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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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【挿話】博識ドールと執事と狂犬(1)

 消えてしまった記憶。

 懐かしいけれどどこかおぼろげな記憶。

 そして、眩し過ぎるほどに鮮明な記憶。


 今の私の記憶は、その眩し過ぎる記憶が始まった。



 それはまさに光そのものだと思った。

 私を誘拐した犯人たちを瞬きの間に倒し、颯爽と助け出してくれた。

 そう、あれはまさに“光の王子様”だと、幼いながらに胸をときめかせた。

 きっとこれが恋愛小説の一場面ならば、まさに恋に落ちるシチュエーション。

 でも、その王子様に抱いた感情は決して恋心ではなかったと言い切れる自分がいる。

 どんなにその感情をこねくり回したとしても、出てくるものは憧れと感謝の気持ちだけ。

 そしてその理由もわかっている。

 私の中にあるおぼろげな記憶の中に、あの人がいるからだ。

 桜舞う春の公園で一度だけあったあの人。

 名前もわからず、勝手に“サクラの君”なんていう呼び名をつけてしまったあの人。

 今ではその人の顔も思い出せないというのに、それでも私の心はそのおぼろげな記憶の中のあの人を思うだけで、キュッと切なくなってしまう。


 うん、これは間違いなく初恋だ。

 

 だから私が“光の王子様”に淡い恋心を抱くことはなかった。

 ま、その“光の王子様”にしても、六歳の少女に惚れられたところで困るだけだろうけれど。

 でも、一つ心残りがあるとすれば、ちゃんとお礼が言えなかったことだ。

 なぜならその“光の王子様”は、私を安全なところまで悠然と連れて行くと、『すぐに迎えがくるから、それまでは絶対にここから動かないように』と言い置いて、あっさり立ち去ってしまったからだ。

 名のりもしない。余計なことも言わない。恩すらも着せない。まさしく正義のヒーローを地でいっている――――そんな感じ。

 そしてその“光の王子様”の後に、私を迎えに来たのが、何故か初対面の川上と名乗る執事だった。


『咲良お嬢様、お迎えにあがりました』


 誘拐され、“光の王子様”に助けられ、迎えに来たのが燕尾服姿のリアル執事。

 これこそファンタジーだと、今の私なら突っ込んでいたかもしれない。でもその当時の私はまだ六歳。

 ただただポカーンと、ロマンスグレーになろうかというくらいの歳でありながら、やたらと背が高く、妙に麗しさが漂う執事を見上げていた。

 そして大事なお嬢様というより、大事な荷物のように抱きかかえられ、次に連れて行かれたのは、厳重なセキュリティが敷かれたマンションの一室。

 そこには母が一人、心許なげに待っていた。

 元々身体の弱かった母に、今回の私の誘拐はさらなる精神的負担を与えたようで、子供心に母が一回りも二回りも小さくやせ細ってしまったように見えた。

 でも、私を抱きしめるその腕はとても力強くて、私はようやく家族の元に帰れたのだとここにきてようやく涙を流すことができた。

 しかし、その場所に父の姿はなかった。

 どうやら、誘拐事件直後はずっと警察に協力していたものの、ある日突然姿をくらませてしまったらしい。

 その理由について、私と母の気持ちを慮ってか、『きっと、大事なご家族を守るために、一人戦うことを選ばれたんでしょうね』などと、執事の川上が言ってくれたけれど、当時の私にしてみれば、こんな時こそ傍にいて欲しいと、憤りのようなものを覚えた。

 

 

 その日から私と母と、執事川上との奇妙な生活が始まった。

 私を誘拐した“組織”から逃れるために、転々と住むところを変えつつ、時にはおんぼろと呼ぶにふさわしい小さなアパートに身を隠すこともあった。にもかかわらず、執事付き。

 逆に目立つような…………なんてことを思わなくもなかったけれど、川上は案外変装が上手らしく、買い物などで外に行くときには二十代後半といっても通じるくらいの若作りをしてから出かけていた。

 そんな川上に、『私も変装するから、一緒に行きたい』とせがんだこともあるけれど、母がそれを頑なに許さなかった。

 どうやら私の目がイギリス人だった曾祖母の隔世遺伝により碧眼で、目立ってしまうこともその理由の一つだったのだけれど………………


『咲良、駄目よ。あなたはとっても醜いの。だから、ずっとお顔を隠しておかなければならないのよ。もうあんな怖い目にはあいたくないでしょう?これからはずっと髪を伸ばして、顔を隠しておきましょうね。これは、お母さんと咲良の約束よ』


 それは約束というより、何かの呪いのようだった。

 でも毎日のように囁かれ、私の顔を見て泣かれてしまう度に、私の顔はそれほどまでに醜いのだと理解した。

 もちろん非常に優秀で、お嬢様想いの執事である川上は、『そんなことはありませんよ。咲良お嬢様はとても愛らしいです』と、母の言葉をやんわりと否定してくれたけれど、お腹を痛めて生んだ大事な娘に対し、母親がそんな嘘を吐くはずもない。

 むしろ母親だからこそ、心を鬼にして事実を話してくれたとみるべきだろう。

 つまり母の言葉こそが真実であると悟った私は、母の心の安寧のためにも前髪を伸ばし、できるだけ顔を隠すようにしていた。

 といっても、川上からはかなりの不評で、家を移る際の変装には逆に髪を括って顔を出し、そこに帽子を深々と被ってやっぱり顔を隠すという、結局何がしたいんだ……………という格好をさせられた。

