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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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追跡と狂犬(5)

 通称、幽霊屋敷に戻ってみれば、一台の救急車が止まっていた。

 サイレンの音はなく、赤色ランプだけを光らせていることからも、その救急車は目的に到着していることがわかる。

 つまり、救急車の目的地は、この幽霊屋敷ということだ。

 ちなみに、ここが本当にリアル幽霊屋敷なら、当然全員死人であるため救急車を呼んだところでもはや手遅れでしかないのだが、もちろんここにリアル幽霊など一人としていない(多分……)。

 現在ここにいるのは、俺と風吹によって沈められた自業自得な男たちと、仲間に撃たれた可哀そうな男が一人。

 そう、この救急車は可哀そうな男のために俺が呼んだものだった。

 しかし、何故か救急隊員たちは屋敷に前で途方に暮れているようだ。

 まさか教えられた住所にこんな幽霊屋敷が建っているなどと夢にも思わず、さらには連絡を入れた俺がおらず、勝手に入っていいものかどうか、悩んでいるのかもしれない。もしくは、相手が幽霊なら、俺たちでは手遅れじゃね?とか思っているだけかもしれないが………………

 だが、今の俺は上戸執事と電話を繋げている状態のため、叫ぶわけにはいかなかった。

 おそらくこちらの声が多少漏れ出したところで、車のエンジン音に掻き消され、問題ないかもしれないが、サクラの命がかかっている以上、こういうことは慎重に慎重を重ねるくらいのほうが丁度いいのだ。

 そこで、風吹にアイコンタクトとハンドサインで“先に行って、バイクを探せ”と指示を送り、俺自身は幽霊屋敷を見上げたまま呆然と立ち尽くしている救急隊員たちに、サードのバッチを見せつけながら駆け寄った。もちろん、人差し指を口の前に立てることで、“声を出すな”とわかりやすく意思表示をしながらだ。

 そして、ぎりぎり相手に聞こえる程度の小声で、「悪い、任務中で大きな声が出せない。とにかく俺に付いてきてくれ」と救急隊員たちに告げて、俺は三度(みたび)屋敷の中へ飛び込んだ。

 

 もちろん俺が救急隊員たちを案内する場所は、あの脱出口のあるあの部屋だ。

 外観と内装のギャップやら、途中、俺の沈めた男が転がっていたりと、救急隊員たちをその都度驚かせたが、もちろんそれらすべてを丸ッと無視するようにして廊下を突き進む。

 えっ?この男のことはいいの?

 ―――――という救急隊員たちの内心の声が聞こえてくるが、その男の心配は一切不要だと、転がる男に見向きもしないことで暗に告げる。そして目的の部屋へ入り、(くだん)の男にまだ辛うじて息があることに安堵しながら、救急隊員たちに再び小声で一方的に伝えた。

「俺はこのまま任務に戻らなればならない。とにかく助けるのはこの男だけでいい。あとの連中はもうすぐ俺の仲間が引き取りに来るから何も問題はない。それとわからないことがあれば、サード本部に連絡を入れて、小仏という男に話を聞いてくれ。そいつが俺の上司だ。じゃあ、後は頼む」

 救急隊員たちに問いかけの間を一切与えることなく言い切ると、俺はその部屋を飛び出し、風吹が向かったと思われる場所へ急ぎ向かう。

 その間にも、ワイヤレスイヤホンを通じ、上戸執事と谷川の声がずっと聞こえていた。


『俺は真っ当な生き方なんてしてこなかった。だから真っ当な死に方なんてできるとは思ってねぇ。だが、それでもまだ死にたくねぇんだよ。そして、あんたらにもらった命で少しくらいは人間らしく正しく生きてみてぇ…………まぁ、あんたらを売ろうとしている俺が、何を言ってんだという話だがな』

『本当ですね。どの口が…………という話ですね。ところで道はこの国道2号線を真っすぐでよろしいのですか?いやはや、武器商人である“テミス”が、表の世界にご立派な本部ビルをお持ちだとは存じませんで、私には行き先も道もさっぱり…………』

