追跡と狂犬(3)
さて、吉と出るか凶と出るか…………
っていうか、どこに出るんだ?このマンホール。
鉄はしごをのぼり、あとはマンホールを持ち上げるだけとなった今、俺は暫し考える。
今までの蓋兼扉の向こう側についてはある程度の予測はできた。
しかしさすがに、このマンホールの向こう側についての予想が簡単に立てられるほど、俺の野生の勘も有能さを誇っているわけでない。
そこで気配を探ってみるが、雑多な気配だけが感じ取れた。つまり、マンホールの向こう側は、街のどこかということだ。
ただ、頭上を車が頻繁に通っている気配はないため、道路のど真ん中ということだけはなさそうだ。
それになにより、ここが脱出口なら、サクラたちが進んだ道だ。
今の俺たちにそれを回避する選択があるはずもない。そこで――――――――――
「風吹、開けるぞ」
風吹に声をかけることで、俺は腹を括った。
「了解」
どうやら風吹もまた了承することで、腹を括ったようだ。
そして俺は、今までの蓋兼扉より断然重いマンホールを横にずらす形で、強引に押し開けた。
「ここは………………」
マンホールの向こう側は、どこかの月極駐車場だった。
丁度、マンホールの上にある駐車スペースには車が止まっておらず、また駐車場の一番奥の駐車スペースだったこともあり、周りに駐車している車の陰に隠れ、通りからは俺たちの姿が見えないようになっていた。
これ幸いにと、俺と風吹はマンホールから抜け出すと、さっさとマンホールの蓋を閉め、改めて自分たちがいる場所を確かめるべく周りを見回した。
「ねぇ、キョウ。ここがどこかわかる?」
「わからねぇな。仕方ねぇ、GPSで確かめてみるか」
「だね」
そして俺は早速GPSを立ち上げるために腕時計へと手を伸ばした。が、それより先に着信が入る。
しかも、ディスプレイに表示された文字に、俺は一も二もなく飛びついた。
「響だ。赤松リーダー、今どこにいる⁉」
『おう、やっと繋がったか。お前らもあの地下道を抜けて来たんだな。どうやらあそこらへんは圏外となっているらしいな』
なるほど…………だからさっき風吹が連絡した時も、ちょうど赤松リーダーたちは地下道にいて繋がらなかったんだな、と安堵とともに理解する。
決して、トラブルに見舞われて電話に出れなったわけではなかったのだと。
しかし、肝心な俺の問いかけにまだ答えてもらっていないと、俺はその先を急いた。
「それで、今どこにいるんですか‼」
『そう怒鳴るな!俺たちは爆弾と一緒に車で本部に向かっているところだ。だが………』
「だが、なんです⁉」
『サクラちゃんたちとは別れた』
「はあぁ〜!?別れただぁ⁉」
もちろん、俺のこの返しには疑問の響きも含んではいたが、それ以上に非難の音も目一杯含んでいた。
なんせ、一段低くなるどころか、いきなり地を這った声のトーン。
その俺の声に、赤松リーダーの声を直接聞かずとも、話の内容を的確に察した風吹が、どうどうと両手で押し沈める仕草をしてくる。今にもブチ切れそうになっている俺に、一先ず落ち着いて!ということらしい。
そんな風吹に目をやりながら、俺は暴れ馬か!と、半眼になる。が、狂犬も暴れ馬もそう大差はねぇかと、早々に思い直す。
ちなみに電話の向こう側の赤松リーダーにも、俺の機嫌が一気に底を突いたことが伝わったらしく、慌てたように言葉を重ねてきた。
『ち、違うぞ!いや、別れたことは違わないが、これは作戦の一部であって、車の定員をオーバーしていたからとか、そんな理由ではないぞ。いや、それも多少あるが…………』
「言い訳はいいから、さっさと状況だけ説明しろ‼」
俺たちと赤松リーダーたちの班は違うが、俺より年上で、リーダーという役職付きでもあるため、立場上、普段なら一社会人として敬語を使っている。しかし、今はそれに構っている余裕はまるでなかった。
時間的というより、主に精神的に…………だ。
そのため、慇懃無礼ならまだしも、俺は赤松リーダーに対し容赦なく怒鳴り上げる。
しかし、赤松リーダーも狂犬モードの俺を恐れていることもあり(ちなみに今は狂犬モードではない)、この扱いに無礼千万だと切れることもなく、むしろ上司に報告を上げるかの口調で告げてきた。
その内容によると―――――――――
サクラたちはマンホールからドアツードアで真上に止まっていた車に乗り込んだ。それも用意周到なことに、車の底にも穴が開けられており、マンホールから直接車に乗り込めるようになっていたらしい。
そしてこれはあくまでも余談だが、その車を発車させたことにより、俺と風吹がマンホールから抜け出た時には、空の駐車スペースになっていたということだ。
運転手は当然、上戸執事こと川上さん(本宮さん)。助手席にはサクラが座り、その他大勢は全員後部座席に詰め込まれる形となった。
しかしここで思わぬ事態が起こる。
