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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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追跡と狂犬(1)

 鉄はしごをのぼり、扉を開ければそこは台所だった――――――


 …………だよな。

 驚きもなくただただ納得だけがある。

 床下収納の扉がある場所は、大概台所と相場が決まっている。まかり間違っても、誰かの勉強机の引出しに出ることはない。

 そこで俺は気配を探りながら、台所へと這い出し、その扉を閉めておくかどうかで一瞬思考を巡らせた。

 理由は単純。すぐ風吹が追ってくるなら開けていてもいいが、追ってくる人間が風吹でなければ扉を開けるというワンクッションを用意することで仕留めやすくなる。

 しかし悩んだのは二秒程。

 誰かが地下通路を駆けてくる気配を察したからだ。

 それも、迷うことなくあの通路を全力で駆けてこられるということは―――――――

「ねぇ、これはどういうこと?誰の気配もなくなっちゃってるんだけど………まるで神隠しみたいじゃない」

 鉄はしごをのぼりつつ俺に声をかけてきた風吹に、「まったくだ…………」と返し、苛立ちと焦燥を一旦腹へと押し沈めてから、もう一度気配を探った。

 しかし何度探ってみたところで、俺と風吹以外、この家に誰かがいる気配はまったくもって感じ取れない。もちろんそう思われるだけで、意識のない人間が転がっている可能性は多少なりともあるのだが…………

 ここは一部屋ずつ確認するしかねぇか………と、取り敢えず決め、俺は風吹が鉄はしごを完全にのぼり切るのを待ってから、向こうの状況を一応確認しておくことにした。

「…………で、あっちはどうなった?」

「もちろん沈黙しているよ。爆弾も含めてね」

 そう答えて、今やすっかりヨレヨレとなった黒のブロードシャツを、風吹は手でパンパンと叩いた。それで綺麗に汚れが取れるわけではないが、埃くらいは取れる。そしてついでとばかりりにズボンも叩いてから、風吹は突然思い出したかのように付け加えた。

「そうそう、本部には連絡しといたよ。爆専の追加やらなんやらをね。おそらく今の状況的に、赤松リーダーがあの二液混合型爆弾を回収することは不可能だと思ったからさ。それと、沈めた連中もあのまま庭に放置してたら干からびてしまうからね」

「そりゃ致せり尽くせりでどうも。本部も銀行に人手を取られてはいるだろうが、熊もそれくらいの人員なら、こっちに割いてくれるだろ。このまま直接沈めた奴らを警察に引き渡すことだけは御免被りたいしな……」

 なんて言葉を返しながら、俺は何か手掛かりはないかと台所をさくっと確認して回り、そのまま隣の部屋へと移った。一瞬でその確認が終わるのは、本来ここは空き家であり家具が一つも置かれていないせいだ。

 そんな俺の後を追いかけてきながら、風吹が口を開く。

「言えてるね。今回の相手が“テミス”だとするなら、警察は正直当てにならない。完全に警察上層部は組織と繋がっているからね。だからこそサードで一度確保して、警察が隠蔽できないように公の正式ルートを作らなきゃならない。つまり隠蔽すれば即世間からの袋叩きという警察にとって一番嫌なルートをね」

「そういうことだ……」

 そう、サードは半官半民。その行動には常に出資する大手企業からの評価が付いて回る。

 早い話、依頼に対しての成功率が、サードの実績となり評価となる。つまり、警察のように守秘義務という言い訳を行使さえすれば、事実を有耶無耶できるなんて甘いことはなく、守秘義務を守りながらも公にできることは詳らかにし、世間の評価を有難く頂戴しなければならないのだ。

 言い換えるならば、サードで一度確保してしまえば、警察は世間に対して秘匿し続けることはできなくなるということだ。

 だからこそ俺たちはせっかくお越しいただいた組織の連中をできるだけ確保しておきたかった。そして今回、状況的には最悪ではあったが、それができた。爆弾というお土産付きで。

 そうなれば、自分たちは正義の武器商人だも粋がる“テミス”を、潰すことができるかもしれない。

 他でもないこの俺の手で――――――――

 だが、それはまだ先の話であり、今はとにかくサクラたちの行方を追うことが先決だった。

 そこで俺と風吹は、空き家とはいえ高級住宅街に建ち、それなりの広さと部屋数を持つ一軒家を、トイレと浴槽も含めて順々に渡り歩いていく。そして、玄関の鍵がかけられていることを目視と手で確認してから、二階へと上がった。

 その階段を上がりきった先で見つけたあるモノ。

「風吹、床に血痕だ。まだ乾ききってないところからして、つい今しがた落とされたものに違いない。それにこの血痕の量と形からいって、軽傷を負い、後退った瞬間に落ちたってところか…………そして、後退った先にあるのはこの部屋だが…………」

 がらんとした十ニ畳程の部屋に入り確認すると、思った通りほんの僅かにだがドアのノブにも血痕が付いていた。そのことから俺と風吹の間で一つの仮説が立てられる。

「階段で敵と遭遇し、軽傷を負ったそいつはこの部屋に逃げ込んだ。血痕が内側のノブのみに付いていることからもそれはわかる。しかしこの部屋には鍵はない。だからこうしてドアを中から押さえるしかなかった。だから、ノブに血が付着したと…………」

