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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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23/96

爆弾と博識ドール(6)

 時刻は午後12時38分。

 第三の爆弾爆破予定時刻まで最短で約十七分(あくまでもサクラの予想だが)。

 

 現在、俺と風吹、そして上戸執事の手によって、テーブルの上に爆弾犯が所持していた物を一通り並べ終えたところだ。

 それらをサクラと爆弾犯はソファに座ったままの状態で、残りの俺たちはテーブルを取り囲むようにして立ったままで確認している。

 スマホ、腕時計、キーケース、そして財布。その財布の中にはざっと二十枚ほどの札束と小銭数枚。キャッシュカードの類いはなし。あとは運転免許証。

 その運転免許証を確認する限り、この爆弾犯の年齢は三十九歳で、名前は谷川啓太郎。最近の偽造技術はなかなかだが、おそらくこれは本物の運転免許証だろうと、サードで見てきた偽造免許証と脳内で照合させつつ判断する。

 しかしだ。ここまでは一般的な持ち物だと言えるだろう。そしてこれらの物に爆弾を仕込めるだけのスペースはない。

 つまり問題はここから。

 大型の折り畳み式ナイフであるジャックナイフと、スタンガン、改造銃一丁に、送信機二つ、そして送信機とは完全に切り離されてはいるが、未だその殺人兵器としての機能を保ったままである爆弾二つ。

 明らかに物騒すぎる所持品だ。

 これらの物だけで、こいつを取り調べ室にご案内し、そのまま刑務所へと放り込むことだってできる。

 だが、それなりの年数をそこで過ごしてもらうためにも、もう少しその身体から埃を叩き出してやりたい。

 そしてできることなら、このトカゲのしっぽから本体を引き摺りだし、団体様で長期間刑務所に逗留していただきたいところである。

 しかし当面の問題は、刑務所での長期滞在がお一人様になるのか、それとも団体様になるのかということではなく、数分後に爆発するかもしれないという爆弾の所在だ。

 とはいえ、ここでも消去法であっさり二択となった。

 俺が抱きかかえていた爆弾用の送信機Aか、この屋敷に持ち込まれた時限式爆弾用の送信機Bか、という二択に――――――――

「結論から言って、というか、考えるまでもなく、爆発物を仕込んでいるのはこっちの送信機Aだろう」

「だろうね。送信機Bに仕込まれていたとしたら、落とされた時点で、今頃サクラちゃんたちもあの世に旅立っていたよ」

「確かにそうですね。でも、こちらの送信機Aを落とされていたなら、私と川上だけでなく、キョウちゃんがお持ちだった爆弾は送信機直結型爆弾でしたので、今頃キョウちゃんもまた一人路上であの世に旅立たれていたところですね」

「一人路上でとはなんともお寂しいことでございます。しかし狂犬様もなかなかに強運の持ち主でいらっしゃる」

 いや、もう…………もしかしたら数分後に爆発するかもしれない―――――そんな代物を目の前に置いて、俺たちの会話もなかなか大概だが、最後の上戸執事の台詞だけは絶対に俺をからかいにきているとしか思えない。なんせ、その肩が震えている。しかも、“狂犬様”と取ってつけたかのように口にした時のしたり顔を、俺は決して見逃さなかった。

 ったく、コノヤロ。これが終わったら、十年分のあれやこれやを全部聞き出してるからな!と、上戸執事を睨みつけ、さらなる上戸に陥らせてしまったのは俺の失策だ。

「しかし、送信機もそれなりの大きさはあるけれど、ここに爆弾を仕込めるものかな?」

 ご尤もな風吹からの意見に、俺はその爆弾が仕込まれていると思われる送信機Aを改めて見つめた。

 アメリカ製の最新型の送信機。その大きさは幅約18センチ、高さ約12センチ、厚み約5センチとそれなりにデカい。だが、送信機としての機能を有している以上、その中にはそれなりのチップや器具、そして導線が犇めき合っているわけで、空洞なわけではない。そこに爆弾を詰め込むのは難しいと思うのだが――――――

「問題はありません。元々この送信機はドローンの送信機を改造した物。つまり、遠距離にある爆弾を爆発させる送信機能だけを残し、今回の目的には不必要なドローンの操縦機能をすべて取りはずしてしまえば、その分スペースが確保できます。そして、こちらの実行者の方に爆発物としてではなくただの送信機として渡す以上、超小型気化爆弾のような非常に繊細なものではなく、ある程度の衝撃に耐えられる仕様の爆弾のはずです。もちろん落とすなんてことは御法度でしょうけれどね」

 そう言いながら、サクラはミルクティーに合う季節のデザートの一皿ではなく、ゴテッとした黒い物体である送信機Aを前に置き、ナイフとフォークの代わりにドライバーとラジオペンチを握り締めた。

