第18話「銀行強盗」
廃墟の中、林田とサンダー少尉はアンナを挟んで壁際に座り込んだ。お互い顔を見合わせず、遠くを見ていた。アンナは気まずそうに、2人の顔を交互にチラ見する。
「仕方ないな、休戦といこう」
「いやです」
林田が即答すると、空気はまた静まり返る。
「……そうか」
サンダーは乾いた声色で呟いた。間に座るアンナは、ぷくっと頬を膨らませて立ち上がる。
「もー! 2人がどういう関係か知らないけどさ! 真田お姉ちゃん助けなくていいの!」
アンナはフリルと髪を揺らし、苛立ちを露わにした。林田は彼女の言葉を聞き、我に返ったように表序を変化させる。
「君は彼がカレンをどうするか知らないようだね。でも、時間がないのは確かだ」
立ち上がった林田は、手を差し出した。「ふっ」と鼻で笑うサンダー少尉は、応えるように握手を交わす。
「いっとくが、お前と協力するのはカレンを見つけるまでだ」
「あぁそれで構わない」
3人は路地裏を出て、街の中を歩いた。林田とサンダー少尉はコートとハットを被り、顔を隠している。アンナはふいにサンダー少尉の手を握り、声をかける。
「お兄ちゃん、さっき林田さんがいってたことって何? お姉ちゃん助けたら、どうするの?」
不安な表情でいうと、サンダー少尉は顔を合わせず答える。
「今は考えなくていい」
アンナは彼の手から離れ、前を塞いだ。意表を突かれたサンダー少尉は「アンナ?」と呟く。
「もし……もしもだよ? もし、私を助けるためにお姉ちゃんが酷い目に合うなら……絶対やだ!」
大声を出すアンナに驚き、林田は周囲を警戒した。通りすがる人々は顔を向けるも、すぐに視線を外す。近くに北米軍の巡回兵がいないことを確認し、林田はほっとした。サンダー少尉は意表を突かれ、アンナの目を見合わせたまま立ち尽くす。
「し、しんでも……!?」
突如、向かいの通りで騒ぎが起こる。駆けつけると、銀行の周囲に人がごった返していた。彼らの噂話は、銀行強盗で持ちきりだ。
「おい、強盗なんか気にしている暇はない。この街を脱出する方法を考えるんだ」
サンダー少尉は林田の腕を掴んだ。彼はそう言われてグッと堪え、「あぁ」と返す。
「それに、この街は厳戒態勢を敷いている。たかが強盗程度、簡単に制圧できる」
林田は安堵し、人混みから離れる。
「強行突破って訳には行かないの?」
「アンナがいる以上、危険な真似はできない。お前はどうやって街に侵入したんだ?」
サンダー少尉がそういうと、林田は考え込む。
「下水道……通ってきました」
「なるほど。悪くないな、アンナ、行けるか?」
サンダー少尉がそう聞くと、アンナは臭そうなイメージを想像する。嫌な顔をするも、間を置いて頷いた。彼らが移動しようとした最中、銀行内から悲鳴と銃声が轟く。振り返る林田を、またしてもサンダー少尉は制止した。しかし、彼は力強く振り解く。
「カレンが本当に生きているなら、助けたいよ。でも、誰かを見捨てからカレンと再会できたみたいにしたくない!」
林田は飛行モードに身体を変化させ、銀行内へ突撃した。サンダー少尉はアンナの手を引き、舌打ちする。
「使える奴だと思ったが、勘違いだったようだな。まぁいい、あいつが目を引けば逃げるのは容易」
しかし、アンナはその場から動こうとしない。彼女は兜を取り出し、サンダー少尉の前へ突き出す。
「お兄ちゃん、私信用できないよ。ヒーローだって教えてよ!」
力強い眼差しを向けるアンナに、サンダー少尉は戸惑った。
林田が建物内に突入した直後、空中に浮遊する報道ヘリはカメラを動かした。
「えー只今何者かが空中から銀行内へ突入した模様。軍服を確認できなかったところ、犯人らの仲間である可能性があります」
