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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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爆弾と博識ドール(11)

 一つ目の爆弾は、サクラの言うところの“送信機直結型爆弾”だった。

 送信機のスイッチを押しさえすれば、すぐに爆発するというものだ。

 もちろんその目的は銀行の貸金庫を爆破するため。

 そして二つ目の爆弾は、これまたサクラの言うところの“送信機間接型時限式爆弾”で、わざわざそれをアピールするかのように、タイマー表示まで施された、映画やドラマで有りがちなヤツだ。

 さらに、サクラが爆弾犯谷川に聞き出した話によれば、こいつはとても細かい指示を与えられていた。

 いつどこで、どのタイミングで送信機のスイッチを押すのか。

 その後の移動手段と、その所要時間までもだ。

 当然、金で雇われた実行犯としては、それを守ることは義務であり、成功報酬のためにも頑なに厳守しようとするだろう。

 だとしてもだ。自分の手にするものはとてもデリケートな爆弾。

 俺もこの炎天下の中でそれを抱えて込んでいたからこそわかる。

 何かの拍子で爆発するかもわからないものをずっと抱え込んでいれば、本来ならなくてもいい疑心暗鬼にもなる。

 しかし、組織はこの谷川に絶対的安心を与えた。

 そう、二つの送信機だ。

 無事に運びさえすれば、遠隔で爆破ができる。さらに言えば、ただの爆弾の運び屋としてではなく、最終爆破スイッチとなる送信機までも預かっている。自分以外の誰かがスイッチを押し起爆させることもない。

 しかも二つ目の爆弾に関して言えば、時限式。それも一つ目の爆弾同様、爆弾から距離を取ってからスイッチが押せる。たとえタイマーが不具合を起こし、すぐに爆発したとしても、やはり自分の身は保証されている。

 組織は谷川に、この二つの送信機とタイマー表示付きの時限式爆弾でそう思わせたのだ。

 そして――――――――

 サクラはちらりと別次元へ意識を飛ばしたままでいる谷川を見やってから続けた。

「三つ目の爆弾がプラスチック爆弾だったのは、もちろん送信機に仕込みやすいという点と、この方に爆弾がもう一つあると思わせないためです。おそらく組織はそれはもうしつこいほどに気化爆弾の取り扱いについて告げたはずです。それはある種の刷り込みのようなものです。誰もが爆弾は危険なものだと知っています。誰も乱暴に扱ったりはしません。しかし、それ以上の注意、もしくは忠告を受ければ、いつも以上に慎重にならざるを得ません。実際この方は、かなり慎重に行動されていました。だからこそ私が少し声をかけただけで、驚きのあまり送信機を落とされてしまったのです」

 いや、そこは普通に驚くだろう……………

 無人と思っていた屋敷に人がおり、しかも声をかけた時のサクラの髪型は、おそらく幽霊スタ…………もとい、斬新…………いや、奇抜すぎる髪型だったはずだ。

 うん、俺でも驚く。っていうか、なんなら爆弾の方を落としていたかもしれない………

 そう思えば、送信機だけを、しかも爆弾が仕掛けられていない方の送信機を落とした谷川を、『偉い!でかした!』と褒めてやりたくなってくる。

 もちろん本当に褒めたりはしないが…………………

 そんな俺の声が聞こえたわけではないだろうが、サクラがふふふっと笑って先を続けた。

「そこまで慎重を有する爆弾が手から放れた瞬間、この方の開放感、安心感は想像に難くありません。その安心感をも組織は自分たちへの信頼に変えようとしたのです。そのため、口封じもかねた三つの目の爆弾に、信管による通電でしか爆発しない、鈍感な爆薬であるプラスチック爆弾を使いました。とはいえ、爆弾には変わりありません。だから組織は送信機を丁重に運ばせるために、こう告げたはずです。『成功報酬は送信機と引き換えだ』と。これで送信機を換金材料として所定の場所まで大事に運んでくる。しかも、極度の緊張感を持たせつつ、最終的には爆弾の遠隔操作させることで、身の安全を保証した後です。きっと組織からの言葉を、そのまま鵜呑みにしたはずです。まさか二つ目の爆弾のタイマーを起動させる送信機が、もう一つの送信機に仕込まれていた爆弾のタイマーをも起動させてしまうとは夢にも思わずに……」

「なるほど…………」

 サクラの言葉に風吹が何度も頷いた。感心しきりと言ったところなのだろう。

 そしてアイスレモンティーをストローで飲み干してから、テーブルに広げられたままの地図に目を落とした。

「だとしたら、組織の用意した筋書きだと、こいつはこの河川敷で二つ目の爆弾が爆発するのを確認してから、河川敷から最短ルートで約二十五分の距離にある最終爆破予定地――――――こいつにとったら成功報酬の受取り場所に行くことで、今回の依頼をコンプリートできるはずだった…………ってことかな?」

