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第12話「レジスタンス」

 中庭に停車した北米軍の車が目の前にある、城内部の玄関口。玄関口から入ると、2階と1階を結ぶ螺旋階段が目の前に造られている。林田たちは広間の床をコツコツと叩いていた。その中で、秋の突いた床は軽い音が鳴る。彼女は皆を集め、その床を強く踏みつけた。すると、床が起き上がり下へ続くスロープと階段が現れる。


「あ、秋さん、なんで地下があるってわかったんですか?」


 林田がそういうと、彼女はため息を吐くも口を開く。


「富裕層(奴ら)はな、互いにドナーを奪い合うことを警戒して、厳重な自分の縄張りに手術室を設けている。手術室は電子機器の影響を受けないよう、通信機器の電波が通らない場所に作らなきゃならない。お前が地上で暴れても無反応なら、下にいると考えるのが妥当だろ」


 秋が淡々と説明すると、林田は納得といった顔をした。彼の顔が気に食わなかったのか、秋は「ケッ」と苛立ちを露わにする。


「な、なんも悪いことした気ないんだけどな」


 林田は「えぇ」と、先に進む秋に困惑した。彼の肩をポンと、彼女の仲間の1人が手を置く。


「多分、君に負けたのが悔しくて逆ギレしているんだ。許してやってくれ」


 仲間はそういって微笑み、秋の後を追った。林田は「はぁ」と返事をし、同じく階段を降りる。薄暗い地下への通路だが、底が近づくと角の方から薄らと明かりが見えた。秋がそこへ着くと、林田たちに止まるよう促した。手術室前の扉には北米軍の警備兵が2人、手前のソファに太った男が1人。太った男は目の前にあるテレビを鑑賞しながら、ジュースやお菓子を貪っていた。兵士たちは「報告が遅いな」と、巡回兵の定時報告が遅延していることを呟いた。そう口にしたものの、2人に警戒感はなかった。


「俺たちが戦うからお前はそこにいろよ。お前のことをまだ信用もしていないし、能力が未知数で作戦に組み込むことはできない」


 林田は仕方なく、秋へ頷いた。彼女は片手に収まる黒い球体からピンを引き抜き、仲間に合図を送る。仲間は一斉に角から飛び出し、銃を連射した。敵兵は1人が両肩を撃たれ、反撃できずにいる。もう片方は即座に物陰へ隠れ、倒れた仲間を引き寄せた。その隙を狙い、仲間の1人は通路の天井にある電灯を破損させる。


「暗視モードに切り替えろ!」


 応戦する敵兵は、前腕に表示させたホログラムのタッチパネルから双眼鏡のようなマークが表示されるボタンに触れる。即座に彼のコンタクトレンズにシステムが反映され、彼の視界は緑に変化した。秋らを寄せ付けないよう、彼は物陰から片手で銃を乱射した。もう片方の手で、修復中の仲間にも暗視モードを起動させる。彼らが銃撃戦を繰り広げる中、太った男は両耳を塞いで床に縮こまっていた。


「片腕は完治した。リロードしたら行ってくれ!」


 両肩を撃ち抜かれていた男は、落とした小銃を拾い上げる。物陰から精確に秋らのいる場所へ、牽制した。


「まさかレジスタンスがここまで来るとはな」


 男は空になった弾倉を床へ落とし、新たにそれを銃に装填した。彼は勢いよく物陰から飛び出し、秋らの元へ突撃する。その瞬間、秋は球体を彼らの場所へ投げ捨てた。突撃した彼と、物陰の男は眩い閃光に目を閉じる。秋は立ち止まった男の頭を撃ち抜き、彼の身体を盾にした。物陰にいた男は接近する秋に銃口を向けるも、仲間の身体に発砲することを躊躇う。秋は死体を両手で持ち上げ、男に向かって放り投げる。彼は死体の下敷きになった。その隙を逃さず、秋は死体ごと彼の頭をぶち抜いた。彼女は弾をリロードしながら、死体を蹴飛ばして男の生死を確認する。そして、彼女は怯える太った男に、銃の狙いを定めた。


