悪役令嬢セレンティアの恋物語
なんて素敵な悪役令嬢のセレンティアとマックスの恋の物語。
私、セレンティア・フェルゼンは小さな頃から悪夢を見ていた。自分は悪役令嬢で、いつか断罪されて死ぬ運命だと。自身の死や大好きな家族、屋敷の皆、領民達を不幸にしない為出来ることを頑張った。皆を守るためには領地にお金もいるし、攻めてこられても負けない部隊が必要。だからお父様を説得して領地経営にも口を出した。学校、病院、魔導士プログラム、冒険者ギルド、商業ギルドを設立した。
小さな時から色んな考えが浮かんだのは、私に前世の知識が、あったから。
この世界は私が前世で読んでいた『アイスブルーローズ』と言う小説の世界にそっくりで、小説では私は悪役令嬢で断罪された。小説の世界で自身が処刑される夢もリアルに見た。見続けた。小説の世界と違い家族は私を愛してくれている。屋敷の皆も領民達も皆。私は小説の世界とこの世界は似ていて違う、でも違っても似ている…。
だから最悪の事態を回避する為に自身の持てる知識をフル回転して頑張っている。
♢♢♢♢♢
10歳の時執事長のアルファの孫が領地に遊びに来た。
「お嬢様、私の2番目の孫のマックスです。お嬢様より3つ上の13歳です。今、反抗期で娘が困っていたので、暫く私が預かる事になりました。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願い致します」
「セレンティアです。マックス、よろしくお願いしますね」
「……。」
マックスは、返事を返さない。
「きちんと挨拶しないか!」
「……!?」
アルファはマックスの頭を殴って怒った。
マックスは余りの痛さに頭を押さえて座り込んだ。
「だ、大丈夫?」
セレンティアは驚いて、マックスの顔を覗き込んだ。
可愛い女の子に免疫の無いマックスは、近いセレンティアの顔を見て真っ赤になっていた。
この領地に来て、不思議な事があった。
遊んでいても不思議じゃない年齢のセレンティアはいつも忙しくしていた。辺境伯と領地について話し合いをしたり、学校や病院、ギルドにまで足を運んでいた。
気になり、じいちゃんに聞くと、領地経営は辺境伯と話し合いで、より良く経営し、学校などはセレンティアが設立したそうだ。なんで、幼い子供にそんな事が出来るのか、俺は不思議でならなかった。
ある日騎士団の練習を見ていた時、訓練中の事故で団員が怪我をして出血していた。大した怪我ではないが、それを見たマックスは立ち止まり動けなくなっていた。
「ご、ごめん。俺、血がダメなんだ…。以前俺を守る為に兄貴が怪我をして、それから血が怖くて…。男なのに情けないよな……」
震えるマックスをセレンティアは抱きしめた。
「情けなく無いわよ。大丈夫。マックスは素晴らしい人だから。動物達のお世話も嫌がらずにしてるし、領地の子達にもマックスに遊んで貰って喜んでるわ。皆貴方が好きだから」
いつ自分の事をこんなに見てくれていたのかと、驚きと嬉しさでいっぱいになった。セレンティアの温もりに身体の震えも止まっていた。
♢♢♢♢♢
「ふぅっ…うぅっ……。」
夜中に目が覚め、水差しを取りに厨房に向かう途中、セレンティアの部屋から声を殺した泣き声が聞こえた。
心配になってドアを開けようとした俺の手をじいちゃんが止めた。じいちゃんは俺の手を握ったまま部屋に連れ戻した。
「お嬢様は悪夢を見られた時、声を殺してお一人で泣いてらっしゃるんだ。泣いているのを見られるのも、何故と問われるのも辛いのだ…。だから屋敷の者はひっそりと見守っている」
「……!?」
マックスはアルファの言葉に驚いていた。
「幼いながら、領地経営やギルド設立などされているのは、聡明だからだけでは無い…。我らが為だ。我らを守る為に日々頑張ってくださっている。お嬢様の頑張りのお掛げで、病院が出来、領民はいつでも診察を受ける事が出来、学校があるから勉強が出来る。ギルドが有るから、職もあり、領地を守る事もできる。魔導士プログラムを考えて頂いたおかげで、魔導士達が住み着き、生活の向上にもなっている。
領地の者は皆、お嬢様の幸せな笑顔を願っているのだ」
マックスは自分より幼いセレンティアが沢山の事を抱えている事に驚き、領民を守る為に頑張っている事に尊敬を覚えた。そして、自分はセレンティアを守りたいと強く思った。強くなろうと自身に誓った。
♢♢♢♢♢
フェルゼン辺境伯領に居られる期間は年に4回、1か月だけ。その間はいつもセレンティアの側にいた。自領に帰るのは辛かったが、帰った期間は勉強と交友関係作りに費やした。セレンティアの側にいる為に。相応しい男でいる為に。セレンティアと初めて出会って5年、俺は18歳になった。婿に来ないかと良く誘われるが、全く興味ない。俺にはセレンティアしか見えない。他の女はいらない。
明日はやっとセレンティアに会える!
