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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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追跡と狂犬(2)

 それは意外と難問だった。


 二階からの脱出ルート。

 普通に考えて、下へと安全に降りられるルートでなければならない。

 まさか二階の窓から決死の大ジャンプなんてことはさすがにないだろう。

 だとするならば、この部屋のどこかに床下収納的な蓋と見せかけての扉があるはずなのだが、がらんとした床にも、三ヶ所ある収納スペースにもそれらしき扉となる蓋の存在はなかった。

 これは難問だ。

 考えられる可能性として、俺と風吹の推測が間違っており、この部屋にはそもそもその脱出ルートがないのか、それとも、脱出ルートがあるにもかかわらず、ただただ俺と風吹の目が節穴なのか…………まぁ、どちらにせよ、俺と風吹が不甲斐ないことに変わりはない。

 やはり俺と風吹は頭脳プレー専門ではなく、破壊専門だな…………という結論だけを導き出したところで、もう一度部屋を見回してみた。

 もちろん、今の俺たちは誰からも後を追われていないので(全員沈めてきたので)、堂々と玄関から外に出れば済むことだ。

 しかし、サクラたちが使った脱出ルートの出口が意外なところに繋がっている場合、玄関から出た時点でサクラたちが残しているかもしれない手掛かりという名の細い糸を、自ら切ってしまうことにも繋がりかねない。

 つまり、できるだけサクラたちが進んだ道を辿るのが正解なのだが、その正解に一向に辿り着けず時間だけが無情にも過ぎていく。

 あぁ、焦るな!冷静に考えろ!必ずどこかに脱出口があるはずだ!

 扉、窓、収納スペースと順々に視線と思考を巡らせていく俺。

 そんな俺の横では、風吹が赤松リーダーに連絡を取ろうとしていた。

「駄目だ。繋がらない。完全に電波が遮断されているところにいるか、完全に電源を落としてしまっているかだね………これは。っていうか、爆専の三人ともアウトだ。こんなことになるなら、サクラちゃんか、川上さんの連絡先押さえとけばよかったね」

「あぁ……まさかこんな展開になるとは思わなかったからな…………失念してた」

「俺もだよ。だからこそ、サクラちゃんたちが進んだ道を正確に進まないと駄目だね」

「その通りだ」

 そう返して、俺はもはやこれが何巡目ともわかないままに、扉、窓、収納スペースと眺めていった。

 俺たちは何かを読み違えているのか?

 ただ見逃しているだけなのか?

 それとも……………

 俺はふと天井を見上げた。そこにはオシャレなリモコン式照明器具ではなく、紐付きの電球が付いているだけだ。

 確かにここは空き家で、誰も住んではいないため、オシャレな照明など付ける必要もない。とはいえ、妙な違和感を覚えた。

 そうここは空き家だ。人は住んでいない。家具もない。この部屋以外照明の類は付いていなかったはずだ。

 いや、俺の記憶違いか…………

 そんなことを思って天井を眺めていると、風吹が俺の視線を追うようにして天井を見上げた。そしてやっぱり俺の同じく妙に感じたらしい。

「一階で見て回った部屋に、こんなの付いてたっけ?まぁ……この部屋を脱出ルートとして見るなら、付いていたとしてもおかしくはないのかな…………」

 なんてことを俺の隣で独り言ちている。だが、風吹の言葉に納得しつつも、どこか引っ掛かりを覚えてならなかった。

 脱出ルートだから電気が付いている。つまりそれは夜間の脱出を想定した話となる。

 しかし、空き家に突如電気の灯る部屋があれば、逆に怪しいですと物語っているようなものだ。

 それに…………一度床に視線を落とし、もう一度天井を見上げ、考える。

 俺たちは固定観念に縛られ過ぎてんじゃねぇのか?―――――と。

 窓からの大ジャンプはない。それは当然だ。だが脱出ルートだからといって、下に降りることばかり考えて、視線を下ばかりに向けていたが、上に逃げるという手もないわけではない。

 もちろん、上に逃げて屋根からの大ジャンプ、もしくは隣の屋根に向かって大ジャンプってことはないだろうが、この部屋から直接下に降りるのではなく、一度上へと進路を取ってから迂回する形で下に降りるというルートだってあるはずだ。

