043 漁村
10トンの海塩を海水から分離後に、再び馬車で南下するとすぐに次の村に到着しました。寂れた感じの漁村ですが、やはり通りかかると子供達が寄ってきたので、減速するとこれまた村長らしき人が出迎えてくれました。子供達は単純に道ばたで遊んでいるだけではなく、滅多に通らなくなった行商人を足止めする役目でも負っているのでしょうか?
村長さんの話を聞いてみると、最近は行商人もめっきり減り、とある商会の独占状態になっていて、売買条件が非常に厳しくなっていたようです。やはり山賊を利用したトドクア商会の悪事が影響を及ぼしていたようです。
まずは現金収入を欲しがっている漁村の商品を買い付けましょう。鮮魚などは普通は近隣にしか運べませんが、時間停止の収納+魔法が使える僕は気にせず購入します。収納+魔法で3枚におろす等の解体も可能でした。鹿やイノシシも枝肉に解体できたので、試してみたらやっぱりできました。さらに保存可能な干物もいっぱい購入しました。内陸部では高く売れることを期待していますが、売れなくても僕らが自分たちで消費します。クロが干し魚を見る目が輝いていたので、少なくとも僕とクロとでガンガン食べていけます。
僕らの商品もたくさん売れました。売買価格は鑑定の価格を参考に、それなりに儲かる値段を提示しましたが、すんなりと取引が成立していきます。やはりトドクア商会が流通を独占していたことを良いことに、暴利をむさぼっていたようです。今後は流通事情も改善していくでしょうけど、僕は先行者利益を得られました。
行商をしている間に暗くなってきたので、宿屋に案内してもらいました。この村唯一の宿は、ハクエイ町で泊まった高級宿『白銀亭』とは比べるまでもなく格が落ちますが、この世界では一般的なレベルだと思います。商いで満足していただけた感じの村長さんの口添えで、一番良い部屋を通常価格で使わせてもらえました。大きなベットが2つ並んでいて、3人で泊まるには充分な広さです。
夕食は宿に併設された食堂でとります。海の幸をふんだんに使った一番高いコースを頼みましたが、どれも採れたてでおいしかったです。鍋、煮魚、天ぷら、そしてなんと刺身もありました。この世界の文化は、日本ベース分が多めなのかもしれません。ただし刺身は日本で使っていた醤油ではなく、塩や魚醤で食べます。この世界には醤油はないのでしょうか? それだけはちょっと残念でした……
自分が扱っている商品を理解するためにも、すこしお酒を飲んでみようと白ワインを注文しました。すると、ついさっき自分が売ったワインとともに、色っぽい店員さん二人がお酒を注ぎに来てくれました。
「あら、可愛い商人さんね」
「この方はこのワインを売りに来てくれた行商人さんなのよ」
「へー、じゃあいつもよりもサービスしてあげなくちゃね!」
酒場兼食堂で働く若い女性は、なんというかエッチな商売を兼ねている場合が多いようです。つまり、お金を払ってお持ち帰りする感じの……
「お酒はクロとシロで注ぐから、お前らは不要ニャ!」
「そうです! マサト様には必要ありません。他の客の相手をしていてください!」
クロとシロは店員さんに威嚇して、さっさと追っ払ってしまいました。僕もあんな感じで迫られると困惑するしかないので、いなくなって安心できました。
「マサトは美少年だし、商売もうまくいってお金も持っているので、下心を持った女達がたくさん寄ってくるニャ。しかもマサトのモフモフを体験しちゃったら、もう離れなくなっちゃうニャ。だからうかつに女に手を出しては絶対駄目ニャ!」
「そうです! マサト様がおモテになるのは仕方ないとしても、不幸な女達を作らないためにも、お相手は厳選してくださいませ」
「うかつに手を出すもなにも、僕はシロとクロさえいてくれれば、もう充分なんだけど……」
二人は僕にハーレムの王にでもなって欲しいのでしょうか? そんな甲斐性はありません!
それと特別魔法って、そんなに危険な魔法なのでしょうか?