♢♢♢♢♢
「セレンティア!ただいま!」
「お帰りなさい!……で良いのかしら?良いわよね?お帰り!マックス!!」
飛び切りの笑顔で出迎えてくれた。見たかった笑顔だ!
「セレンティア、庭に散歩しないか?」
「うん!私も咲いた白薔薇を見せたかったの。今年も綺麗に咲いたのよ。庭でティータイムにしましょう」
「……今日のお菓子美味しくない?マックスの為に焼いたチーズケーキなんだけど……。それとも調子悪い?」
マックスの様子がいつもと違って変だった。マックスは急に立ち上がり、セレンティアの前に膝をついた。
「セレンティア・フェルゼン嬢、好きです!愛しています!俺と付き合って下さい!そして近い将来結婚してください!!」
突然の告白にセレンティアは驚き、泣き出した。
「!?俺じゃ嫌だったか?」
セレンティアの涙を見てマックスは、焦った。
セレンティアは首を振り
「ち、違うの。嬉しいの。でも私で良いの?」
セレンティアは自分に自信が無かった。
「セレンティアが、良いんだ!」
そう言ってマックスはセレンティアを抱きしめた。気持ちの通じ合った二人は初めての口付けをした。幸せな時間はあっという間で、今までで一番短く感じた1か月だった。
♢♢♢♢♢
セレンティアは王家と関わりを極力持たない為に、社交会デビューもせず、領地から出る事は無かったが、領地経営など成功させた事が王家の耳に入り、王宮に出仕する様に求めた。家族は行かなくて良いと言ってくれたが、断る事は出来ないと分かっている…。
「私、行きます」
心配かけない様に笑顔で言った。
父も姉も兄も一緒に行くと、必ず守ると言ってくれた。皆の優しさに涙が止まらなかった。
♢♢♢♢♢
領地から馬車で移動して2日、王城が見えて来た。馬車にはお父様、カイル兄様、リィデア姉様、S級冒険者のラン、フェルゼン領魔導士長のエルメが乗っている。騎士団長のクレイブは愛馬に乗り馬車を守ってくれている。
大事な皆が居てくれるから怖くない。大丈夫…。
王城に着き謁見の間に通された。
「よく来てくれたね。その方が博識高いと言われているセレンティア嬢だね?
今夜は君の為に舞踏会を開く。楽しんでくれ。そうそう、息子のヴィルヘルムだ」
ヴィルヘルム…。私を断罪する人…。私に冷たい目を向けてくる。震える私の右手をリィデア姉様が握ってくれた。顔を見ると『大丈夫よ』と言う様に微笑んでくれる。
「陛下、この度は呼び出し状にて、馳せ参じましたが、どう言うご用件でしょうか?」
全く見当が付かないフリをしながら、国王に問いた。
「分かっておろう… 。そなたの娘は博識ですでに領地に莫大な貢献をしていると聞く。これからは領地にではなく我が王室でその力を使って欲しい。ヴィルヘルムの妃になり盛り立ててやってくれ。」
「それは出来かねますな」
「な!王家に嫁ぐのを断るとは!フェルゼン辺境伯、貴様何様だ!!」
国王の顔は赤鬼の様になっていた。
「セレンティアはすでに既婚者です。教皇様直々に結婚証明書も頂いています。我が国では離婚はできない事お忘れですか?」
辺境伯はしてやったりとニヤリと口角が上がっていた。
『私が結婚? いつしたの?』
「確か去年マーシャル公爵の次男とご結婚されたと報告を頂いてますな」
白髭の宰相閣下が思い出したかの様に呟いた。
『マーシャル公爵の次男?誰それ?』
「はい。二人は相思相愛で早い結婚を望んだので許可しました。 式は来年春するので、準備で今が一番忙しくしています。その為明日には領地に帰る予定です」
「そ、そうか…。せっかく来てくれたのだから今夜の夜会は楽しんでくれ…」
国王は少し不貞腐れながらも、なんとか声をかけた。
「お父様、私が結婚しているって…。マーシャル公爵の後次男っていったい…?」
「マックスだよ。マクシミリアン・マーシャルだ」
「マックス!?」
「いずれ二人は結婚するつもりだっただろう? 今回は先に手を打つ必要があった為、急遽手続きをさせてもらった。もちろんマックスの返事は貰っての事だよ」
マックスは爺やの孫で領地で出会い、恋に落ちて、結婚の約束までしていたけど…。公爵の次男とは聞いたことがなかった。ドアをノックする音がした。
「失礼します。セレンティア!」
正装したマックスが抱きついてきた。
初めて見る姿のマックス。
「マックス?」
「黙っててごめん。僕はマクシミリアンだけど、君の前では一人の……、マックスとしていたかったんだ。これからもマックスと呼んでくれるかい?」
不安そうな目で見つめてきた。
セレンティアはマックスの頬に手を添え
「私にはマックスでしかないわ。私の愛するマックスよ。そして、旦那様なのよね?」
少し頬を赤らめたセレンティアだった。
マックスはセレンティアの手を握り、辺境伯の方に向いた。
「義父上、夜会で敵は動く様です。こちらの手配はすでに終わっているので安心して下さい」
