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第26話「親子の再会」

 丸みを帯びた長方形の窓から外を覗くと、一面に青空が広がっていた。水平線の境目まで続いている。少し窓を見下ろす角度で見ると、薄い雲が地上を覆い隠していた。車田秋はため息を吐き、顔を窓から遠ざける。彼女が機内を見渡すと、そこら中で喋り声が鳴り止まない。


「お母さん、待っててね!」

「颯太! あなた、颯太が生きてたわよ!」


 ホログラム画面を通して、家族と通話していた。彼らは泣いたり笑ったりと、忙しなく喋る。秋は彼らの姿を見て、懐から手紙を取り出す。彼女の頭に、林田から手渡された記憶が浮かぶ。


「秋さん、日本に着いたらここ書かれた女性に渡してあげてください」

「あぁ、わかった」


 その光景がフラッシュバックし、秋は手紙の中身を読む。そこにはプロポーズの文章に二重線が引かれていた。そして新たに付け加えられた文にはこう書かれている。


「君に出会えてよかった……か」


 秋がそう呟くと、飛行機は滑走路へ着陸し始める。空港の建物内から滑走路を俯瞰できる広間には、無数の人だかりが出来ていた。彼らは機内から気付かれないと知りながらも、着陸する機体に手を振り続けた。

 秋は空港の搭乗待合室を抜け、ターミナルへ着いた。すると、彼女の肩を押しのけて大勢の人が走り出す。彼女は人だかりの中にポツンと立ち尽くし、彼らがターミナルで待つ家族と抱き合うのをじっと傍観していた。


「ふん……よかったな」


 秋はそう呟き、ターミナルから散っていく人々を見送った。数分後、彼女の前には泣き崩れる人々が残る。


「そんな……ウチの子はどこなの!」


 そう叫ぶ母親らしき女性は、隣の男性の胸に寄りかかっていた。そんな悲嘆に暮れる人々の横を、秋は歩いた。そんな中、彼女は若い女性の真横で足を止める。女性がロマで死亡した男の名前を呟いたのだ。


「美玲さんですか?」


 荒っぽい口調の秋は、いつになく畏まった口調でそう声をかける。

女性は気づかないほどショックを受けているのか、他の人同様にそれどころではない状態だ。秋はそっと彼女の横に座り込み、肩に優しく手を置いた。やっと彼女の存在を認識したのか、女性は「なんですか?」と声だけで反応する。秋は彼女の手の平を開けさせ、そこに手紙を置いた。


「きっといい夫婦になれたと思います」


 秋はそういって立ち上がり、彼女から離れる。


「待ってください!」


 女性は、数歩離れた先にいる秋を呼びかけた。手紙は畳まれた状態から開かれており、女性は読んだ形跡が明らかだった。秋が振り返ると、彼女は笑顔で話しかける。拭き取った涙が、瞼から少し漏れながら。


「ありがとうございます! ずっとこの手紙、私に届けるために大切に持っていてくれたのですよね。本当に……ありがとう」


 震えた声でそう伝え、女性は秋の手を握る。


「あなたの家族は?」


 秋は女性に見つめられ、目を反らした。


「はい……1人父親が」


 そう小さくいうと、女性は握る力を少し強める。

「そうですか。それなら、きっとあなたのこと待っていますね。それじゃ、お元気で」


 そう言い残し、女性は去っていった。秋はだだっ広いターミナルの一角で、ポツンと一人で立ち尽くす。

「あのプライドの高い親父がそんなことするかよ。どうせ嫌味をいうだけで……!?」


 再び歩き出そうとしたその時、秋を背後から抱きしめる何者かが現れる。彼女は咄嗟に後頭部を背後に傾け、何者かの鼻先にぶつけた。痛がる男の声を聞きながら、彼女は身体を声の主の方へ向ける。


「いたたっ……・強くなったな。俺が否定した格闘技を、あっちでも続けていたんだな」


 そう髭を生やした中年男性はいう。


「パっ……親父、どうしてここに」


 秋は動揺しながらも、鼻を抑える車田透の姿を瞳に捉えた。彼女は近づいてくる父親を前に、一時停止したように硬直していた。そんな彼女を、彼は正面から抱きしめる。


「会いたかった! 秋、俺が……俺が悪かった。お前のやりたいことを叱ったばっかりに……すまん!」


 そう耳元で話す父親の温もりを感じ、秋はポロポロと雫を落とした。


「俺も勝手に家出してごめん……パパ」


 秋は迷いながらも、父親に抱き返した。

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