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災難12 処罰

 ウデルタにチハルタとギバルタは突き刺すような冷たい視線である。

 ウデルタは、ソチアンダ侯爵が一人娘の婿として同等の身分の者、つまり侯爵家の子息であるウデルタを望んだのだと思っていた。


「え?? 父上が?? 無理して??」


 ウデルタは父親の姿を脳裏に浮かばせて顔色を青から白に変えていた。


「母上もずっと気を揉んでいらしたのだ」


 さらに母親の顔が浮かんだウデルタは、思考を停止させ死んだような目になっていた。


「望まれて……いない……?」


 ウデルタの小さな呟きも誰もが見ている状況では充分に聞き取れた。


「当たり前だっ! 貴様ごときが侯爵家に喜んで選ばれたとでも思っていたのかっ!? 貴様くらいの文官能力ならいくらでもいるっ!

成績が悪いから邸に戻らず勉学に励んでいるものだと思い見逃してきたのだ」


 確かに不貞行為が発覚する前は家族はそう信じていた。信じていたからこそ怒りが凄まじい。


「貴様は婚約者だけでなく、決まっていたはずの仕事も無くした。建設大臣補佐官の仕事はすでにギバルタが始めている」


 ギバルタは数週間前に婚約が成立した後は、堂々と王城へ赴きソチアンダ侯爵から教えを受けている。


 ウデルタは目と口を大きく開けた。目から涙が溢れ、止めどなく流れる。

 

 ギバルタはウデルタより学業は上である。

 三年前に学園卒業の際、Aクラスで上位十位以内であった。武術科目もAクラスだ。武官としてはチハルタより下だが、文官としてならチハルタよりもウデルタよりもできる。ソチアンダ侯爵閣下も能力がある婿を迎えられることになり、実は喜んでいた。

 ユリティナがギバルタの誠実な姿に絆されており幸せそうにしている姿を見ているだけでなく、しっかりとギバルタの身辺を調査し尚更婚約者交代に前向きであった。


 チハルタは少し離れていたチハルタと一緒に来た騎士たちに目で指示を送った。騎士たちはウデルタの脇まで来る。


「ウデルタ。本日をもって貴様の学園退学届けが受理された。

貴様はこれから来春まで一年の間、騎士見習いとする。来春に騎士としての一定の能力がなければ、騎士団付き小間使いとなる。

本日より見習い寮が住まいだ」


 騎士たちはすでにウデルタの荷物らしいカバンを一つもっている。騎士団では制服や武具防具は貸し出しだし、食事も出るのでとりあえず身一つで行ける職場ではある。


「そうそう、母上のご指示だ。騎士になれるまでは実家への出入りも禁止するそうだ。なれなければ一生出入り禁止となる。

連れて行け」


 チハルタが顎で指示を出す。騎士たちが、ウデルタの両脇を抱えて後ろに引き摺った。ウデルタは泣き顔のまま項垂れて、何も抵抗しなかった。


 ウデルタは低身長で華奢である。誰から見ても騎士団で活躍できるようには見えない。彼らの祖母は性格はともかく見た目は可憐な方である。ウデルタは家族にも祖母似だと言われている。


「ごめんなさい……」


 ウデルタの小さな声は両脇の騎士たちにしか聞こえなかった。


 騎士たちが出入口に向かうと、チハルタは王太子であるメーデルに軽く会釈して、後に続いて退室しようとした。しかし、クルリと体を反転させて向き直った。


「ラビオナ嬢、ユリティナ嬢、そして、ご同席のご令嬢のみな様。愚弟の失礼な発言。メヘンレンド侯爵家としてお詫びする」


 チハルタとギバルタが深々と頭を下げた。この短い時間にウデルタが失言したという情報を得ているチハルタに、ラビオナは心中で感心している。


「その謝罪。お受けいたしますわ」


 ラビオナが笑顔で答えた。同席していた女子生徒たちも頭を少し下げた。


「寛大なお心に感謝いたします。家にはきっちりと報告いたしておきます。では、お先に失礼いたします」


 チハルタは笑顔を返すと出入口に向かい歩いていった。

 ギバルタが再びユリティナの手を取った。


「週末に邸の方へ伺います。楽しみにしております」


 ギバルタの乞うような熱い瞳にユリティナも頬をピンクに染める。王城に赴くようになったギバルタは、まだ仕事にも慣れておらず、ユリティナに会う回数は減っていた。


「はい。お待ちしておりますわ」


 ユリティナの輝く笑顔にギバルタは満足し、手に軽く口付けをした。羨ましがる黄色い声がいくつか聞こえる。

 ギバルタも王太子のメーデルに会釈をして食堂室を出ていった。


 廊下を足早に歩くチハルタは独り言ちてイライラしていた。


「くっそっ! あのバカ―ウデルタ―! 最後まで爆弾投げていきやがって!」


 ラビオナが赦してくれたとはいえ、侯爵家であるメヘンレンド家のウデルタが公爵令嬢に暴言を吐いた事実は変わらない。


「母上にどう報告しろというのだ……」


 チハルタはぎりぎりと奥歯を噛み締めた。


 そして、その心配は的中する。

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