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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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追跡と狂犬(11)

 小仏 省三――――――

 いたいけな中学生だった俺をサードに連れて行った張本人であり、元警視庁検挙率No.1の凄腕刑事だった男だ。

 但し、サードに来る途中で、そこら辺の精鋭ぶりというか、エリートさというか有能さ加減をすべて落っことしてきた残念な熊だ。

 しかもこの熊は、とにかく質が悪い。

 その証拠に、元仲間の刑事を死人にするわ、俺の事情もすべて知っているにもかかわらず、“テミス”の表の顔について隠していたわ、とんだ嘘つき熊だ。

 だというのに、悪びれる様子もなく、むしろしてやったり感満載の顔で近寄ってくるところがなんとも腹立たしい。

 今すぐ、先程の追い剥ぎの戦利品である拳銃で仕留めてやりたくなるほどに。

 しかし、この熊は瘦せても枯れても………………いや、さらにデカくなることはあったとしても、絶対に痩せて枯れることはないが、一応ウチの班長だ。

 人間というより、見た目も中身も事実上熊同然であり、もはや熊扱いでなんら問題はないが、それでも俺の直属の上司であり、俺の戦闘においての師匠でもある。と、自分自身に言い聞かせる。

 そんな俺の血が滲むような自制も知らず、熊は俺たちの前へ来るなり、悪人面にしか見えない笑みを浮かべながら、開口一番宣った。

「よう、狂犬と風吹。随分来るのが遅かったじゃねぇか」

 俺の自制を打ち砕く一言。

 このまま熊として本気で殺処分をしてもいいだろうか。

 もし、この熊の台詞の意味するところが、『ようやく四井商事が“テミス”の表の顔と気づいたのか。おっせーよ』というものなら、あんたがずっと隠してたからだろうが!となり、『幽霊屋敷からここに来るまで、どれだけ時間かかってんだ。おっせーよ』という物理的なものなら、あんたの方が遅かっただろうが!となる。

 とどのつもり、どちらにせよ、熊の方に問題があり、俺はいつでも熊に制裁を加えていい立場にあると思う。というか、正当な権利を手にしているはずだ。

 案の定、風吹がどうどうと俺を押し沈めようと、視線と首振りと、わかりやすいジェスチャー付きで訴えてくるが、もはや知ったこっちゃない。

 ヨシ!狩るぞ!

 そう結論を出し、ゆらりと立ち上がった俺だったが、そんな俺の肩に熊がガハハハハハと呵々大笑しながら、バシッバシッと強烈な鉄拳を打ち込んできた。

 熊にしてみれば、親し気に肩を叩いているつもりだろうが、叩かれている俺としては攻撃に外ならない。

 まじで肩が外れるか、肩の骨が砕けそうだ。

「班長!俺の肩を壊す気ですか!まじであんたのソレは攻撃でしかないんだから、いい加減、自分の手が凶器だってことを自覚してください!」

「つれねぇな、狂犬。可愛い部下を労って何が悪い。風吹もそう思うだろ?」

「労っていただける気持ちは有難いですが、肩を叩くのはむしろ労いではなく、傍目にも攻撃されているとか見えないので、できればもう少し穏便な方法に変えていただくと、命の心配をしなくて済むといいますか…………身体的、精神的にも助かるといいますか…………余計なダメージを負わなくて済むので、もう少しソフトな感じにしてください」

 明日は我が身どころか、間違いなく次は我が身と戦々恐々としている風吹が切実に訴える。

 もちろん俺の身を案じたわけではないことは百も承知だが、ナイスファイトだ、風吹!と内心でグッと親指を立てておく。

 しかし、部下の心、熊知らず――――――というか、そもそも熊相手に俺たちの気持ちをわかってもらおうなどと考えた俺たちが間違っていたのか、熊の思考がとんでもない方向へと振り切れる。

 元々熊にはさじ加減という基本的な機能が備わっていないため、右が駄目なら左といった具合に、極端な方向へと突っ走るのだ。

 そのため――――――――

「なら、ハグだな。思いっきりハグをしてやろう。二人一緒でかまわんぞ。ほれ」

 ほれ、ではない。

 さぁ、俺の胸に飛び込んで来い!とばかりに両腕が広げられるが、俺たちの目には森で遭遇した熊に威嚇されているようにしか見えない。

 この場を逃げ切れるなら、俺のなけなしの全財産を払ってもいい。なんなら、借金をしてでも御免被りたい。というか――――――――


 「「あんたにハグされたら、全身の骨が砕けるわ!」」


 俺と風吹の尤もな訴えに、熊は豪快に笑った。



「で、改めて聞きますが、これは一体どういう状況なんですかね?」

 俺は熊、幽霊ではなく茶店の親父となった元おっさん刑事、そして大島博士改め、綾塔教授と、順々に視線を矛先を移動させながら、熊に聞いた。

 多少言葉と口調に険を含んでしまうのは、仕方がないことだと思う。

 むしろ、敬語らしきものを使った自分を褒めてやりたいくらいだ。

 しかし、俺の質問に答えるためには、台車の上の粗大ごみの存在が邪魔だったらしい。

 熊はそれを一瞥すると、茶店の親父に職替えした元おっさん刑事に声をかけた。

「おい、服部。悪いが、俺の部下が連れて来たそいつを少し裏で預かってくるか?せめて顔だけは袋から出してな。ついでに何か飲ませてやってくれ。金は俺が出すから」

「いやいやお金は私が出しますよ。すべては私が発端ですからね」

 熊の言葉にそう口を挟んだのは綾塔教授だ。

 そんな綾塔教授に熊は肩を竦めてみせると、「じゃあ、ここは教授に奢ってもらうか。腹も減ってたことだしな」と、ニタリと笑う。その笑顔の前に綾塔教授は財布が散財することを早々に諦めたようで、忽ち苦笑となった。

