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第7話「リケイド」

「俺と車田さんだけ……や、やります!」


 林田は車田から受け取った注射器を握り、呼吸を整えた。車田は彼が注射する直前、腕を掴む。


「あ、もう一度言わなきゃいけねーことがある。いいか、それを体内にぶち込んだらお前もあいつらと同じ機械人間だ。それはどういうことかというと、奴らと一緒にフレアが到達したら死ぬ。それでもやるか? 今ならまだ、君の臓器を体内に戻すことができる」


 車田が指差す先には、赤い液体が流れる管があった。管は床を伝い、冷気漂うガラス瓶の中に繋がっている。管は膨張と収縮を繰り返す心臓と結合していた。それを見た林田は、頭を振ってもう一度深呼吸をする。


「大丈夫です。今まで助けられた分、まとめて返すんだ。命を懸けなきゃ釣り合わない」


 そう心を固め、林田は上腕に針を刺す。彼はドクドクと、腕から身体中へ液体が流れ込んでいく感覚を覚える。胸の中心に激しい熱さを覚え、彼は乱れた息のまま背中を丸めて蹲った。数十秒後、燃えるような熱さが消えると彼は身体を起こす。


「胸の真ん中に、丸い何かが……」


 林田は鏡を見せられ、胸の中心にある丸い出っ張りを触る。出っ張りにはさらに長方形の窪みがあった。


「そいつはUSBポートだ。今のお前は奴らと同等性能の機械人間……しかし、そこにこいつを差せば話は違う」


 車田は林田の胸にUSBを挿入する。胸から脳へ向かい、バチバチと電流が走る。肌の色がじんわりと鉄に変化していった。彼がもう一度鏡を見ると、人の形をしたロボットが映る。


「驚いたか? お前の血中や筋肉には流体合金が流れている。それとUSBで読み込んだデータを元に、形状記憶合金を利用した生態模倣が行えるようになっている。バイオミメティクスって言うんだが、まぁいいか。それには4種の生物データがあるから、必要に応じて使用してくれ」


 林田は車田の説明を聞き、ボタンにもう一度触れる。縁には4個の小さなボタンがあり、一つ押すと身体が変形した。人の形を保ったまま、頭部が鷹のようになり、両肩から翼が生える。足部や手には鉤爪があった。


「なんだこれ、背中に筋肉があるみたいだ」


 突如、林田は部屋の天井をぶち抜く。翼の筋肉を動かした瞬間、彼の身体が飛翔してしまったのだ。


「おいおい、森の中に資材持ってくるのどれくらい時間かかると思ってるんだ」


 林田は空中に浮遊しながら、車田に頭を下げた。


「すいません、他のボタンはどのような機能があるんですか?」


 頭を掻く車田は、咳き込んだ後に声を張り上げる。


「番号があるだろ? 1が飛行能力、2が防御、3が遠距離攻撃、4が近接攻撃だ。それと、これ持っていってくれ!」


 車田はイヤホンを投げ、林田に渡した。彼がそれを耳に当てると、車田の声が聞こえるようになる。


「それを装着すればお前の両目から映像をキャッチできるし、俺が指示を送れる」

「わかりました……行きます!」


 林田はそう大声を放ち、翼を羽ばたかせる。車田はイヤホンから耳を一瞬遠ざけ、ため息を吐いた。


「おい、頼むぞマジで……」


 車田の呟きに気づかず、林田は風を全身で浴びて木々の間を飛行した。しかし飛行スピードの速さに目が慣れず、速度を落とせずにいた。


「すいません車田さん! スピード落としたらぶつかりそうで怖……!」


 林田は大木に顔面から衝突し、よろよろと落ち葉の上に落ちる。


「林田君、木々より上を飛べば良かろう?」


 車田がそうアドバイスをすると、林田はペコペコと頭を下げる。彼の言葉通り、林田はもう一度翼に力を込める。周囲で落ち葉が舞い上がり、彼は枝を折りながら木々を抜けた。彼の視界には、下には無限に広がるような緑と、水平線の先にぼんやりと山の影が映る。そして彼の顔の真横を小さな鳥が通り過ぎた。


「これが空を飛ぶって感覚なんだ」


 林田はブォンと音を立て、時速300キロメートルで飛行場目掛けて進んだ。


「時速100からマッハ1まで調節できるが、300以上は直進する時だけ使ってくれ」

「はい!」


 林田は飛行場周辺で地面に降りた。車田の指示で、飛行するとレーダーに補足されると言われたからだ。


「輸送機の飛行経路を特定するなら、管制室へ行くんだ」


 車田の話を聞きながら、林田は壁伝いに巡回する兵士を見つける。


「でも、バレずに行くのは厳しいんじゃ」

「はぁ、林田君。何のためにその身体にしたと思っているだね? 3番を押しなさい」


 林田が胸のボタンを押すも、身体に目立った変化はない。もう一度3番に人差し指をかけた瞬間、彼は異変に気づく。指が筒状になっており、第一関節が僅かに膨らみを持っていた。