「そうだね。そしてその血痕の持ち主は、逃げることを選択する立場にあるという点からも………………」

 風吹の言葉に押し沈めたはずの焦燥が一気に競り上がってくるのを感じながら、俺は答えた。

「あぁ、この血は爆専の誰かのものだろう」

「みたいだね」

 俺たちがこれだけの状況でそう断定できた理由は、その血痕の持ち主が逃げ手であったこと、そしてこの部屋に閉じこもるために、一時的にドアを閉めた点からだ。

 まず、今のサクラたちと組織の関係を見れば、どちらが逃げ手となるかは一目瞭然だ。一々説明するまでもない。

 そして、何故この血痕の持ち主が爆専の誰かだと言い切れたかというと、それこそ簡単な話だ。

 サクラたちが屋敷から脱出口を使い、ここまで逃げて来たのであれば、元々この空き家で電気工事のフリをしながら待っていた爆専二人と赤松リーダーも入れて、計六人。その一団体が階段を上がって逃げるとするならば、守るべきものを間に挟んでの列を作ることになるため、前と後ろは爆専が担ったと考えられる。

 ただ今回に限っては、雇われ爆破実行犯の谷川もいることから、手を縛るくらいの拘束をした上で、谷川を先頭にしたかもしれない。

 たぶん俺ならそうする。おそらく上戸執事のことだからそうしたかもしれない。

 つまり、谷川という盾を先頭に布陣し、爆専の誰か、サクラ、上戸執事、残り爆専二人――――――――という順番で列をなし、組織の連中から逃げたという可能性が高いということだ。その推測からも、しんがりは爆専となり、その怪我した奴が余程薄情な奴でない限り、残りのメンバーを置き去りにしてドアを閉めるとは考えづらい。さらに血痕が落ちていた場所が、階段を上がりきったところだった点からも、その最後尾の爆専の誰かが怪我をしたことが容易に想像できる。

 まぁ血痕の程度からしても、かなりの軽傷だったと思うのだが…………

 しかし、これで一つ状況がわかった。

 サクラたちは一階にある玄関ではなく、わざわざ二階を目指した。そこから導き出される結論は――――――――

「キョウ!これ見て!」

 風吹の声に咄嗟に振り返る。

 風吹の前にはちょっとした収納スペース。どこかの猫型ロボットがねぐらにしている襖を開けるタイプではなく、観音開きのクローゼットタイプだ。

 こんな収納一つとっても、さすが高級住宅にある空き家だな―――――などと思ってしまうが、今の俺が感心するのはそこではない。

 風吹によって開けられた収納の中には、でんと鎮座するものが二つ。

 縄でぐるぐる巻きにされた組織の男、二人だ。

 もちろん意識はない。

「これは…………爆専…………いや、上戸執事、川上さんの仕業だな」

「おそらくね。爆専もそこそこ戦えるけれど、ここまで綺麗にほぼ一発で沈めることはできないだろうからね。爆専が沈めるとなると、敵は確実に数発喰らうことになる。そうすれば確実に見るも無残な顔が忽ち出来上がりってわけだ。相手をした爆専の方もね」

 風吹と二人並んで男たちに視線を向け、微かに苦笑を零す。

 そしてそこからまた俺たちは推測を重ねていく。

「こいつらを、わざわざここに隠したのは、また追手が来るかもしれないと考えたからだ。しかし、ここまでしっかり念入りに縄をかけられたところから考えると、次の追手が来るまでにまだ時間はあると判断できた…………」

「となると、一つの矛盾がある。こいつらを隠すほどに、サクラちゃんたちは自分たちがここにいた形跡を消そうとしているのに、血痕はそのまま放置した。いくら見逃しやすい血痕とはいえ、見つかれば自分たちがこの部屋に来たことが忽ちバレてしまう。もちろん、血痕を拭い去る時間がなかったとも考えられるけれど、確かにこの縛り具合からしてそれは考え難い。サクラちゃんたちは全員で六人。谷川の見張りに一人割いたとしても、まだ人は余っている。それも階段の床とノブ以外血痕が見当たらにところを見ると、おそらく怪我をした人間は、簡単な止血処理もされている。なのに、わざわざ血痕は残されていた。サクラちゃんたちが血痕に気づかなかったというのは、あのメンバーの顔ぶれからしてない。つまりこれが意味するところは…………」

「必ずここへやって来る俺たちへの、水先案内ってとこだろ」

「みたいだね。サクラちゃんたちは、敵を仕留めてからここに隠し、この部屋から脱出を果たした。そう、一階の玄関の鍵はかけられていた点からも、脱出は玄関ではなく、この二階にあるこの部屋からだ。つまり脱出ルートがこの部屋のどこかにあると示唆しているってことだね」

「まったく…………俺たちのことを買い被りすぎだ」

「確かに………俺たちは頭脳プレー専門じゃなく、破壊専門なんだけどね」

「言えてる」

 風吹のご尤もな台詞に、俺は軽く肩を竦めてみせる。そして――――――――

 

「風吹、とにかく出口を探すぞ」

「了解」


 こうして俺と風吹は、ない知恵を絞りつつ、この部屋のどこかにある脱出ルートを探し始めた。

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆


恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。



星澄

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