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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十四話【光る下衆】
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第十四話【光る下衆】6

 しれっと皆の前に姿を現した小袖袴姿の中年女性は、今まさに現在の戦況を説明していた義巴を一目見るなり、

 「義巴といったね、小娘。あんたの兄貴は見事だったよ。参謀と間者の二足の草鞋と聞いて半端者とたかを括っていたがなかなか強くて、腕に自信があったあっしでも敵わなかった」

 どこか彼女を気遣う気色を感じさせる言葉を向けた。

 「白目で見る……? もしや貴女『良子に出来ぬ仕事は鬼でも蛇でも出来ぬ仕事』の良子様ですか? サエグサに仕事を取られて商売上がったりになった後、足を洗ったと聞き及んでおりましたが……まさかその仕事を奪った恨みも深い筈の流れ者共に与しておられたとは」

 「煩わしいもんだねえ。卑しい仕事をしていても名前ってのは勝手に上がっちまう。まあ、なんだ……。

 仕事が無くて困ってた時に、更に一番の太客だった伊丹いたみ家って小せえ武士団がお世継ぎ争いで滅茶苦茶になっちまう不幸が続いてね。成り行きで仕方なくその家の名前ばっかりあっしが守ることになって途方に暮れてたら、ふらりと現れた流れ者の男が『ワタクシを当主にしなさい』と声を掛けてきた。これが存外顔の良さだけでなく利口な企みも上手い奴でねえ。

 手を組んで仕事を始めてみれば、何故だかやること為すこと全部上手くいっちまって、その勢いで伊丹家改めイタミ傭兵団はでかくなって、あっしから仕事を掠め取ったサエグサを含めた東ヒノモト中の流れ者どもを見張る役回りにまで昇っちまって……。

 そうして今に至るって訳さ」

 「何と数奇な……私も左様に生きてみたいものです」

 「懐かしい話ですね、良子。あの頃は調子に乗っていたトキタロウとヒョンウを押さえつけられるだけの力が必要でしたが、ワタクシ自身は非力も非力。アナタがイタミの頭領としてワタクシを迎えていなければ、今の東ヒノモトは未だ無政府地帯のままでしたよ」

 「とまあ、こんな具合に人を褒めるのも上手い男なのさ。うっかり煽てられてちまったあっしは、今や木の上どころか傭兵団の下女長さ」

 「事実を述べただけです。それで義巴、現在の状況を」

 良子と同じ時を生き抜いた事に何の負い目も見せないタンジンの言動を聞いて、義巴は一瞬羨ましげな遠い目をしたが……直ぐに現へと帰ってきて、促されるまま話を続ける。

 「敵将は奇襲で崩した我等をそのまま追い払って、最上階の天帝の間に本陣を敷いた。今もまだそこにいるみたいだが、あそこへは簡単に辿り着けない。山からの道は奴等が自分で使ったから流石に防がれてるだろうし、正面から押し入るにしても中は敵が何処に潜んでいるか分かったもんじゃない」

 「では、我々が行こう。転生者殺しの兵器を持っているのが敵の指揮官だけなら、他の雑兵は力押しで退けられる」

 バレンティンが一聴しただけでは無茶な言い方で名乗りを上げる。

 そんな彼の言葉に義巴はぎょっとした顔をして、次に怪訝そうな表情でバレンティンの顔を覗き込み始めたが、

 「何だ義巴、そんな顔をして……ああそうか、お前はサカガミ傭兵団が如何なる連中か知らぬのであったな。此奴等はな、上から下まで全員が流れ者なのよ。故に、多少の力押しをするなら此奴等と決まっとるのだ」

 そんな彼女の様子を見て、旭は補足を入れつつ、

 「して、どうであろうか? ガニザニ」

 己の中で決まった結論の正しさを確かめるべく、念押しで最も知略に於いて信用している者へと改めて問うた。

 「気の利いた事が言えなくてすまないが、僕も同じ意見だ。正面突破を行うにはそれ以外の手段が無い……君の厚意に甘えてしまって申し訳ないが、頼まれて欲しい、バレンティン」

 「願ってもいない事だ。これで漸く、マトモな形で女王の役に立てる」

 「殊勝なりバレンティン、わしの為に励め」

 「女王の御心のままに」

 当然といえば当然、己の頭の中で描いた絵の通りに進んだ会話を聞いて、旭は満足げに微笑んだ。

 「とはいえよ、ガニザニ。上から敵将に狙われてはサカガミに少なからぬ死人が出てしまう。注意を引きつける先を増やすべく、もう一手が欲しい」

 「それは当然、理想としては僕も同じ考えだ。けれど……。

 正面はサカガミ傭兵団を2つに割って押し切れる敵の数ではない。

 かといって敵軍自身が奇襲に使った裏手の守りが手薄な筈も無い。

 それでも裏面から有効な陽動を行うとなれば転生者の少数精鋭でも結成して作戦を遂行する他ないが、参謀役を務める僕も、そして正面後方を担うチランジーヴィとペイジもここを離れる訳にはいかない」

