災難9 処罰決定会議
メヘンレンド侯爵はギバルタの足に自分の足をコツンとぶつけ、さらに咳払いしてギバルタをシャンとさせた。
「コホン! 二人の婚姻には二年ありますが、そんなに頻繁に出入りさせて大丈夫なのですか?」
ウデルタとユリティナの結婚式は二人が学園を卒業してから半年ほどで執り行うことになっていた。
「父上! ウデルタと同等に思わないでいただきたい。自分に婚約者がいることも、婚姻前であることもキチンと弁えております」
シャンとしたギバルタは堂々と宣言した。
ギバルタは父メヘンレンド侯爵の顔をしっかりと見すえる。
「まだ婚約しておらんぞ……」
メヘンレンド侯爵は生真面目な顔でも息子が浮かれているのを察して困惑の表情である。
「一年もの間、気持ちも伝えず我慢できたのです。ユリティナ嬢との時間が増えるのですから大変至福であり、今これ以上望むことはいたしません」
「貴方。ギバルタがそのつもりならいいではありませんか。
ギバルタ。もしもの時はその首、差し出しなさい」
「「「首!!??」」」
「母上。もちろんです!」
メヘンレンド家の面々が『首』を当たり前に担保にすることに、ソチアンダ侯爵一家は目をしばたかせる。慣れることは無理そうだ。
その後の話し合いでウデルタの件について慰謝料などは発生せず、今後も両家は仲良くやっていくことになった。
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帰宅したメヘンレンド侯爵一家はウデルタの処遇について話し合うことになった。
「ソチアンダ侯爵があれほど拒否なさるならウデルタの首をはねるわけにはいかないわね」
メヘンレンド侯爵夫人は悔しそうに舌打ちする。チハルタは心からホッとしたが顔には出さないように慎重に行動した。
「でも、このまま何もしないは有り得ない」
夫人はチハルタの心を読んだかのようにチハルタを睨みつけた。
「ともあれ、二ヶ月は何もできないぞ」
侯爵は夫人を宥めるように優しく言った。
「どうせ呼ばなければ帰ってきやしないわっ! わざわざこちらから出向いて婚約のことを教える必要はないでしょう。
二ヶ月後にはきっちり処罰するわ……」
夫人は猛禽類のように目を光らせる。
「そうですね。ソチアンダ侯爵様のご配慮で婚約白紙となりましたが、ウデルタには婚約破棄として責任を取らせるべきですわ」
アーニャは獰猛さを感じさせるように口端を上げた。
「我々の監視下に置くことが一番いいのではないですか?」
チハルタは慌ててウデルタの身柄を男たちで確保する方向に話を進めようとした。
『とりあえず』という条件付きでチハルタの意見が採用された。チハルタはホッと一息つき愚痴をこぼす。
「外に出る―婿入り―のだと自由にさせすぎましたね」
「そうだな。外に出すのだから厳しくするべきだった」
夫人は下唇を噛み、左手を右手で覆う。
『バキバキバキ!!!』
夫人の手が軋んだ音に男たちのケツの穴が閉まる。チハルタはせっかく収まりかけた怒りを再燃させてしまい心から悔やんだ。
「ギバルタ。お前は大丈夫だろうな?」
侯爵は夫人の様子を心配そうに見ながらギバルタに釘を刺した。夫人が蛇のような目でチロリとギバルタを睨む。
「俺はここに残るため厳しくされましたから」
「ふんっ!」
夫人はその答えに少しだけ納得したようだ。ギバルタの必死の冗談に緩く和んだ。
「そうか。ヤツ―ウデルタ―はひ弱だからと甘やかしてしまったな。体のひ弱さと精神のひ弱さとは別問題なのに……。
精神のひ弱さだけでも叩き直そう」
侯爵とチハルタが目を合わせて誓った。
「チハルタ。行くぞ」
夫人がチハルタをご指名で立ち上がる。チハルタはがっくりと肩を落とした。
「はい……」
夫人についていくチハルタ。二人が向かったのは鍛錬場である。夫人の気が済むまで剣の相手をさせられる。力ではチハルタが上だが、スピードでは夫人が上なので、現在五分五分。チハルタにとって、一番鍛錬になるが一番疲れる相手であるのだ。
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王家との約束は二ヶ月ほどということだったが、準備が整ったということで一ヶ月後にはギバルタとユリティナの婚約が成立した。
しかし、ウデルタは本当に全く家に寄り付かず、婚約白紙のことも二人の婚約のことも伝えることはなかった。
そして、『五日後、王家の計画を実行する』との連絡が入った。メヘンレンド侯爵家としてウデルタに制裁をする日は、王家の計画と同調すると決めていた。
「私が止めを刺しに行く……」
夫人はギリギリまでそう言っていたが、アーニャの説得で何とかチハルタとギバルタに任せることになった。夫人に行かせると予定とは違う制裁を加えてしまうことは必至である。
ソチアンダ侯爵家にウデルタのことを赦されているのだから、精神を叩き直すことを制裁としたいと男たちは考えている。
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