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第9話「北米」

 サンダー少尉は輸送機を北米大陸の西海岸に不時着させ、真田カレンと共に姿を暗ました。彼はロサンゼルスにある自宅へ辿り着き、ベッドの上に彼女を横にした。部屋を出ると、深夜なのにリビングに灯りが付いていた。サンダー少尉がそこへ向かおうとすると、横の部屋からアンナが飛び出す。アンナが抱きつくと、彼は淡々と離れろと口にした。


「えー、お兄ちゃん冷たい!」


 アンナは赤と黒を基調としたゴシックのワンピースを着用し、ブロンドヘアを靡かせてサンダー少尉の後ろにある部屋を覗こうとする。サンダー少尉は扉を閉じるも、彼女の瞳には薄らと真田の横たわる姿が映った。


「アンナ、お前も13歳になるんだろ? そんな格好していないでもう少し……」


 サンダー少尉があしらうようにいうと、アンナはため息を吐く。


「はぁ、お兄ちゃん酷いなぁ。家政婦さんと2人きりでずーっと、お兄ちゃんのこと待っていたんだよ? それなのに女を連れ込んで帰宅って……私というものがありながら!」


 アンナは芝居がかったノリで、ハンカチを目元につける。しかし、サンダー少尉は心配することなく彼女の額にデコピンを入れる。


「いたっ」


 サンダー少尉は額を抑える彼女を抱きかかえ、自室へ戻した。


「いいから、お前は大人しく寝ろ。明日の朝、遠くへ引っ越しするんだからな」


 翌日、朝になると真田カレンは目を覚ました。部屋は、生活感にあふれた雑貨や家具が溢れていた。彼女はベッドから起き上がろうと、手をシーツに立てようとした。しかし、彼女の両腕は手錠で拘束されている。何とか立ち上がろうと、脚を床に降ろす。


「きゃっ!」


 真田は立ち上がった瞬間、脚に力が入らずその場に座り込んだ。何度か起き上がろうと試すも、失敗が続いた。


「ALSが進行したんだ」


 サンダー少尉は部屋へ入り、車椅子を持ち込んだ。彼は扉を閉め、彼女を見下ろした。


「あなたは飛行場にいた……」

「事情が変わった。今は手短に説明する」


 真田はサンダー少尉から北米連合の企みを知らされ、同時に彼の状況を聞いた。車椅子に座らされた彼女は、彼を睨みつける。


「その脚じゃ逃げれないだろうが、一応警告しておく。その腕に装着したリストバンドは、君が俺から一定距離遠ざかると電流が流れる仕組みになっている。下手な真似はせず、俺に従え。安心しろとはいわないが、アンナの手術が成功したら可能な限り君のドナーも探そう」


 真田はリストバンドをさすりながら、口を開いた。


「ふざけないで。私はそんな勝手な都合を理由に、人の命で生き長らえたくない」


 二人の間で沈黙が続き、様子見を見に来たアンナは「何しているの?」と脳にインプットしている日本語で声をかけた。彼女の姿を見た真田は、視線を反らす。


「なんでもない。さぁ、そろそろ車に行くぞ」


 サンダー少尉はアンナの背を押し、部屋から去った。残された真田はリストバンドの話を思い出し、気持ちを押し殺して車椅子を走らせる。


 真田が外へ出ると、黄色に塗装されたビートルがあった。丸みを帯びたフォルムに、彼女は少し笑いが吹き出す。


「笑うな……黙って乗れ」


 サンダー少尉は真田を見向きもせず、運転席に座った。後部座席に腰を降ろした彼女は、隣のアンナにひそひそと話かけられる。


「どう、可愛いでしょこの車。ナイトマンと同じ車なの」

「……そう」


 真田は自身の頬を叩き、顔を引き締めた。アンナは彼女のことをジロジロと眺め、太ももに手をかける。その瞬間、真田はさっと少し離れた。


「アンナ、やめなさい」


 サンダー少尉が注意すると、彼女は「何もしないよもう」と悪態をついた。


「でも、お姉ちゃん凄い綺麗! クールビューティーっていうのかな、私も大人になったらお姉ちゃんみたいになりたいなぁ」


 真田はその話を聞き、サンダー少尉から聞かされた太陽フレアの情報が頭に浮かんだ。


「私はまだ、高校生」


 ぼそっと彼女は口にした。


「あはっ、やっとお話しできた!」


 アンナは満面の笑みを、真田に向けた。


「……純」


 彼女の笑顔を見て、真田は林田と過ごした生活が頭にチラついた。真田は攫われる前、何もない一室に布団を敷いて寝ていた。彼女を起こす存在は誰もおらず、家ではいつも1人だった。すぐに家を出て、隣の林田に会うのが日常だ。真田はアンナの頭を撫で、徐に外を見た。アンナが肩に身体をもたれさせるも、反応せず移り変わる景色を眺める。ロサンゼルスの街並みは、高層のビル群が立ち並んでいた。しかし道路はゴミが散らかっており、50メートル進むと浮浪者らしき人が見える。


「とても世界を牽引する国の街並みとは思えないわね」


 真田がそういうと、サンダー少尉は話始める。


「この3年で富裕層がこの国に押し寄せたからな。彼らがいれば、北米の経済は回るんだ。わざわざ庶民を支援する必要がない」


 真田は何か言おうとするも、言葉が詰まって黙り込んだ。


「彼らをドナーにしない理由は、富裕層の中で不潔というイメージがあるからだろう。貧しい生活を強いられているんだ。あながちその考えも否定できない」


 サンダー少尉は、起伏のないトーンでそう話し終える。


「そうなのね。それで、サンダーさんも不潔だと思ったからわざわざ日本人を攫っているのかしら?」


 真田の言葉にサンダー少尉は黙り込んだ。その直後、アンナがお腹を鳴らす。


「うぅ、お腹減りました。お兄ちゃん、ホットドッグを食べたいです」


 彼女がそういうと、サンダー少尉はフードトラックの近くでブレーキをかける。車が停車すると、アンナは颯爽と飛び出てメニューの書かれた看板に走り出した。降りたサンダー少尉は窓を開け、真田に声をかける。


「君とアンナの血液型を持っている人は少ない。どこだろうと同じ型を持った人がいれば、俺は問題を感じない」


 彼がそう話すと、真田は「ふふっ」とまた笑みをこぼす。


「サンダーさん、悪人なのに素直ですね」

「……黙れ」


 彼らがロサンゼルスの街を移動し始めたその日の朝、ワシントンにあるホワイトハウスで揉め事が起きていた。大統領はオンラインの通話で、要人達へ飛行場の一件を伝える。


「大統領、事を荒立てるのは控えるようお願いしたはずだ。我々の話を聞き入れないなら、私軍を使うぞ? 時が迫れば、我々は自分でドナーを探すのに手段は選ばない。その事を頭に入れておくように」


 そう最後の1人が大統領に声を荒げて伝えると、他の要人達は通話から退室していった。そして1人の要人だけが、大統領と顔を合わせる。


「私の血はアールエイチナルだ。逃亡した軍人と共にいるその女、なんとしても連れ戻せ!」


 要人は返答を待たずに通話を切る。大統領はすぐさま軍の捜索本部に通信を取った。


「いいか、サンダー少尉は射殺しても構わない。なんとしても女の身柄を確保しろ!」

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