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第6話「覚悟」

「実験?」


 森の中、林田は真田と共に施設の兵士から身を隠して逃亡していた。彼は真田の推測を聞かされていた。身体検査でA、B、Cと振り分けて何かしらの実験体にしようとしているのではないかという話だ。林田は真田がサンダー少尉に連れていかれた後、何をされるのかと想像を浮かべる。


「……カレン!」


 林田は真田カレンの名前を叫びながら、腕を伸ばした。しかし、掴もうとした彼女の身体は煙のようにかき消える。林田が目を開くと、辺りは棚がずらっと並ぶ廃墟のような部屋だった。


「な、なんだよこれ。もしかして、俺も北米に捕まったのか?」


 棚には円柱のガラス瓶の中に目玉や、何かしらの動物の臓器があった。心臓らしきものはドクドクと鼓動がまだ続いている。脈打つたび、それは形を三角や四角に変形していた。彼は手術台のような台から降りると、その棚の間をゆっくりと歩いた。途中自身の胸に負った傷が跡だけを残し、完治していることに気づく。胸に手を当て確認していると、さらに身体の異変を知る。


「立てている自分に驚いたか少年」


 酒瓶と缶が山積みされた場所から、そう声がした。林田は声の主を探そうと、アルコール臭漂う壁を通り過ぎる。


「やぁ、……んっぷ。調子はいいかね?」


 林田に話しかける白髪の中年は、彼を見向きもせずトポトポとフラスコに何かを注いでいた。


「日本人……ですか?」

「あぁ、俺は車田透(くるまだとある)。そしてここは、奥多摩の南にあるマッドサイエンティストのアジトだ」


 車田は鼻を赤くし、アインシュタインの写真のように舌を出した。その姿に林田は引き気味に「はぁ」と答える。お互い顔を合わせたまま沈黙が続き、車田は近くの缶ビールをグビグビと飲み干した。


「それにしても、お前さん運が良いな。俺がテストで妨害電波を出してなきゃ、今頃北米あっちに行っていたぜ」


 車田がそう言うと、林田は切迫した顔で彼へ近づいた。


「あなたが俺を助けてくれたのですか? じゃ、じゃあ俺の他にメガネをかけた女の子は見かけませんで……」


 林田が言い終わる前に、車田は首を横に振る。彼は缶ビールを潰し、山の中にそれを放り投げた。林田は車田の反応を見て、言葉を失う。


「絶望って顔しているな。足の動かねーお前を森まで運んだお嬢ちゃんは、お前の立場なら諦めたかな」


 林田は車田の言葉に反応を見せるも、すぐに顔を逸らした。


「できることなら助けたいよ。でも、俺はカレンに助けられてばかりで何もできなかった。迷惑かけないように動いても、それが空回りして余計あいつの手間を取らせた。だから、俺には何も……何も、できない」


 車田はフラスコの中の液体を注射器に注ぎ、涙を抑える林田の前に差し出した。


「俺も同じだ。娘が奴らに攫われても、何もできなかった。昨日ようやく奴らの企みに気づいたばかりだしな」

「こ、この注射器は?」


 林田がそういうと、車田は「まぁ聞きな」と返す。


「奴らは1ヶ月後に迫る太陽フレアを恐れている。北米連合国の上位層は、2100年の感染病対策で行った機械化技術を受けた。彼らの脳や心臓は、同様の機能を持つ電子機器と取り替えられた」


