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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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脱出と博識ドール(1)

「あの、これからの作戦なのですが……」

 サクラはそこまで口にして、キャップの下から俺を窺うように見つめてきた。

 その先に続く無言の問いかけに、俺はサード隊員として口を開く。

「サードとしては、せっかく組織の方からお越しいただけるのであれば、一人残らず確保したい―――――というのが本音だ。だが、あくまでもそれは組織がどれだけの人数で突入してくるかによって話は変わる。とはいえ、その数を確認してから行動を決めるのでは遅い。それに今の俺たちは身軽に逃げ出せる状況でもない。厄介な爆弾という三つのコブ付きだ。だから、これからの動きについて、ここである程度の想定だけはしておきたい。どうだ?」

 俺の答えに、サクラは満足したように頷き、今のところはお散歩中の猫一匹映らないモニターへと視線を向けた。そして今度は部屋に設えられている電波式時計を見やる。

「現在の時刻は13時37分。組織は銀行の確認を済ませ、すでに屋敷の周辺にいる可能性があります。しかしすぐには入り込んできたりはしないでしょう。暫く様子見をするはずです。その理由は、二つ目の爆弾がここにあり、計画上では13時45分の爆破を予定しているからです」

 そのサクラの言葉に風吹が納得を返す。

「そうだね。組織としては、二つ目の爆弾の状況がわからない。わかっているのは一つ目の爆弾が予定時刻の13時になっても爆発しなかったという事実だけだ。つまり、予定時刻の13時45分に爆発する恐れだって可能性としてはある。だからこその様子見だね」

「その通りです。そうなると私たちに残された時間は、あと最低でも約八分はあります。おそらく私が組織の人間なら…………」

「爆破時間の多少の誤差を考慮して、13時50分突入開始ってところか…………」

 俺がそう返せば、サクラの口許は同意を示すように、綺麗な弧を描いた。

「――――――ということで、時間は様子見を入れたとしてもあまりありません。だから、事態に合わせて臨機応変に対応していく必要があります。でもまったくの無計画で事を起こすわけにもいきません。そこでキョウちゃんの提案通り、いくつかのパターンを想定しておきましょう。まず、一つ目のパターンとして、組織がまだ動いておらず、キョウちゃんたちのお仲間さんが普通に爆弾を迎えに来た場合です。しかしこの場合は単純に爆弾と、こちらの谷川さんの保護をしてもらうだけの話です。そうすれば、たとえその直後に組織が来たとしても、私たちは身軽に動くことができます。つまり、組織の人間を確保することも、また組織の人間から逃げることも、容易となるわけです」

「確かにな。いくらでも臨機応変に動けるようになる。だがそれはもはや希望的観測すぎるだろ」

 すっかりサクラが言うところの若作りとなった上戸執事と、妙なやる気を出している谷川によって、モニターは厳重に監視されているが、有り難いことにまだ誰も移り込んではきていない。とはいえ、常に最悪の事態を想定するならば、組織の人間がすでにこの屋敷周辺にいると考えるべきだろう。

 つまり、爆専が先にここへ着くことはもうないと考えておいたほうがいい。

 ったく!あいつらどこをほっつき歩いてんだ!迷子か?迷子なのか?なら、さっさと交番で道を聞いてここまで来い!

 俺は爆専の連中に対して、内心で存分に罵詈雑言をぶちまけながら、「そのパターンはなしだな」と、あくまでも淡々とそう告げた。

 風吹もまたモニターを覗き込むように見つめ、「確かに、爆専に期待するのはやめたほうがいいね」と、ため息交じりに零す。

 そんな俺たちの台詞にサクラは苦笑となりながら、先を続けた。

「では、あと考えられるパターンは二つ。先に組織の人間がこの屋敷に突入してくるか、キョウちゃんのお仲間と組織の人間が鉢合わせしてしまうか…………です」

「どっちとも甲乙つけ難いほどに最悪だね。それ…………」

 風吹の率直な意見に、もう一度サクラは苦笑して「本当に……」と肩を竦めてみせた。しかしすぐに口を開き直す。

「まず、組織の人間が一気に突入してきた場合ですが、五人までなら川上もいるので確保できるでしょう」

 そう言いながらも俺と風吹に視線だけで、できますよね?と、問いかけてくる。俺と風吹は口端を上げることで、できる――――と返した。それに対し、サクラは青い瞳を細め、口早に話を進めていく。

「しかしそれ以上の人数となると、少々確保は難しくなります。その場合は、即ここから脱出するべきです。脱出ルートは予め確保済なのでご安心ください」

「あぁ、それで構わない。あくまでもサクラたちの安全の確保が最優先だ。組織の人間の確保は、それが十分にできると判断した場合のみ決行する」

 そう――――――もちろん事件解決のためにも組織の人間を確保したい気持ちはある。しかしそれは危険を冒してまですることでもない。いや、普段の俺ならその危険を冒してまで確保しようとしていたかもしれないが、今はサクラがいる。

