返して都に差し向けてでも、この俺の正しさを証明させてもらう「蓮……」フン。地位ばかり高いだけの愚図は黙っていろ。

 いいかアミカ、この際だから教えておいてやる。

 最近の俺は、お前を殺す方法を探している。

 こんな頭から角の生えたバケモノとしてこの世界に転生してきた俺よりも恵まれた立場……転生者であり、都の貴族の養子でもある立場でこの世界に来ておきながら、

 全てかなぐり捨ててバケモノ共とファミリーユニオンに興じる事しか出来ない「ねえさっきから聞いてたら化け物ばけものって気分悪いんだけど。どういうつもりなの? 蓮」俺も含めてそう呼んでいる。それとも自分だけは頭に角が生えていないとでも言い張るつもりか? 牡丹(ぼたん)

 ……でだ、アミカ。そんな自分の社会性の無さを恥じる様子も無いお前は、いずれこの場所も自分の居場所ではなくなる。

 人から奪ってばかりで自分からは何も与えられないお前はこの傭兵団にとって……いや、この世界にとっても存在する価値の無い害獣だ。

 俺達は、これ以上お前から搾取されては生きていけない。

 金輪際兵の1人も米の一粒もお前には与えない。

 死ぬなら勝手に死ね。暴れるなら俺が何度でも殺してやる。お前の心がへし折れるまでな。

 分かったなら返事をしろ」

 ……長く、長く、只管長い説教に、アミカは然し返事を返さなかった。

 唯々物言わず水晶を睨みつけるばかりだった。

 「フン。図星で言い返す余地も無いだろう。その死なない身体で永遠に後悔しながらこの世界を彷徨い続ければいい。さらばだ、光アミカ」

 蓮が吐き捨てて、水晶の光が弱まろうとした……、

 「あー、駄目だめ。何勝手に切ろうとしてるんだよ、蓮」

 かに見えたが。

 「これ以上話す事は無いハズだ、芍薬しゃくやく。それともお前は、このゴミ虫に情けを掛けるつもり「ぼくはどんな塵芥にも使い道があると思うよ」……勝手にしろ」

 入れ替わって話し始めたのは、軽薄で妖しい声色をした、これまた若い男の声だった。

 「ケッ、誰がゴミだって?」

 「御免ごめん、でもこういう言い方しないと蓮は譲らないだろ? ぼく達の勇者アミカ様」

 「……用件を言え。お前がくれたこのオモチャ、石蒜はな散らしはまずまずの出来だった。早速2人程転生者をぶっ殺してやったぜ?」

 「ああ、それについてはまた今度話しさせてよ。それより、今回も手勢を使い潰しちゃったんだよね?」

 「まだ残ってはいるっつーの!」

 「分かったわかった、そんなに怒らなくても。でも、神坐の増援が来たら困るぐらいには減ってるんだろ? そんなアミカの為に……実はこんな事もあろうかと、ぼくの特製呪具をこっそり仕込んでましたー! さあさあ、左肩の鎧の裏側に縫い付けてあるから、取って見てみて?」

 「特製なァ……どうせまたろくでもない実験に付き合わされてんだろうな、オレ様」

 言われるがままアミカは鎧に手を突っ込むと……、

 「うわっ、何だよコレ……ヤバい色してねえか?」

 妖しい紫色の宝玉が埋め込まれた黒い指輪がその掌の上に姿を現した。

 「遠く西の異国に伝わる呪いの術式と、それを動かす為の闇の魔力を込めてる。さあ、それを指に填めて、敵の顔を思い浮かべて?」

 「闇ィ……!? おい芍薬、これホントに安全なんだろうな!? 今度こそオレ様、どうにかなっちまったりしねえだろうな!?」

 「大丈夫だよ、だってアミカは流れ者だからね。呪いの影響は直接受けないって事は解析済みだ。だから、さあ! 使って?」

 「呪いの影響受けねえならどうして石蒜散らしは転生者に効くんだよ……」

 やけにわくわくして上ずった声で話す芍薬に何とも言えない嫌な予感を覚えながらも、

 「ところで……コレ使ったらどうなるんだよ」

 左人差し指に指輪を填めた。

 「ふふふ……! それはぁ……!」


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