 一つ問題が解決すれば、また一つ別の問題が浮き彫りになる。

 腕を組んで俯く旭とガニザニの前に、

 「裏からは俺が行く……俺にその、一番危険な役回りをさせてくれよ、ガニザニさん」

 憔悴しきった顔をした、藍色の直垂姿の少年がふらりと姿を見せた。

 「シャウカット!? 何故お前がここにいる! 神坐で大人しく待っていろと言ったハズだぞ!」

 「兄さんはサイコパスかよ! 俺のせいでジョージさんが死んじまって、俺のせいでこんな大事になっちまって……! それで大人しくしてられるかって!」

 シャウカットの言葉をまるで聞いていない様な素振りで、チランジーヴィは慌てて立ち上がると彼の許へと駆け寄り、その両肩を掴んだ。

 「落ち着いて考えてくれ、シャウカット。もしもお前を喪ったならば、オオニタ傭兵団の未来は無くなってしまう……! ワシがどれだけ危険な戦場であろうと派手に暴れられるのは、お前が後ろにいるからこそなのじゃ。のう、シャウカット。お前はワシと違って賢明な子じゃろ? ならば、お前の使命を果たしてくれんか?」

 「……確かに俺は、兄さんや団のみんなの役に立ちたい。でもそれと同じぐらい、トキヤ……いや違うな。俺の愛した女の旭さんや、俺と仲良くしてくれてるダチのペイジの為にも戦いたい。俺にも筋を通させてくれよ、ペイジの為の償いをさせてくれよ! 兄さん!」

 シャウカットに言い返されたチランジーヴィは……渋い顔を俯けて、首を横に振りながら「然し……もしもお前の身に危険が及びそうな時は、何よりも先に、どうか、逃げてくれ、シャウカット……!」そう言葉を漏らして、トボトボ自分の席へと戻っていった。

 「こっちは話がまとまったよ、ガニザニさん」

 「これで頭数としては君と、それから……旭姫、悪いがトキヤ君も迂回ルートの作戦に従事させてくれるだろうか?

 「構わぬ。が、トキヤ。お前も何かあれば私の顔を思い出せ。無茶はするな」

 「……全ては神坐の為に」

 ありがとう。これで2人か……。

 「私も行こう。ヤマモト傭兵団の指揮権は、ガニザニ、一時的に貴方に任せる」

 これは責任重大になってしまったな……ジョージの為にも最善を尽くそう。これで3人。あと倍は欲しいところだが……こんな事ならばニャライを連れて来れば良かったかもしれないね」

 途方に暮れてついそんな弱音を言ったガニザニだったが、

 「では、ガニザニ殿。考え方を変えてみませぬか?」

 陣中の端に立っていた水色の水干を着た桃色の髪の青年が、遂に口を開いた。

 「成程、発想の転換という訳だね、正義せいぎ君。100%安全な作戦の遂行が難しければ、90%まで妥協を行うのも視野に入れるべき、そう君は言いたいのかな?」

 「搦め手なくしてはサカガミに被害が出る、然して搦め手は敵将と確実に戦う故、犠牲が出ない訳ではない。どのみち危険が及ぶと謂うのであれば、搦め手に流れ者でなくとも、強き者を加えればよいのです。例えば、わたくし等は如何でしょうか」

 正義はガニザニにそう言いながらも、目は旭の方へと向いていた。

 「お前に危険な橋を渡らせるとなれば、もう少し他の者共にも駒を出させるか。タンジン、良子を貸せ」

 旭は正義の方へ顔を向ける事なくそう応えて、タンジンに問い掛ける。

 「やはりそうなります、か。良子」「へえ……と言いてえところだが、少しお願いがありましてね」

 良子はそんな風に切り出すと、視線をタンジンから他所の方へと向けた。

 旭とタンジンは、良子の視線の先へと顔を向けて……。

 「え……? 私!? もう何日も戦ってへとへとなんだけど!?」

 「けっけっけ! 間者として一皮剥ける良い機会さ。あっしがびしばし、鍛えてやるよ」

 素っ頓狂な声を上げる義巴を視界に収めた。


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