「ま、待ってくれ!」


 林田は秋の腕を上へ反らし、弾丸を壁へ外させる。舌打ちする彼女は、林田を押し飛ばした。しかし彼は拳銃を奪い去っていた。


「考えていることはわかるが……ぬるいんだよ」


 秋がナイフを水平に振ると、男の首から血しぶきが吹き上がる。彼女の握る刃を赤い液体が伝い、床へポタポタと垂れた。林田は目の前にある3人の死体を見て、奥歯を噛みしめる。彼は秋の胸元の襟を掴み、声を張り上げた。


「わかっているよ俺も。でも、最後の人は無抵抗だったじゃないか!」


 彼の言葉に、秋はニヤッと不気味な笑みを浮かべる。2人の後ろで、手術室の扉にC4が取り付けられ扉は破壊された。秋の仲間は一斉に、中へと突撃する。林田は彼らの攻撃を阻止しようとするも、すでに執刀医は蜂の巣になっていた。秋は手術室に置かれた2つの台の間に立つ。片方の台では、日本人女性が心臓部分と頭部を切り取られて絶命していた。隣で昏睡状態にある北米の女性は、心拍を測定する機械と繋がっており、まだ脈を打っている。


「奴らは脳の長期記憶にかかわる部位だけを保管していてな。それを彼女の脳に結合して電子機器と入れ替えているんだ。倫理観もへったくりもあったもんじゃない」


 林田が手術室に入って直後、秋は北米女性のこめかみに銃口を当てる。林田が止めようと動くと「一歩でも進んだら撃つ」と、秋は警告をいう。彼はその言葉を聞き、彼女と目を合わせたまま立ち止まる。


「想像してみろ。訳も分からず攫われ、恐怖に怯えた毎日を過ごし、最後は臓器をくりとられた奴のことを」

「……」


 林田はストレッチャーに拘束され、泣き叫んでいた彼女の姿が頭に浮かんだ。秋の言葉に、何も返せぬまま彼は沈黙した。


「3秒やるよ。それでもこの女を助けたいなら、銃を奪い取りな」


 秋がそういうと、林田は手術室に立てかけられた時計の針の音がよく聞こえるようになった。カチっと秒針が一回鳴るも、彼はその場に留まる。3回目にそれが鳴ったと同時、「待って!」と林田は叫んだ。


「……時間だ、半端野郎」


 秋は容赦なく、引き金を引く。心拍を測るモニターに表示された折れ線グラフは、平行から二度と変化することはなかった。床に膝をつく林田へ、彼女は声をかける。


「酷いことを……ってか? てめぇの身内が同じ目にあっても、同じこといえるのかね」


 ぼそっと口にし、秋は仲間と共に手術室から出る。仲間の一人は、林田を置いていっていいのかと彼女に質問を投げかけた。彼女は「どうでもいいあんな奴」と口にした後、くちゅんとくしゃみを飛ばす。


「風邪引いたかも知れねぇ。あの野郎……クソっ」


 林田は鼻水を拭こうとする秋の前に立ち、頭を下げる。


「つ、突っかかってごめんなさい! 俺、絶対に助けたい人がいるんです。お願いします……北米について、もっと教えてください!」


 林田は頭を下げたまま静止し、秋の返答を待った。彼女はズルズルと鼻を啜り、自身のポケットを手当たり次第に探った。


「うぜぇな……ったく」

「ごめんなさい。うざいのは重々承知しています。ですが、俺よりここに詳しい秋さんたちに教えてほしいんです」


 秋は鼻を手で覆い、籠った声で話す。


「お前じゃねぇって……まぁいいや、ティッシュくれ。顔は上げるな」


 林田はすかさず顔を上げ、ティッシュを差し出した。すると、睨みつけて頬を染める秋の顔があった。彼女の手の隙間から透明な粘液が少しはみ出ている。


「ばっおま、何見て……」


 秋はバシっと林田から紙を奪い取り、鼻水をふき取った。彼女はシャーっと猫のように威嚇し、彼の顔へ丸めたティッシュを投げつける。背後から見ても機嫌が悪そうな歩き方で、階段を上がっていった。林田は拒絶されたと思い、頭を下げる。しかし、彼女の仲間が声をかけた。


「大丈夫だ林田君。あいつは悪い奴じゃない。さ、俺たちと行こう」

「……はい」

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