 時計塔では、下の部屋から上の部屋へ、天井にある脱出口を使って忍び込むのは無理だと断念した。だがここは発想の転換だ。

 必ずしも出口は下を向いているとは限らない。だとするならば――――――――――

 俺は手を伸ばし電球の紐を引いた。カチンと電気のオンとオフが切り替わる感触ではなく、僅かな重みを伴って、紐を下に引く手応えだけがあった。

 と同時に、部屋の一番奥からゴゴッと何かが動く音と、そこからカラカラカラと何かが降りてくる音が耳に届く。

 俺と風吹が咄嗟に音の方へと視線を向ければ、引っ張った紐の分だけ天井の板がずれ、そこからは今時珍しい縄梯子が降りていた。

「マジか…………まったくとんだからくり屋敷だな……」

 若干呆れた口調でそう言えば、風吹は下りて来た縄梯子を確認しつつ同意する。

「ほんと忍者にでもなった気分だね」

「いえてる……」

 俺はそう返して、風吹の後に続き縄梯子へ足をかけた。




 なんてことはない。

 一度天井裏にのぼり、ペンライトを片手に中腰で進めば、今度は下に降りる階段が用意されていた。

 その階段の位置とこの家の間取りから、俺たちが血痕を見つけた階段に平行する形で、この隠れ階段が設置されているらしいことがわかる。

 つまり、壁一枚挟んだ両側にこの家の正当な階段と、隠れ階段が並んでいるということだ。そしてこの隠れ階段は、なんと地下まで続き、行き止まりの扉を開けると、また地下道へと出た。

 しかし、先程俺たちが進んできた地下道ではなく、今度は圧迫感を覚えるほどに狭い。人一人通るのがやっとという横幅だ。

 ここを気化爆弾を背負って通ることになった赤松リーダーたちの苦労を思うと…………うん、かなり笑える(既に他人事)。

 そしてそんな極狭ルートを十メートル程進むと、新たな地下道へと出た。

 どうやらここは、電気、ガス、水道と生活に欠かせないパイプラインを埋設した共同溝らしい。そして何かしらのトラブルが発生した場合に即対応できるようにと、それなりの広さが設けられているようだ。

 まさかそんなところへ繋がる穴をこっそり……いや、堂々と作っていたとは、もはや驚きを通り越して恐れ入るしかない。

「これはこれは、サクラちゃんのお父さんは本当に用意周到だね。まぁそれくらい危険人物という自覚が本人にもあったんだろうけどさ」

「確かにな…………にしても、次は右か左か…………わかるか?風吹」

 左右共に奥が深そうな共同溝。

 できればこんなところで逆方向に進み、タイムロスなどしたくない。

 そこで、何か手掛かりは残されていないかと、早速ペンライトの灯りを頼りに辺りを見回してみる。すると、それは思いの外すぐに見つかった。

「右のパイプに真新しそうな赤いリボンが付いてるね。つまりここは右ってことかな?」

「おそらくな、これはサクラたちに繋がる細い糸ってわけだ。とにかく進むぞ」

「了解」

 そうして五十メートル程進んだところで、再び赤いリボンを見つけた。それも地上へと伸びる鉄はしごにだ。

「なるほど…………次はこれを上れという指示かな?」

「みたいだな…………」

 そう返しながら、俺はその鉄はしごを見上げた。

 自分たちでは気づかなかったが、その鉄はしごの長さからいって、地上からかなり深いところに俺たちはいるらしい。

 そしてその鉄はしごの先には、ペンライトの光にぽっかりと浮かぶ丸い月………………ではなく、丸い蓋。マンホール。

 考えるまでもなく、あれが地上への出口であり、サクラたちが抜けていった脱出口だ。

 

 サクラ……待ってろよ。

 すぐに追いつくからな。

 

 あのマンホールの先にサクラたちがいると信じて、俺は鉄はしごに手をかけた。

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


書いて即出しの狂犬ですが、

またまた狂犬くんたち迷走中のようです(もちろん私が一番迷走していますが)。

果たして狂犬くんはサクラに無事追いつけるのか……


皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆


恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。



星澄

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