「そうか、任せたぞ。1番はセレンティアの安全だからな。」
「はい!私が側におります!」
マックスは部屋に戻ったセレンティアに
「セレンティア今夜はこれを着てくれ」
マックスは大きな箱を取り出した。箱の中にはマックスの瞳と同じ藍色のドレスが入っていた。そして小さな箱を手に取り、セレンティアに差し出した。中には藍色の石とセレンティアの瞳と同じ金色の石がはめ込まれた指輪が入っている。
「愛してる。僕の妻になってください!」
「私も愛してるわ!」
セレンティアは両手をいっぱいに伸ばし首に回し、2人は長いキスをした。
マックスの出自は、マックスのお母様がマーシャル公爵と我が家で出会い、身分違いの恋をした為、我が家の親戚の養女にして嫁に行った後、マックスを含めた3人の子供を産んで今でも仲良しな夫婦なのだと教えてくれた。
マックス色のドレスを着て、指輪を付けて、家族で会場に入ると国王が辺境伯を指さし叫んだ。
国王の隣にはギラギラした宝石を身につけた王妃と威張り散らしている王子と王子の腕に胸を押し付けて横にいる派手なドレスの少女。
「辺境伯、謀反の疑いで捕縛する!騎士団長、辺境伯達を捕まえよ!」
国王が叫んだが誰一人動こうとしない。
「!? どうした? 何故誰も動かぬ!?」
国王である自分の命令を聞かない騎士団長と騎士団にイライラしていた。
「国王、貴方は先程罷免されました。すでに新しい王も決まっております」
「はぁ?罷免?誰がそんな事出来ると言うのだ。それに新しい王だと?誰だ!それは!!」
「前王様、王を罷免するには3大公爵家並び宰相、教皇、帝国帝王のサインが揃えば出来ることをお忘れですか?」
宰相がサインが書かれた書類を見せた。
「それから新しい王は貴方様の実弟のレオン様です!」
「レオン?馬鹿を言うな!レオンは死んだはずだ!!」
「レオン様は亡くなっておりません。国王の命令で処刑せよと言われましたが、身代わりの死体を用意し、帝国で過ごされていました。貴方達一家は自分の欲の為だけに、国民からの税を使い、今では国庫は空に近い。お金が無くなると潤った領地を手に入れる為謀反をでっちあげ家門を潰してきた行為は皆が知っております」
「もう誰も兄上達の命令を聞く者はおりません。貴方方はこのまま牢に入って頂きます」
「離せ!無礼者!離さぬかぁー!」
3人とも往生際悪く暴れていた。王子の側で胸を腕に付けていたキャロライン嬢はひっそりと会場から逃げ出していたが護衛として会場入りしていた冒険者のランに捕らえられて、王子と一緒に牢に入れられた。調べると王子からの貢物以外に城の金目の物を盗み換金までしていた。罪は重い。
「セレンティア嬢、はじめまして。私は貴方に命を救われたんですよ」
レオン新国王がセレンティアに近づいた。
「私に…ですか? 私は何も…?」
「貴方の夢見が私や国を助けてくれたのです。感謝しています。」
セレンティアには覚えがなかった。
セレンティアは覚えてないが、言葉がしゃべれる様になった頃、夜中に泣きながら両親に怖い夢の話をしていた。幼い子が何度も鮮明に話す事を書き留め、その話が現実になっていくに連れ、名前が出た者に両親は相談して行った。王弟のレオン、宰相、騎士団長、3大公爵家、教皇、帝国帝王にまで。セレンティアは自分が断罪されるだけでなく、罪のない人が殺されたり被害に遭う事も辛く鮮明に語っていた。はじめは誰も信じる事はなかったが、災害や凶作での被害なども言い当てた為、いざと言う時に皆で動ける様にしていたのだった。国の為に。
決定的だったのはレオン王弟殿下の殺害命令だった。内密に帝国に逃し、逆に国王一家が決定的なボロを出すのを待った。
「俺は正しい国民に寄り添った王になる事を君に誓うよ。リディアと共に」
レオンは姉のリディアの腰に手を添えている。リディアが帝国に留学中レオンと出会い、お互いが誰か知らぬまま恋に落ちていた。お互いの真実を話し合い、目的が同じと分かると一層の絆を深め目的の為にちからを合わせ、レオン新国王はリディア王妃と共に国の復興を成した。セレンティアも沢山の知識を貸し、前国王が残した負債をあっという間に返すことが出来た。
セレンティアとマックスは領地内に小さな屋敷を構えて子供達と笑顔で幸せに暮らし、王都から領地に戻ったセレンティアは悪夢を見る事も無くなりました。
マックスは幼い時の誓い通り一生セレンティアを守り通した。
フェルゼン辺境伯領では素敵な王妃様に憧れる女の子と可愛い悪役令嬢に憧れる女の子で溢れていました。
沢山ある作品の中から、この作品を読んで頂いてありがとうございます。
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感想も誤字脱字報告も感謝します。
お手数ですが、星で評価頂けたら今後の活力、パワーになりますので、よろしくお願い致します。