そういえば、この魔法って誰にでも使える物ではなく、対象が限られていました。試しに先ほどの店員さんを想定してみましたが、対象外と判明しました。
「あの店員さん達は、特別魔法の対象ではなかったよ」
「若い女だからと言って、対象になるとは限らないのですね?」
「マサトの好みが影響しているニャ!」
確かにあの店員さん達は派手な感じで苦手なタイプです。それにエッチな商売をしているというのは、正直関わり合いになりたくありません。いろいろと経験不足な僕には荷が重いです……
食事が魚ということで、白ワインを注文してみましたので、少し呑んでみます。すこし大きめの容器ってデキャンタでしたっけ? それから3人のグラスにクロがワインを注ぎます。
「うーん、そんなにおいしいとは思えないけど、何が良いのだろう?」
「クロはわりといけると思うニャ」
「酔いが回ると気分が良くなるのではないでしょうか?」
グラス一杯のワインでは、すぐに酔いが回ってくることはありませんでしたが、たしかにちょっと良い気分になってきました。他の客達は、久しぶりのうまいワインだと喜んでハイペースで飲み始め、店の中も騒がしくなってきたので、さっさと宿の部屋に戻ることにしましょう。他の客は主に地元の漁師さんたちのようで、豪快にお酒をあおってガンガン呑んでいます。
宿の部屋はそこそこ良い部屋ではありますが、お風呂などと言う高級設備は当然ありません。お金を払えばたらいにお湯がもらえますが、清掃魔法が使える僕がいるので必要ありません。
部屋に入るとすぐに二人とも上着を脱いで下着姿になりますが、少し酔っているせいか色っぽく見えます。少しドキドキしてきましたので、あんまり2人の姿を見ないようにしましょう……
「あれ、装備が魔法袋の中に入らないニャ」
クロは着ていた鎧を魔法袋に入れようとして失敗しているようです。
「そういえば矢をたくさん調達して収納したから、それで容量が足らなくなっているニャ!」
ハクエイ町で今朝買った綺麗な革袋は、現在まで収納付与魔法を掛けています。どのくらい収納能力が成長しているでしょうか? 鑑定(5)!
【革袋 収納付与0.17 36ヶ月 標準 市場1,002,000エン 現地1,002,000エン】
うわー、たった半日収納付与しただけで、0.17立方メートルもの容積の魔法袋に成長しています。その価値はなんと約100万エン! それが2つもあります!
空間魔法レベル5の収納付与魔法使いだと、3ヶ月付与すれば4立方メートルの容積になるはずで、一日だと…… えーと比例計算だと90分の1で0.044立方メートルくらいの容積でしょうか?
僕の収納+魔法だと3ヶ月付与で5の3乗の125立方メートル? その1/90だと1.4立方メートルで、半日で2つの魔法袋だとさらに1/4で0.35立方メートル? 数字が合いませんね……
もしかしてレベル5の収納+魔法の付与は、3ヶ月で4の3乗、64立方メートルでしょうか? それだと1日で0.71立方メートル、半日で2つだと0.17立方メートルだから、ぴったり計算が合いました!
昨日2人にあげた魔法袋の容積は0.05立方メートルでしたが、これは3倍以上の0.17立方メートルもあるので、矢などの収納物が増えたくらいなら問題なく使えるでしょう。
「今朝買った綺麗な革袋にも収納付与していたから、これと交換しよう!」
「まだ半日しか経ってないし、そんなに容量ないはずニャ!」
「今まで使っていたのが0.05立方メートルで、新しいのは3倍以上の0.17立方メートルもあるよ」
「えっ! 半日でそんなに容積が付与できるのかニャ?」
「さすがはマサト様です! でも、この革袋はこの世界に来て初めてのマサト様からの贈り物ですし……」
「その革袋はまた収納付与でもっと大きく育ててから返すよ。2つあった方が何かと便利でしょ!」
「おお、たしかに2つあった方がいろいろとはかどるニャ!」
2人とも上機嫌で新しい革袋を使用しています。白や黒で綺麗に染色された革袋なので、今までの無着色で無骨な革袋とは大違いです。
「マサトには今日も素晴らしいプレゼントをもらってしまったニャ。今夜の同衾はクロの番なので、精一杯サービスするニャ!」
クロはするりと寄ってくると、あっという間に僕をベットに組み伏せ、グリグリウニャウニャと怪しい動きをされたおかげで、僕は清掃魔法を2回も発動するはめになってしまいました……




