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狂犬と博識ドール  作者: 星澄


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爆弾と博識ドール(1)

 さて、コノヤロ。

 これからどうしてくれようか。

 後ろの上戸は間違いなく俺のことに気づいている。というか、屋敷に入る前から気づいていたはずだ。

 なんせ俺はサードであることを証明するサードバッジホルダーを取り出し見せた上に、名字だけだが自ら名乗っている。

 いや、この上戸のことだ。俺の顔を見た瞬間に気づき、そしてサードに所属していることに少し驚いたってところだろう。

 しかし、コテンと首を傾げる目の前のサクラの様子から判断するに、俺のことをまったく覚えてはいないようだ。

 まぁ、それは仕方がないだろう。あの時のサクラはまだ六歳だった。しかも、俺と会ったのは五分にも満たない時間だ。誘拐される前にあった中学生の顔なんて覚えているわけがない。

 だから、感動の再会シーンとかはない。そんな状況でもない。

 そう自分を納得させ、目の前の十六歳となったサクラにかけるべき言葉を探す。が――――――――

 ただ、なんというか………………後ろの上戸の変装はわかる。

 しかし、いくらサクラの顔を隠すためかは知らないが、ホラー映画に出てくる幽霊と同じ髪型というのは奇抜すぎるだろう。むしろ、前を向いているのか、後ろ向きなのか、という二度見必須で逆に目を引いてしまう。

 そもそもあの当時のサクラの髪型は、ちゃんと前髪も切り揃えられており、ごく一般的な長い髪の愛らしいものだった。

 なのに、今は幽霊スタイル。どうしてもそこに違和感を覚えて、巧く言葉が出てこない。

 サクラが自ら好んでこの髪型にしているのか?

 やはり、誘拐されたせいで心身ともに病んで…………

 本当は、いつ、どうように助け出されて、今までどう過ごしてきたのか、後ろの上戸に色々問い質したいところだが、今は結束バンドで縛られ(おそらくこれも上戸の仕業だろうが)鎮座している爆弾犯と、爆弾の処理が先だ。とういうか、邪魔だ。

 そこで、サードの隊員として、無難に声をかけることにする。

「俺はサードの響と言います。突然お邪魔してすみません。それで、これはどういった状況なのか、ご説明いただけますか?えっと………染井さん?」

 確か、この屋敷の表札は“染井”となっており、後ろの上戸も執事川上さんとして『こちらは、現在染井家のお屋敷となっております』などと、言っていたことを咄嗟に思い出し、そう呼びかけてみる。

 だが、サクラはこてんと傾げていた頭を、今度は右から左へこてんと傾げ直した。

 そして、「染井さん?」と呟き、ハッとしたように頭を正しい位置まで戻すと、うんうんと縦に頭を振った。

「そうです。“染井”だわ。今の私は“染井よしの”。そうそう、そんな名前だったわ。でも“染井よしの”という名前にちなんで“咲良お嬢様”と、川上にも呼ばれているから、できれば“咲良”って呼んでください。そちらの方が気に入っているの」

「サクラ…………さん?」

「はい!」

 髪のせいでまったく表情は見えないが、それはそれはいいお返事が返ってきたところからすると、満面の笑みなのだろうと推察される。確かに、あの時も『お気に入りなの』と、嬉しそうに笑っていたな…………なんてことを思い出す。が、だとしてもだ。

 “今の私は……”とか言ってる時点で、偽名なのがもろバレじゃねぇか!しかも、なんだその偽名は!まったく考える気がねぇじゃねぇか!それに結局のところ、本名をちゃっかり名乗ってしまっているし、いいのかこれで!

 そんな疑問やら突っ込みやらを、後ろの上戸へと振り返り、視線だけでぶつけてやる。

 案の定、上戸は扉に手を付きながら、生まれたての小鹿のように全身を震わせていたが、俺からの視線に気づくと、こちらもうんうんと辛うじて頷いた。

 お嬢様がお嬢様なら、執事も執事だ。

 よくもまぁ、こんな調子で今までその身を隠し通せたものだと、妙な感心までしてしまう。

 しかしここで「いやいや、思いっきり本名だから、それ!」とサクラ本人に突っ込むわけにもいかず、「わかりました。サクラさんですね」と、やや引き攣り顔で承諾し、内心でやれやれとため息を吐いた。

