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060 将棋で無双

 今日はトリマ村4日目の水曜日です。午前中は雨らしいのでのんびり温泉につかってから、談話室で将棋をしています。午後からはユキちゃんと森に魔物討伐に行くことになってしまいましたが、午前中はクロの『雨は午後から上がりそうだニャ』の一言で、宿でのんびりすることにしました。この世界には天気予報なんてありませんが、クロの天気予報は精度が高い気がします。



 将棋は『名人』というあだ名が付いたおじいさんとの対戦です。このおじいさんは宿の宿泊客の中でも断トツに将棋が強いとのことで、ギャラリーがたくさんいてちょっと緊張しています。

 おまけにこの『名人』おじいさんは、ちらっと鑑定したところ苗字を持っていますので、貴族様のようです。職業は無職となっていますが、引退した人たちはみんなこの表記となっています。


【人 ゴード リュウキ 男 62歳 レベル33 無職】


 昨日は最後にこのおじいさんと対局してみましたが、大将に呼ばれて勝負はうやむやになってしまいました。おじいさんの王将を隅に囲って守る穴熊戦法に対して、攻めるのが難しかったです。

 どうやらギャラリーの話を聞く感じでは、この穴熊がおじいさんの得意戦法で、多くの強敵を倒してきたようです。この談話室の宿泊客のレベルでは、ちゃんと囲いを作って戦う人が他にいなかったので、たしかに穴熊で戦う人がひとりしかいなければ、無双できそうですね。


 昨日の対局中に思ったことがありまして、やはり穴熊相手には藤○システムを採用すべきかなと。藤○システムをちゃんと勉強したことはなく、ただ何度か解説や対局を観たことがあるだけですが、この世界に来てレベルアップを繰り返すうちに記憶力や思考速度が向上しているようなので、僕にも出来る気がしてきました。



 名人さんが香車をひとつあげて王様の居場所を作ります。この瞬間を待っていました! 2五桂馬と()ねます。


「なんだその桂馬の跳ねは? 桂馬の高飛び歩の餌食(えじき)と言うぞい」


 名人さんは桂馬に狙われた角を逃がす一手です。すぐに桂馬をゲットできるだろうと、まだ油断しているようです。


「いくら将棋が強い少年といっても、名人の穴熊相手にそんな奇襲は通用しないんじゃないかな?」


 元の世界でも将棋界に衝撃を与えた藤○システムだけあって、現時点ではギャラリーの方々も同様に僕の差し手の狙いが理解できていないようです。


 しかし、歩を4五に突けば世界は一変するでしょう!


「なんじゃこれは!」


 名人さんを驚かせることに成功しました!


「え、えーと……」

「どうなっているんだ?」


 ギャラリーの皆さんもザワザワし始めています。


 王様が穴熊に入る直前の隙を突いた、角と桂馬による攻撃が直撃しました! 本当はもっと奥深い戦法なのでしょうけど、僕のレベルでもその効果は抜群です!



「参った……」


 穴熊を構築する前に切り崩した藤○システムの破壊力によって、その後は早く決着が付きました。


「この戦法はお主が考えたのか?」


「いえいえ、僕ではありません……」


「では、誰の戦法だ? こんな高度な戦法はわしでもみたことがないぞい」


 うーん、困りました…… 名人さんの質問がグイグイ来ますが、なんて答えれば良いのでしょうか? 藤○先生だと正直に答えたら、相手は貴族様なので連れてこいとか言われるかもしれません。


「まあ良い…… もう一局指すぞ!」


 質問はなし崩しになりましたが、さらに2局指すことになってしまいました。しかし僕も藤○システムの対局はいくつか見たことがあるので、名人さんの変化に対応する方法も把握済みで、圧勝してしまいました。勝ちすぎてはヤバいと思いつつも、下手に手を抜いたことがばれてももっとヤバそうなので、全力で戦ってしまいました。全力といっても、所詮(しょせん)は他人の(ふんどし)なのですが……


「うーむ、参った! マサト君は将棋の才能があるのう。年明けにはゴード領にて将棋大会があるので、ぜひ参加したまえ。わしの裁量で決勝トーナメントからのシード出場としてやるぞい」


 名人さんはうれしそうに笑いながら僕の背中をバンバン叩いていますが、ゴード領って名人さんの領地ですよね? 元領主さんでしょうか? 元領主さんから特別扱いでシードされるなんて、そんな目立つことはしたくありません……


「はあ、まあ、考えておきます……」


「うむ、待っているぞ!」



 ちなみに僕が対局している間のシロとクロは、最初はギャラリーの皆さんと一緒に観戦をしていましたが、途中からは元冒険者のおばあさんとの話に夢中になっていました。このおばあさんは現在でもかなり高レベルで、若い頃は有力な冒険者だったと思います。


【猫獣人 アキ 女 68歳 レベル48 無職】


 このアキさんの若かりし頃は、美人冒険者ということでたちの悪い男達に絡まれることも多かったらしく、丁寧な対応をすると図に乗って性的な要求をされることもあったので、毅然(きぜん)とした対応を心がけていたようです。

 それでもしつこくつきまとってきて、手を出してくるようになると、相手には『正当防衛』の黄色い文字がステータスに現れているはずなので、問答無用で切り捨てていたとのこと。その数は100人以上とのことですが、『どうせ多くの女を泣かしきたクズ男なんだから、()っちゃって良いのよ』なんて、上品なおばあさまがにこやかに語っていたのを聞いて、すごくびっくりしたのが昨日の思い出です。

 確かにアキさんには『殺人鬼』などの赤い文字がステータスには表示されていないので、この世界のシステムとしては、しつこいナンパ男はどうなっても良いという設定なのでしょう。この世界の悪い人の命って、ものすごく軽いですよね……


 シロやクロの美貌もものすごいものがあるので、話を聞いて参考にしようとしているのかもしれませんが、僕としては流血沙汰はやめて欲しいです。

 アキさんの話で参考にしたいと思ったのは、男達に軽くみられないために、金色の冒険者証のネックレスを目立つように服の外に出していたことです。冒険者証の色は、新人の6級から1級までは銅色、一人前と見なされる初段から3段までは銀色、有力な冒険者となる4段以上は金色となります。つまり金色の冒険者証をこれ見よがしに付けたことで、ちょっかいを出してくる男達は激減したとのことでした。


 シロ達はまだ3段なので、この村を出る際の魔物討伐の報償として4段昇段をお願いしてみましょう。すでに大量の魔石をゲットしているので、取り引きは可能だと思います。


 ついでに別の目的のために、僕の冒険者登録も初段でお願いするつもりです。ここの冒険者ギルド支部長さんは、4段だった『漆黒の蒼き翼』のプンさんと僕の決闘を間近でみていたので、僕の初段認定くらいはしてくれるでしょう。僕の偽装したレベル44も充分すぎるほど高いはずです。偽装しないとレベル126なので、これは見せられません……



 談話室での将棋のあとは、再び温泉につかり、おいしい昼食を食べて、午後はとうとうユキちゃんも含めての魔物討伐です。主にクロが暴走しないように引き締めて、安全第一で頑張りましょう!




将棋はド素人なので、細かいことは突っ込み無用でお願いします m(_ _)m


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