 しかし、視界はすこぶるよかったので、私としては川上御推奨のこの格好を内心ではとても気に入っていた。

 母の手前、口に出しては言えなかったけれど。

 しかし、そんな三人の奇妙な生活も私が十歳の時に終わった。母が亡くなったからだ。

 父にもそのことを伝えたいと思ったけれど、父が生きているのかどうかもわからず、母の遺骨も母の実家に預けるしかなかった。

 そして私は、川上と二人で身を隠すこととなった。

 でも、母という私にとっては守るべき存在であり、ある意味足枷のようでもあった存在がなくなったことで、ただこそこそと身を潜めるのではなく、父について、あの誘拐事件について、可能な限り調べてみようと思った。

 自分を誘拐した組織がどのような組織なのか。父の論文は組織の手に渡ってしまっているのか。

 そして何より、父は今も無事でいるのか―――――

 そこで、私がとった行動は隠れ住む場所を、首都圏外にある小さなボロアパートから父親関連の場所に変えることだった。

 その理由はもちろん父の痕跡と論文の所在を探るためだった。

 正直、それは危険が伴うことだと十分にわかっていた。だから、川上にも告げた。


『川上、今まで私とお母さんを守ってくれてありがとう。でもね、私はもうこそこそと隠れて逃げているだけでは嫌なの。お父さんの居場所も見つけたいし、どうしてこんなことになってしまったのか、ちゃんと知りたいの。けれどそうすれば、川上まで危険に晒すことになるわ。だから、川上は自由にしてくれていい。私は一人でも大丈夫だから』

 

 十歳の少女が何を言っているんだ――――――と、良識ある大人の川上は思ったに違いない。

 それはもう、今まで見たことがないくらいに渋い顔をした。

 でもその表情をすぐさま消し去ると、川上は私の前髪をそっと後ろに流すように耳にかけて、私の目を見つめながら、目一杯形のいい眉を下げた。


『咲良お嬢様がとても優秀で、お一人でも生きていけるということは存じておりますが、私はそうではありません。お嬢様がいなければ、私が生きていけないのです。だから、お嬢様さえお嫌でなければ、この川上も一緒に連れて行ってもらえませんか?この歳で再就職は難しそうですし、何しろお嬢様との日々は、私にとっての生きがいなのです』


 嘘だと思った。

 川上は私がいなくても十分生きていけるし、たとえ初老に片足を踏み入れつつある年齢だとしても、執事として優秀な川上なら引く手数多だろうと。

 けれど、その優しい嘘がたまらなく嬉しかった。

 私はどこかで、父に捨てられた気がしていた。その上、母を亡くし、世界にたった一人取り残されたような感覚があった。

 誘拐事件の後、川上はずっと私の傍にはいてくれたけれど、所詮は血の繋がりなどない赤の他人だから、いつか彼もまた私の前からあっさりいなくなってしまうのだろうと、心のどこかで諦めていた。

 実際どういう経緯で川上が私の執事になってくれたのか、その詳細は何も知らない。

 何となく、あの誘拐事件で傷ついた私の心のフォローのために来てくれたのだと漠然と思っていたくらいだ。

 だからこそ、もう一人でも大丈夫だと宣言さえすれば、川上は安心して私から離れることができるだろうと、こんな潜み続けるだけの生活から解放してあげられると、私なりに考えた。

 

 本当は本当は、このままずっと傍にいて欲しかったくせに…………


『本当に……いいの……?川上はそれで後悔しない?私の傍にいてくれる?絶対一人に……しない?』

 涙がどうしようもなく溢れ出て、息を吸うこともままならず、私は思いっきりしゃくりあげた。そんな私を川上がそっと両腕に閉じ込め、温かい手で背中を擦ってくれる。

『お一人にするわけがありません。私自身がもうお嬢様なしでは生きていけないのですから。だから、ずっと私をお嬢様のお傍に置いてください。これから先もずっと、ずっと…………お嬢様の大事な方が迎えにくるその日まで』

 川上の言葉に、私は川上の腕の中できょとんと首を傾げた。

『大事な……方?』

『えぇ……お嬢様を誰よりも大事に思っている方です。いつか必ず()はお嬢様の前に現れます。その日まで…………いえ、たとえその日が来たとしても、川上はお嬢様の傍を離れませんよ。その()がどのように成長したか、見定めなければなりませんからね』

『ふふふ……なんだが川上、意地悪な小姑みたいだわ』

『意地悪な小姑上等です。なんせ大事な大事なお嬢様のお相手なのですから、それはもう厳しい目でチェックさせていただきますよ』

 なんてことを、どこまでも優しい口調で告げて、川上は私の背中をポンポンと叩いた。

 それはまるで赤子をあやすような手つきだったけれど、私にとっては久しぶりに感じた幸せの瞬間で――――――――


 私にとって大事な人。


 こんなにも醜い私にも、そんな人が本当にいればいいと………………

 おぼろげな記憶に眠るあの人がその人であれば嬉しいと………………

 私は密かに願った。

 

 

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪



うわぁ〜ん!

一日遅れです!すみません(泣)

そして咲良Sideのお話です、

楽しんで頂けると幸いです。



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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