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007 初めての商取引

 段々畑の間の道を通り、集落に向かいます。集落の周りは塀で囲まれています。子鬼くらいなら防げそうですが、大鬼だと一撃で破られそうです。大鬼ほどの大物が森の中から出てきて集落を襲うことは稀なので、この程度の塀でも通常は十分なのでしょう。


 集落に近づくと、道の終点に門が見えます。門のそばに居るのは、もしかして子鬼?


「あんたら、もしかして行商人か?」


 子鬼ではなく、門番をしている子供でした。薄汚れています。髪の毛が青いけど、この世界では髪の毛も肌の色も、いろんな色があるようです。年齢は10歳くらいかな?


「そうです。行商人です」


「おお、こんな村に来てくれる行商人は珍しい! さっそく村長のところまで案内するぞ」


「この村にはめったに行商人は来ないのですか?」


「おう。なにしろ東街道から2時間も山道を登って来なきゃならねぇからな。来てくれるのはトドクア商会の定期便だけだよ」


 東街道ってのは分岐する前の道でしょうか? でも分岐から2時間も走ってません。分岐からしばらく山道は登ってきたけど、1時間くらいです。それに、分岐前の道も街道って言えるほどの規模ではない気がしますが、そこら辺はまだこの世界の常識では…… ああ、あのレベルの道でも十分に街道と言えるようですね。


 門番の少年は門を開き、僕らを集落の中に入れてくれました。そのまま村長の家まで先導してくれるようです。門番は良いのでしょうか? たぶん、めったに来訪者が来ないので大丈夫なのでしょう。


 少年は少し赤い顔をして、ちらちらとこちらを見ます。シロやクロに見とれているのかもしれません。


 村長の家までは歩いて3分程度でしたが、その間にこの村の状況を教えてもらいました。少年としては見栄を張るために、物知りな自分をアピールしたかった感じもします。

 ここ数か月は東街道に強い魔物がいて、東との交易が出来ないこと。この辺は小麦の生産地で、収穫時期を迎えつつあるが、東に売りに行けないため、価格が暴落して村のみんなも困っていること。困窮した農民の一部が山賊となっており、治安が悪化してますます商人がこの村に来てくれなくなっていることなどを教えてもらいました。


 この世界では山賊は重罪で、捕まったら100%死刑です。レベル1の鑑定でも、職業に『山賊』と表示されるので、判別も容易です。

 山賊に襲撃されたら、躊躇(ちゅうちょ)せずに反撃し、殺してしまっても過剰防衛とかにはなりません。なにしろ頑張って捕まえて騎士団などに突き出しても、拷問の末に処刑されるのです。拷問は山賊の拠点や仲間を聞き出すために行われますが、この世界では死刑囚の人権などと言うものはありませんので、凄惨極まりないと言われています。


 治安はその地方を治める貴族が領主となって責任を負っています。領主は領地を発展させて、税収を上げ、領民を増やし、富と軍事力を向上させます。その領主にとって、山賊は経済発展の大きな妨げとなるので、絶対に許せない存在です。山賊の討伐は領主配下の騎士団の主要な仕事のひとつであり、また冒険者ギルドを通して討伐報酬も出しています。

 街道に居座る魔物を排除するのも騎士団の仕事です。先ほどの商人の話でも、東街道にいる強い魔物を倒すために、何度も騎士団が討伐に出ていたとのことでした。港を持つ領地では、海賊も同様に重犯罪として厳しく取り締まっているようです。



 やや大きな家が見えてきました。案の定、その家の前に馬車を止めるようにと少年に指示され、村長を呼んでくるので待つようにと言って、玄関へと走って行きました。

 馬をつなげるための柵があり、そばには井戸もあります。ペガを馬車から外して柵に繋ぎ、収納魔法から桶を出して井戸からくんだ水を入れようとすると、


「ブルルルル!」


 ペガが首を振っています。駄目出し? もしかして、水は井戸からくむのではなく、魔法で出せって事でしょうか? 水魔法で桶を満たし、ペガの前に置いてあげると、ふんふんと2回うなずいてから、水を飲み始めました。


「なんか贅沢な馬だニャ」


「まあ、ここまで頑張ってきたんだから、水魔法くらいはなんともないよ」


 馬に排泄魔法をかけて、ブラシを出してブラッシングを始めます。


「さっきの門番少年が村長っぽい人を連れてきたので、ブラッシングはクロが替わりにやっとくニャ」


「ああ、ありがとう」


「ブルルル……」


 ブラシをクロに渡して、村長らしき人に向かって歩きます。ペガはすこし恨めしそうな顔を向けますが、この場はしょうがないですね。


「おお、ずいぶんお若い商人だ。もしかして責任者は他におられるのかな?」


 村長らしき人はそんなことを言って、辺りを見回します。16歳で親方から独立して行商人を始める人も、まったく居ないわけではないようですが、僕の顔は童顔だからもっと若くみられたかもしれません。


 とりあえず村長らしき人の身分を確定させてみましょう。鑑定!


