第19話「包囲突破」
銀行前の道路一帯は、米軍の包囲によって車の長い渋滞が出来ていた。渋滞によって車から降りた人々により、道はより騒がしさを増した。彼らは銀行強盗で噂を立てていたが、今度は北米軍が注目している林田らに話題を移す。
「おい、強盗倒した兄ちゃんらが何で軍に狙われてんだ?」
「わからねぇけど、ただごとじゃねぇな」
彼らの話をよそに、林田とサンダー少尉は銃口を向けられていた。ヒヤリと汗を垂らし、薄らと苦笑する。
「なぁ、これどうするばいいの?」
林田がそういうと、サンダー少尉は舌打ちする。
「知らん。突破する以外に方法はない。アンナ、お前は1人でも行けるはずだ。さぁ、後で俺らと合流しよう」
彼は地図を手渡し、カンザス方面へ向かう街のはずれを指した。不安げなアンナは、地図を受け取るも動けないでいる。
「お兄ちゃんは大丈夫なの?」
サンダー少尉はアンナの頭を撫で、「あぁ」と答える。彼は銃倉を装填し、林田の隣に立つ。
「敵を無傷で済ませるなんて、甘いことはできないからな?」
「わ、わかった」
林田が右腕の先を蕾状に変形させると、道を塞ぐ北米軍は発砲を始める。無数の轟く銃声と共に、弾丸が放たれた。蕾は射出されると、数メートル前方で蜘蛛の糸のように空中で広がる。細かい糸の壁に北米軍の弾丸が接触する度、火花が周囲に飛び散った。
「左右に撃つから、合わせて!」
サンダー少尉はジェットスーツのエンジンを駆動させ、火花巻き散る壁から飛び出した。それに合わせ、林田は蕾を連射する。蕾が銃弾を防ぎ、その度にサンダー少尉は左右へ軌道をずらした。
「隊長、弾が通りません!」
北米軍の誰かは、迫るサンダー少尉へ脅威を感じた。彼らはグレネードランチャーへ武器を切り替え、突進してくるサンダー少尉へ浴びせる。爆発が起こるも、彼は気にせず煙を纏い飛行を継続した。躊躇のない突撃に、銃弾を浴びせていた北米軍の数人は銃口を震えさせる。
「来るぞ!」
北米軍の頭上へ到達したサンダー少尉は、衣服を脱ぎ捨てる。彼が背後にいると錯覚した兵士らは、衣服を蜂の巣に撃ち抜いた。リロード中の兵士は、目前に降り立ったサンダー少尉に驚きを隠せずいた。
「こ、殺せ!」
サンダー少尉は引き金を引こうとした兵士の腹部と頭部に銃弾を撃ち込み、外したジェットスーツを彼に取り付ける。彼は倒した敵から奪い取った小銃を乱射し、周囲の敵を沈黙させた。
「はは、アンナが見てなくてよかった」
兵士に無数の手榴弾をとりつけ、サンダー少尉は駆けつける小隊へジェットスーツを飛ばした。
「あれは……撃て! 撃ち落とせ!」
仲間と気づいた一人は、隊長の命令の従えずいた。
「しかし、あれは我が軍の」
突撃した死体は、彼らを巻き込んで激しい爆音と爆炎を上げた。一瞬にしてサンダー少尉の周りは、敵が喪失する。その様子を見た他の兵士らは、硬直して動けずいた。
「あれが雷鳴のウォルフ……」
「感心するな! 早く構えろ!」
兵士らは隊長らの怒号を受け、目を覚ましたように小銃を突き出した。彼らが攻撃を再会しようとした直前、眩い閃光が放たれる。瞳にそれが映ると同時、眠るようにバタバタと兵士は倒れ込んでいった。倒れ込んだ兵士の近くにいた者は、光の正体を捉える。彼らの前に立つそれは、鷹のような頭部をしていながら甲殻類のような腕を持っていた。
「くっ、奥多摩の飛行場を破壊した奴か。サンダー少尉と結託していたとは」
林田は空気弾を撃ち込み、遠くから射撃してくる兵士を気絶させていった。彼は銃弾を浴び、身体の一部を修復しながら応戦していく。
「何を手間取っているんだ?」
サンダー少尉は林田を背後から狙う兵士を射殺する。彼は背後で倒れ込む兵士に気づき、拳銃を構えるサンダー少尉を見つけた。
「忘れていた。俺がやらなきゃ人が死ぬんだ」
