爆弾と博識ドール(7)
相変わらずの手際で、上戸執事により解体されていく送信機A。
俺たちはただただそれを固唾を呑んで見守るだけだ。
そして不要な部品が取り外され、中身が丸見えになった時点で、上戸執事はサクラに声をかけた。
「お嬢様、どうでしょう?」
もちろんサクラの機嫌はすっかり直っている。今はそれよりも目の前の爆弾に興味津々といった感じだ。どうやら、サクラの好奇心は底なしらしい。
「キョウちゃん、少しそのペンライトを貸してください」
そう言われるままに俺はペンライトをサクラに差し出し、念入りに送信機の中を覗き込むサクラをただただ眺める。
サクラが瞬く度にふるりと揺れる、青い瞳を縁取る長い睫毛を見つめ、もうあの時の幼いサクラではないんだな――――――などと、当たり前のことを思ったりしながら。
しかしそんな感傷も束の間、サクラの声が俺を現実に引き戻した。
「やはりこれはごくごく単純なプラスチック爆弾ですね。そして信管はやはり延期信管――――つまり攻撃型の短延期信管ではなく、長延期信管で時限爆弾に使われるものです。送信機Bのスイッチが押されてた時点で、当家に持ち込まれた時限式超小型気化爆弾と、こちらの爆弾の時限装置の作動するようになっていました。ただ問題は、先程の超小型気化爆弾とは違い、こちらには何時何分後に爆発するといった表示がないということです。まぁ、そんなことを今から消えていただく相手に知らせる必要もありませんから、本来ならご親切に表示しなくてもいいことです。それにタイマー表示が送信機に付いていれば、それこそ怪しさ満載ですからね。すぐにバレてしまいます」
確かに…………………しかし、ということは?
「残念ながら、この信管がいつ起動するのか、もはやそれがわかるのは設計者のみです。もしかしたら、今すぐ爆発するかもしれませんし、二十四時間後に爆発するかもしれません。私たちの運次第といったところでしょうか」
そんな運任せなことをさらりと口にして、う~んと首を捻るサクラに、俺は思わず口を挟んだ。
「サ、サクラ、さっきお前が言ってた最低でも二十五分あるって話はどうなった!いや、もう残り十分弱だが、そもそもその時間の根拠はなんだ!」
サクラは送信機の中を覗き込みながら、俺の問いに返してきた。
「今私が述べたことはあくまでも、この爆弾だけでわかる情報です。なので、もちろんその仮説はまだ有効です。最低でも十分弱はあると思います。そしてその根拠は、その方が成功報酬を受け取るため、次に移動しようとしていた場所にかかる所要時間です。そしてその場所は河川敷から最短ルートで約二十五分の距離にあります。だからこの爆破までの時間はたぶん合っていると思われるのですが…………」
俺にはどうしてサクラが金の受け渡し場所までわかるのかさっぱりだが、今はそれよりもどこか煮え切らないサクラの態度の方が気にかかる。
そしてそれは上戸執事も同じだったようで、今度は上戸執事がサクラに問いかけた。
「お嬢様は一体何を気にされているのでしょう?」
「とても単純な事よ。思ったよりもプラスチック爆弾の量が少ないの。もちろん人一人吹き飛ばせるだけの量はあるけれど、あの場所を全壊させるにはとても足りないわ。でも、彼らが一緒に爆破したいのはあの場所で間違いはないと思うのだけれど、違うのかしら…………もしそうだとしたら、爆破までの時間も変わってくるのだけれど…………困ったわね」
一言いいだろうか……………………
困ってる場合かッ‼
「サクラ!悩むのは後にしろ!正確な爆破時間がわからない以上、今はサクラの最初の読みを信じて、爆弾解除が先だ!とにかく、この上戸執事に解体の指示をしろ!風吹は午後12時55分を爆破予定だと仮定して、タイムキーパーだ!サクラ、急げ!」
「上戸執事…………」
俺の隣で、上戸執事が自分に付けられたあだ名に目を丸くしているが、そんなこと知ったことか!だいたい俺のことを“狂犬様”呼びしてんだから、お互い様だろうが!――――――と、自分のうっかりに開き直る。