『んなもんねぇよ。執事のあんたにも表の顔と裏の顔があるように、“テミス”にも隠れ蓑ともいえる表の顔――――つまり、表向きの商売がある。今向かってんのはそこだよ』

『なるほど。できたら、是非ともお嬢様と席を変わって助手席でナビをしてもらえませんかね。先程もあなたの指示が遅れたせいで、右に曲がるところを真っすぐ行ってしまい、軌道修正に時間がかかってしまいました。それに、お嬢様にずっと刃物を突きつけているも疲れるでしょう?もし仮に、車の揺れのせいであったとしても、うっかりお嬢様の肌を傷つけた場合は、たとえどんな小さな傷であろうと、私が直ちにあなたを殺しますよ』

『だ、だ、誰がそんな手に引っ掛かるかよ。お嬢さんと席を変わって助手席に移ったら最後、俺はあんたにあっさり沈められる。だいたい俺はあんたの強さを知ってんだ。この目でも見たし、自慢じゃないが俺はあんたに捕まったことがあるからな!』

『ほんと自慢にもならないですね』

『うるさい!とにかくあんたが下手な動きをしなければ、この利口なお嬢さんは無事だ!俺が組織への手土産を傷つけるわけがねぇ!とにかくあんたは俺の指示した通りに進めばいいんだよ!』

『あぁ…………なんだか居直り強盗とお話ししている気分ですよ。それよりお嬢様、窮屈な思いをさせてしまい申し訳ございません。もうしばらく我慢できますか?』

『もちろんよ、川上。私はちゃんと信じているから。川上のことも、キョウちゃんたちのことも。だから平気よ』

『ありがとうございます、お嬢様。その信用に必ず答えて見せますよ』


『トン!トン!』

 

 二度響いたノック音。

 これは了承を示す合図。

 おそらくここでの意味は、サクラの信頼に全力で応えますよ。わかってますね?――――――という俺たちへの確認を含んだ絶対的命令だ。

 もちろんそんなこと言われるまでもない。

 必ずその信用に応えてみせる。

 イヤホンの向こうから聞こえてきたサクラの元気そうな声に一先ず胸を撫でおろして、俺は屋敷の裏口へと向かった。



 台所というより、厨房と言ったほうが正しい広いキッチンスペースに風吹は思案顔で立っていた。

 裏口はその厨房の奥にあり、そこを開けて外を覗くと、雑念とした雑草畑が広がっていた。

 しかしその雑草畑の奥にある扉は、正面にある重々しい門扉とは違って、木でできた扉一枚のとても簡易なものに見えた。

 それでも大型バイクが通れる大きさは十分にあり、いざという時には、ここを突き抜けて外へ飛び出すことは容易に想像ができた。が、肝心のバイクが裏口付近のどこにも見当たらない―――――――と、風吹がハンドサインならぬジェスチャーで伝えてくる。

 まじか…………と、厨房の天井を一瞬仰ぐが、ここで諦めるわけにもいかない。

 上戸執事が危険を冒してまで伝えてきたことだ。必ずこの屋敷の中にバイクがあるに違いなかった。

 とはいえ、常識的に言って、バイクの在処が表玄関とは思えない。

 バイクを使い強行突破で逃げるにしても、あの正面にある門扉はあまりに重々しく、四駆なら蹴散らすことも可能かもしれないが、バイクだと間違いなく負ける。

 そのため、扉を開けるために一度後ろに座る者がバイクから降りて扉を開けに行かなければならないからだ

 それは強行突破するうえでリスクでしかない。

 だとするならば、簡易な扉がある裏口こそがバイクでの脱出口となるはずなのだが、問題はそのバイクの隠し場所がまったくわからないということだった。

 もちろんその答えを知る人物と、現在、絶賛電話が繋がっている状態だが安易に話しかけられる状況でもない。

 それに、上戸執事が話の流れに乗じて、谷川に気づかれずバイクの隠し場所について伝える方法は、おそらく皆無に等しい。

 とどのつまり、自力で探すより方法がないということだ


 あぁ………………だから俺たちは頭脳プレーではなく破壊専門なのに!