【人 ダイキ 男 48歳 レベル23 村長】

 体力 45/52

 魔力 41/55

 スキル 体術(剣術3、格闘2)

 魔法 生活2(時間、着火、清掃、照明)

    火2(火の玉)

    水1(水生成)

 状態 正常


 レベル23は割と高いほうです。さすが村長さんです。ちょっと恰幅が良いですが、若い頃は冒険者をしていたかも。

 薄い褐色の肌に、赤い髪です。顔の作りは、元世界では中東と東アジアの中間っぽいです。先ほどの青い髪の少年といい、バラエティに富んでいます。特に住んでいる地方によって、人種に違いが出ることはないようです。ただし、獣人みたいにはっきりと違う種別がいます。


「僕が代表者のマサトです。よろしくお願いします」


「おお、よろしく! 私がこのダイチ村の村長、ダイキだ」


 僕がお辞儀をすると、村長も軽く会釈をします。そして、背後に控えるシロや、馬車の方を見ます。


「君たちは独立の商会かな? そして美しいお嬢さんがたが護衛?」


 多くの行商人を抱える商会だと、馬車には商会のマークが付いている場合が多いようです。もちろん僕の馬車にはその種のマークはありません。

 シロは革の鎧を着て、腰には長剣を佩いています。どう見ても剣士なので、護衛と判断されたのでしょう。少し離れたところに居るクロは、鎧は着ていませんが、短剣を腰に佩いており、動きやすそうな格好をしています。レベル高めの村長さんから見たら、それなりの手練れと判断されたのかもしれません。ちなみに僕の格好は、いたって普通の商人スタイルです。


「はい、独立したばかりの駆け出し行商人です。そして二人は頼りになる護衛です」


「ほほう、新規の行商人は大歓迎です。それで、このたびはどんなご用で?」


「小麦を買いたいと思います」


 村長さんは満面の笑みで、僕を倉庫に案内してくれました。門番少年の話では、東街道の魔物による封鎖のために、小麦が余って価格が暴落しているって事でした。

 倉庫には20袋の小麦粉が積まれていました。この規模の村からすれば、それなりの量だと思います。


 買い取り価格はさっぱりわかりませんが、鑑定すれば出てくる気がします。呪文を詠唱するフリから始めて……


「ブツブツブツ…… 鑑定!」


【小麦粉 394kg 低品質 市場69,344エン 現地25,216エン】


 おお、量と値段も鑑定されました。僕の鑑定レベル5なら商取引も楽に出来そうです。

 ちなみに鑑定レベルだと、 鑑定(1)!


【小麦粉】


 名前しか出てきませんでした…… 偽物を掴まされることはないですかね……

 この手の取引に必要と思われるレベル2だとどうでしょう。 鑑定(2)!


【小麦粉 394kg】


 相場を把握しているのなら、これでも十分かもしれません。

 次は一般的には上限と考えられているレベル3を。 鑑定(3)!


【小麦粉 394kg 低品質】


 低品質というのは、異物がそれなりに混じった状態です。鑑定レベル3もあれば、粗悪品を見破られることになります。


 それにしても、小麦粉が1kgあたり60エンくらいというのは、農家的にはどうなんでしょうか? その辺の相場観がさっぱりわかりません。


「えーと、いかがでしょうか?」


 鑑定後にいろんな事を考えていたら、村長さんに心配させてしまったようです。


「あ、はい。えーと、低品質の小麦粉が394kgってことで…… 25,000エンでどうでしょうか?」


「えっ! ホントにそんな値段で良いのですか?」


 鑑定では現地価格が25,261エンと出たから、切り捨てて言ってみたけど、安すぎでしょうか?


「今は市場で小麦がだぶついているし、この村は交易の便も悪いし、先週来たトドクア商会の奴もキロ当たり40エンなどとふざけたことを言ってたが……」


 東街道の魔物を僕らが倒したのであれば、だぶついていた小麦粉も、すぐに需要が回復するはずです。僕の収納+魔法にはまだ余裕が沢山ありますし、買っちゃいましょう!


「大丈夫です! 25,000エンで購入したいです!」


 村長さんはお礼を言った後、荷物を運ぶ人を連れてくると言って、倉庫から急いで出て行きました。

 たしかに20kgくらいの小麦粉の袋を20袋、倉庫から馬車に積むのは大変かもしれません。少し軽くなるはずなので、低品質な小麦粉を、清掃魔法で高品質に変えておきましょう。 清掃!


 見た目はほとんど変わっていませんが、小麦の皮などの異物が取り除かれているはずです。


「にーちゃん、今もしかして清掃魔法使った? 鑑定も高レベルの魔法が使えるみたいだし、すげーな!」


 あ、清掃魔法は無詠唱で使ってしまいました。まあ、なんとかごまかしましょう。


「いや、気のせいだよ。それよりも馬車をとってこないとね」


 倉庫から出ると、ちょうどクロが馬車にペガを繋いでこちらに来ようとしていました。村長も若い男3人連れてやってきています。人、犬獣人、猫獣人の若い男三人です。僕らと人種の構成は同じですね。犬獣人の男は、シロの方をチラチラと、猫獣人の男はクロの方をチラチラと見ては、顔を赤くしています。やはり同じ人種が気になるようです。

 人の若い男は、シロの方をチラチラと見ているのですが、その視線がねっとりと嫌らしい感じで、気分が良くありません。


 馬車に小麦粉を積んでもらい、25,000エンを支払ったあとは、こちらの商品もいくつか買ってもらいました。ワイン3本と細かな雑貨で1万エンくらいの売り上げでした。25,000エンしか小麦粉の売り上げがなかったのに、1万エンも買って村は大丈夫かと思いましたが、村は基本的には自給自足で、小麦の刈り取りも始まったばかり。問題はなさそうです。刈り取りは標高が低いところが終わって、徐々に高いところの畑に移っていくようです。収穫した小麦は、村を流れる川に設置した水車小屋でひいて小麦粉にしているとのことでした。



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