 うん、これは数十分前にも見た光景だ。

 そしていそいそと…………というより、ワクワク感を溢れさせながら、送信機Aの解体を試みようとする。

「いやいや、ちょっと待て、サクラ!お前、実地経験はないって言ってたよな!あれって超小型気化爆弾に限ったことか!他の爆弾なら実地経験済か!」

「そ、そうだよ。ここはやっぱり川上さんにお任せした方が…………」

 いくらサクラのことを全面的に信用しているとはいえ、それはサクラの推理力というか、頭脳方面についてだ。正直、実地の方の信用はまだない。

 しかしサクラはやる気満々のようで………

「キョウちゃんも、風吹さんも心配のしすぎです。私の頭の中にはあらゆる爆弾についての情報が入っています。もちろん、中を確認してみなければなんとも言えませんが、こちらの爆弾はそちら方の口を封じる目的と、()()()()を一緒に片づけるために作られた爆弾です。そのような爆弾をわざわざ手の込んだ複雑な作りにするとは思えません。ずばりこれは実地初心者向けの爆弾なはずです。だから安心してお任せくださいね」

 いやいやいや、本当に任せたくない。そして、そんな“ずばり”もいらない。

「サクラ、待て!爆弾解除に初心者向けとかないから!」

「キョウの言う通りだよ、サクラちゃん!初心者はいきなり実地とかしちゃ駄目だから!」

 俺たちのさらなる制止の声にもめげることなく(そこはめげてくれ)、サクラはふふふと笑み零しながら、送信機Aと向かい合う。その前では再び爆弾犯谷川の口から魂が抜け出たようだが、今は放っておいてやる方が親切というものだろう。

 そしてサクラが送信機Aに手を伸ばす。

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、サクラ(ちゃん)、ストップ!」」

 俺と風吹の声が綺麗にハモった。しかし無情にも、サクラの持つドライバーは獲物である送信機Aへと迷うことなく突き立てられる。が、そのドライバーが回される寸前、上戸執事によってラジオペンチとともに奪われた。

 助かった………………

 爆弾がまだ解除されていないにもかかわらず、俺と風吹が全身汗だくで安堵の息を吐いたのは言うまでもない。

 そんな俺たちの横では、お嬢様の我儘を有能な執事が窘めるといった、絵に描いたような会話が繰り広げられている。

「もう、川上ったら!私だってできるのに!」

「えぇ、そうでしょうね。咲良お嬢様の頭脳、知識であれば、解体はできるでしょう。そして実地経験さえあれば尚更に」

「だから、今からその実地経験を積もうと…………」

 そう膨れっ面となったサクラに、上戸執事はやれやれと首を振りながら「ぶっつけ本番でさすがにそれは無理でしょう?たとえ初心者向けでも……」と告げて、すばやくサクラの隣に座ると、さっさと送信機まで自分の前に持ってきてしまう。

「まったく、川上もキョウちゃんも風吹さんも……………ついでにそちらの方も皆して心配性なんだから」

「えぇ、そうですね。私も含めて、皆さん自分の命は惜しいかと思われますよ」

 相手はこの屋敷のお嬢様であり、表向きはそのお嬢様に仕える立場である執事でありながら、上戸執事はまったく臆することなく澄まし顔でそう宣うと、「狂犬様、またライトをお願いできますか?風吹様は時間を」と、そつなく俺と風吹に声をかけてくる。

 “狂犬様”はもう既定なんだな…………

 半ば諦観の境地に達しながら、俺もまたペンライトを片手に上戸執事の横へと座り直す。風吹は座らずそのままだ。

 しかしその間も、サクラは口を尖らせながら、「今度はさっきよりも時間があるし、私だってやればできるはずなのに…………」と不満たっぷりとなっている。

 サクラの気持ちもわからなくはないが、俺も自分の命は惜しい。だから、サクラには申し訳ないが、上戸執事に一票だ。

 だが、もしあのままサクラが解体していたとして………………と、ふと湧いた好奇心の答えを、上戸執事に尋ねてみることにする。

「参考までに聞くけど、サクラが解体すればどうなる?」

「120%の確率で、私たちはあの世行きでしょうね。なんせうちのお嬢様は稀にみる頭脳をお持ちではございますが、これまた稀にみる超不器用さ加減となっていらっしゃいます。いつもお食事のお手伝いをして下さるのは大変有難いのですが、食材はすべてブツ切り。皮むきをすれば、食べる部分はほとんど皮と一体化してなくなります。そもそも自分で髪を括ることは疎か、蝶々結びすらできません。さて、お嬢様に解体をお任せいたしますか?」

 ニッコリと微笑みながら、そんな恐ろしいことを言ってくる上戸執事に、俺と風吹は思わず目を剥いた。

 そして―――――――― 

 

「「サクラ(ちゃん)は、絶対解体禁止‼」」

 

 それはそれは見事なまでの満場一致をみた(サクラ以外)。

 

 

 

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