「押したか? それは鉄砲魚の能力を活かした空気砲になっている。指砲しほう腕砲わんほうがあるんだが、気絶させるなら指砲だ。人差し指と親指を伸ばして、他の指を畳め」


 林田は背を向ける巡回兵に向けて、指を構える。その瞬間、指筒の中に空気が吸引された。筒の壁は内側を圧迫し、空気を溝に押し込み始める。押し込まれた空気は、筒の奥にある溝に嵌る棒状の金属によって射出口目掛けて弾き飛ばされた。空気は直前の空洞を通り、急激に狭まる射出口から発射されると速度が加速する。空気の弾は構えた角度から寸分を違えることなく、敵兵の頭に直撃した。兵士は膝から崩れ落ち、うつ伏せで倒れ込んだ。


「し、死んでないよね?」


 林田は目を開いて気絶する兵士を見て、そう車田に話しかける。


「あぁ、問題ない。俺をこいつらと同じだと思うな」


 車田がそう言うのを聞き、林田は安心したように気絶した兵士の瞼を下ろす。立ち上がった彼がしばらく通路を進むと、管制室らしき部屋の前に辿り着いた。


「そこで合っている。いいか、俺が1秒だけ妨害電波を飛ばす。一瞬指示が出せなくなるが、やることはわかるだろ?」

「はい。扉を開けたら、中にいる兵士を制圧する」


 林田は、言われる前にドアノブに手をかける。


「そうだ。4番を押してみろ」


 胸の4と数字が刻まれた所にあるボタンを押すと、左腕が肥大化して太くなった。前腕から指先にかけて、ロブスターの巨大なハサミのようになっている。


「そいつは鉄砲海老の性質を模倣している。敵の1メートル範囲に入ったら、カチ合わせてみろ。よし、そろそろ電波送るぞ」


 車田がそういうと同時、ドアノブのロックが解除される。林田は室内に突入し、顔を見合わせた兵士に発砲を行った。兵士は、背後にあった操作機器にもたれかかるように倒れ込んだ。「ふぅ」と安心をする林田だが、操作機器の近くに隠れていたもう1人の兵士に襲われる。ナイフを振り下ろされ、右胸に突き刺さった。林田は死を覚悟したものの、刄が抜かれてた後に、じわじわと傷が修復されていくのを覚える。馬乗りになった兵士は首を狙い、もう一度突き刺そうとした。林田は彼の腕を掴み、ナイフの刃先が僅かに突き刺さる程度でダメージを防いだ。しかし彼は両腕と全体重を使い、刄を押し込もうとした。林田は車田に言われたことを思い出し、左腕のハサミをかち合わせる。その瞬間、パシュンとコンマ数秒程度の時間だが超音波に近い音が響いた。それに僅かに遅れ、閃光が部屋全体に広がる。驚く林田の身体へ、気絶した兵士が被さった。


「へへっ、生きてるか林田君」


 回線が回復し、車田から無線が入る。林田は被さった兵士を退かし、荒い呼吸を整えようとした。


「ハァ、ハァ。な、なんとか無事です」

「言っていなかったが、そのハサミをカチ合わせると一瞬だが、プラズマ衝撃を放つ。近くにいた者は210デシベルの、気絶する音量を聞くことになる。それと、かち合わせた直後眩い閃光が放たれるソノルミネッセンスという現象を空気中で擬似的に再現した。用途に応じて使ってくれ」


 それから数分後、林田は車田の指示を聞き輸送機の飛行経路を特定した。飛翔し、飛行場を後にしようとした彼は突然立ち止まる。彼が見下ろした先には、飛行場の滑走路があった。


「車田さん、広範囲を破壊できる武装はないんですか」


 林田がそう車田に聞いている最中、気絶された仲間を発見した兵士たちは周囲を索敵するためにジェットスーツ収納スペースへ向かっていた。彼らは一斉にその部屋を訪れ、一斉に唖然とする。


「ケースが全部、壊されてやがる」


 仕方なく彼らは上空をドローンだけに頼り、地上を捜索した。


「クソっ、どこにいやがる」


 彼らが血眼になって敵を探している中、林田は攻撃方法を教わっていた。彼は飛翔しながら両腕を結合し、大筒を形成する。


「いいか、それは決して人へ向けて撃つなよ? 破壊しなければならない対象物のみに使え」


 大筒に空気が吸引され、金属を研磨するようなキーンとした音が鳴り響く。押し込まれた空気を発射すると、周囲の大気に轟くような音と衝撃波が円状に広がった。空気弾が滑走路に直撃すると、ドカンとアスファルトを貫いて土まで貫通する。直撃した範囲から衝撃が広がり、周囲のアスファルトは雷のようなジグザグとした細かい割れ目を生み出された。


「また一から作ってみろ。何度だって壊してやる」


 林田は僅かに微笑み、その場を後にした。


「で、どうだね俺の開発したリケイドは」


 輸送機を追跡中、車田は得意気に林田へ話かける。


「リケイドって言うんですか? どういう意味なのか聞いても」

「リキッドメタル……つまり、流体金属とヒューマノイドの語尾を組み合わせてリケイドだ」

「な、なるほど」


 林田は僅かだが、ガクンと高度を落とした。


「何か文句あるのか?」

「いえ、良いと思います!」

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