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第4話「身体検査

 長方形の車体の前方、ライトで明るくなる景色は草や木々ばかりだった。暗い視界の中、バスは緩やかな斜面を走行している。林田と真田は窓に顔を近づけて数分後、運転手へ話しかけた。


「あの、このバスは一体どこへ……!?」


 林田が運転手にそう声をかけた瞬間だった。突如木々が見えなくなり、数キロ前方に端が見えないほどの巨大な施設が現れる。入口へ向かう道沿いには監視塔が設置されており、サーチライトが当たりを一定の間隔で旋回している。


「先ほどおっしゃった通り、北米連合の特殊飛行場行きでございます」


 運転手が説明を終えた直後、フェンスゲートが左右へ自動で開いた。バスが入口を抜けて僅かに揺れるも、林田と真田はそれに反応をしない。巨大な倉庫のような建造物がいくつも連なる光景に目を奪われていたのだ。2人がキョロキョロと飛行場内を見渡していると、遠くにある滑走路へ旅客機が着陸する動きを見せる。その機体の両翼中央にある、捻じれた2枚羽のプロペラは残像を残すほどの速さで回転していた。プロペラの推力で垂直に着陸を終え、機体からぞろぞろと兵士が降りる。


「純、北米の怪しい噂は本当かもしれない。危なくなったらいつでも帰ろう?」


 真田は運転手にバレないよう、林田の耳元で小さく話しかけた。着陸した機体に気を取られていた林田は、彼女のささやき声に身体を振るわせる。


「ふぇっ、あっ……うん」


 林田がそう反射的に頷くと、真田はむすっと眉をしかめた。


「話聞いていたのかしら? はぁ、これだから純は……」

「な、なんだよ……」

「いいわ、私が何かあったら教えるから。ほら、バスも停車したし行くわよ」


 バスターミナルに停車したバスからは、林田たち以外の日本人も降りてきていた。彼らと共に林田は北米軍の軍人に案内され、ある施設の自動ドアをくぐる。エントランスの一階には噴水があり、その左右にはさらに奥へ進むエスカレーターが設置されていた。林田と真田は噴水前の広場で待機させられ、他の人たちと共にその場に立ち続ける。数分経過後、噴水の上にある2階のフロアから左胸に勲章を付けた軍人が現れた。彼はガラス張りの手すりに片手をかけ、唐突に話始める。


「えー、この飛行場の副管理人を務める……サンダー・ウォルフです。遠い所、わざわざご苦労をおかけしました」


 サンダー少尉は一階の広間から見上げる日本人を見渡し、話を続ける。


「ねぇ、あの人かっこよくない?」


 彼が話始めると、林田たちの背後で密かに女性同士の会話が行われる。金色の髪と碧い眼、そして端正な顔立ちのサンダー少尉は日本人とはかけ離れた見かけをしていた。


「メールでもお話した通り、皆様にはこれより北米にて機械化技術を無償で提供させていただきます。各国にさらに広くこの技術を認知していただくため、未来ある若者の皆様にご協力いただいております。機械化技術を施せば、必要な情報を即座に脳内にUSBにてインプットが可能です。また、血中を巡る小さなナノマシンチップによって怪我や病気を即座に修復致します……」


 サンダー少尉は一通り説明を終えると、両手を広げる。


「最後に渡米していただく前に皆様にやっていただかなければならないことがあります。それは身体検査です。身体検査といっても貴金属を調べるわけではなく、皆様の健康状態を確認したいのです。そのデータを北米に送れば、皆様があちらに着く頃には、個々人にあった適切な手術が可能となります」


 彼がそういうと、一階で壁際に立哨していた兵士たちがエスカレーターの方へと案内を始める。案内の順番は年齢順に行われ、林田は真田がエスカレーターでさらに奥の通路へ移動するのを見届けた。案内が始まって早々、2階にいたサンダー少尉はガラス張りの手すりから姿を消した。