しかしサクラは俺の言葉に納得したようで、「すみません。ついつい疑問があると、すべてを放り出して追及してしまう癖がありまして…………でも、キョウちゃんの言う通りです。今は爆弾解除だけに集中します。この上戸執事である川上に、しっかり横から指示を出して、見事解除してご覧に入れます」と、握り拳まで作ってみせる。
「お嬢様まで上戸執事…………」
そんな声がまたもや隣から漏れてきた気はするが、そこは丸ッと聞こえないフリのまま、俺たちは第三の爆弾の解除に入った。
プラスチック爆弾――――――――――
普通の火薬とゴムを練り合わせて作られた爆弾で、日本の法律では“可塑性爆薬”と呼称されているものだ。
持ち運びしやすく、さらには形の変形もしやすい。つまり、送信機に仕込むには打って受けの爆薬である。
サクラは俺にペンライトを返すと、ざっとこれからする爆弾解除についての説明を始めた。
「これは長延期信管で、この信管の中にタイマーが組み込まれてしまっているため、先程のようにタイマーだけに干渉するわけにはいきません。つまり、直接爆弾に干渉することになります。そしてその干渉方法ですが、一番無難な方法は信管自体を取り除いてしまうことです。しかし、正確な爆破時間が特定できない以上、そう時間をかけて信管を取り除いている暇はありません。ただ、このプラスチック爆弾の特徴として、温度、引火、振動などで爆発することはありません。言い換えればとても鈍感な爆薬ため、起爆はほぼ電気の通電のみということです。なので、通電による起爆を防ぐために、信管からの電気を別ルートに逃がす突貫配線をします。川上、用意を!」
「かしこまりました。お嬢様」
そう恭しく答えるや否や、上戸執事はその突貫配線に取り掛かった。
そしてそこからは、既視感しかない恐怖の再体験だ。
仮定の予想爆破時刻とはいえ、タイムキーパーである風吹からカウントダウンが告げられる中で、俺はペンライトを照らし、サクラの細かい指示に従って上戸執事が処理していく。されど、そのカウントダウンが仮定でしかないため、先程よりも残り時間は多いはずなのに、その焦燥感は半端ない。なんせ今すぐ爆発しても決しておかしくない状況なのだ。
しかし残り二分を切ったところで――――――――
「一先ず、これで突貫配線は終了です。このまま爆破予定時刻が来ても、信管からの電気はこちらに流れて、この電球を光らせるだけです」
確かに、突貫で敷かれた配線の先には電球が取付られ、今か今かと電気が流れてくる瞬間を待ち構えている――――――ように見える。
ちなみにその電球は、ここへ来た時に借りたあの洗面室から、サクラの指示で俺が拝借してきたものだ。
爆弾と同列に並ぶ電球一つ。
光景としては少々間抜けだが、この電球が俺たちの命の灯の示すものとなるため、電球を見つめる俺たちの視線も真剣そのものとなっている。
万が一この突貫配線に不備があり、爆薬の方へと通電してしまえば、俺たちはこの電球の光を見ることなく、ここにいる全員でお手て繋いであの世行きだ。
「残り一分!」
もちろんこの風吹のカウントダウンは、午後12時55分に爆破予定であるという仮定のもとに行っているもので、正確ではない。それでも、俺たちの視線はすべて電球に注がれている。
「残り三十秒!」
いつの間にやら意識を取り戻した爆弾犯谷川も、その電球を一心不乱に凝視している。それこそ蝋人形のように瞬き一つしない。ある意味、目を開けたままで気絶しているんじゃないかと思ってしまうくらいだ。だが俺も、決して人の事は言えない。
もう頼むから今すぐ光ってくれ!と、完全に祈りの体勢だ。
「残り十秒!」
当然、ゼロでぴったり光るとまでは思っていない。多少の誤差はあるはずだと理解はしている。しかし――――――――
「残り五秒、四、三、二、一……………」
「光るわ」
……………………………まじか。
サクラの声に呼応するように光を宿した電球。
それは俺たちの命の灯であると同時に、サクラの推理の正しさを裏付けるものでもあった。