 そんな言い訳と文句を同時に重ねて、体力回復のために他人の家(ひとんち)の冷蔵庫に手をかけた。別に飯を食おうというわけではない。ただの水分補給だ。

 しかし冷蔵庫といっても、家庭用の冷蔵庫でなく、明らかな業務用。

 おいおい、この屋敷にはサクラと上戸執事しかいねぇだろうが。まったくどれだけの食材を貯め込んでいるんだ………と思いつつ扉を開ければ、もうそれはビックリ、中には大量の食品で溢れていた。

 なるほど…………サクラを一人置いておいそれと買い出しには行けないから、日持ちする食材を中心に貯蔵しているのか。

 そんな納得を一人で入れつつ、水のペットボトルを二本取り出し、一本を風吹へと投げた。

 忽ち二人して競うようにペットボトルの水を飲み干し、僅かにすっきりとした頭で思考を巡らせる。

 だがすぐに、この屋敷では常識にとらわれるべきではないという天からの有り難い啓示のようなものがふと舞い降りてきた。いや、俺の場合は野生の勘ともいえるのだが…………

 そんなわけで、バイクだから裏口周辺のどこかに駐車してある――――――という固定観念をまず捨てる。

 そもそも“バイクは隠してある”と言っていた。バイクは奇想天外な場所にあると考えた方がここは無難かもしれない。

 つまり、一見バイクの隠し場所に思えない場所に、バイクは鎮座しているということだ。

 風吹もそう考えたらしく、厨房にある扉という扉を片っ端から開けていていく。食器棚から流し下の収納から、馬鹿げていると思いながらレンジの扉まで。

 やっぱねぇよな………………と思いつつ、厨房のど真ん中にある作業スペースを兼ねた収納棚を何気なく眺めた。

 もちろんここも開けた。

 なんなら真っ先に開けた。

 しかし入っていたは、まな板やらボールやらトレイといった調理に必要な器具類だけ。

 だが、自然とその足元に視線が向き、俺ははて?と、首を傾げた。

 ロック機能が付くキャスタ―が目に入ったからだ。

 別におかしなことは何もない。ロック機能が付いているため、この上で野菜を切り刻んたとしても動くことはないだろう。

 それに俺はそういう調理器具関係に詳しくはないため、もしかしたら厨房の真ん中に置く収納棚のようなものは、場所を固定して据え置くのでなく、いつ何時でも動かせるようにこのようなキャスターが付いているものなのかもしれない。

 だが、俺の視線を追うようにして、同じくそのキャスターを見つけた風吹が、やはり首を傾げた。

 そして俺と風吹は目を合わせると、さすがバディと言うべきか、一瞬にして同じ答えに辿りついた。

 瞬間、キャスターのロックを解除し、収納棚を横へと退かす。

 残ったのは当然のことながら平な床。しかしよく見れば、綺麗に敷き詰められているタイルの床面に、鋸の刃を入れたような隙間があり、その隙間は大きな長方形を床にくっきりと描いていた。

 しかしその長方形はあまりに大きすぎて、たとえそれが何かの蓋であったとしても、とてもじゃないが俺と風吹だけで持ちあげられるとは思えなかった。それ以前に取っ手らしきものもない。

 再び俺と風吹は顔を見合わせる。


 ここもまた忍者屋敷なのか?

 それもこちらは最新鋭の…………


 ―――――という以心伝心の後、俺と風吹は素早く壁を見回した。そこに何も気になるものがないとわかると、今度はあらゆるものの裏側を覗き込む。

 そしてようやく、動かした収納棚の扉を開けた天板に、なにかの白いスイッチらしきものを見つける。

 何かの呼び出しブザーに見えなくもないが、俺は躊躇なくそのスイッチを押した。

 すると――――――――――


 まじか………………


 スライドして大きな口を開けた床。

 その床下からハーレーダビッドソン XL1200X フォーティエイト(ペアライド仕様)がゆっくりと浮上してきた。

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