車が発進し、駐車場から出る寸前、谷川が後部座席のドアを開け、逃げ出したのだ。
もちろん普段ならそれを簡単に追えるだけの顔ぶれが揃っていた。だが、今はそれぞれが自分の手荷物で精一杯だった。
何しろ、気化爆弾二つに、ブラスチック爆弾一つ。さらには爆専の一人は負傷中で、上戸執事は運転中。
とても谷川を追える状況ではない。しかも、気化爆弾という非常に繊細な爆弾を、いくらクッション材たっぷりの特殊なケースに入れたからといって、絶対に安全だという保証はない。そのため超安全運転しかできない状況下で谷川を車で追跡するのも不可能だった。
もちろん、谷川の手には拘束具が嵌められており、完全に自由というわけではない。それでもサクラはあっさりと決断した。
『このまま行きましょう。そしてまず赤松さんたちを、赤松さんたちが乗ってきた車の所まで送ることにします。そこから、赤松さんたちは、その爆弾を持ってサードの本部に向かってください。私たちは、キョウちゃんと風吹さんを拾ってからサード本部へ向かいます。それでお願いがあるのですが、私はキョウちゃんたちの連絡先を知らないので、赤松さんたちからそう伝えてくれませんか?おそらく地下道は圏外となっているので、キョウちゃんたちがそこを抜けて出てきた頃を見計らって………………』
――――――そして、それがこの電話だ。
つまり、谷川のアホのことはともかく、ここら辺をウロウロとしていれば、サクラたちに拾ってもらえるということだ。
そして、さらに赤松リーダーが補足とばかりに告げてくる。俺の機嫌が多少改善したことを察してか、いつもの口調で。
『サクラちゃんと川上さんの連絡先を聞いておいたから、今から電話番号とアドレスを送る。俺がお前らの連絡先をサクラちゃんに教えてもよかったんだが、“こういうことは、キョウちゃんたち本人に許可を取ってからではないと…………それに知らない番号からかかってきたら、キョウちゃんたちがビックリしてしまうかもしれないので…………”と、遠慮されちまった。今時随分と奥ゆかしいことにな。ってことで、俺たちは一足先に爆弾を持って帰る。谷川のことは悪い。だが、あの拘束具がある以上、そう遠くは逃げてねぇはずだ。だからもし、いつもの野生の勘が働いた場合は頼む。じゃあ、本部でな』
最後はそう一方的に言うべき事だけ言うと、有無を言わさず電話を切った。どうやら、逃げの一手らしい。
しかし正直なところ、俺の中で荒れ狂っていた先程までの焦燥は凪いでしまっている。なんなら、さっきは怒鳴って悪かったな……などと殊勝なことまで考える始末だ。まぁ、俺としては、恐れられている方が色々と好都合なため、口に出したりはしないが。
だが、我ながらほんと単純だと思う。
サクラたちの安全を確認できた上に、合流できる見通しが立った今では、焦りはすでに無用なものとなってしまった。
それだけで機嫌が直るのだから、単細胞もいいところだ。
そして言葉通り、すぐさま送られてきたサクラと上戸執事の連絡先のデータ。
これがあればもう二度と見失うことはないだろう。
風吹もその送られてきたデータを登録しながら、「やれやれ、これで無事にまたサクラちゃんに会えそうだね」と、息を吐く。
俺もまたそれを即座に登録して「あぁ…」とだけ返した。
ふと空を見上げれば、モクモクと嵩高に膨れ上がった入道雲。
夏の風物詩とはいえ、こいつの正体は積乱雲。
傾いた陽が茜色に空を染める頃、この積乱雲が暗雲となり空を黒く染めることもある。
猛烈な雨と雷を伴って――――――――
焦りは霧散した。安堵の息も吐けた。
しかし、モクモクと立ちのぼる入道雲の如く、俺の心にも何故か不穏が立ち込める。
あぁ、やっぱサクラの顔を見るまでは安心できねぇな…………
単細胞の心に一抹の不安として落ちた影。
俺は青空に湧き上がる入道雲から、思わず目を逸した。
まるで、心に落ちた不穏の影からも目を逸らすように。
しかし、目を逸らしたところで現実は、過酷な未来をこれでもかと突きつけてくる。
そう――――――
いつだって、俺の前に………
そして案の定、それはこれから起こる嵐のような追跡劇の前触れだった。
こんにちは。星澄です☆
たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪
狂犬くんのサクラを求めての追走。
そこに立ちはだかるマンホール。
さてそのマンホールの向こう側は?
皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆
恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。
何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。
星澄




