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少女の手には呪いの本  作者: 七海 司
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暗闇森の犬

 今日も教室に1番乗りです。

 しん。とした静寂の音に包まれている朝の教室に立て付けの悪い窓を開けるガタガタという音が広がっていきます。


 日課の換気を終えた私は自席につき裏図書室から借りてきた本を読み進めます。


 いえ、読み進めようとするのですが読むことができませんでした。お家では何が書いてあるのか文字はわかりませんでしたが、内容を理解することができました。それがどうしたことか今は、文字が読めなければ、内容も理解することができません。不思議に思いつつ、ページを遡って読み返そうとしてみると、やはり文字は読めませんでした。それでも意味はわかりました。

 小首を傾げながら、何とか読めないかと本を逆さまにしたりページを透かして裏から文字を追ってみたりと試したが一向に読めるようになりません。


 私は困ってしまいました。この本は貸出期間内に読み切らねばならないというのに。



「おっはよー」

 夏海さんの爽やかな挨拶が教室に響きます。気づけば教室にはいつの間にかクラスメイトの姿が増えていました。それでも夏海さんに大きな声で挨拶を返す方はいません。かくゆう私も声を出せていません。精々浅い会釈をするくらいです。いつか、夏海さんに負けないくらいの挨拶を返せるようになりたいです。


 今日は、夏海さんは真尾さん、犬上さんと一緒に登校したようでした。

 元気はつらつな夏海さんですが右手に包帯を巻いています。


 どうしたのでしょう。大きな怪我でなければいいのですが。夏海さんの手が気になって耳を傾けてしまいます。

「真尾聞いてよ。夏海たっら昨日何処かから逃げした犬にガブリと右手を食べられたらしいよ。ドジだよねー」

 犬上さんは手で作った犬で、傷口をガブリと噛む真似をしています。笑いながら避けている夏海さんですが、ついに犬上さんに捕まってしまいました。


 じゃれあっていて、少し楽しそうです。

「本当、ドジね」

 真尾さんが底冷えするような冷たい蔑んだ目で夏海さんを見下したのは気のせいでしょうか。学年一位のクールビューティーな真尾さんだからそう見えたのかもしれません。


「わっ! きゃっ」

 引き攣った悲鳴と共に机や椅子にぶつからりながら夏海さんが逃げ惑っています。手で何かを払い除けようとしながら勢いよく後退り背を向けたりしています。どうやらハチのような虫から逃げようとしているようです。

 若干パニックに近い状態で怯えている夏海さんを見て、八雲さんと蛇塚さんたちがケラケラと笑っています。


 嫌な気分になる笑い方です。


 真尾さん達が浮かべているのは人を小馬鹿にするような悪意のある笑みです。

 真尾さん、犬上さん、八雲さん、蛇塚さんの4人はもしかしたら嫌な人たちなのかもしれません。


 虫に追いかけられながら、夏海さんが私の方へ近づいてきました。夏海さんに付き纏っている悪い虫はどうやら蜂ではないようでした。


 なので、私はえいやと数学の教科書で叩き落としてしまいました。


 自分自身でもびっくりしています。まさか、本当に叩き落とせるとは思いもしなかったのですから。


「雪菜さんありがとー。ほんとありがとう」

「い、いえ。どういたしまして」

 夏海さんから心からの感謝の言葉をいただいてしまいました。私の手を握って涙目で言われるお礼の言葉は魔性のものでした。何かに目覚めてしまいそうな。私には刺激が強すぎる行為でした。

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