第22話「辛勝」
「飛行場の破壊、ⅤIPハウス襲撃から護送車の警備強化を命じられた。まさか、本当に鷹の男に出会うとは思わなかったよ」
パワードスーツを纏った男は、逃げ惑う林田へ広範囲に広がる火炎を放った。林田は炎の放射を回避し、指を砲身に切り替える。その筒から高速で放たれた空気の弾は、容易に男の頭部へ命中した。林田は彼が気絶することを確信するが、即座に違和感を感じ取る。男は首を僅かにのけぞらせるも、平然と態勢を立て直した。
「悪いが、君の攻撃は対策済みだ」
男はそう呟き、ゆっくりと林田へ接近する。林田は後ずさりしながらも、右腕を筒にした。
「気絶が効かない……それなら!」
ボンと空気が弾ける音が響くと、林田の腕は反動で上下に揺れる。その瞬間、パワードスーツの胴体に衝撃が伝わった。彼の身体は何かに押し飛ばされるように、数メートル後退する。しかし彼の脚部から地面に向かってスラスターが噴出され、吹き飛び勢いを減速させていった。男はスラスターを使用して身体を旋回させ、何事もなかったように武器を構える。
「空気弾がどれも効かないなんて……じゃあ接近するしか」
林田がそう呟いた直後、火柱が頬を掠める。焦げる頬からは煙が立ち上った。彼は震えた顔を叩き、気合を入れ直す。糸の壁を前方に広げ、彼は腕を後ろへ動かした。空気砲の威力を脚力に加え、高速で移動する。男は林田の接近に対し、冷静に糸の壁へ炎を放射した。糸の隙間を縫って炎が通り抜けるも、勢いを相殺されて減速する。赤く熱せられた糸は、時を待たずに今度は冷風を浴びた。男はパワードスーツの腰に装着された2本の長筒を持ち上げ、そこから冷風を火炎放射と同じ容量で放出していた。急激に温度を下げる糸を確認し、男はスラスターを噴射して突撃を行う。
「……!?」
突撃した男が拳を突き出すと、弾丸を頑なに通さなかった糸の壁はガラスのように砕け散った。林田は男に接近しながらも、それを見て足取りを鈍らせる。男は構わず、壁の奥にいる林田へ腕を伸ばした。
「でも、近づいてくれたのは好都合だ!」
林田は男の腕を掴み、もう片方の鋏に変形した手を突き出す。男の顔面近くでそれをカチ合わせると、閃光が発せられる。動きを止めた男の様子に、林田はほっと息を吐く。しかし林田の拘束する手を振り切り、男は首元に腕を伸ばす。咄嗟の動きに反応できず、林田は首元を締められる。
「対策済みなんだよ。わからない奴だ。まぁ、どちらにせよ変わらんが」
男は0距離から炎を放射し、林田の頭部を燃やし尽くす。彼の頭が灰に、ようやく炎は消えた。彼は動かなくなった林田の身体を投げ捨てる。
「いくら修復するとはいえ、俺らと同じく頭部を破損すれば生きていれまい」
男はそう言い残し、通信を開こうとした。しかし、彼の背後で物音が小さく響く。振り返った彼は、頭部から漏れる液状の金属に目を釘付けにされた。
「な、なんだこれは。俺らと同じナノマシンを血中に注入しているわけでは無いのか? まさか、流体金属を」
林田は150センチほどにサイズを縮めるも、頭部を元通りにしていた。男は驚きながらも、すぐさま攻撃を再開する。
「まさか頭を破壊しても生きてるとはな。だが、背が縮んだのを見るに限界があるんだろ?」
男は不敵に笑みを見せ、両腕で林田の退路を塞ぐように炎を射出した。両側面から迫る炎の壁を見て、林田は足を加速させる。大きな岩石の裏へ隠れ、炎の攻撃をギリギリで回避した。しかし、依然として左右に炎の壁が形成されている。
「逃げるのも、接近するのも……ダメか」
林田は迫るパワードスーツの男を前に、手をあぐねた。翼が回復するも、彼は飛翔はしない。
「半減した速度で飛んでも、奴の射程から逃れられない。クソっ、この岩の裏には敵がいるって分かってるのに」
林田は背後にある岩を拳で叩き、「クソっ!」と吐き捨てる。その瞬間、彼はふと岩の大きさを測った。
「そうだ、威力が落ちているならあれが使えるかも」
彼はそう言って、両腕を揃えて突き出す。銃口を岩壁へ密着させ、深呼吸をした。
「これは人に向けて撃ってはいけない。けど、今のこれなら大丈夫……なはず!」
林田はそう頭で思い、腕の先から衝撃波を放った。それと同時、人力ではとても動くとは思えない岩石はサッカーボールのように空へ飛び出した。男は回避しようとするも、逃げきれずに岩石へ押される形で吹き飛んだ。
「なんだこれは!」
パワードスーツの男は岩石によって壁へ押し込まれ、身動きを取れなくされていた。
「ぴくりとも動けない。早く応援に来てもらわねば……」
林田はようやく安心し、横に倒れる。寝転んだ彼の顔の先には、車が放置されていた。彼は「はっ」と、すぐさま立ち上がる。よたよたと歩き、車の後部に着く。
「……カレン!」
車内に入ると、ストレッチャーの上に見知らぬ成人男性が横たわっていた。
「カレンじゃ……ない。そうか、まだ施設に。ごめんなさい、後で必ず」
林田は修復した翼を広げ、施設へ向けて羽ばたいた。
彼が東棟のゲートに降り立つと、既に兵士らは倒れていた。
「サンダーと秋さんがやったのか」
林田は倒れ込む兵士らの死体を頼りに、通路を駆ける。しばらくすると、通路を抜けて大きな広間に入った。彼はどの道を行けばいいかと迷い、数秒その場に立ち尽くした。その瞬間、彼の足元に銃弾が撃たれる。銃声が響く方へ彼が振り向くと、そこにはサンダー少尉がいた。
「最後の勝負だ……林田純」




