第24話「乱戦」
林田はサンダー少尉に話を聞かされ、顔に影を作る。
「そんな……カレンの症状がそこまで進行していたなんて……」
彼が困惑している中、サンダー少尉は躊躇なく発砲した。再び足元に弾痕ができると、彼はゆっくりと顔を見上げる。
「おい、グズグズしてんじゃねぇよ。この先に1秒でも長く、行かせねーって言っているんだ。そこでじっとしてる時間、惜しいと思わねぇのか?」
サンダー少尉が煽ると、林田は目つきを変える。
「わかったよ……でも、手加減できないから!」
林田は腕を砲口に変え、広間に轟音を響かせる。サンダー少尉は着弾と同時に吹き飛び、壁に衝突した。腹部と背に強い力を浴び、彼は「かはっ」と咳を飛ばす。しかしすぐさま立ち直り、壁を盾に銃弾を数発放った。彼の弾丸は林田の足元に直撃する。
「ふっ、威力が落ちているようだな」
膝をつく林田へ、サンダー少尉は言い放った。彼も物陰に隠れ、弾丸から身を守る。脚が回復している間、サンダー少尉は銃声を響かせる。
「どこへ撃って……!?」
物陰へ弾丸が直撃した感覚がなく、林田は違和感を覚える。彼の銃声が鳴るたび、頭上に弾けるような音が聞こえた。上を向くと、ダクトに繋がる管が破損していた。それに気づいた林田は、咄嗟に物陰を飛び出す。その瞬間、管に弾丸が飛ぶ。完全に切断されたダクトは、林田が元いた場所へ落下した。弾けた破片が彼の頬を切り、凄まじい衝撃だったことを示している。彼が物陰を出ると、修復した膝を再び撃ち抜かれた。糸の壁を展開するも、繊維にヒビが入る。林田は糸の壁の後ろからさらに後退し、広間から遠のいた。広間の入口まで逃げた林田は、床に拳を叩きつける。
「サンダー! 君は諦めたんじゃないのか?」
彼がそう声を荒げると、サンダー少尉は壁へ銃弾を当てる。
「目の前に垂らされた糸を、君は握らずに入れるのか!」
サンダー少尉がそう言うと、林田の背後から物音が次第に増していった。彼が通路の角に目を凝らすと、人ではない丸太のような鉄の脚部が現れる。林田の前には、ジャガーノートを纏った兵士が数人いた。彼らは両腕に火炎放射器を備えており、彼が戦闘した型と同機種であることがわかる。
「管制室、こちらターゲット捕捉しました」
先頭の兵士がそう通信を取ると、背後にいた仲間が腕を上げる。
「……!? そんな、こんなにいるなんて」
林田は飛行モードに変化し、火炎の放射範囲を逃れる。彼は危機一髪で回避するも、火が片翼に広がった。片翼が燃え尽き、不安定になった林田は空中から墜とされた。彼に迫るジャガーノートは、一斉に放射器を向ける。
「忘れたのか林田純」
目を瞑る林田の耳に、銃声が鳴り響く。彼の目の前にいた兵士らは、額に風穴を開けられていた。彼が音の主の方へ振り向くと、サンダー少尉が銃口をこちらに構えていた。
「落ちているだろそこらに。お前も撃て!」
サンダー少尉にそう言われ、林田は周囲の床を見渡した。彼の周りには先ほど倒された兵士らの銃火器が散らばっている。小銃を手に取るも、林田はそれをじっと見たまま動けずいた。
「何もたもたしているんだ! いいか、犠牲なくして大切な者は守れないんだ。お前のその身体もそうだろ!」
林田は彼の言葉を聞き、さらに迫る遠くのジャガーノート部隊に照準を合わせた。震える腕を抑えるため、彼は片手でそれを支える。
「カレンを救うために、俺は……俺は!」
彼が重い引き金を引くと、ジャガーノートのヘルメットに小さな穴が空く。その穴から血がぽとぽとと垂れると、一人の兵士が倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……殺った。俺が一人殺ったんだ……この手で」
過呼吸になる林田は、放射器を構える敵に隙を見せた。
「まだだ!」
林田を急かすように、サンダー少尉は叫んだ。我に返った林田は、唇を嚙み締める。
「来るなら……来るなら撃つ!」
彼は狙いを定め、サンダー少尉と共に敵兵に連射を開始した。彼らは銃撃を浴びるが、重装備により重い足取りで動く。バタバタと死体の山が築かれ、一瞬にして彼の手は血に塗れた。完全に周囲が静まり返ると、林田の目の前には血の跡が壁や床にこべりつく。
「これで仲間だな」
サンダー少尉は躊躇なく手榴弾を放り込み、林田を爆風で吹き飛ばした。彼の背後の壁が破壊され、そこに押し込められるように彼は身を飛ばされる。
「クソっ……油断した」
立ち上がろうとする林田だが、膝から下を完全に欠損してしまう。回復の修復が限界にきているのか、足元は元に戻らないでいた。暗い部屋の中、彼は這いつくばって光の方へ向かう。
「今、何分経過したんだろう。この状態で、あの男を倒せるのか」
林田が手を伸ばすと、車輪のようなものが指先に触れる。彼がそれをベタベタと触ると、4本のパイプが車輪の上へ延びていた。
「これは……車椅子? そうか、脚が動かない収容された人を運ぶためか。思えば、脚を治したくて飛行場に行ったせいで」
林田は車椅子だと気づくと、カレンに追い付かれないよう速度を上げて逃げたことを思い出す。彼は腕の力だけで椅子によじ登り、腰を付けた。肘掛けに手を置くと、ボタンが配置されている。その一つを押すと、車椅子の車輪と肘掛けが青く光りだす。光りだしてから他のボタンをタッチすると、前後左右に車体が動いた。左の肘掛けにあるギアを捻ると、移動速度が上昇する。林田は操作確認を終えると、自身の手をじっと眺めた。
「この汚れた手でも、カレンを助けたい。俺はその為に、力を手に入れたんだ」
林田はギアをフルスロットルに回し、破壊された壁から飛び出した。直後、左腕を後ろに突き出して空気弾を放つ。加速した車椅子は、一方向からの力によってコマのように回転した。ジグザグに高速で動く林田は、足元や頬に銃弾を掠める。
「まだ来るのか……流石だ!」
サンダー少尉は片手で銃声を響かせ、もう片方の手で手榴弾のピンを抜いた。彼は接近する林田を捉え、予測したポイントへ投擲する。林田は彼が投げたのを察すると、車椅子の脚を伸長させた。2メートルほど伸びた脚は、爆撃によって破壊される。椅子から放り出された林田は、上空から空気弾を数発撃ち込んだ。隙を見せたサンダー少尉は、3発の衝撃を身に受ける。最初の真下に向かう衝撃により、彼は数10倍の重力を感じたようになった。2発目は彼の背中を強く叩き、僅かに足先を浮かせる。そして最後の弾丸は、浮いた身体を数メートル遠くへ吹き飛ばした。
「クソっ……時間は稼がせてもらう!」
サンダー少尉は吹き飛ばされながらも、身体を反転させる。飛行する林田の羽と脚を再び撃ち抜き、墜落させる。彼は、カチカチと弾が飛ばなくなった拳銃を手から手放した。
「あぁ、アンナ……俺はお前と……」
サンダー少尉はゆっくりと床を這い、遠のく林田を眺めた。