 もちろん爆弾もあるし、組織にとってのとかげのしっぽである谷川もまた、俺たちにとっては立派な保護対象だ。

 しかし、それよりもなにより…………ここにサクラがいるということが、今の俺にとっては最優先事項だった。

 そんなこと、サクラ本人には口が裂けても言えやしないが………………

「わかりました。では組織の人間が五人までなら確保、それ以上であれば即脱出をします。そして脱出の際には、爆弾は一旦この金庫に入れたまま置いていきます。当然扉も鍵も閉めた状態にして、その後の回収はキョウちゃんのお仲間さんに改めてお願いすることとしましょう。但し、組織の手に渡ってしまいそうな場合は、送信機による遠隔操作で爆破します。被害はこの金庫とこの部屋くらいで済むはずです。一応この屋敷は登録有形文化財となっていますが、背に腹は代えられません。もちろん人的被害を防ぐためにも、組織の人間がこの部屋にいないことが前提となりますが…………」

 なるほど…………俺が炎天下の中を運んだ一つ目の爆弾は“送信機直結型爆弾”だった。そして今は送信機のオフしているだけで、実際のところ爆弾は生きている。そのため送信機を再びオンにしてやれば、また遠隔で爆破できるというわけだ。しかし―――――――

「逃げている俺たちに、どうやって組織の連中の動きがわかるんだ?」

 ごくごく素朴な疑問を投げかけると、サクラではなく上戸執事が返してきた。

「この屋敷のすべての部屋には、小型カメラが仕込んであります。そしてそのカメラの映像はお嬢様のスマホ及び、私のスマホから確認ができます」

 なるほど…………抜かりなしというわけか。

 さすがここまで組織から逃げおおせてきただけのことはあると、内心で感心する。

「だったら、逃げる範囲は送信機が使えるエリアだが、サードの本部もエリア内だ。とにかく脱出後はサードを目指す。サクラたちもそれで問題はないか?」

「ありません。というか助かります。さすがに引っ越して二日で移動するとは思っていなかったので、次の移動先の準備がまだ整っていないんです。それにサードにお邪魔して、爆破予告の文面だけで銀行の貸金庫にあると見破った方とも、是非お話をしてみたいんです。だから私からもお願いします」

 そう告げて、サクラは礼儀正しくペコリと頭を下げた。

 そんな頭を下げるほどのことでも…………なんてことを思いつつ、俺は咄嗟に記憶を辿る。

 爆破予告の文面だけで銀行の貸金庫にあると見破った奴って確か…………あぁ、大島博士か…………

 忽ちあの作戦会議のことを思い出し、ついでとばかりに大島博士の顔を思い浮かべてみる。

 うん。紛うことなきおっさんだ。

「了解。でもサクラ、ただのおっさんだぞ?」

 ついついそんなことを言ってしまったのは、なんとなく……本当になんとなく………モヤモヤッとしたものを感じたからだ。だがすぐに、いやいや、ただのおっさんだから…………と、サクラではなく改めて自分に告げ直すことで、この訳のわからないモヤモヤを霧散させておく。

 もちろん、俺の内心でのあれやこれやを知る由もないサクラは、ただ嬉しそうに「ふふふ…………」と、笑っただけだった。

「それで、残るパターンは爆専の連中と組織の人間が鉢合わせした場合だけれど…………」

 風吹の言葉に、サクラはすぐに笑みを引き取り、形のいい眉をキャップの下で寄せた。

 そしてう〜んと唸りながら、言葉を絞り出す。

「実は、これが一番厄介な状況なんですよね。組織の人間の存在にいち早く、キョウちゃんのお仲間さんが気づいてくだされば問題はありませんが、気づかなかった場合、私たちで状況を知らせるしかありません。しかし、正直そんな時間もありませんし、この屋敷が無人だと組織に思われているなら、のこのこと出ていくわけにもいきません。つまり、組織に気取られることなく、キョウちゃんのお仲間に接触することができればいいのですが………………」

「今更だけど爆専に連絡しとく?」

 風吹の提案にサクラは首を横に振った。

「組織の人間は、谷川さんと爆弾の行方を探しています。つまり屋敷の外から屋敷内部の人の気配を探っている状況です。この部屋の壁は防音機能付きですが、通信の遮断までは無理です。そのため、すでに組織が潜んでいる可能性がある以上、外部との連絡も差し控えた方が無難でしょう…………」

 サクラがそこまで告げた時、「咲良お嬢様、こちらを……」と上戸執事が声をかけてきた。

 そして今度は俺たち向かって「狂犬様と風吹様もこちらへ」と促してくる。

 だから、“狂犬様”言うな!と、軽く上戸執事を睨んでからモニターを見てみれば、先程まで猫一匹映ってなかったモニターに複数名分の動く影がある。それも二つのモニターにだ。

「このモニターは正面玄関側だから、たぶんキョウちゃんのお仲間ですね。それとこちらのモニターは屋敷の西南にある裏口だから…………」

「おそらく組織の人間だな。それも……モニター上でざっと五人。ま、もっといるだろうけどな。そして対する正面玄関側は三人か…………」

 そう口を挟みながら、俺は時計を見る。

 現在時刻は午後1時48分。おそらく突入開始は午後1時50分という読みは当たっていたようだ。

 とはいえ、これは非常に厄介なパターンとなったな…………と、内心で盛大にため息を吐く。

 しかしこのタイミングで阿呆どもがやって来てしまった以上、どうにかするしかない。

 

 一気に数が増えた飛んで火にいる夏の虫。

 このまま仕留めるか、追い払うか、それとも大人しくやり過ごすか………………


 うん。それが問題だ。

 

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