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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十五話【悪の転生者】
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第十五話【悪の転生者】2

 真新しい陣幕が張り直された神坐軍の本陣。

 5人の将軍と1人の副団長は、改めて幾人かの副団長や参謀と共に机を囲んで額を突き合わせていた。

 「でー、将軍閣下? 参謀派遣傭兵団の団長ともあろうお方が陣頭指揮担当しといて、どうしてこうなったんですかー?」

 「情けない話だが、想定外の攻撃を受けた。

 僕達はこの世界の文化や技術を保護する為に、敢えて元いた世界の道具や兵器を開発しない様ルールを定めているのは、ニャライ、君も知っての通りだ。

 然し、この約束は『世界が滅茶苦茶になってもお構い無しに目的を達成したい人間』にとっては、守る意味など何も無い約束だ。

 ……僕達はそれに気付かなかった。あまりにもルールを内面化し過ぎていた。

 敵が現代兵器を使ってくる可能性を、無意識に排除してしまっていたんだ」

 緋色の直垂を着た親子程に歳の離れている少女と男が会話を交わす。

 「じゃ、こっちもリミッター解除すれば? ペイジ、アンタんとこの二軍連れてきたから、好きに暴れさせて良いよ」

 「おいジョンヒ、勝手な事言うんじゃねえ。すまねえなガニザニ、もっときちんと教育しとくからよ」

 「構わないよヒョンウ……君の所のお嬢さんの仰る通りだ。力で捩じ伏せようとする者から世界を守るには、結局力に頼るしか無いのかもしれない」

 会話の輪に、黒い小袖袴と直垂姿の2人が加わった。

 「サカガミ傭兵団としては断固拒否する。ここで我々まで同じ所に落ちぶれた果てに待っているのは、この世界に生きる無辜の人々まで巻き込んだ殲滅戦争だ」

 「バレンティン、君の言葉はとても重い。然し、然しだよ。僕が無責任に理想論を唱えた結果が、2人の仲間の悲惨な最期だ」

 黄色い直垂の男の言葉を否定するのに、緋色の直垂の男は自分を巻き込んで斬り捨てる話し方をした。

 「では、方針は決まったかのう」

 「焦らないでくれよ兄さん、タンジンまだ来てねえんだから」

 「お気遣いありがとう、シャウカット君……だが、確かにこれ以上時間を無駄には出来ないね、チランジーヴィ。神坐に残ったトキタロウが何をしでかすかも分からない以上、斯くなる上は、道は1つだ」

 最後のひと押しは、藍色の直垂を着た兄弟の様な2人の言葉だった。

 「ペイジ、この戦闘に於いては……現代兵器の使用を、僕からも提案させて貰う」

 その言葉に、迷彩柄の直垂を着た女は、唯々頷くばかりで何も応えはしなかった。





 一方その頃。

 「こっちだ、円。おいタンジン、円が来てくれたぞ」

 尼僧を連れて、桃色の髪をした白い狩衣の女が寄ったのは、森の中の少し開けた一角。

 「旭……来ましたか」

 地面に敷かれた布の上に置いてあるバラバラの何かを前に佇んでいた長い黒髪に青い狩衣の男は、感情が読み取れない声色の言葉を漏らしながら振り向いた。

 「それ……が、義兄上ですか」

 「集められる限りは集めさせました。どうやら敵の転生者殺しは、死に戻りを無効化させてしまう様です」

 円はタンジンの応えに耳を傾けつつ、彼の隣に立つと、目の前の肉片と服と鎧の寄せ集めを前に、嗚咽を上げ始める。

 「姉上……!」

 「せめてあの世では、何にも苛まれずにいて欲しいものよな」

 「もしも……! もしもです姉上。

 もしも時が戻ったならば、私は二度と義兄上を喪わぬよう、とびきりのまじないを使います」

 「……そんなものがあるのか?」

 「ですが、こうなってしまっては、もう……嗚呼、どうか私に、今一度義兄上を護る機会を、御与えくださる者がいれば……! そう、

 義兄上の時が、敵将に討たれるより前に戻るならば……!」

 円がそんな『もしもの話』をして見せた直後だった。

 「……何ッ!? これは……!」

 タンジンは己の目を疑った。

 それまで物言わぬ肉片と襤褸布の寄せ集めだったものが、人の形を成してゆく。

 足りない肉は無から生える様に、足りない布は布自身が成長する様にして。

 やがてそれは完全な形の1人の人間の姿となった。

 灰色の直垂、黒い鎧、そして白い髪に眼鏡をかけた青年……。

 「義兄上!」

 感極まった様子でその手を握った円だったが、

 「う……あ、旭!」

 「えっ?」

 彼が目を覚まして最初に姿を探したのは、別の女だった。

 「もう! 義兄上! 私は!?」

 「あ……ご、ごめん円、でも状況がよく分かってなくて……旭ごめん、ペイジが撃たれそうになったから、俺が止めに入ったんだけど……でも、俺、撃たれたのに……どうして生きてるんだ……?」

 「莫迦!」

 奇跡の死に戻りを果たしても相変わらずなトキヤを、旭は何処か安心した様子でぶん殴った。

 「え、どうして……」

 「どうしてもこうしても無いわ! トキヤ、お前達が出過ぎたせいで、誘い込まれた我等はジョージの旅籠諸共に吹き飛ばされて壊滅したのだぞ!?」

 「壊滅……!?」

 「一先ず神坐からかき集めた兵を円が連れてきてくれた故、次の一手を如何にするかと皆話し合っているのだ。寝惚けている暇は無い、行くぞ!」

 「あっ、ちょっと待っ、旭……!」

 トキヤの腕を引き、旭は踵を返して悠々と本陣の方へと帰っていった。

 ……その背中へ目を向けながら、

 「何をしたのです?」

 タンジンは冷静に円へ問う。

 「私は何も。唯、姉上が望まれて、その通りの奇跡が起きただけの事です」

 どこか芝居掛かった調子で円は答えた。

 「……では、次はジョージの復活を願わせましょう」

 だが、そんな口先三寸ではタンジンに隠し通す事は当然適わない。

 七将軍の1人として、そして仲間を慮る立場にある転生者として当然の提案で切り返す。

 「それはなりませぬ」

 「少しはこちら側にも歩み寄ってはくれませんか?」

 真実を見定めようとしたタンジンであったが、

 「神にも等しき武士(もののふ)の起こす奇跡は、選ばれし(たっと)き者にだけ手厚く授けられます。たかが流れ者が奇跡を乞う等、過ぎたる事に御座いますよ」

 円の答えは、無慈悲で取り付く島もないものだった。

 「お待ちくださいませー! 姉上ー!」

 可憐さで糊塗した足取りで『神』の後光を追っていった円。

 誰もいなくなったその場で、タンジンは沈思黙考し始める。

 (転生者殺しを、トキヤ自身の時間を巻き戻す事によって無効化した。

 先程の言葉、一聴すれば円が行使した特殊な能力をワタクシに悪用されぬよう誤魔化したように捉えられるが……それは正確な理解ではない。

 嘗て、ティナが撃った拳銃の火薬を湿らせ、受けた毒矢の毒を消し去り……そして今、トキヤを甦らせる奇跡を起こした。

 恐らく、その真実は……。

 光旭は、現実改変能力を有している)


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