 林田は車田の話を遮り、ある推理を口にする。


「ちょっと待って、もしかしてですけど。日本人を攫っているのは……」


 車田は頷き、缶ビールを開ける。


「そうだ。奴らは生身の臓器をもう一度移植する為、日本人だけに限らず各国へ圧をかけてドナーを求めている」


 2人の間にまたしても沈黙が流れる。林田が何か思い詰めているのを察したように、車田は口を開く。


「奴らに同情したか?」

「いや、わからないです。誰だって生きたいと思うのは普通ですし。でも……」

「でも?」

「人の命が金で買えるなんてこと、あって良いとは思いません」


 車田は林田の頭をわしゃわしゃと掻き、ニッコリと笑った。


「ハハハ! どうやら俺も、運が回ってきたらしい。君に託して正解だったよ」

「託す? 何を言って、それにさっきから気になっていたのですけど……この注射器って何なんですか?」


 車田は不敵な笑みを浮かべ、林田の両肩に手を置いた。


「国も、警察も、家族も、誰も私たちの味方ではない。攫われた人々(彼ら)を、君のガールフレンドを助けられるのは……俺と君だけだ。少年、カレンという大切な人を救いたいなら命を懸ける覚悟を決めてほしい」


 林田は困惑しながらも、車田が手渡す注射器を見つめる。


「悪いが君の身体に改造を施した。これを体内に入れれば、もう後には戻れない。だが、助けられるばかりの君は消える」


 林田が選択を迫られた時から1時間後。太平洋上空にある輸送機の機内で、将校の声が響く。マキフ大尉が伝えた命令を聞き、サンダー少尉は唖然とする。大尉は伝え終わると、早々に立ち去ろうと動いた。


「ま、待ってくださいマキフ大尉! 今回の輸送任務が完了したら、本国に帰還してよいのでは?」


 駆け寄ったサンダー少尉に溜息を漏らし、マキフ大尉は口を開く。


「わからないのかね? 君の失態で逃亡者が一人、まだ捜索中なのだよ。自分の尻は自分で拭けとお達しがあったわけだ。安心しろ、君の妹は優先的に手術ができるよう手配する」

「優先的って……」


 サンダー少尉がそう呟くも、マキフ大尉は聞く耳を持たずにその場を去った。膝から崩れ落ちた彼は、アンナの姿を頭に浮かべる。


「報告! 何者かに飛行場を破壊されました!」

 突如、機内の全兵士に無線が繋がる。


「こちら輸送機(BEZ)、もう一度報告を求む」

「はっ! 何者かが基地へ侵入し、主要施設を壊滅されました。そして遠目ではありますが、その何者かの飛行進路を確認したところ、そちらと……」


 無線の報告が終わる直前、新たな者から発信が行われる。


「正体不明の未確認飛行物体が一機、こちらに接近中! どの国の機体データとも一致しません!」


 サンダー少尉は立ち上がり、扉を強く開けた。


「ったく、次から次へと邪魔が入る。砲兵、自動迎撃システムを作動させろ!」


 指示先の兵士は、赤いボタンを覆う透明なプラスチックの蓋を外した。ボタンを押下すると、円を描いて波打つレーダーの内側がグレーに変化する。円外から接近する白い物体が内側に侵入すると同時、噴出音が響く。レーダー内で一発のミサイルが目標に高速で近づいた。ミサイルは途中、小型の4つに分裂した。小型ミサイルが左右上下から物体に迫り、目標直前でレーダーから消滅する。激しい爆発音と煙が空中に広がると、サンダー少尉は砲兵へ処理したのかと確認をとる。


「なんだと! 迎撃できなかったのか! 仕方ない、ミサイルの有効射程圏を越えてきた以上こちらで対応する。幸い、奴の速度は低下したからな」


 サンダー少尉は部下を数名引き連れ、ジェットスーツを着用して機外へ飛び出る。コンタクトレンズに目標の位置が表示され、彼らは爆発の煙が広がる空域へ向かった。


「待て、奴が飛び出るのを狙え」


 サンダー少尉は部下に指示し、黒い煙の外で目標を待ち構える。刻刻と彼らに近づく物体は、ついに頭部から姿を現した。白銀の羽を羽ばたかせるそれは、鋼鉄のマスクをしている。琥珀色の結膜と黒い瞳を宿し、鷹のような頭部と四肢を持った人型の機械。


「破損した翼が再生している!? 奴も血中にナノマシンを入れているというのか」

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