「その通りです」

 サクラからの断言を受けて、風吹はもう一度頷くと、地図上の河川敷に指を置いた。

「実際、三つの目の爆弾はサクラちゃんの予想通りの時間に、信管からの通電があった。つまり、この河川敷から最短ルートで約二十五分の距離にある場所が最終目的地であるというサクラちゃんの読みは正しい。それが一体どこなのか、教えてもらえる?」

 今度は風吹の言葉にサクラが頷き、地図を指し示すために身を乗り出した。

「この河川敷の最寄り駅から電車に乗って約二十五分。それがこの場所です。ここにある屋敷もまた綾塔…………私の父が研究場所の一つとして所有していたものです。おそらく組織はこの方を徹底的に油断させるために、最後は電車での移動を指示したと思いました。この河川敷から最寄り駅まで歩いて、私の記憶にある時刻表通りに電車に乗れば、余裕で二十五分以内に着きます。ちなみにこの場所にある建物はこの屋敷同様、外観はほぼ廃墟です。そして、この屋敷に越してくる二日前まで私と川上が身を寄せていた場所でもあります」

 地図上をまるで舞うかのように、滑らかに動くサクラの指先を眺めながら、内心で、サクラたちはここにいたのか……………と零す。と同時に、俺はあることを思い出した。

「そう言えば、サクラ。プラスチック爆弾の量が思ったよりも少ないとか言ってなかったか?」

 サクラは地図から指と視線を外すと、「その件ですが…………」と、眉尻を下げる。

 もちろんその顔も可愛い。

 ずっと眺めていても飽きないくらいに愛らしい。

 しかし、本当に今更の話だが、十六歳の少女にすべての謎を解かせるなど、サード隊員としても、歳上の大人の男としても情けなさすぎるだろうと、自嘲する。

 いくらサクラでも、これはさすがにわからねぇよな。ま、ここらへんのことは組織の連中をとっ捕まえて吐かせりゃいいか………などと思い直していれば、どうもそうではなかったらしい。

「さっきキョウちゃんから、一つ目の爆弾の話を聞いて、ある程度理解ができました。プラスチック爆弾の量についても、組織の思惑についても…………」

「「まじか(で)………………」」

 再びハモる俺と風吹。

 上戸執事は「さすが咲良お嬢様でございます!いつものことながらこの川上、心より感服いたしております!いやぁ、素晴らしい!」と、手放しでサクラを大絶賛だ。

 サクラはそんな上戸執事に対し、「か、川上、恥ずかしくなるからそんなに褒めないで……」と、一層へにょりと眉を下げ、頬を赤く染めながらモジモジしている。

 その様がまたなんとも………………

「サクラちゃん……可愛い…………」

 うん、激しく同意だ―――――って!

 風吹、いちいちそんなことを口に出すな!言われなくてもわかってる!ってか、なんでお前が呆けてんだ!

 クソッ!なんだか知らねぇけど、無性にムカつく………………

 しかも、風吹の『可愛い』発言を受けて、「わ、私なんて醜いだけで、可愛いところなどどこにも………………」と、サクラは両手で頬を押さえ、動揺しまくりだ。

 それがまた可愛いさ満点なのだから、ほんと始末が悪い。

 サクラ、悪いことは言わない。今すぐ鏡を見て、そのかなりずれてしまっている美的感覚を修正した方がいい…………いや、だから、今はそうじゃなくって!

「サクラ、ある程度の理解でいい。教えてくれ!」

 無駄に声を張り上げそう言うと、サクラは顔を赤らめたままでコクンと首を縦に振った。

 

「まず、一つ目の爆破予告付きの爆弾に対する見立てですが、キョウちゃんたちサードの考えは正しいと思います。組織はあくまでも父の残した論文を消し去ることが目的であって、人殺しが目的ではないということです。そのために、非常に面倒な手続きをした上で貸金庫に爆弾を仕掛け、非常に手間をかけた方法でご親切にも爆破予告をし、わざわざ人々に恐怖を与え、逃げるように促しました。二つ目の爆弾のアラーム表示と同じですね。真なる目的は、これ見よがし示されたモノによって常に隠されている。その隠す相手と目的が違うだけで…………」

「それは、爆弾の種類に関しても言えることだな?」

 俺がそう聞き返せば、何故かサクラの首振りはコクコクコクと高速となった。しかも溢れんばかりの笑み付きで。

「そうです!キョウちゃんさすがです!一つ目と二つ目の爆弾に気化爆弾を使ったのは、火が出にくいからです!それだと建物への被害も少なく済みます!キョウちゃん凄いです!」

 うん、魂胆はわかってるぞ、サクラ。

 自分が褒め殺しにあったから、俺にもその恥ずかしさを伝播しようとしているな?

