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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十四話【光る下衆】
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第十四話【光る下衆】7

 カゲツ傭兵団に属する一団に占領された、リゾートホテル染みた楼閣。

 その建物は切り立った崖にも等しい山に沿って建てられている。

 ……山の上の足場に今、この建物の本来の持ち主が属していた国の手の者が率いる手勢が潜んでいた。

 「案外すんなり来れましたね、義兄上」

 この手勢を率いる、水色をした水干の上から白銀に煌めく同丸鎧を身に纏いし桃色の髪の青年……光正義(ひかるせいぎ)は、息を殺しながら目の前に見える楼閣の最上階、天帝の間を睨みつけていた……。

 が。

 「正義、あのな……コレがすんなりに見えるのかよ!?」

 「しーっ! 義兄上声が大きいです……! 何考えてるんですか……!」

 彼の後ろには、息が上がっている様子こそ無いが、今来た道無き道を見返して慄いている面々がいた。

 「あんなの道じゃない、殆ど崖だったぞ……!」

 先程から正義に苦言を呈しているのは、灰色地に桃色の麻の葉紋様が入った直垂に袖を通し、七色の散りばめられた黒い大鎧を着ている、白髪に眼鏡の青年。

 「いや待つんだトキヤ、それは早計な判断かもしれない。正義、ひょっとすると、君の地元だとこういう山道……山道? 崖道? 兎に角あんな道も当たり前だったりするのか?」

 続いて苦言混じりの疑問を投げ掛けたのは、着ている大鎧から直垂まで全てが迷彩柄をした、ポニーテールの赤毛に眼鏡の女。

 「流石にここまででは無いですよ。でも北ヒノモトにいた頃は秤様の三人の孫娘の方々が、よく高い所に物を置き忘れる事が多くあったもので……それを身のこなしが軽いわたくしがいつも取って差し上げていたものですから、いつの間にかこういった崖登りも些事となってしまったのでしょうね」

 だが二人の真意にも気付かず、正義は呑気に昔のことを思い出しつつ、楼閣を睨み続ける。

 「うっわー……正義殿ってこんな感じの御人だったんですね……こりゃ旭様も大変だわ」

 その横で更に呑気な物言いをしているのは、灰色地に桃色の麻の葉紋様が走る鎧直垂姿をした銀髪の少女。

 彼女は正義が間抜けである為にトキヤとペイジの質問にまともに返せていないのだと浅慮な判断を下して、軽い気持ちで放言した。

 「あはは、よく姉上に叱られているのだ。どうやらわたくしは人の心の機敏に疎いらしい。しかしそれ故、元々敵方であった其方に対しても特に何の思いも無い。わたくしの何処がいけないとか、何を治すべきだとか、そういう事は是非とも忌憚なく言ってくれ」