報道キャスターはマイク片手に、ヘリの機内でそう伝えた。彼が再び地上へ目をやると、またしても銀行内へ突入する何者かが映った。
建物内では、黒いフルフェイスマスクを被った3人の強盗犯がいた。彼らは拳銃で銀行員と客を脅していた。怯える彼らは結束バンドで拘束され、壁に集められている。彼らを見張る者が一人、現金を引き出される者が一人、外を監視する者が一人という配置だ。外を監視していた者は、上空から高速で迫る存在を大声で仲間に知らせた。彼らが一斉に建物の入口に視線を向けるのと、同タイミングでそれは起こる。林田の加速した飛行によって正面のドアが破壊され、外を監視していた男が下敷きになったのだ。
「あ、やっちゃった。死んではいないよね?」
ピクピク動く様子を確認し、林田は立ち上がる。フロアを見渡すと、全員の視線が彼へ集まっていた。
「日本語わからないだろうけどさ、言いたいことわかるだろ」
林田は腕を銃口に変形させ、犯人の一人に狙いを定めた。
「おい、ここの警備兵には金渡したんじゃなかったのか!」
犯人の一人は、仲間にそう話しかける。
「あぁ、あの額じゃ足らなかったんだ」
「クソ、どうすんだよ」
焦る犯人は、咄嗟に拘束した客の女性を立たせる。彼女のこめかみに拳銃を突きつけた。
「ディザーム!」
犯人は何度もその言葉を強調した。林田は意味を理解できなかったが、人質の存在で意図を察する。武装解除するか悩む彼に対し、犯人らは語気を強めていく。怯える女性は銃口をこめかみに強く押し付けられ、息を荒くした。
「早くしろボケが! 一人殺らなきゃわからないのか?」
犯人は引き金に指をかけ、冷や汗をかいた。その瞬間、開けた入口からジェットスーツを装着したサンダー少尉が現れる。彼は人質を捕まえている男の手を、躊躇なく撃ち抜いた。拳銃を落とした男は、痛みで身動きをとれずにいた。その隙を狙い、林田はもう一人の犯人を腕砲で吹き飛ばす。彼は札束を空中にまき散らし、壁へ衝突した。
「なんなんだよお前らは!」
動けずにいた男は、落ちた拳銃に手を伸ばす。しかし、サンダー少尉が銃口を向けているのに気づく。
「取ったらどうなるか……わかるな?」
それから数分後、拘束を解かれた人々は施設から逃げ出していった。
「で、もう次期北米軍が押し寄せる訳だが……どう落とし前をつける?」
犯人を拘束した林田へ、サンダー少尉は声をかける。彼は明後日の方向に目を向ける。
「はぁ、何も考えずか。まったく、真田もお前もお人好しだな」
「まぁ否定できない。でも、君も来た」
林田がそういうと、サンダー少尉は鼻であしらうように笑う。
「なんか、2人とも仲良くなった?」
アンナはニコニコしながら2人を見た。
「「ぜんぜん」」
林田とサンダー少尉は即座に否定を発する。
「すいませーん、お話聞かせてもらえませんか?」
3人が外へ出ると、ヘリから落ちたキャスターがマイクを近づける。
「えっ、なんですか?」
林田が困った反応をするも、彼はマイクを引き下げない。
「強盗を見事撃退しましたよね? あなたたちは軍でも警察でもなさそうだ。自警団か何かですか?」
言葉に詰まる林田は、ふと車田との話を思い出す。
「キャスターさんは、日本人が北米軍に攫われていること知りませんか?」
キャスターは突拍子もない話に、頭にはてなが浮かぶ。しかし、その反応を見た林田はマイクを自ら握った。
「俺は日本から大切な人を取り戻すため、ここに来ました。俺の話を信じてくれる人だけでいい。こんなこと、やっちゃいけないって気づいてほしい」
そう言い残すと、林田はマイクをキャスターへ返した。3人が歩き出すと、人々は左右へ道を開けるように動く。彼らが人込みを抜けると、目の前には北米軍が道を埋め尽くしていた。無数の銃口が、彼らへ向けられている。