 だが、残念だったな。相手が悪い。自慢じゃないが、俺は褒められ慣れている慣れていない以前の人間なんだよ。

 つまり、まったく褒められたことがない!(きっぱり)

 だから、逆に褒められれば、その裏を読む癖が身に付いてしまっている。

 悲しいことになッ!

 そんな自虐しかない不敵な笑みを返してやれば、「キョウちゃん、凄い……褒められることが普通だと、ここまで冷静に対応できるものなのね。私もこの境地にならなければ……」と、サクラは明らかに別方向の境地を目指そうとしている。しかしそこは訂正の必要もない。

 むしろ、今から褒められ慣れとけ!と、内心で助言を送り、「サクラ」と呼びかけることで話の先を促した。

「す、すみません。えっと……しかし三つ目の爆弾に関して言えば、優先事項は、この方に爆弾を持っている事実を気づかせないということです。そのために、どうしてもプラスチック爆弾を使うしかありませんでした。けれど、人一人と屋敷内に残されているかもしれない父の論文を同時に消したい。そのために必要最低限の火薬量にしたのです。プラスチック爆弾は必ず火が出ます。そうなれば近隣に被害が出る恐れもある。だからその延焼を、火薬量を少なくすることで抑え込もうとしました」

 しかしここで俺と風吹は腕を組み、唸ってしまった。

 感心ではなく疑問でだ。

「サクラの言っていることはわかる。だが、どうしても腑に落ちない点がある。組織がそこまで気を遣う理由についてだ。何故、そこまでの手間をかける必要がある?爆弾を使っておきながら近隣被害を気にするって、どう考えても矛盾しているだろう?」

「俺もキョウに一票だよ。普通さ、目的遂行のためだったら、どんな犠牲も厭わないものなんじゃないのかな?それが自分たちの信じる正義のためだったらさ」

 だが、風吹の台詞で俺の疑問は呆気なく解消されてしまう。

「いや、待て…………サクラの言葉は正しい。そう、これが組織にとっての正義だからだ。今回の事件が“綾塔咲良誘拐事件”と同じ組織が企てたことなら、矛盾は矛盾でもない。なんせ奴らは自分たちこそこの世の“善”であり“正義”だと思い込んでいる。だからこそ自分たちの目的を妨げる者、また、組織が認めた“悪”についてはたとえ女子供であろうと徹底的に排除する。しかし、それ以外には絶対に手を出さない。どれだけの手間と金をかけようとも、それこそが奴らのポリシーだからだ」

 そう告げてサクラを見やれば、サクラは俺の顔をまじまじと見つめたきた。そしてポツリと呟く。

「キョウちゃんは、あの組織について詳しいんですね…………」

 詳しくないわけがない。俺もまた当事者の一人だ。

 何より、俺はそいつらからサクラを取り返すため、自由にするために生きてきたと言ってもいい。

 けれど、記憶がないサクラにそれを告げることはやはりできない。

 そう、すべてはサクラの身に、実際に何があったのか上戸執事に確かめてからだ。

 そのため俺は有り体な言葉を口にする。

「サードにいれば、そんな情報はすぐに入る。もちろんその組織の名前もな」

 未だ探るようにして俺を見つめてくるサクラの視線から逃れるように、テーブルの上でカランと音を鳴らしたグラスに目をやった。そして……………………

「組織の名は、“テミス”。ギリシャ神話に出てくる剣と秤を持つ正義の女神であり、今や司法の場でよく目にする女神の像のアレだ。奴らは自分たちのことを“正義の武器商人”と宣い、自分たち仕様の秤に正邪をのせ、“悪”と定めたものを片方の手に持つ剣――――――つまり、武器で裁く。といっても、基本は“善”と見なした国に武器を売りつける武器商人だけどな。だが、時に組織自ら動くこともある。組織自身が“悪”と見なした者へ制裁を加えるために………………」

 そこまで告げて、俺はあることに気がついた。

 いや、俺だけではない。サクラも上戸執事も気づいたようだった。

 刹那、俺たちは慌ただしく動き出す。

「風吹!谷川を起こせ!」

「川上!脱出準備!」

「心得ております!」

 

 そう、組織は“悪”と見なしたものに必ず制裁を加える。

 そしてその時は、もうそこまで迫っていた―――――――

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