 ま、その方が俺も呼びやすいけれど――――――と。

 そこでなんとか気を取り直し、再び同じ質問を口にした。

「では、サクラさん。この状況を教えてもらえますか?」

 するとサクラは一度、俺の後ろの上戸、執事である川上さんへと視線を向けた(いや、ここでも髪が邪魔をして視線の正確な矛先はわからなかったが、少し顔を上げた様子でなんなくそう感じた)。そして一瞬の間の後、小さく頷く。それから俺へと視線を戻し(これもなんとなくそう感じただけだが)、もう一度頷いた。その一連の動作から、執事からの許可が下りたらしいことがわかる。

 彼になら話しても大丈夫だと………………

 そんなサクラと執事の無言のやりとりに、俺の中でもやっとした何かの感情が頭を擡げたが、その名前を確かめる前に霧散させた。そしてサクラの口が開くのを待つ。

「……えっと…………そちらの方は、当家が無人の屋敷であると思い込んでいたらしく、爆弾という手土産をご持参で不法侵入――――――爆発物取締罰則及び、刑法第130条住居侵入罪に該当すると行為をされたため、川上に命じて現行犯ということで取り押さえさせました。現行犯逮捕は、刑事訴訟法第213条によって規定させている通りのため、問題はないはずです。ただ、問題を一つ上げるとするならば、そちらの方なんですけど、取り押さえる際に逃げようとなさいまして、うっかりその爆発物――――――超小型気化爆弾とでも名付けましょうか…………その超小型気化爆弾と連動している送信機を落とされて壊してしまったのです。そのために、今はまだ起動させるつもりがなかった超小型気化爆弾が起動してしまったようで、あと…………そうですね十二分ほどで爆発するその爆弾をどうしようかと、三人で…………えっと、私と川上とそちらの方で頭を突き合わせて考えておりました。そんなところに、窓から響様のお姿が見えまして、当家に御用ならば早急にご用件をお伺いして、避難して頂こうと思って川上に声をかけさせた次第なんですが…………まさか、そちらの方と同様の手土産をご持参だとは思いもしませんでした。ふふふ、世の中不思議なこともあるもんですね。でもこれでお仲間が四人に増えたわ。ね、川上」

「そうでございますね、咲良お嬢様」

「………………………………」

 もう…………何から突っ込んでいいのかもわからない。

 なんだその十六歳女子とは思えぬ博識ぶりは…………

 っていうか、俺はともかく爆弾犯は仲間じゃねぇし!

 “そうでございますね、咲良お嬢様”とか呑気に言っている場合じゃねぇから!

 いやいや、そんなことよりもだ!

「じゅ、十二分で爆発だと⁉」 

「はい。正直時間がありませんので、これから解体作業をするところです。さぁ響様もお手伝いください」

「ちょ、ちょ、ちょっと、待てッ‼」

 そんな俺の制止も待たずに、サクラは「川上」と上戸こと執事に声をかける。

 声をかけられた後ろの上戸執事は心得たとばかりにサクラへと歩み寄り、指で撫でるようにサクラの髪を後ろに梳かしつけると、そのまま一つにゴムで括りつけた。

 完全に露わとなったサクラの精巧な人形にように整い過ぎた美しい顔と青い瞳に、爆弾犯が息を呑んだ。しかし俺もまた、そいつのことは言えなかった。

 一瞬、爆弾のことが頭が抜け落ちそうになるほど、その容姿は愛らしくもあったが、凶器にもなり得る美しさが凛然としてそこにはあり、正直俺は呆けた。

 だが当のサクラはそんな俺の呆け面は見て、しゅんと肩を落とすと「わかっています。私の顔がとても醜いことぐらいは………でも、今は非常事態なのでこのように曝してしまうことを、どうかお許しくださいね」などと、真逆なことを言い出し、その手にドライバーとラジオペンチを握り締めた。

「い、いやいやいやいやいや、ちょっと待て‼色々とおかしい‼まじで色々とおかしいから‼」

 俺に同調するかのように、爆弾犯が全力で首を縦に振っている。

 本来ならば、爆弾犯と同調なんて冗談でもお断りだが、ここでは有難く同意票一票として頂いておく。


 時刻は12時8分。

 爆弾二つに、一つは13時爆発予定と、もう一つはうっかり事故で約十二分後に爆発予定。

 それを解体しようとしている、何故か自分を醜いと思い込んでいる美しすぎる人形の如き博識なお嬢様。

 さらにはそれを微笑ましく見つめる、上戸な変装執事。

 

 もはや感動の再会の余韻などないままに、俺は飛んで火にいる夏の虫となった――――――らしい。

 

 

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