 サンダー少尉は2階のフロアを移動し、ある室内へと入っていった。彼が部屋の窓際に立つと、下のフロアではエスカレーターで移動させられた人たちが検査を受けている。彼らは貴金属検査をするようなゲートをくぐらされ、首からアルファベットのAからCのどれかを割り振られたプレートを下げられた。そのアルファベットの下にはQRコードが刻印されており、次の検査を受け終えるとデータが書き加えられる。検査の流れを見届けるサンダー少尉の元へ、枯れた声の軍人が声をかける。


「……マキフ大尉」


 サンダー少尉が敬礼すると、マキフ大尉と呼ばれる中年の男は片手に持つコーヒーを差し出す。彼がそれを受け取ると、マキフ大尉は手元のコーヒーに口を付けた。


「サンダー少尉、君の手際は実に見事だ。おかげでスムーズにⅤIPに健康な身体を送ることができた」


マキフ大尉がそういうと、サンダー少尉は顔を曇らせる。


「勝手に国にきて、勝手に機械化して、今度は人の命を代償に元に戻ろうとするなんて。人間は自分勝手な生き物ですね」


 サンダー少尉の言葉を聞き、マキフ大尉は「ハハハ」と高笑いした。


「少尉、それを君がいうかね? まぁ、自身の身を犠牲にする覚悟は立派だが」


 マキフ大尉がコーヒーを飲み終えると、部屋の入口から兵士が入る。彼は敬礼をし、マキフ大尉とアイコンタクトをした。


「サンダー少尉、君の本作戦への貢献度の大きさを評価する。よって、君が望んでいたプレゼントが舞い込んだ。さぁ、受け取りたまえ」


 兵士は電子パネルを表示し、検査した日本人の顔写真を映した。写真には真田カレンと名前が書かれ、血液型等の身体データが表示されている。


「アールエイチナル……黄金の血がまさか見つかるなんて。……アンナ!」


 サンダー少尉はコーヒーを兵士に渡し、真田カレンのネームプレートに組み込まれたセンサーの場所へ向かった。


 サンダー少尉がマキフ大尉と会話を行う数分前、真田は検査を終えていた。彼女は頬を染め、立哨する兵士に声をかける。


「すいません、トイレって行っても」


 真田が言い終わる前に察したのか、兵士は横にある通路を差した。


「全員の検査が終わり次第、皆様には航空機へ搭乗していただきます。それまでにはお戻りください」


 兵士に頭を下げ、真田は小走りでその通路の方へ歩いた。


「ふぅ……こんな長い検査を受けるなんて聞いてないわ」


 真田は便座から腰を上げ、パンツとズボンを履き直す。手洗い場にある鏡を見て、彼女は前髪を整えた。


「このネームプレート……まるで家畜ね」


 真田がそう呟いた直後、彼女の指先に痺れが走った。


「ALS……初期症状は手足のしびれ。なんだかこの施設きな臭いし、純と帰った方がよさそう。……けど、そうしたら私」

「なんでですか!」


 真田が鏡の自分をじっと見つめていると、トイレを出たすぐの通路から声が響いた。彼女はトイレの出口で身を潜め、薄っすらと通路を見る。すると、兵士と検査を受けた日本人が口論を繰り広げていた。


「なんども言っている通り、機械化技術を受けていただく前にご帰宅はできません」

「はぁ!? 帰っちゃダメなんてメールにも、さっきの説明した男も言ってないだろ!」


 男が軍人の胸倉を掴んで声を荒げると、兵士は「了解です」と誰かと通信をとる。兵士が男の脇腹に人差し指を当てると、彼の身体は激しく痙攣した。床に倒れ込み意識を失った男を、兵士は担ぎ上げて通路の角へと消える。


「な、なんてことを……早く純に伝えな……!?」


 真田がトイレから飛び出ると、真横にはサンダー少尉が立っていた。


「真田カレンさん、あなたを探していました」


 鼓動を早める真田は平静を装い、数秒置いて返事をした。


「な、なんでしょうか?」




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