林田は腕砲を放ち、兵士らを吹き飛ばす。吹き飛んだ兵士の下敷きになった者たちは、小銃を拾い上げる。彼らが正面を向くと、網のような糸が覆いかぶさった。
「なんだこれ、解けないぞ!」
混乱する彼らへ迫り、林田は鋏をかち合せる。眩い光を受け、彼らは気絶した。彼は「ふぅ」と息を吐き、周囲を見渡す。彼の周りは気絶した兵士と、血を流して倒れる死体が散乱していた。その光景の異様さに呆気にとられるも、彼は頬を叩いて気持ちを引き締める。
「いちいち感傷に浸るな。見ろよあれ」
サンダー少尉は彼へ接近し、指を差した。遠くから途切れることなく北米軍が押し寄せる。また、空中に浮遊するジェットスーツ部隊も数十人と彼らの元へ向かっていた。
「情報を拡散した俺らの事、何としてでも始末したいらしい。薄っすらとだが、遠くでキャスターらが連行されているのが見えた」
彼はそう説明し、再び弾を込める。
「突破できるの……これ」
林田がそういうと、サンダー少尉はビルに目を向ける。
「あのビルを破壊して、道を物理的に塞げばいい。そうすりゃ、地上部隊は追ってこれない」
彼の話を聞き、林田はすぐさま首を横に振る。
「ダメだ。あの中に何人いると思っているんだ!」
「お前が招いた騒ぎだからな?」
「……」
林田は黙り込むも、間を置いて口を開ける。
「じゃあ、二手に別れて敵を分散……とかは?」
彼がそう伝えた直後、背後から10秒ほど途切れることなく低い金属音が鳴り響く。分厚い弾丸の雨は、空中にいる兵士の身体を木っ端微塵に吹き飛ばしていった。音は段々と林田らに近づいていた。
「あれは、秋さん!?」
林田の目に飛び込んできたのは、モンスタートラックと呼ばれる巨大なタイヤを備えた車両だった。トラックの荷台にはミニガンが搭載されており、秋がそれを操縦している。空の薬莢がジャラジャラと荷台や道路に撒き散らされ、その度に空中にいる兵士が吹き飛んだ。10秒が経過するとカラカラという音が鳴り、弾が発射されなくなる。彼女はトラックの荷台から林田を見下ろした。
「イキって飛び出したわりには、散々な結果だな」
秋はサングラスを外し、口角を片方だけ吊り上げた。
「なんで秋さんがここに」
林田がそう話かけると、サンダー少尉は銃を構える。腕で射線を塞ぎ、彼は敵ではないことを伝えた。
「俺も地味な活動にはうんざりしてたんだ。だからよ、お前の力になってやる」
彼女の背後からは無数のモンスタートラックが現れ、ロマの人々がそれに搭乗していた。彼らは林田らを抜き去り、前方にいる北米軍に猛攻を開始する。林田は秋の手を掴み、トラックの荷台へ上った。サンダー少尉は彼に続き、車の側面のとっかかりを使って上へよじ登る。2人が荷台に着くと、秋はジェットスーツを装着していた。
「さぁ、カンザスへ行くぞ」
彼女がそういうと、林田は手を掴んだ。
「ちょっと、君の仲間は?」
林田が彼女を引き留めている間、サンダー少尉は置いてあったもう一つのケースを奪う。
「悪いが、これは借りていく」
サンダー少尉はジェットスーツを装備し、カンザス方面へ去っていった。
「問題ない……わけではない。だが、彼らが抑えなければここを脱出できない。安心しろ、逃走ルートはいくつか確保している」
交戦で肩を撃ち抜かれる彼女の仲間を見て、林田は顔を暗くした。秋は落ち込む彼の胸に、ドンと拳を当てる。
「お前が銀行強盗を倒したのは、さっきニュースで見た。馬鹿なことしたと思ってるんだろ?」
林田は秋の言葉に何も返せず、視線を外した。
「確かに馬鹿だが、それはお前の信念だ。だからな、こんなことで挫けるなよな。中途半端な奴が、この先を乗り越えられると思うのか?」
林田は目を閉じ、彼女からくらった胸の痛みを感じ取った。
「ありがとうございます。秋さん、一緒に皆を助けましょう!」
彼がそういうと、秋はニシシと笑みをこぼす。