 「あっ……うん。はい。承知……」

 そして、話が噛み合っていないのは正義が愚図だからではない事を察し、より気味悪さを強く覚えた。

 と、その時だった。

 遠くから「掛かれぇー!」と女の張り上げる声が聞こえて、建物を挟んで反対側……楼閣の入り口の方でせめぎ合いが始まった。

 「姉上が始めた様ですね……我らも行きましょう、義兄上!」

 「ああ。行くぞ皆! 敵は全身真っ赤な金髪の女だ!」

 正面での戦いに呼応して、正義達は裏面から……一番間近な割れた窓から侵入した。

 「おのれ! やはりこちらからも来たか!」

 応戦するのは、獣の耳や角が伺える人型の敵。

 その見た目に違わず人の形を持つにしては異常な跳躍力で跳ね、人並み外れた脚の速さで襲い掛かってくるが、

 「ほいっと」「「「ぐわーっ!」」」

 正面の敵は何処からともなく現れた平凡な外見で小袖袴姿の中年女性が、

 「そこだ!」「「「ぎえーっ!」」」

 後方の敵は義巴が、それぞれ目にも留まらぬ速さで腕を振るい、全て斬り捨ててしまった。

 「す……すげえ、今の何だったんだ?」

 目を丸くする藍色の直垂に大鎧を纏う癖毛の黒髪をした少年、シャウカットの独り言に、

 「慣れです。向こうがもの凄い速さで突っ込んでくるのに合わせて、こっちは斬れる場所に刀を構えておく……簡単に言えばそんな風です」

 気を利かせて義巴が応えるも、

 「え? ……ああ」

 義巴の応えに、シャウカットは無感情な返事をして、

 「トキヤ、さっさとアミカだか何だかを見つけんぞ。不意撃ちで死んだりしたら一生神坐の笑いモンになっからな」

 それ以上義巴には何の興味も示さず、いつも通りトキヤに嫌味ったらしくちょっかいを掛け始めた。

 「お前な……仮にも義巴とそういう関係だったんだろ?」

 「だから何だよ。俺別にどっかの誰かと違って、女なんて掃いて捨てる程いるから」

 「仮にそうだとしても俺はそんな風にしたくねえよ……ごめんな義巴。俺もまさか、シャウカットがこんな奴とは思ってなかったんだ」

 頭を抱えてシャウカットに苦言を呈したトキヤは、次に義巴の方を向いて頭を下げる。

 「そういうのいいから、トキヤ。それとも、あんたが埋め合わせしてくれるっての?」

 トキヤの悪い意味でも嘘をつけない言動に、義巴は嬉しさを覚えた己の感情を含めて厭な気分になって、思わずそんな事を口走ってしまう。

 「俺でよければ幾らでも」

 「えっ……? いや、あんたが三人も無理だからシャウカット殿に宛がわれたって聞いてたけど?」

 「流石にシャウカットや円にイジメられてるお前見てたらそんな事言いたくなくなったよ」

 「でも、また円が怒りだすんじゃないの?」

 「円を説得すればいいのか?」

 「いや、そうじゃなくてさ……っていうか真仲様の手前、気まずいよ」

 「真仲なら俺が言えば分かってくれると思う」

 「……あんた自身が、私の事、嫌いだったじゃん」

 「昨日の敵は今日の友って言うだろ? それに、お前と殺り合った時に思ったんだ。こんなに強いヤツ、絶対に手放したくないし、もしも味方になってくれたら、使い潰すなんてしたくないって」

 「……っ」

 「なあ、義巴……」

 悲しい程にトキヤは悪意無く素直さだけが取り柄の男。

 そんな男に意地悪く求めれば当然、幾らでも応じてしまう。

 だが、それを知りながら求めてしまう事で胸に燻る自己嫌悪さえも、

 彼の与えるモノによって、甘く蕩けて忘れさせられてしまう……。

 「敵陣のど真ん中でやめてくだせえ、執権殿」

 「あ゛っ……はい、ごめんなさい、良子さん」

 「へい、すいやせん良子様」

 が、戯れは一旦終わりだ。

 「ハハッ、怒られてやんの。ホンットに股の緩いヤツ」

 「だから! お前そういう言い方やめろ!」

 然し、調子に乗ったシャウカットの相乗りは許されなかった。

 「正義、敵の気配とか分かるか?」

 気を取り直して、トキヤは周囲を困惑しながら見回す正義に問い掛けるが、

 「それがですね……妙なのです。辺り一帯全てから殺気を感じはするのですが、濃淡が無い、というか……こんな相手は今までいませんでした。一体これは何なのでしょう」

 その答えは不気味で要領を得ない。

 「何言ってんだ……? 殺気ってこう、人間が出すモンだろ? 何でそれがフラットに感じられるんだよ」

 「そうは言われましても……」

 顔を見合わせる2人。

 その話をぼんやり聞きながら、ペイジはふと義巴達が斬った敵兵の懐に何かが入っている事に気付いた。

 「……?」

 それは、ジョージが嘗てヒマ潰しついでにペイジに話していた物によく似た、白く四角い棒状の物体で……。

 「何……!? コレ、まさか!」

 嫌な予感がしたペイジは、他の死体も見回した。

 どれも鎧の内側から『ソレ』が見えている。

 「皆! 伏せろ!」

 「えっ?」「何?」「へっ?」「はい?」「へえ?」

 ペイジが叫んだ瞬間、部屋は爆炎に包まれた。


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