 しかし、それに待ったをかけたのが茶店の親父でもある元おっさん刑事で………………

「ダイキさん、悪いですがうちの茶店のメニューはコーヒーフロート一択です。飯なんか俺、作れませんよ」

「だったら、お前がいつも食っている物を出せ。冗談抜きにして飯食ってる暇がなかったんだよ。誰かさんのせいでな」

 もちろんその誰かさんとは俺のことでない。

 なのに、何故熊が俺を見てくるのかがさっぱりわからない。

 って、ゆーか…………

 いやいやいや、ちょっと待て!

 この短いやり取りにもかかわらず、どれだけ突っ込みどころ満載なんだ!

 だいたい、茶店のメニューがコーヒーフロート一択っておかしいだろ!

 コーヒーフロートが出せるなら、そこはコーヒーとアイスコーヒーとアイス、そして名物がどうかは知らんがコーヒーフロートの最低4つはメニューとして出せるだろうが!

 普通の茶店と思い込んで入った客の方が、コーヒーフロート一択に混乱するわ!

 っていうか、おっさん……いや、服部さん。ようやく名前を知ったところでなんだが、茶店を繁盛させる気などさらさらねぇだろ!だからこんなにも閑古鳥が鳴いてんだよ!少しは励め!

 それに、熊!言うに事欠いて、『お前がいつも食ってる物を出せ』って、どこの居直り強盗だ!

 それともなにか?冬眠明けで腹を空かし、民家を襲う熊を地でやるつもりか?

 頼むからそれ以上人間離れしないでくれ………………

 しかし、そんなことよりもだ。

 俺が声に出して突っ込まなければならない一言があった。

 それはあの日の上戸執事―――――本宮刑事の手紙にあった名前だ。

「ダ……ダイキって…………まさか、班長が……………………」

 突っ込むというより、半信半疑なままでその名前を口にする。

 そう、あの日の手紙で本宮刑事が教えてくれたことだ。


 “君に近づいてくる人間を簡単に信用しては駄目だよ。いいね。

 ちなみに、君に小説本を届けた刑事は信用できる人だよ。あともう一人“ダイキさん”(あだ名だけどね)も信用していい”


 だからあの時の俺は――――――――


『あだ名って……なんだよ。そいつの本名教えろよ…………』


 ボロボロに泣きながら手紙を握り締め、悪態を吐いた。

 そして今、“ダイキ”と呼ばれた男が目の間にいる。

 それも、あの日の俺に本宮刑事からの小説本を届けた、元おっさん刑事の服部さんと一緒に。

 なんだよ………何なんだよ…………………

 ずっとずっと、俺は本宮刑事の信用する男たちに守れていたのかと思うと、嬉しいというより情けなさと気恥ずかしさが先に立つ。

 だが、実際の俺は呆然としたまま熊の顔を眺めていたらしく、俺の心情をあっさりと察した元頭脳派のおっさん刑事はネタ晴らしように告げてきた。

「あぁ、お前……この人のあだ名知らなかったのか。この人の本名は知っての通り小仏だが、どう見たって、“小さな仏”って感じじゃねぇだろ?だから“大きい鬼”で“ダイキ”って呼ばれてたんだよ」

 なんともご尤も過ぎるあだ名の由来を披露すると、元おっさん刑事は粗大ごみ(谷川)を台車に乗せたまま茶店の奥へと消えた。

 残されたのは、呆け顔の俺と怪訝面の熊。

 おそらく熊は、あの日の本宮刑事の手紙の内容など知りもしないだろう。

 そこに自分のことが書かれたいたことも。

 だからこそ、俺の顔を怪訝な顔で見てくるのだろうが、俺としては心の中で立ち込めていた靄が一気に晴れた気分だ。


 いつかの馬鹿談議ではないが、俺は決して威張れるほど頭はよくない。

 しかし、これくらいの簡単な証明問題なら解ける。

 俺は本宮刑事を信用している。

 だからその本宮刑事が信用している二人のことも当然信用できる。


 この茶店に現れた熊に対し、猜疑心があったことは否めない。

 だが、今はそれも霧散した。

 呆け顔から一転、二ッと笑って見せた俺に、熊もまた何かを感じ取ったのだろう。

「いつか言ったな。敵か味方かは相手に教えてもらうもんじゃねぇ。最終的に決めるのは自分自身だと。そして俺を敵と見なした時には、一端の狂犬として好きに喰い殺せとな。さぁ、どうする?俺を喰い殺すか?」

 どこまでも質が悪く、悪人面でそんなことを告げてくる熊に、俺は直ちに噛みつく。


「ふざけんな!熊なんぞ喰い殺してもまずいだけだろうが!だったら、とことん利用してやるよ!」


 珍しく目を丸くした熊。

 俺の横で顔を引き攣らせた風吹。

 コーヒーフロートのアイスを頬張り、ご満悦となる綾塔教授。


 だがそれも刹那のこと。

 熊は愉快な話を聞いたとばかりに、これまた盛大に笑った。

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


どうか皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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